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【ライブレポ・セットリスト】くるり ライブツアー2022 at 川崎 CLUB CITTA' 2022年7月13日(水)

「こんばんは。くるりですぅぅ~」と緩い挨拶をする岸田繁。佐藤征史も穏やかな表情をしているし、サポートメンバーからもあまり緊張した様子は感じない。

 

むしろ観客の方が緊張していたと思う。

 

久々のワンマンライブかつツアー初日。しかもレコ発では無いので、何が演奏されるのか予想がつかない。『くるり ライブツアー2022』というシンプルなツアータイトルなので、コンセプトもわからない。そんな期待からくる緊張で、フロアは張り詰めた空気が流れていた。

 

そんなフロアの空気を、ロックチームくるりは最高の演奏で、緊張から興奮へと変えていく。落ち着いているからこそ、心地よいサウンドを鳴らせるし、安定感のある演奏で観客の心をしっかり掴むことがでにるのだ。

 

1曲目が『Bus To Finsbury』というレア曲から始まったことも、始まった瞬間に空気を変えた理由だろう。石若駿の力強いドラムから始まり、そこに他のメン

 

バーの楽器の音が重なると、音源以上にグルーヴ感のあるロックンロールな演奏が繰り広げられる。〈京都からやってきた〉という歌詞が、ライブの始まりを宣言しているかのように感じてグッとくる。

 

今回はくるりの2人と石若駿(Dr.)に松本大樹(Gt.)に野崎泰弘(Key.)の5人編成。2021年のツアーと同じ編成であり、数年間に渡りくるりをサポートしているお馴染みのメンバーだ。

 

だからか今のくるりは「この5人によるバンド」と思うほどに演奏に一体感がある。それを前回のツアーの時よりも強く感じる。この5人によるくるりとしえ進化しているのだ。

 

そんな進化した演奏はまだまだ続く。音源よりもロックンロールな演奏で『目玉のおやじ』を披露した。有観客ライブとしては、約10年ぶりの披露されたレア曲だ。予想外の選曲で「今回のライブはレア曲が多いセットリストでは?」と察した観客は多かったと思う。

 

その予想は的中した。次に演奏されたのも有観客では10年ぶりの披露となる『コンバットダンス』だったのだ。

 

紫や赤の妖艶な照明に包まれながら、クールに演奏する5人。途中のブレイク部分では、観客も息を呑むようにステージに集中していた。このヒリヒリした演奏がクールである。

 

レア曲の中に人気曲や定番曲が入ってくると、より楽曲の魅力が引き立つ。『ブレーメン』が演奏された時に、そんなことを思った。

 

音源ではオーケストラが参加かした壮大な楽曲だが、5人で演奏せれると力強いロックサウンドになる。特に野崎の鍵盤のサウンドが印象的だ。彼の奏でる音色によって、この5人がライブで演奏するからこその魅力が生まれている。

 

演奏を終えて岸田が両腕を上げると、フロアから盛大な拍手が鳴り響いた。ライブが終わった時と同じぐらいに大きな音だ。それぐらいに前半から観客は興奮し感動していたのだろう。岸田も満足げな笑みを浮かべている。

 

そして「意外と売れたシングル」と語っていたものの、ライブ披露は収録アルバムのリリースツアー以来披露されていなかった『忘れないように』を続ける。優しく温かなサウンドと歌声だが、ビートは力強い。くるりはロックバンドとしての軸はぶれることなく優しい音楽を届けている。

 

岸田繁「川崎でライブをやるときはいつも雨です。かわ〜さ〜きは〜♪いつ〜も♪あめ〜♪」

佐藤征史「それは『長崎は今日も雨だった』の替え歌ですね」

岸田繁「チャゲアスの『はじまりはいつも雨』や」

 

『はじまりはいつも雨』はチャゲアスではなくASKAのソロ楽曲だ。演奏は隙がなく最高なのに、MCでの話は隙だらけである

 

くるりの楽曲は数百曲あると思います。今日はその中から厳選された、スタッフですら新曲と勘違いするほどの、滅多にやらない忘れられた曲もやります。

 

今日は雨で皆さん、身体がジトジトしていると思います。皆さんの耳も我々の演奏でジトジトさせます。

 

岸田がさらにレア曲が続くことを示唆する話をしてから演奏が再開した。その言葉通りに次に披露されたのは、超絶レア曲『bumblebee』。過去に数回しかライブで演奏したことがないらしい。

 

しかし披露されていなかったことがもったいないほどに、ライブ映えする楽曲だ。イントロのオーケストラヒットを連発する部分からしても、鳥肌が立つほどにカッコいい。

 

ここからはいつになく「激しい演奏をするくるり」のライブが繰り広げられていく。

 

続いて披露されたのは『Morning Paper』。ジャムセッションの要素が強い、バンドの演奏力の高さを見せつけるような楽曲だ。間奏では岸田は激しく動いていたし、松本は前方に出てギターをかき鳴らしていた。

 

そこからくるり楽曲の中でも特にBPMが早い『しゃぼんがぼんぼん』を畳みけかる。今ではベテランバンドになったくるりだが、この楽曲は若手バンドに負けないほどの衝動的な演奏だ。

 

前半で観客が最も狂喜乱舞したのは『青い空』だろう。人気楽曲でシングル曲なのに、ワンマンライブではアルバム再現ライブ以来の披露だ。

 

イントロが鳴った瞬間に腕をあげたり拍手をしている人がたくさんいた。MVでのメンバーと同じように、観客はイントロで手拍子をしている。岸田がこれほどまでにシャウトする姿も久々に見た。選曲も演奏もフロアの空気感も、全てが最高だ。

 

そんな興奮の余韻に浸らせるかのように、ミドルテンポながらも重厚なサウンドで『風は野を越え』を続ける。

 

世間的には穏やかでまったりとした楽曲が多いバンドに思われているかもしれないが、彼らの軸にあるのはロックだ。それを実感させるようなセットリストの流れである。

 

岸田繁「くるり好きだよー!ぐらいのファンだったら、ここまでで1曲しか知らなかったと思います。くるりめっちゃ好き!って人なら3曲しか知らなかったと思う」

佐藤征史「ここまで10曲やってるんですけど」

岸田繁「3割バッターなら打率は良い方やな」

 

この日のセットリストは代表曲が多いかのように、野球で例えることで錯覚させようとする岸田。それは無理である。

 

岸田繁「ポール・マッカートにのライブに行ったら何を聴きたい?」

佐藤征史「ザ・ビートルズの曲も聴きたいですし、あとは『Too Many Peaple』ですかねえ」

岸田繁「そうやろ。みんな人気曲を聴きたいんや。くるりのライブで『bumblebee』を聴きたいと答える人がいると思いますか?」

佐藤征史「・・・・・・」

岸田繁「くるりのライブで『忘れないように』を演奏されたらどう思う?」

佐藤征史「『忘れないように』はそこそこ売れたシングル曲ですよ!」

 

謎の自虐をする岸田繁。しかし観客は予想外の選曲に喜んでいるので安心してほしい。

 

『青い空』は1999年の曲だから、当時はまだ生まれてなかった人も今日は来てると思うんですよ。なんか俺、さだまさしさんみたいなMCしているな......

 

ハードなくるりに皆さん、驚いてるでしょ?我々も身体が驚いています(笑)だからここから少し落ち着いた曲をやっていきます。

 

知らない曲ばかりのライブで、今日来たことを後悔しているみなさん、ここからですよ。

 

そう言ってから披露されたのは『Time』。こちらもライブで演奏されることが少ないレア曲だ。岸田がアコースティックギターに持ち替えたこともあって、演奏の心地よさが増大している。

 

そのまま美しいピアノの音色が印象的な『三日月』が続く。アウトロで客席まで真っ直ぐ伸びる白い照明が美しかった。まるで月明かりが照らしているかのような景色である。

 

レア曲が中心のライブではあるが、定番曲かつ人気曲の『さよならリグレット』も披露された。ミドルテンポの心地よい楽曲が続く流れで披露されたので、いつも以上に楽曲の魅力が際立っているように感じた。

 

岸田繁「『さよならリグレット』で〈大人になったら〉と歌っているけど、おじさんになった自覚はあるけど、大人になった実感はないんですよ。年上のディレクターに聞いたこともあるんですけど、その人もいつ大人になれるよかわからないと言ってました(笑)いつ大人になれるんですかね?」

佐藤征史「小学生の頃とかは中学生や高校生も大人に見えたものですけどね」

岸田繁「でも佐藤さんは大人ですよ。MCの最中にもタオルを広げて物販をアピールして宣伝してますから」

 

不自然にグッズのタオルを広げていた佐藤にツッコミをする岸田。その後はスムーズに物販紹介へと繋げ、スマートに物販を紹介していく佐藤。彼は大人だ。

 

なかなか大人になれないと思っているから、こうしてロックバンドを続けているんですけど、来年の高校の教科書に我々の曲を載せてもらえることになりました。

 

そういう部分では大人なのかもしれません。次はその曲をやります。

 

次に披露されたのは代表曲『ばらの花』。リリース当初は大ヒットしたわけではないが、少しずつ評価が高まり、今では高校の教科書に載るほどの多くの人が知る楽曲になった。ちょうど雨降りの朝だった日に開催されたライブにこの曲を聴くと、シチュエーションも合間ってより胸に沁みる。

 

ここからは代表曲や定番曲が続くかと思いきや、やはりくるりは捻くれ者なのでレア曲を続けていく。

 

薄暗い妖艶な照明の中で演奏された『white out』や、うねるようなグルーヴが印象的な『Giant Fish』もかなり久々の披露だ。どちらも力強いロックサウンドが魅力の楽曲である。

 

今回のライブは「レア曲を披露すること」を目的としたのではなく「この5人の演奏で魅力が引き立つ曲」を選んだ結果、必然的にレア曲が多くなったライブなのかもしれない。

 

岸田繁「大人のおもちゃを購入しました」

佐藤征史「お、大人のおもちゃですか......」

岸田繁「ドン引きしないでください」

 

突然アダルディな発言をしてから、パソコンの冷却ファンを取り出す岸田。彼には冷却ファンが大人のおもちゃに見えるらしい。

 

そして「冷却ファンの回る音が好き」と個性的なフェチズムを持っていることをカミングアウトし、冷却ファンをアンプに繋げ、回る音を客席のスピーカーから流した。岸田は気持ちよさそうに恍惚な表情を浮かべながら聞いている。観客は苦笑いするしかない。

 

さらには「いくつか購入しました」と言って、大きさや形の違う冷却ファンを取り出し順番に音を流した。やはり岸田は恍惚な表情を浮かべているし、観客は苦笑いしている。

 

岸田繁「くるりはどんな音も音楽にしてしまうバンドです。次の曲はファンの音も取り入れてプレイします」

佐藤征史「大人のおもちゃだからプレイするんですね///」

 

岸田の自己満足で冷却ファンの音を流したわけではなかった。音楽へときちんと昇華するようだ。

 

次に演奏されたのは『かごの中のジョニー』。この楽曲は後半に長尺のセッションがある。今回もセッションが行われたのだが、音源とは全く違うアレンジの複雑なリズムのセッションが繰り広げられた。ジャズバンドのアドリブのような、アングラバンドの実験音楽のような、独特で刺激的なセッションである。

 

冷却ファンの音はそこで取り入れられた。違和感なく不思議な音色を奏でる楽器として、冷却ファンが上手に使われてる。さっきまで苦笑いしていた観客も驚き興奮している。

 

そんな観客の興奮はさらに高まっていく。セッションから曲間なしでなだれ込むように『Tokyo OP』へと続いたからだ。

 

そこでも冷却ファンの音は取り入れられていた。元々カオスで複雑な楽曲だが、冷却ファンによってさらに刺激的なサウンドになった。今までのライブでもそうだったが、くるりはライブによって楽曲を進化させて披露してくれる。だから彼らのライブを何度も観たくなるのだ。

 

ライブも後半。興奮と混沌による空気で満たされた会場を、終演に向けて感動的な余韻を作り出す展開が作られていく。

 

キャッチーなメロディと優しい音色ながらも複雑な演奏が魅力の『飴色の部屋』と素朴ながらも精細さを感じる『ハイウェイ』を続ける。この2曲は映画『ジョゼと虎と魚たち』で使われた楽曲だ。その文脈も汲んでの選曲だろうか。その後に『loveless』を続け、さらに温かな空気で会場を包み込む流れも良い。

 

色々とまた大変な世の中になってきましたが、お身体に気をつけて過ごしてください。

 

このような状況の中、来てくださりありがとうございました。

 

MCではふざけた発言が多かった。しかし本編最後の挨拶はファンを気遣った優しい言葉だった。

 

本編最後の曲は『ロックンロール』。レア曲満載のライブではあったが、最後は定番ながらも確実に希望を与えてくれる楽曲で締めてくれた。

 

観客も腕をあげたりと楽しんでいるようだ。アウトロではメンバー全員が笑顔で、いつもよりも少し長めのセッションを繰り広げていた。

 

コアなファンを唸らせるようなマニアックなセットリストだった。しかし初めてくるりを観るようなファンも置いていかない選曲もあった。それでいて演奏は当然ながら最高だった。バランスが取れていて誰もが満足する内容である。

 

そんな最高の本編だったからこそ、アンコールの楽曲にも期待してしまう。

 

佐藤がグッズ紹介を大人の余裕を見せながらスマートにこなしてから、岸田が「派手な曲をやります」と告げて『琥珀色の街、上海蟹の朝』が披露された。くるり楽曲で最もサブスクで再生されている代表曲の1つだ。

 

バンドの繊細な演奏に合わせて、岸田はハンドマイクで心地よく身体を揺らしながら歌っている。観客も同じように身体を心地良さそうに揺らし、サビでは蟹のようにピースをして腕を振っていた。シュールである。

 

歌い終わるとエレキギターを持ち、優しい音色でアドリブでギターを爪弾く岸田。そのまま落ち着いた楽曲を続けるのかと思いきや、その予想は外れた。

 

ギターの演奏と止めると、間髪入れずに鋭い目をして〈この街は僕のもの〉と叫び『街』が始まったのだ。

 

そのギャップを感じる展開と予想外の楽曲に湧き上がる観客。この日一番と言えるほどのエモーショナルな演奏と歌声に、自分は鳥肌がたった。感動的な楽曲でもないのに、その凄まじさに衝撃を受けて涙が出てきた。

 

〈この街は僕のもの〉というフレーズを叫ぶように歌いきって、すぐさま「ありがとうございました。くるりでした」と挨拶して演奏を終えた。あまりにも凄まじい演奏で傍観してしまうほどに呆気に取られていた観客も多かったのか、観客が拍手をするまでに一瞬の間が空いたように感じる。

 

2月に行われた25周年ライブも素晴らしかった。その時のセットリストも演奏も完璧だと思った。しかし衝撃の部分では今回のライブの方が上回っていたかもしれない。ベテランになり周年ライブを終えても、くるりはさらにそれを更新する音楽を奏でるのだ。

 

やはり今でも、すごいぞくるり。

 

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■くるり ライブツアー2022 at 川崎 CLUB CITTA' 2022年7月13日(水) セットリスト

1.Bus To Finsbury

2.目玉のおやじ

3.コンバットダンス

4.ブレーメン

5.忘れないように

6.bumblebee

7.Morning Paper

8.しゃぼんがぼんぼん 

9.青い空

10.風は野を越え

11.Time

12.三日月

13.さよならリグレット

14.ばらの花

15.white out

16.Giant Fish

17.かごの中のジョニー

18.TokyoOP

19.飴色の部屋

20.ハイウェイ

21.loveless

22.ロックンロール

 

EN1.琥珀色の街、上海蟹の朝

EN2.街