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【ライブレポ・セットリスト】くるり「愛の太陽EP」発売記念ホールツアー2023 at 三郷市文化会館 大ホール 2023年7月7日(日)

開演時間ちょうどに客席の電気が落とされた三郷市文化会館。客入れのBGM止まり、会場が無音になったタイミングでメンバーが登場した。観客は盛大な拍手で迎え入れるが、少々厳かな空気ではある。

 

この空気は偶然生まれたのではなく、くるりが意図的に登場した瞬間から作り出したのかもしれない。

 

メンバーの佇まいは落ち着いている。だがものすごく集中している様子も汲み取れる。少しでも邪魔したら壊れてしまいそうな、脆い空気にも思う。だからこそ観客もそれを壊さないようにと、気を遣い緊張しているのかもしれない。

 

そんな空気感の中で『くるり「愛の太陽EP」発売記念ホールツアー2023』の、三郷市文化会館公演が開演した。

 

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バンドを迎え入れる拍手が途切れたタイミングで、岸田繁がギターを優しく爪弾く。そして『真夏日』を語るように歌い始めた。この日の埼玉は最高気温35度。まさに真夏日なこの日と、シチュエーションがマッチしている。

 

少しずつ他の楽器の音が重なっていき、音に厚みが加えられていった。それは心地よい演奏ではあるが、あまりにも繊細な演奏なので壊れてしまいそうな脆さも感じる。だから緊張と心地よさが混ざり合った、不思議な空気感が生まれている。ライブだと音だけでなく、空気も生々しく伝わってしまう。だから観客はステージから目も耳も全く離せなくなるのだ。

 

この楽曲には〈特別暑い夏 ぐっと大人になって〉という歌詞があるが、彼らのメジャーデビュー曲『東京』には〈今年の夏は暑くなさそう〉という歌詞がある。

 

初期の楽曲と比較することで、くるりが大人に変化したことや、それを聴く自分達もくるりを聴きながら大人になったことを、ほんのりと感じて胸が温かくなる。

 

2曲目は予想外の選曲だった。10年以上ぶりに演奏されるレア曲『LV45』が披露されたからだ。

 

スポットライトを浴びた岸田がギターリフを弾き、そして歌い出す。そこから丁寧に音を組み合わせるようにバンドの演奏が重なっていく。

 

やはり心地よくも崩れそうな脆さも感じる演奏だ。この緊張と心地よさが両立したライブが、くるりの魅力のひとつだろう。

 

後半はどんどん演奏が激しくなる。そんな演奏を集中して聴いていると、突然演奏がぶつ切りされたかのように止まりノイズが流れた。これは音源でも同じようなアレンジではあるが、ライブで聴くと衝撃が強い。観客の集中までもぶつ切りしてしまい戸惑わせてしまう。

 

しかしそこから曲間なしで『ワールズエンド・スーパーノヴァ』が続くと、会場の空気は一瞬でからりと変わった。観客の集中を途切れさせる代わりに、観客を興奮させる空気へと変化したのだ。

 

ホールツアーだからか、座ってライブを観ている人が多い。しかしこの曲ではちらほらと立ち始めて踊る人が出てきた。最後のサビ前にはみんな耐えられなくなったのだろう。最後には会場が総立ちになって踊っていた。

 

観客の歓声と手拍子は大きくて長い。そんな熱気で満たされたところで続いて演奏されたのは『赤い電車』。しかし「これは新曲か?」と思ってしまうほどに、音源とは全く違うアレンジだった。歌い始めるまで何の曲かわからないほどだ。

 

そのアレンジはブラックミュージックの影響を感じるリズムで、そこにバンドの力強い演奏と独特なギターリフとシンセサイザーの音色が加わるものだった。原曲は落ち着いたポップスだが、今回のライブではダンスミュージックになっている。観客は「この曲でこんなに踊るのか?」と思ってしまうほどに、身体を揺らしたりと盛り上がっていた。

 

かと思えば音源に忠実な演奏で『THANK YOU MY GIRL』を続ける。ダンスミュージックで踊っていた観客が、今度はロックンロールな演奏で盛り上がっていた。”ロックチームくるり”の底力を感じる熱い演奏だ。

 

そんなロックンロールな演奏が際立つ『Morning Paper』で、さらに骨太な演奏で観客を、痺れさせる。

 

間奏で岸田が佐藤征史を指差してベースソロを弾かせたり、サポートギターの松本大樹を指差すと松本が前方に飛び出てギターを掲げながら演奏したりと、パフォーマンスもロックで熱い。当然観客は歓声や拳や拍手で応える。おそらく世間が思い描く今のくるりのイメージとは違う、熱くて泥臭い演奏だ。

 

7曲続けて演奏したところで「こんばんはくるりです」と挨拶して最初のMCへ。

 

会場である埼玉県三郷市の特産品である小松菜に触れ「小松菜は主食です。週に3回は食べます」と小松菜への愛を語り盛大な拍手を浴びる岸田繁。ちなみに松本大樹は小松菜が嫌いらしい。

 

岸田「私は鉄道オタクでありながら、つくばエクスプレスに乗ったことがありません」

観客「えええええええええええええええ!!!!!」

 

話題は鉄道オタクである岸田の鉄道トークに移るのだが、まさかのカミングアウトに観客から悲鳴をあげる。この日一番観客が声を出した瞬間かもしれない。

 

しかし「豆知識は知っています」と言って、つくばエクスプレスの話を続ける岸田。

 

岸田「つくばエクスプレスは途中からDCからACに変わるんです。守谷駅のあたりで変わるんですけども」

観客「??????」

佐藤「みんなわかりますか?乾電池からコンセントに変わるようなものですよ」

観客(なるほど・・・・・・)

 

岸田のマニアックな話に対して、わかりやすく解説する佐藤。とてもありがたい。

 

岸田「パンクバンドみたいに立て続けに曲をやってきましたが、ここからは人気のない曲を続けて片付けます」

観客「wwwwww」

岸田「片付けるなんて言ったら曲に失礼やな。でも人気がない曲も良い曲なんですよ。知らない人はそれに気づけるチャンスです。だから知らない曲も我慢して聴いて耐えてください」

 

ここからマニアックなセットリストになることを宣言する岸田。

 

そして「20年前、私が中学生の頃に作った曲です」と大嘘をついてから、円柱形のステージセットがアルバム『THE WORLD IS MINE』のジャケットカラーと同じ色に光る中で『GUILTY』が演奏された。アルバム再現ライブ以来、8年ぶりに演奏されたレア曲だ。

 

編曲は音源に忠実ではあるが、サウンドはロック色が強くなっている。ギターの音が前面に出ているし、石若駿のドラムも力強い。特に間奏の激しい演奏と壮大なコーラスには、鳥肌が立つほどに圧倒的された。ライトなファンも「人気がない曲」の魅力に気づけたであろう名演だ。

 

くるりはツンデレなようだ。岸田がアコースティックギターに持ち換えると、軽く爪弾いてから「1、2、3、4」とカウントしてから代表曲のひとつ『ハイウェイ』を続けた。

 

人気がある曲もちゃんとやるではないか。この曲を聴きたかったファンが多いのだろう。イントロが鳴った瞬間に歓声が湧き上がっていたし、自然と手拍子が鳴らされていた。

 

かと思えばコアなファンが歓喜するようなレア曲も、やはり披露してくれる。続けて演奏されたのは『7月の夜』。7月のライブだから演奏してくれたのだろうか。真っ白な照明が客席へと伸びていく演出が美しい。それと同じぐらいにロックな演奏に合わさる壮大なコーラスも美しかった。

 

レア曲と人気曲が交互に演奏されるようなセットリストなので忘れかけていたが、今回は新作EP『愛の太陽』のリリースを記念して行われいるツアーである。

 

ここでEP収録曲である『Smile』も、もちろん演奏された。優しく温かみのあるサウンドとメロディが心地よい。そしてベテランバンドとは思えないほどに、演奏が瑞々しい。バンドは新曲を演奏している時が最も若々しくなるのだろうか。

 

そんな新曲と親和性があるサウンドの『旅の途中』が演奏されれば、石若が叩くタンバリンに合わせて一緒に手拍子をする観客。これがライブだからこその一体感だ。

 

心地よさを与える楽曲が続いたが、ここで『益荒男さん』というタイトルも構成も編曲もカオスな楽曲が演奏された。赤

 

や青や緑の照明の光が飛び交い、それに合わせるように演奏も鮮やかになっていく。しかしメロディも演奏も個性的で、聴いていて心地よさよりも刺激を感じる。観客の感情の落差がものすごい。

 

佐藤「今回は休まず続けて演奏してますね」

岸田「1ブロックごとにフェス1回分やってる感じやからな」

佐藤「今回はフェス4回分ぐらい演奏するから、まだ集中力が必要ですね」

岸田「次の2曲は特に集中力が必要やで」

 

二人が話す通り、今回はMCをあまり挟まずに曲を連続で演奏している。ここ最近のライブの中では、特に体力的にキツそうな構成ではあるが「冷房がガンガンに効いている」と岸田が話していたので、演奏する環境としては問題はなさそうだ。

 

そして「非常に自由な曲を」と告げてから『つらいことばかり』が演奏された。基本はシンプルなロックかと思いきや展開は複雑な楽曲だ。だからこそ「集中力が必要」ということなのだろう。

 

続く『スラヴ』もそうだ。構成としてはシンプルだが演奏は複雑に思う。アウトロは長尺のジャムセッションになっていた。音源はここまで激しくなかったが、ライブでロックンロールな楽曲に化けている。

 

演奏を終えると興奮した観客から、歓声と盛大な拍手が送られた。満足気な表情で客席を見渡し、メンバー紹介をする岸田。再び盛大な拍手を送る観客。会場の空気感もできあがっていて最高だ。

 

サポートキーボードの野崎泰弘による、美しく繊細なピアノの音色が印象的な『八月は僕の名前』も素晴らしかった。ピアノだけでなぬ、ギターの音色もベースのフレーズもドラムのリズムパターンも歌声も、何もかもがこの曲のライブ演奏は美しかった。やはり今でもくるりは新曲が最も輝く。

 

岸田が「1、2、3、4」とカウントをして松本と息を合わせるようにギターでイントロを弾いてから始まった『愛の太陽』も最高だ。この楽曲も心地よくてサウンドは美しいのだが、演奏が進むにつれ熱を帯びていき、後半は激しいセッションへと変化していく。音源ではここまで力強い演奏ではなかった。これもライブで化けた楽曲だろう。

 

そんな新曲が続いた後に演奏されたのは、初期の名曲『虹』。岸田が一人でギターでイントロを弾き、そこにバンドの演奏が一斉に重なるアレンジで始まった。ここ最近はキーを1音下げで歌っていることが多かったが、今回は原曲キー。だからか時折叫ぶように歌う箇所もあった。そんな泥臭いボーカルが胸に刺さる。

 

この楽曲でもアウトロは長いジャムセッションになっていた。その演奏はどんどん激しくなり、観客のテンションも比例して上がっていく。『虹』はこれほどまでに熱い曲だっただろうかと思ってしまうほどに凄まじい。演奏を終えると長くて大きな拍手が鳴り響いた。なかなか鳴り止まず、次の曲に移るまで時間がかかってしまうほどである。

 

ようやく次の曲の演奏が始まったが、再び観客が歓声をあげる。代表曲『ばらの花』が演奏されたからだ。照明はアルバム『TEAM ROCK』のジャケットと同じ青色になっていた。そんな美しい青が楽曲の魅力を引き立てる。

 

ライブも後半ここからの2曲は畳がけるように演奏され、盛り上がりもピークを迎えた。まずは『Liberty&Gravity』。

 

カラフルな照明と複雑でカオスな曲展開で観客を魅了する。そもそもこのような楽曲で大盛り上がりになる観客も、くるりと同じぐらいに捻くれ者だ。〈ヨイショ!〉という歌詞で拳をあげる客席も、なかなかにシュールだけど、それが最高に思う。

 

岸田は間奏やアウトロでマイク横に置かれたパーカションを叩いていた。今までのライブでは行われなかったので、今回初めて取り入れたアレンジだ。

 

興奮した観客の歓声と拍手を浴びながら、改めてメンバー紹介をする岸田。そして拍手が鳴り止む前にイントロを鳴らし『ロックンロール』へと雪崩れ込む。

 

アウトロはやはり長いジャムセッションになっていた。岸田と松本が前に出て向き合い、競うようにギターを弾き倒していことが印象的だ。特に松本は楽しそうである。笑顔でぴょんぴょん跳ねながら岸田を見つめながらギターを弾いていた。かわいい。

 

珍しく興奮している様子の岸田は「えーと、あのー、楽しかったです(笑)また埼玉に来ます」と話し、最後の挨拶の言葉をまとめきれなかった。そして「東京ではいっぱいライブをやってるいけど、埼玉は久々でした。また埼玉でやりたいです。最後に1曲だけ」と告げてから、ラストに『奇跡』が演奏された。

 

優しく歌う岸田と、それを繊細な演奏で支えるバンド。先ほどまで盛り上がっていた観客も、静かに聴き入っていた。だがアウトロはやはりロックチームくるりによる、激しいジャムセッションへと変化する。

 

今回のライブは多くの楽曲でアウトロが音源よりも長くな変更されており、そこでバンドがセッションをしていた。くるりの正規メンバーは2人だが、現在のサポートメンバーを入れた体制は長い。バンドとしての演奏が完成した今だからこそ、この5人の音をどこまでも響かせたいという想いからセッションの要素が強まっているのだろうか。

 

最高の演奏を終えて去っていく5人。すぐにアンコールを求める拍手が鳴り響き、岸田と佐藤の2人がまず再登場した。

 

登場するや否や佐藤は真っ先に「ライブの思い出を忘れない良い方法があります。そうです。物販の購入です」と物販の重大さを語る。そしてライブでは定番の物販紹介が行われた。

 

佐藤の紹介に合わせてパーカッションを叩く岸田。すると佐藤はリズムに乗って、物販紹介の歌をうたいだした。歌詞もメロディもアドリブのようだ。歌い終えた佐藤に岸田は感動したのか「お前、天才やな!」と興奮した様子で絶賛していた。曲中だけでなく物販紹介でもジャムセッションをしてしまうくるり。

 

佐藤の才能が開花したところで、サポートメンバーも再登場。そして岸田がこれからリリースされるアルバムについて語り始めた。

 

アルバムが10月に出ます。久々にオリジナルメンバーで作りました。今日は森さんはいませんが、どこかで何か仕事でもしてるんでしょう(笑)。

 

今日はツアーのメンバーで、その中から1曲演奏してみます。

 

演奏されたのは先行配信されているアルバム収録曲『In Your Life』。音源だと落ち着いた雰囲気の心地よいロックに思ったが、ライブだと迫力があって力強い。それはレコーディングとメンバーが違うからだろうか。それでも新曲が素晴らしいことは伝わる。

 

「最後にもう1曲だけやらせてください」と岸田が告げて『その線は水平線』か演奏された。これが正真正銘、このライブのラストソングだ。

 

水平線をイメージしたかのような青い照明に包まれながら、うねるようなグルーヴで演奏するメンバー。ここまで盛り上げたり心地よく聴かせたりと、様々な演奏で観客を魅了した。しかしこのバンドの演奏が最も輝く時は、ミドルテンポのロックサウンドを鳴らしている時なのかもしれない。そんなことを最後の演奏を聴きながら思う。

 

最高のロックンロールで観客を酔いしれさせたくるり。最後にバンドと観客とで記念撮影してライブは大団円で終了した。

 

メンバーの表情は心做しか、いつも以上に楽しそうに見えた。それは上手く演奏できたことへの達成感だけでなく、首都圏といえども久々に埼玉で公演できたからだろうか。

 

MCで「フェス4回分の曲数」と言っていた通り、2時間30分24曲の大ボリュームだった。それでいてフェス4回分を超える満足感があった。

 

真夏日の7月の夜に行われたくるりのライブは、思い切り泣いたり笑ったりできる最高の内容だった。

 

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◾️くるり「愛の太陽EP」発売記念ホールツアー2023 at 三郷市文化会館 大ホール 2023年7月7日(日) セットリスト

1.真夏日

2.LV45

3.ワールズエンド・スーパーノヴァ

4.琥珀色の街、上海蟹の朝

5.赤い電車

6.サンキューマイガール

7.Morning Paper

8.GUILTY

9.ハイウェイ

10.7月の夜

11.Smile

12.旅の途中

13.益荒男さん

14.つらいことばかり

15.スラヴ

16.八月は僕の名前

17.愛の太陽

18.虹

19.ばらの花

20.Liberty&Gravity

21.ロックンロール

22.奇跡

 

-アンコール-

23.In Your Life

24.その線は水平線