オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】リーガルリリー YAON 2023 at 日比谷公園野外大音楽堂 2023年7月2日(日)

この日の東京は、最高気温が30度越えの真夏日だった。空には綺麗な青空が広がっていて、太陽が眩しいほどに良い天気だ。

 

そんな日にリーガルリリーにとって初めての、日比谷公園野外大音楽堂でのワンマンライブが行われた。野音は2024年以降に改修工事が行われるので、バンドにとって今の野音でライブを行うのは最初で最後かもしれない。

 

f:id:houroukamome121:20230707075201j:image

 

個人的には「晴れた午後の野外は、バンドのイメージと違うなあ」と思っていた。どちらかといえば曇り空の方が似合うイメージだったからだ。

 

しかしそれは自分の勘違いだった。リーガルリリーは青空の下も似合うし、よくよく考えると空に関するワードが多くの楽曲に使われている。野外が似合う楽曲ばかりだし、そもそも彼女たちはどんな場所でも最高のライブをやるのだ。それを野音のライブを観て実感した。

 

開演時間をすぎステージに登場したリーガルリリーの3人。たかはしほのかの赤いワンピースは青空の野外に似合っているし、ステージ後方を隠すように設置された大きな白いカーテンのステージセットは爽やかだ。メンバーのいで立ちやステージセットは、夏の野外が似合っている。

 

たかはしが確かめるようにギターを1回だけストロークして『ジョニー』からライブがスタート。歌とギターだけの演奏から、ベースの海とドラムのゆきやまの演奏が重なっていった。

 

ライブハウスと同じような轟音だが、今回は東京のど真ん中の野外。いつものリーガルリリーのライブは、ライブハウスの反響によって身体全体を轟音が包み込むような衝撃を感じる。だが今回はどこまでも轟音が空を突き抜けていくような気持ちよさを感じる。

 

そういえばこの楽曲は〈ころしたよ 空と街の交差した空中から〉とう歌詞がある。そんな歌詞は野音で聴くとより心に刺さる。東京の真ん中にある、都会から分離されたような自然のある公園で歌われると、ここが空と街の交差した場所に感じるからだ。

 

3人は最初からリラックスしているようで、笑顔を見せながら演奏している。〈ばかばっか〉とか〈ころしたよ〉などとヒリヒリする言葉が使われた曲からライブをスタートしたにもかかわらず。その不思議なギャップにも惹かれてしまう。

 

続く『たたかわないらいおん』で観客の緊張もほぐれたようだ。疾走感ある演奏が空に突き抜けていき、観客のテンションも自然と上がっていた。

 

サビでは腕を上げて盛り上がっている観客がたくさんいる。海が銅鑼を鳴らしてから始まった『ハイキ』でも同じように盛り上がっていた。新曲のドラマ主題歌ということもあって、もしかしたらこの楽曲をきっかけに最近ファンになった人も少なくはないのかもしれない。

 

『トランジスタラジオ』では歓声を上げている人もいた。過去の楽曲でもしっかり観客の心を掴んでいる。続く『僕のリリー』も5年前の楽曲だが、しっかりと盛り上がっていた。〈人殺し〉というドキッとするワードがある楽曲だが自然と手拍子が巻き起こっていて、不思議と会場は多幸感に満ちている。この独特の空気で感情をぐちゃぐちゃにさせるのがリーガルリリーの音楽の魅力かもしれない。

 

ゆきやまのドラムに合わせ、たかはしが曲名を告げてから始まった『地球でつかまえて』は、演奏がより重厚になっていた。感情が乗ってきたのか、歌唱がだんだんと荒々しくなり感情的になっていたことにもグッとくる。

 

この日の東京の気温と比例するように会場の熱気も上昇していたが、次の曲は涼しい風を吹かせてくれるような演奏を聴かせてくれた。たかはしがアコギに持ち替え『overture』披露されたからだ。

 

バンド全体としてもアコースティックな優しい音色を響かせている。歌声も優しくて心地よい。基本的には轟音を鳴らすロックバンドだが、表現方法が幅広いバンドでもある。とはいえ歌詞は尖っていて、少しだけ狂気に満ちている。この絶妙でヒリヒリするバランスも魅力なのだ。

 

再びテレキャスターに持ち替えるたかはし。アルペジオで弾き語るように『教室のドアの向こう』 を歌い始めた。この学校も歌と演奏が優しいが、やはりリーガルリリーらしく〈中央線は今日も人が死んで閉まったね〉と聴いていてヒリヒリする歌詞もある。後半にバンドの演奏が重なり轟音になると、ヒリヒリした感覚がより研ぎ澄まされ、緊張で張り詰めた空気が流れた。

 

ここまで挨拶もせずに8曲連続で音楽を掻き鳴らしていたが、ようやくたかはしの「リーガルリリーです!初めての野音ワンマンライブへようこそ!」という挨拶から最初のMCへ。

 

そういえばワンマンとしては、バンド史上最大規模だ。それもあってかMC中のメンバーは少しだけ浮き足立っている。海とゆきやまは「お日柄がいいですね」「ここにいる誰が晴れ女ですかね?」と高級住宅街のマダムのような上品な会話を繰り広げていた。

 

たかはしの「野音で演奏したいと思っていた、とっておきの曲があります。声も出せるようになったので、みんなで歌ってみませんか?」という言葉から演奏が再開。披露されたのは『管制塔の退屈』。

 

疾走感ある演奏により、再び盛り上がっていく観客。〈夕日を見てた〉という歌詞があるので、この楽曲も野外と相性が良い。夕暮れ時には少し早いが、少しずつ暗くなっていく時間に演奏されたシチュエーションも最高だ。

 

後半のコーラスパートではたかはしのMCでの言葉に応えるように、観客は一緒に歌っていた。リーガルリリーはこのように一緒に騒いだり歌ったりする楽曲は少なかった。『管制塔の退屈』が、バンド表現の幅を拡げたと感じる。演奏後に客席を眺めて「ありがとう」と言って笑顔を見せたたかはしの姿が印象的だ。

 

ドラムとベースのリズム隊が音を重ね、段々と演奏が激しくなり『ライナー』が続く。一緒に歌ったことでステージと会場の距離がより近づいたのだろうか。前半よりも演奏も歌も、さらに熱気を帯びている。〈出発のサイレンが響いた〉という歌詞は、叫ぶように大きな声で歌っていた。

 

そのまま重低音が響く『アルケミラ』が続く流れも良い。盛り上がるだけでなく、演奏とサウンドで圧倒させるようなパフォーマンスだ。

 

そんな楽曲の余韻を残すかのように、ノイズが残るステージ。3人は演奏せずにたかはしと海がドラムのすぐそばまで近づく。3人は動かずにお互いを見合っている。少しひりついた雰囲気だ。観客はノイズを聞きながら、そんな3人を見守るように見つめる。

 

そしてゆきやまがタムを1回叩き、それを合図に演奏がスタートした。小さなノイズから耳を劈くような轟音へと変化したギャップに痺れてしまう。音だけでなくメンバーの動きも激しくなっていた。

 

そして轟音が一瞬途切れると、たかはしが空を見上げながら〈その日は夕方のオレンジ〉と歌い始め『若者たち』が演奏された。

 

ちょうど時刻は夕暮れ時で、少しだけ空がオレンジになっている。このタイミングで演奏されたからこそ、音源以上に心に沁みる。そこから曲間なしでなだれこむように『GOLD TRAIN』が続く流れも良い。再び会場は熱気を帯びていった。

 

空も薄暗くなり始め涼しなってきたが、それに反比例するかのようにライブはどんどん熱くなる。ドラムからベース、ギターと少しずつ音が重なるジャムセッションが始まると、演奏に合わせるように「ドラム、ゆきやま。ベース、海。ギター、たかはしほのか」と自身を含めたメンバー紹介をするたかはし。

 

メンバー紹介に対し観客から歓声と拍手が送られたが、それをかき消すかのように演奏は激しくなった。そしてたかはしが「東京」とつぶやくように曲名を告げて、ジャムセッションから自然な形で『東京』へとなだれ込む。その瞬間にも観客から歓声が湧き上がった。

 

赤や緑や青のカラフルな照明の中、激しく演奏する3人。外が暗くなり照明が映える時間になったこともあり、演出によってどんどんステージが魅力的に彩られていく。

 

そこから間髪入れずにたかはしのギターリフから『the tokyo tower』が続く。東京の野外で東京に纏わる楽曲を続けて聴く空間が最高だ。〈そんな最低最悪な夜〉と歌っている楽曲だが、むしろこの空間は最高最良な夜だ。

 

しかし次の楽曲で、会場の空気が再び違うものとなる。次に演奏されたのが『ぶらんこ』だったからだ。

 

先程までとは違い、ゆったりとしたテンポで繊細な表現で歌い演奏している。楽曲が終わるとステージ後方に靡いていた白いカーテンに、満月の映像が映し出された。観客は思わず感動で声が漏れたのだろう。そのようなどよめきが起こっていた。

 

サウンドも先程までとは違う。たかはしのメインギターは尖った音色が特徴のテレキャスターだが、この楽曲では柔らかな聴こえ方がする黒いレスポールを使っていた。機材の変化によっても、会場の空気をバンドは操っているのかもしれない。

 

空の高さを知ることができるのは、風船が空高く登っていったから。

 

溶けていった風船の紐は誰と繋がっていたんだろう。私は何を繋ぎ止めていたんだろう。

 

たかはしがポエトリーリーディングをしてから『ハナヒカリ』が演奏された。〈空は君よりも綺麗だった 月は君よりも綺麗だった〉という言葉から始まる歌だ。このライブにピッタリな歌詞である。やはりリーガルリリーは「空」に関する歌が多い。野音が似合うバンドなのだと改めて思う。

 

弾き語りから始まった『ノーワー』にもグッとくる。新曲にこそ今のリーガルリリーの魅力が詰まっていると感じるような名演だ。〈風が吹いてから 消し飛ばされることを待った〉と歌った時に、少しだけ穏やかな風が吹いていた。これも野外ライブだからこその体験だ。

 

1997年12月10日。私はこの世界の空白を奪いました。

 

そしていつか、世界からなくなった空白を返します。

 

むかしむかし、あるところに......。

 

このようなたかはしの言葉からイントロがなり『1997』が始まる。カラフルな照明は美しいのに重低音響くロックな演奏はクールだ。感情が乗ってきたのか、後半の歌唱は荒々しくも感情的だ。それもロックでカッコいい。

 

何をしているのかなあ私たちは

2023年!7月2日!私たちはまた空白を埋めました!

 

私は泣くことしかできなかった

 

最後のフレーズの歌詞を、この日の為の言葉に変えて、叫ぶように歌っていた。それを聴いた観客から歓声が巻き起こる。リーガルリリーのライブでバンドも観客も、これほどまでに感情をぶつけ合うような空気になることは珍しい。

 

そんな感情のぶつかり合いは、代表曲『リッケンバッカー』ではらに激しくなる。海は激しく身体を揺らしながらベースを弾き倒しているし、たかはしは演奏の激しさに比例してかイントロや間奏では、ステージを動き回りながら演奏している。やはり歌声もいつもより叫ぶように歌っていた。ゆきやまの力強いドラミングも最高だ。

 

「最後の曲です。走るこども」とたかはしが囁くように言って最後に『走るこども』が演奏された。最後に駆け抜けるように疾走感ある演奏をするリーガルリリー。身体を揺らしたり腕を上げたりと、思い思いの方法で楽しんでいる観客。

 

ひたすらに轟音を鳴らし痺れるライブで圧倒させていたのに、最後は不思議と多幸感に満ちた空気になっている。しかし挨拶もせずに颯爽とステージを去っていく3人の姿はクールだ。そんなロックバンドだからこその立ち振る舞いが、最高にロックでカッコいい。

 

とはいえアンコールで改めて挨拶をするメンバーの空気感はゆるい。あんなに尖った音楽をやっついるバンドとは思えないほどに、ほのぼのしていてほっこりする。

 

海「体感で10分の1ぐらいの早さで終わるんだけど」

観客「10倍ライブやって!」

海「無理です(笑)」

たかはし「でも本当は毎日野音でやりたいぐらいです」

 

観客の野次に対する反応もほのぼのしていて平和だ。ほっこりしてしまう。

 

本編でほとんどMCを行わなかったが、ここでたかはしが今回の公演への想いを語っていた。

 

野音でやることが、目標のひとつでした。

 

私がバンドを始めようと思ったライブを、10年前に見たのがここなんです。それから毎日音楽をやっていたら、ここに立てるようになりました。

 

家とここが繋がってるとは思わないけど、繋がってると思う瞬間が今日はありました。

 

扉を開けるためのノックを恐れてはいけないです。私は自分の好きな音でノックを鳴らしたら扉を開けることがてきると思います。

 

今日は皆さんも手拍子だったり、それぞれの音を鳴らして扉を開けてくれましたね。

 

ありがとうございます。

 

たかはしがバンドを始めるきっかけのライブとは、10代のミュージシャンによる音楽コンテスト『閃光ライオット』の優勝者を決めるライブのことだ。それを観て彼女の心に火が着いたのだろう。

 

リーガルリリーは『閃光ライオット』の後継的なコンテスト『未確認フェスティバル』で準優勝し、存在が多くの人に知られた。たかはしが10年前の野音に足を運んでいなければ、リーガルリリーは存在しなかったかもしれない。そんな特別な会場だからこそ、いつも以上に感情が爆発するような歌だったのだろう。

 

今回のライブは会場だけでなく、開催日も特別だった。開催日の7月2日は、ベースの海の誕生日なのだ。

 

多くの観客が「おめでとう!」と叫び、海は照れながら「こんな多くの人に祝ってもらったのは初めてです//////」と言って照れていた。

 

そして12月10日にZepp新宿にて対バン企画『cell,core 2023』が開催されることが発表された。この日はたかはしほのかの誕生日。海が「今度はほのかの誕生日を一緒に祝いましょう」と話す。やはりMCはほのぼのしている。

 

しかし演奏が始まれば空気は変わる。「バンドを始めたばかりの頃に作った曲をやります」と告げてからの『魔女』で、再びヒリヒリしたロックバンドの空気になった。

 

初期の楽曲だとしても最新曲と同じように多くの人の心を掴んでいる。サビでは野音を埋め尽くす人達が腕を上げて盛り上がっていた。楽曲の求心力が活動初期からあったことはもちろん、今のリーガルリリーはどんな楽曲でも多くの人の心に響かせる演奏ができるバンドに進化したとも言える。

 

演奏を終えると照明が落とされ、ステージが真っ暗になった。マイクスタンドに設置された豆電球がゆっくりと点灯すると、たかはしが弾き語りでゆっくりと歌い出した。

 

正真正銘のラストは『蛍狩り』。ポエトリーリーディングが印象的な楽曲で、何度も使われる〈輝きを放て〉という言葉が耳から離れない曲だ。弾き語りからバンドの演奏が重なり。3人が繊細な表現で演奏している。

 

ドラムやベースの近くにも豆電球が設置されていて、演奏が進むにつれゆっくりと点灯していく。そして演奏が熱を帯びていくことと〈輝きを放て〉という言葉が繰り返されることに比例して、豆電球の灯は明るくなる。

 

そんな景色に感動してステージをジッと見つめて、そんな音楽に圧倒されて演奏をジッと聴いていた。

 

演奏は消えいるように終わり、挨拶もせずに静かにメンバーはステージを去っていく。圧倒されすぎて身動きが取れなかった観客が多いのか、賞賛の拍手が鳴り響くまで少しだけ時間がかかってしまった。

 

観客の拍手が鳴り止まないうちに、風呂場で録音したかのような音がこもったサウンドのエンディングSEが流れる。それはたかはしほのかのポエトリーリーディングだった。

 

後半になると〈さようならさ〉 という言葉が連呼され、そのBGMも消えいるように終わり、終演を知らせるアナウンスが流れた。

 

最後の最後で感情がぐちゃぐちゃになってしまい、不思議な気持ちになってしまった。でも感情をぐちゃぐちゃにしてくれるものが音楽だと思うし、ロックバンドは特に感情を大きく揺れ動かす音楽だとも思う。

 

「楽しかった」とシンプルに思えるライブも素晴らしい。でも自分はシンプルに感想を言えないほどに感情をぐちゃぐちゃにさせてくれる音楽に最も惹かれる。

 

この感情の大きな揺れ動きこそが「音楽も人を生かす」ということなのかもしれない。

 

f:id:houroukamome121:20230707174332j:image

 

リーガルリリー YAON 2023 at 日比谷公園野外大音楽堂 2023年7月2日(日)  セットリスト

1. ジョニー
2. たたかわないらいおん
3. ハイキ
4. トランジスタラジオ
5. 僕のリリー
6. 地球でつかまえて
7. overture
8. 教室のドアの向こう
9. 管制塔の退屈
10. ライナー
11. アルケミラ
12. 若者たち
13. GOLD TRAIN
14. 東京
15. the tokyo tower
16. ぶらんこ
17. ハナヒカリ
18. ノーワー
19. 1997
20. リッケンバッカー
21. はしるこども


-アンコール-
22. 魔女
23. 蛍狩り

 

【Amazon.co.jp限定】where? (初回生産限定盤) (メガジャケ付)

【Amazon.co.jp限定】where? (初回生産限定盤) (メガジャケ付)

Amazon