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【ライブレポ・セットリスト】フジファブリック LIVE TOUR2022~From here~ at 日比谷野外大音楽堂 2022年7月30日(土)

陽炎が遠くで揺れそうなほどに、炎天下だった東京。最高気温は35℃を超えている。

 

夕方5時のチャイムが鳴る時間になっても、汗が止まらないほどに日差しが照りつけていた。会場の外にいるセミの音が、花火の様に鮮やかに聞こえてくる。

 

そんな真夏日に『フジファブリックLIVE TOUR2022~From here~』のツアーファイナルが行われた。バンドにとって3回目となる日比谷公園野外音楽堂での開催である。

 

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野外なのでライブハウスのように空調は効いていない。これほどまでに気温が高いと、音楽を聴く環境としては適していない。しかしライブが始まってしまえば、この気温すらも愛おしく感じる。

 

それぐらいにこの日のライブは素晴らしかった。東京の空を突き抜けるようなバンドのサウンドに、心の底から感動した。

 

観客も炎天下でテンションが下がるどころか、暑さのせいで逆にテンションが上がっているようだ。

 

SEの『LOVE YOU』が流れてメンバーが登場した瞬間、後方まで観客が立ち上がって大きな音の手拍子を鳴らしていた。その音はいつも以上に大きい。野音という特別な環境にも、感情が昂っているのだろう。

 

そんな観客の熱気にメンバーも連れられるように、ハイテンションで『SUPER !!』からライブをスタートさせた。叫ぶように歌う山内総一郎の声は、いつも以上の気迫を感じる。後半には山内と加藤慎一が前方に出てきて客席を煽ったりと、客席の熱気ををさらに高める。

 

〈君を忘れはしないよ〉というフレーズを歌った時、山内は空を見上げて天を指さしていた。

 

この曲を歌う時、いつも同じように彼は天を指差していて、その姿に毎回グッとくるが、野外のワンマンライブでそれをやられると、いつも以上に感動してしまう。客席のファンだけでなく、空の上まで音楽を届けようとしているのだろう。

 

そんなフルスロットルな勢いは止まらない。「From Hereツアー!始めます!」と山内が叫ぶように言って『楽園』へとなだれ込む。赤い照明の光に照らされながら、クールに演奏するメンバー。そこからDJが曲を繋ぐかのようなスムーズな流れで『東京』へと続く。

 

この2曲はロックとダンスミュージックをミックスさせたような楽曲で、方向性や雰囲気が似ている。だからこそ続けて演奏されると、単体で聴くよりも魅力が引き出されるのだ。

 

しかも『東京』ではソロ回しを入れるアレンジが取り入れられていたので、彼らの凄腕な演奏テクニックも堪能できる。盛り上がらないはずはない。

 

次に演奏された『スワン』では、序盤の熱い演奏とは違う雰囲気を作り出した。もちろんサビでは観客が腕をあげたりと盛り上がってはいたが、野外の開放感ある会場だと、この曲は気持ちよく耳と身体に響く。

 

特に金澤ダイスケの奏でるピアノの旋律が印象的な楽曲で、その音色が気持ちよさを演出しているのだろう。メンバーを水色に包む照明の色も爽やかで美しい。

 

挨拶のりも先に「今日は暑いぞ」と思わずつぶやいてしまう金澤ダイスケ。それぐらいに気温も観客のテンションも高い。共感しか生まない発言に、会場から拍手が巻き起こる。暑いと言っただけで拍手をもらえる男は滅多にない。

 

ツアータイトルの『From here』には「ここから」という意味があります。ここからまたみんなと一緒に歩んでいきたい。みんなと一緒に新しく始めたいという思いを込めてつけたツアータイトルです。

 

フジファブリックはデビューして18年経ちました。ここから20年30年と続けて行きたいという意味も込めています。

 

日比谷野音、気温だけでなく気持ちも熱くやって行きます。よろしくお願いします。

 

山内が今回のツアータイトルについて説明してから披露されたのは『桜の季節』。メジャーデビュー曲であり、2006年にフジファブリックが初めて野音でライブをやった時、1曲目に演奏された楽曲である。様々な意味で「始まり」を意識させる楽曲だ。

 

そしてフジファブリックの創始者である志村正彦の作詞作曲作品でももある。彼の作ったメロディは、今でも不思議で耳から離れないことを実感する。ここから新しく始めるという意味でも、これまでを振り返るという意味でも、今回のライブに相応しい選曲だ。

 

続く『徒然モノクローム』も個人的には「始まり」を感じる。この曲が現体制になってから最初にリリースされたシングル曲だからだ。

 

現体制はアルバムリリースで本格的に始動したが、シングル曲でタイアップもついていれば、世間への訴求力はアルバムよりも強い。この楽曲をきっかけに、フジファブリックが続いていることを知った人も多いだろう。

 

個人的に『モノノケハカランダ』が演奏されたことには、特に驚きテンションが上がった。数年ぶりに披露される人気曲で、盛り上がることが確実の鉄板曲である。

 

赤と青に点滅するストロボ照明の中で山内が背面弾きを披露したりと、キレッキレな演奏を繰り広げている。そんなパフォーマンスを見せつけられたら、観客であるこちらも応えるように盛り上がるしかない。この曲はメンバー曰く「野音といえばこの曲」ということでセットリストに入れたらしい。たしかに過去の野音で毎回演奏されている楽曲だ。

 

『モノノケハカランダ』は『FAB FOX』というアルバムの制作中に、「この曲をきっかけに、ここからすごいアルバムができるんじゃないか?」と思った楽曲です。

 

次にやる曲はここから何かを始めたいと思った時に、力になる曲になったらいいと思って作った楽曲です。

 

今回のセットリストはアルバムタイトルに込めた想いとリンクする楽曲を中心に披露しえいるようだ。

 

山内の説明の後に披露されたのは『Water Lily Flower』。繊細な演奏と優しい歌声が胸に沁みる。この曲をきっかけに抒情的で胸に沁み入るような楽曲が、ここから続く。

 

『透明』もそうだ。「セミとセッションしてるみたいだね」と山内がつぶやいてから、繊細に丁寧に演奏するバンドの姿が最高である。それが叙情的で胸に沁み入る。スモークが焚かれて水色の照明に包まれるステージが幻想的で良い。

 

そんな穏やかな空気で満たされた中で演奏される『若者のすべて』には、いつも以上にグッときた。少し暗くなった野外で聴くこの曲は、シチュエーションも合間って最高だ。まだ真夏のピークは去っていないが、夏の野外で聴くからこその感動がある。

 

今やった『若者のすべて』は、最近色々なところで紹介してもらえてます。キンプリの皆さんががドライブで聴くと言ってくれたりと。とてもありがたいです。これまでも様々な人にカバーしていただいたりとか。幸せな運命をたどっている曲だと思います。

 

今年から『若者のすべて』が高校の教科書に載っています。『桜の季節』も音楽の参考書に載せてもらっています。志村くんも喜んでいると思うんだよな。

 

ここから様々なタイミングで、フジファブリックや志村くんのことを知ってもらえるきっかけがあることを、本当に嬉しく思います。

 

18年間歩んできたからこそ生まれた実績や成果について、感慨深そうに語る山内。会場には志村正彦がいた時代をリアルタイムで知らないであろう若い世代もいた。名曲を作り活動を続けてきたからこそ、世代を超えて魅力が伝わったのだろう。

 

話題はメンバー紹介に移った。加藤は「私は夏生まれの夏男なので暑さは大丈夫です」と謎の余裕を見せつけ、サポートドラムの玉田豊夢は自身の岡山でライブができたことを喜びつつ、久々にフジファブリックのツアーに参加したことを感慨深そうにしていた。

 

金澤は「ミスターここから男」という謎の異名を付けられていた。意味不明である。そして彼の後ろにはやはり、自身の生誕祭で販売したカオスなタオルが飾られていた。意味不明である。

 

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しかし「20周年で僕たちがどんなステージに立つのかはわからないけど、この瞬間を大切にして20周年に繋げて行きます」と真剣に語っていた。

 

ライブも後半に差し掛かり、空はすっかり暗くなり始めている。野音を囲む木々の隙間から茜色の夕日が少しだけ顔を覗く中、「ここからバンドを続けていくんだという、覚悟を決めた曲をやります」という山内の紹介から『STAR』が演奏された。

 

金澤のピアノソロから始まるアレンジで、そこに全員の演奏が重なった瞬間、真っ白な照明がメンバーを後ろから照らした。逆光によってメンバーのシルエットだけが浮かび上がる。その姿が痺れるほどにカッコいい。

 

この日は東京の空の星は見えなかったが、東京の空に『STAR』の壮大な演奏は響いていた。曲が終わる直前に、山内は空を見上げていた。音楽だけでなく、彼らの1つひとつの動作にも「想い」が込められているように思う。

 

陽が落ちて気温は下がってきた分だけ、さらに会場を熱くさせる楽曲が後半は続いた。

 

妖艶な照明に包まれながら『LET'S GET IT ON』のサイケデリックかつプログレ的な演奏で観客を踊らせ、『FEVERMAN』でさらに盛り上げる。この曲では振り付けがあるが、後方までほとんどの観客が綺麗に揃ったダンスをしている。扇状になった野音の客席で見るその景色は圧巻だ。

 

疾走感ある演奏の『電光石火』も良い。そんな真っ直ぐなロックで熱気を上げてから、夜の野外のシチュエーションがベストマッチな『星降る夜になったら』を曲間なしで続ける展開も最高だ。

 

山内が「日比谷!」と煽り、客席一面が腕を上げて応える瞬間は感動的だった。曲の後半に空を見上げる山内の姿も印象的である。この日の山内は、空をよく見上げる。空の向こうまで届いているのか確認しているかのように。

 

フジファブリックがデビューした18年前は、争い事や疫病は遠いところにありました。それが今では日常になってしまいました。

 

フジファブリックは日常の中のものを音楽にしています。だから当時に戻ろうという音楽ではないんです。『From Here』という今回のツアータイトルには、ここから新しい光を作って行きたいという想いも込めています。

 

日常を更新していく毎日を、みんなと歩んで行けたらと思います。こんな世の中だから、現実では大変な思いをしている人がたくさんいると思います。心の居場所がない人もいるかもしれません。

 

でも、フジファブリックの音楽やライブが、あなたの心の居場所です。フジファブリックは、心の居場所を作り続けていくと、約束します。

 

本編最後のMCで山内で語った言葉が、今回のツアーで伝えたかった想いなのかもしれない。

 

フジファブリックのライブに行くと、毎回最高の演奏とロックサウンドに痺れてしまう。それなのにライブ後は余韻で温かな気持ちになる。それは「心の居場所」を今までもずっと守ってくれていた優しさを感じたからかもしれない。

 

「あなたの未来に光があることを願って、この曲を演奏します」と山内が告げてから本編最後に披露されたのは『光あれ』。温かくも力強い演奏が東京の空に響く。

 

後半には銀テープがステージから発射された。観客は銀テープを持って腕を振って楽しんでいる。それがステージから漏れた光に照らされて、キラキラと輝いている。ステージにも客席にも、光がある。

 

最高の本編を終えてのアンコールは、定番のグッズ紹介から始まった。

 

「さっぱりとしたTシャツ」や「帝国ホテルのチョコレートが4つ入るポーチ」などを寸劇を交えながら紹介するメンバー。山内は「照明が綺麗に映える時間なのに、照明の無駄遣いをしている」と苦言を言いつつも笑顔だ。演奏はキレッキレだが、MCだけはゆるゆるいかせて欲しいのだろう。

 

そして9月に行う対バンライブ『フジフレンドパーク』の東京公演初日に、Saucy Dogが出演することを発表した。以前話をした時に好きと言ってもらえたから呼んだらしい。珍しく先輩風を吹かしている。

 

山内がギターを爪弾いてからアンコール1曲目に『LIFE』が披露された。自然と客席からは手拍子が鳴り響く。メンバーも楽しそうに演奏している。中盤に「ギター!俺!」と言ってからギターソロを弾く山内の姿はお茶目だ。

 

そのまま曲間なしでジャムセッションになり、そこから『虹』へと雪崩れ込んだ。そういえば過去に開催した野音公演でも、この曲は毎回演奏されていた。野音をイメージする曲の1つが『虹』かもしれいない。

 

演奏もパフォーマンスも、最後に全てを出し切る様にテンションが高まっている。最後のサビ前に山内が「日比谷!」と叫び、マイクからは離れ客席を煽った。

 

これほど熱いライブなのだから、コロナ禍以前なら観客が大声で合唱していただろう。

 

しかし、この日は誰も歌わなかった。その代わり全力で腕を上げて応えていた。山内も歌っていなかったので、サビなのに演奏だけが響く状況になってしまった。

 

それでもこの瞬間は多幸感に満ちていたし、最高のライブになっていた。きっと心でみんな歌っていたと思うし、ここで実際に声を出さないことで、観客も「フジファブリックという心の居場所」を守ろうとしていた。

 

コロナ禍も2年を過ぎて、様々な考えや価値観が生まれた。ガイドラインを守り集客を半分にして声出しを許可するライブも増えてきたし、ガイドラインを無視して客が大声で騒ぐライブまでも出てきた。

 

しかしフジファブリックは満員のキャパで、フジファブリックを求める1人でも多くの人が参加でき、全員が安心してライブを楽しめる環境を作ってくれている。それにファンも協力している。

 

1人でも多くの人の心の居場所をフジファブリックは作ろうとしているし、ファンも心の居場所を自ら守ろうとしている。

 

コロナ禍で客席から声を出すことは、ルールやマナーの問題もある。そのような決まり事を守るという理由はもちろんだが、それだけでなく大切な場所を守るためにルールを遵守するという意志を、この場にいる全員から感じた。それにグッときた。心の底から感動した。

 

アウトロで各メンバーのソロ回しの後、長尺のジャムセッションをしてライブは終了した。

 

この日の演奏はきっと、空の遠く彼方まで鳴らされていたと思う。世界が揺れたかはわからないが、この場にいた全員の心が響いて揺れていた。

 

ここからファンと一緒にまた始めていくということを、言葉だけでなく音楽によって伝えるようなライブだった。

 

ここからまた、フジファブリックとファンとで、一緒に心の居場所を作り、守り続けて行きたい。

 

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フジファブリックLIVE TOUR2022~From here~ at 日比谷野外大音楽堂公演 2022年7月30日(土) セットリスト

1.SUPER!! 
2.楽園
3.東京
4.スワン
5.桜の季節
6.徒然モノクローム
7.モノノケハカランダ
8.Water Lily Flower
9.透明
10.若者のすべて
11.STAR
12.LET'S GET IT ON
13.FEVERMAN
14.電光石火
15.星降る夜になったら
16.光あれ


EN1.LIFE
EN2.虹