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【ライブレポ・セットリスト】ネクライトーキー「MEMORIES2」リリースツアー「ゴーゴーメモリーズ!2022 夏 追加公演」at 渋谷クラブクアトロ 2022年8月17日(水)

ネクライトーキーは生々しくて泥臭くて暑苦しいライブをするバンドだ。5人の演奏を久々にライブハウスで聴いて、改めてそう思った。

 

それは以前からわかりきっていることだが、このツアーは少し特殊な背景があるからこそ、バンドの凄みやバンドである意味を実感した。

 

今回のツアーはコンポーザーの朝日が”石風呂”という名義ボカロPをやっていた時代の楽曲を、ネクライトーキーがセルフカバーしたアルバム『MEMORIE2』のレコ発である。つまり無機質な歌声のボーカロイドが歌い、朝日が1人で作りネットに乗せてた音楽が、5人の生々しい演奏で新しい音楽へと昇華させるライブなのだ。

 

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1曲目の『魔法少女と嫌いちゃん』からいきなり泥臭くて生々しかった。この楽曲も石風呂時代の楽曲だ。しかし衝動的なロックサウンドになっているので、完全にネクライトーキーの音楽になっている。

 

続く『ジャックポットなら踊らにゃソンソン』もそうだ。もっさがお立ち台に立ってギターをかき鳴らす様子は、バンドの音楽だからこそのパフォーマンスだし、ひたすらに飛び跳ねる観客はネット上の音楽ではなくロックバンドの演奏に興奮しているからこその反応に見える。

 

これらの楽曲は過去のライブでも回数は多くないものの披露はされていた。しかし今回ツアーを行ったことで、より演奏にグルーヴが増してバンドとして力強くなったと感じる。

 

もちろん石風呂楽曲だけでなくバンドのオリジナル曲も披露された。代表曲『オシャレ大作戦』を早くも演奏し、海外でバズった『北上のススメ』とキラーチューンを連発していく。

 

やはりオリジナル曲はバンドの色が濃く出ている。そんな演奏によって序盤から物凄い盛り上がりになっていた。

 

しかし石風呂楽曲と続けて聴くことで、セルフカバーでもバンドの個性がしっかり出ていることも感じる。作詞作曲者が同じということもあるが、この5人のサウンドがそう思わせるのだろう。この5人だからこそ、唯一無二の個性が生まれているのだ。

 

そんな凄まじい演奏をしているのに、MCはシュールでゆるい。「いつも思うけど、みんなこんなに集まって、うちらの音楽を聴いてくれるん?びっくりするんやけど!」と謎の発言をするもっさ。いつも思うけど、彼女は謎の発言が多い。

 

しかし演奏が再開すれば、もっさは謎発言量産機からロックバンドのフロントマンの姿へと戻る。

 

『MEMORIE2』収録曲の『ロック屋さんのぐだぐだ毎日』でも、やはりキレッキレな演奏で盛り上げていた。自然と観客からも大きな音の手拍子が鳴り響く。これもボカロ楽曲をバンド楽曲に昇華したからこその客席の景色だ。

 

「ご機嫌なナンバーを聴いてください!」という朝日の煽りから始まった『音楽が嫌いな女の子』もそうだ。音楽が好きな観客は物凄い盛り上がりになっている。

 

朝日もテンションが上がったのだろう。「◎△$♪×¥●&%#?!」と叫んでいた。一切聴き取れなかった。「ふーん 今なんて?」というもっさの歌う歌詞に、謎の説得力が生まれた。

 

そもそも朝日は「今なんて?」と聞きたくなるような謎の言葉を使歌詞にうこともある。『誰が為にCHAKAPOCOは鳴る』のCHAKAPOCOの意味が一切わからない。しかし意味不明でもこの曲はノリがよくて楽しい。今はコロナ禍なので無理だが、いつかはCHAKAPOCOでコールアンドレスポンスをしたい。

 

そういえばこの曲では客席のミラーボールが回り、会場を美しい光で照らしていた。テンションは上がるものの、この曲でやる演出としては意味不明ではある。

 

MCをやる前にも朝日は謎の行動を取る。繊細なタッチでエレキギターを爪弾くと「良い音ですねえ」と言って自分の演奏に酔いしれていた。そういえば今年の野音でもジャズマスターを掻き鳴らし「耳と身体に悪影響がある」と嬉しそうに話していた。

 

朝日「大きな音でギターを鳴らすのは久々な気がします。爆音で鳴らすバンドの音は最高ですね。悪い夢(関係者がコロナ感染のため活動が2週間ほど止まっていた)を見ていたのかもしれません(笑)」

もっさ「くにゃとろの...」

朝日「くにゃとろ?」

もっさ「クアトロの鳴りを楽しみましょう」

 

このバンドはシュールでゆるいことばかり話す。しかも、もっさが噛んだ。

 

しかしやはり音楽でシュールな空気を塗り替える。『気になっていく』でもっさの歌声から演奏が始まった瞬間、ロックな空気になった。さっきまで謎発言を繰り返していたバンドとは思えない。

 

ここまで衝動的な楽曲やノリの良い曲が続いたが、彼らの魅力はミドルテンポの曲でも発揮される。『だけじゃないBABY』を聴けばそれは伝わるはずだ。

 

まるで歩くようなリズムのドラムとベースに合わせ、ギターとキーボードが心地よい音を重ね、もっさのボーカルが楽曲を彩る。音源よりもバンドの生々しさを感じるアレンジも最高だ。

 

『壊れぬハートが欲しいのだ』のキャッチーなメロディも良い。それを支える演奏は上手い。特に力強いドラムが印象的だ。その音に連れられて自然と観客も手拍子を鳴らす。これらの曲を聴けば勢いだけのバンドではないとわかるだろう。

 

もっさ「ライブを最前で観たことある?」

朝日「愛はズボーンのライブはいつも最前で観るよ。愛はズボーンだけしか最前で観たことない」

もっさ「この間とあるバンドを初めて最前でライブ観たんやけど、迫力が凄いな!ギターもめっちゃ近くて迫力ある!いやいつもギターは近いし。なんなら持ってるんやけども(笑)」

中村郁香「最前は迫力あるけど、朝日さんを後ろから見るとなぜか笑えるよ」

朝日「真面目にやってるのに笑われてるんか......」

 

やはりMCはシュールだし、中村は朝日を見て満面の笑みをこぼしていた。朝日の後ろ姿が笑いのツボにハマる人物は中村以外にいるのだろうか。

 

そんな空気はやはり演奏で塗り替える。正面から朝日を見ても笑みがこぼれるほどに、ひたすらに楽しませてくれる。

 

今回のライブで最も激しい演奏だった『はよファズ踏めや』は、まさに観客に笑みをこぼれさせるほどに楽しかった。尖ったサウンドは刺激的だったし、メンバーも暴れるように演奏していた。それが楽しすぎて、観客は呼応してノリが激しくなっている。中村は朝日の後ろ姿を見てニヤついていた。

 

しかし中盤にはテンポが落ちるアレンジを取り入れたりと、ライブだからこその楽しさや演奏をしっかり聴かせる姿勢は崩さない。これもネクライトーキーの魅力だ。

 

ミドルテンポの『午前3時のヘッドフォン』でもしっかりとロックサウンドを聴かせ、重低音が響く『の子は竜に逢う』で身体にまで音を響かせる流れも良い。

 

緑や赤の妖艶な照明のなかで演奏された『深夜の街にて』も痺れた。メンバーが複雑な演奏をする中でポエトリーリーディングをするもっさがクールだ。もっさが「ギター」と言ってから朝日がギターソロを弾く姿や「1、2、3」とカウントするごとに一瞬だけ明るくなる照明には見とれてしまう。

 

かと思えば次はポップなシンセサイザーの音が印象的な『続・カエルくんの冒険』が続く。振れ幅が大きい。

 

しかし振れ幅の大きさは次に演奏された『ゆうな』で特に感じた。スポットライトを浴びたもっさのアカペラから始まるバラードだからだ。

 

演奏も歌声も他の曲と比べて繊細で丁寧。胸に沁みる切ない曲だが、ネクライトーキーの個性も感じるサウンドではある。今回のライブのハイライトの1つと言える素晴らしさだ。歌い終えてもっさが「ありがとう」と呟いた時の拍手は、とても大きくてた温かかった。

 

まだ学校は夏休みですか?

 

夏休みはいっぱい色々なことをして欲しいなと思います。いいことも悪いことも強烈に覚えりる時期やから。

 

でも今日のライブは楽しかった思い出になって欲しいなって思ったんやで。

 

学生に温かいメッセージを送るもっさ。しかし話を締める言葉がおかしくなってしまった。

 

2週間ぶりのライブですが、身体が覚えてますね。マッスルメモリーですかね。やはりバンドは筋肉ですね

 

対して筋肉について語る朝日。変な空気になる。

 

やはりMCはシュールだ。しかしやはり当然ながら、演奏はキレッキレでクールだ。

 

ライブも後半に入り熱量はさらに増していく。『君はいなせなガール』『夕暮れ先生』とアップテンポの曲を連発した。その熱量に応えるように、客席の熱気も上昇していく。そして熱いライブの余韻に浸らせるかのように、ミドルテンポの『サカナぐらし』を力強い演奏で聴かせた。

 

ありがとうございました!もう言うことはありません。最後に全力を出して、1曲やります。

 

朝日が叫んでから最後に演奏されたのは『だれかとぼくら』。

 

観客の手拍子に合わせた5人のアカペラから始まった。そんな温かな空気感がたまらないし、そこから楽器の音が重なり激しくなる展開には痺れる。

 

いつか 

だれかと ぼくらが逢えるまで

 

いつか
だれかと ぼくらが泣けるまで

 

いつか
だれかと ぼくらが笑うまで

ネクライトーキー / だれかとぼくら

 

この日のライブのことを歌っていると思ってしまうようなサビの歌詞だ。この場所でだれかと出会い音楽で感動し気持ちを共有しているのだから。

 

最高の演奏をさて颯爽と去っていったのに、アンコールで登場すると、またシュールな空気になってしまう。

 

なぜかもっさと朝日が立ち位置を変えて演奏を始めて「俺が悪かったw」と朝日が謝ってすぐに止めたりと謎な行動をする。シュールである。

 

しかし演奏がはじまれば、やはり彼らはロックバンドとしてカッコイイ音楽を鳴らす。

 

俺が石風呂という名義で活動していた頃の、1番大切な曲を演奏します

 

朝日がこれまでのシュールな雰囲気とは違う言葉選びで語ってから、『ティーンエイジ・ネクラポップ』、が演奏された。

 

魂がこもった演奏だった。観客もそれをしっかり受け止めようとしていた。この場にいたティーンエイジには、特に響いたと思う。後半のサビでアカペラになった時、観客も演奏に参加するかのように大きな手拍子が鳴り響いたのは感動的だった。

 

〈ティーンエイジよ、聴いてくれ僕がちゃんとやってみせるから〉という歌詞に説得力を感じるようなロックで最高なライブだった。その歌はティーンエイジにだけでなく、アラサーの自分までも感動させてくれた。

 

ネクライトーキーよ、ありがとう。それだけさ。

 

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■ネクライトーキー「MEMORIES2」リリースツアー「ゴーゴーメモリーズ!2022 夏」at 渋谷クラブクアトロ 2020年8月17日(日)

1.魔法電車とキライちゃん
2.ジャックポットなら踊らにゃソンソン 
3.オシャレ大作戦  
4.北上のススメ
5.ロック屋さんのぐだぐだ毎日
6.音楽が嫌いな女の子
7.誰が為にCHAKAPOCOは鳴る
8.気になっていく
9.だけじゃないBABY
10.壊れぬハートが欲しいのだ
11.はよファズ踏めや
12.午前3時のヘッドフォン
13.あの子は竜に逢う
14.深夜の街にて
15.続・カエルくんの冒険
16.ゆうな
17.君はいなせなガール
18.夕暮れ先生
19.サカナぐらし
20.だれかとぼくら

 

EN1.ティーンエイジ・ネクラポップ