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【ライブレポ・セットリスト】フジファブリック〈FABch会員限定〉アルバム発売記念プレミアムライブ at 東京キネマ倶楽部 2024年2月28日(水)

2024年2月28日。フジファブリックが約3年ぶりに新作アルバムを発売した。

 

アルバムタイトルは『PORTRAIT』。“原点回帰”をテーマとした、バンドのメジャーデビュー20周年に相応しい内容の作品になっている。

 

そんな作品の発売を記念したライブが東京キネマ倶楽部にて発売当日に行われた。普段の東京公演と比べると小さめのキャパで、収容人数はは約600人。参加できる観客はファンクラブ会員のみ。コアなファンだけを集めた、一夜限りの特別な公演だ。

 

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そんなライブだからかメンバーはいつも以上にリラックスしている。ステージに出てきてもすぐに演奏はせず、メンバー紹介を含めた雑談からスタートさせるような、ゆるゆるいってしまう雰囲気だ。

 

今回のライブの趣旨が最新アルバムの楽曲を披露することだと説明する山内と「アルバム発売当日だし曲を知ってるような知らないような微妙な感じで来た人達ばかりだと思います(笑)」と冗談を言う金澤。だが観客は「ちゃんと聴いてきたよ」と言ってるかのような温かな反応をしている。

 

山内総一郎はアルバムの出来に大満足しているようだ。「ええアルバムできたやろ!最高やろ!」と叫んでいた。観客も賛同するかのような拍手を鳴らしている。

 

ファンクラブ限定ライブだからこそのゆるくて温かな空気になってしまったが、演奏が始まると空気は一転する。

 

1曲目はライブ初披露の新曲『ショウ・タイム』。〈あれよあれよあれよと上演だ〉という歌詞がある通り、ライブの始まりを告げる曲としてはピッタリな選曲だ。

 

初披露だからか少しの緊張感がある。そんな中でメンバーはハイレベルな演奏で曲を再現している。今回のサポートドラムは“よっち”の愛称で知られる河村吉宏。フジファブリックへの参加は久々だが、彼の力強いドラムが楽曲に迫力を加えている。彼は河村"カースケ"智康の息子だが、父親にも負けないほどの一流の腕前だ。

 

最初のサビが終わり「上演だ!」と叫ぶ山内。それをきっかけにフロアの緊張がほぐれた。しかしこの楽曲はプログレかと思うほどに展開が目まぐるしく複雑だ。メンバーは気を抜くことができない。ステージ上は変わらずに緊張感ある演奏が繰り広げられている。その演奏は凄まじくて、1曲目から鳥肌が立ってしまった。

 

そこから最近のライブでは披露済みの『プラネタリア』が続くと、ステージの緊張もほぐれたようだ。メンバーは良い意味でリラックスした様子で、生き生きと演奏していた。会場全体がサビで腕を上げたりと、観客の盛り上がりも上々である。

 

続く『Particle Dreams』も配信シングルとしてリリース済みだったので、ライブではお馴染みだ。

 

だが山内が手拍子を煽ったりと、より魅せるパフォーマンスへと進化している。アウトロは金澤のキーボードが映えるジャムセッションをするライブアレンジになっていた。

 

山内と金澤が向かい合いひたすらに各々の楽器を弾き倒す。それに観客が興奮して歓声をあげる。ライブのみのアレンジで演奏力の高さを見せつけるのも、フジファブリックのライブの魅力だ。

 

金澤「アルバム発売日にライブをするのは『TEENAGER』以来ですね。......いや、首を振ってるお客さんが沢山いるから違うらしい」

山内「記憶がごちゃごちゃになっててわからなくなってるけど、けっこうやっているらしい......」

 

メンバーよりもファンの方がバンドの情報に詳しいのは、流石ファンクラブ限定ライブといった感じだ。

 

そもそも前作アルバム『I Love You』でも配信とはいえ発売日にライブを行っている。むしろファンはそれを忘れていることに驚いていたのかもしれない。

 

ちなみに自分はMCでも話題になった『TEENAGER』の発売日に行われたライブへ行った。本編はアルバムを曲順に再現する内容で、アンコールで志村正彦が「予定してなかった曲をやります」と言ってサプライズで『花屋の娘』演奏したことを覚えている。良いライブだった。

 

MCはアルバム『PORTRAIT』の収録曲は演奏が難しい曲が多いという話題に。

 

金澤「初めてやる曲が多いから緊張してます。1曲目の『ショウ・タイム』もめちゃくちゃ難しくて大変。組曲みたいに複雑で」

山内「難しいから気をつけて演奏しないとと思ってたら、出だしでブッとかギターで変なあと出しちゃったw」

 

言わなければバレないのに、自身のミスを白状する山内。

 

山内「次にやる『KARAKURI』はダイちゃんが両手に乳酸を貯めながら弾き倒す曲です」

金澤「普通はキーボードの左手はベースを弾くんですよ。うちのバンドにはベーシストがいるから普段あまり左手は使わないけど、この曲は序盤で加藤さんが何もしてないからこっちが左手使わないといけなくて大変なんだよ!あなた、この曲で何もしてないでしょ!」

加藤「コーラスをしています」

山内「じゃあちゃんとやってますね」

金澤「こういう話は普通、演奏した後にすることでしょ?やる前に話すバンドがいますか?」

山内「今日のお客さんは家族みたいなもんだから良いんだよ」

 

メンバーの仲良さそうな雑談後に演奏されたのは、予想通りに『KARAKURI』。

 

たしかに金澤は忙しなく両手を動かしてキーボードを弾き倒している。体力も技術も必要な凄まじいプレイだ。そして加藤慎一はベースを弾かずにコーラスに徹している。山内も歌ってはいるもののギターは弾いていない。楽器はドラムとキーボードだけだ。だがそこに山内の歌と加藤のコーラスが重なり、それが楽曲に妖艶さと音の厚みわ加える。

 

今までのフジファブリックではあまり見なかったアレンジだ。中盤からはギターとベースも加わり曲展開が複雑になっていくと、四人の凄腕なテクニックで魅せる演奏へと変化する。さらには加藤がエフェクトのかかったボーカルでラップも披露したりと、予想外の展開にも驚く。

 

キャッチーではないし近年のトレンドとは離れているマニアックな曲だ。しかし生で聴いたら衝撃を受けること間違いない、ロックファンかならば心に響く楽曲だとは思う。音源も素晴らしかったが、ライブで特に化けた名演が『KARAKURI』だった。

 

山内「この曲が完成したときは、物凄い凄い曲ができたと自分で思いました」

金澤「みなさん、加藤がいきなりラップしてびっくりしましたよね?

加藤「怪談を話す時とは緊張感が違いますね。みんなこっちを見てくるけど、何なんだよ!」

金澤「見られる仕事だから当然でしょ!」

 

ゆるいテンションで『KARAKURI』について語るメンバー。音源では山内がラップピートも歌っているが、ライブでは加藤の担当になるようだ。

 

ここまでロックバンドとしての勢いや凄腕バンドの超絶テクニックを感じる楽曲で盛り上げていたが、次の曲で雰囲気が変わる。

 

演奏されたのは『月見草』。アコースティックサウンドの優しい音色の楽曲だ。山内はガットギターに持ち替え、金澤は鍵盤ハーモニカを吹いている。よっちもウインドチャイムを鳴らして楽曲を美しく彩る。

 

山内「『月見草』では“くちトロンボーン”をやっています。これからもっと上達するので見守ってください」

金澤「当たり前のようにように“くちトロンボーン”という知らない言葉を聞かされてみんな驚いてますけど......」

 

山内の発言によって“くちトロンボーン”という新たな言葉を覚えた観客。トロンボーンの音をハミングのように再現し歌うことを“くちトロンボーン”と呼んでいるらしい。レコーディングでは本物のトロンボーンを入れる予定だったが、くちトロンボーンだと長閑な雰囲気になるので、こちらを採用したという。

 

個人的にこの日の演奏で特にグッときたのは『音楽』だ。「大それた曲名をつけてしましまいましたが、それぐらい強い想いを込めています」と話してから演奏が始まったが、そんなタイトルも納得してしまう想いのこもった歌詞を、音源よりも魂を込めて熱く歌っている。

 

〈民生の新譜が良かったよなあ〉〈サザンの新譜も良かったよなあ〉と実在の偉大なロックスターの名前が出てくる歌詞だからこそ、歌っていて気持ちが入りやすいのだろう。

 

だが編曲はやはり複雑で少し変わっていて、熱い演奏というよりも繊細な演奏だ。他のバンドならばこのような歌詞の曲は壮大で感動的な編曲にしていたかもしれないが、癖のある不思議な演奏で熱い歌を届けるのがフジファブリックらしくて心に響く。

 

『音楽』の歌詞で民生とかサザンとか呼び捨てで使っていて「怒られないの?」って思ったでしょ?大丈夫です。きちんと許可は取りました。

 

民生さんとは直接会った時に許可をもらったんですけど「わーってる!わーってる!いいよ!いいよ!」みたいな感じに許可をもらえました(笑)サザンには事務所を通して許可を伺ったんですけど、快く了承してもらえました。

 

敬称をつけないリスペクトの形があると思うんです。

 

プロになってからは憧れの人に会うと敬称をつけてしまうんですけど、地元の友達と会って話している時に「民生さんが〜」とか言っちゃうと「調子乗るなよ!民生に肩を並べたとでも思ってるのか?」と怒られます(笑)

 

いつまでも自分が聴いていたミュージシャンに対しては、ファンの気持ちであることを忘れたくはないんです。

 

山内の価値観を交えて『音楽』に込めた想いが語られた。ロックが好きな人ほど、山内の価値観には共感する人が多いのではないだろうか。

 

続いて演奏されたのは『音の庭』。アコースティックギターの音色が印象的な楽曲だが、後半に進むにつれてどんどん壮大になっていく。今回は600人のライブハウスでの披露だが、ホールやアリーナも似合いそうな迫力だ。

 

この楽曲はアルバム収録曲の中で最も古く2年以上前に発表されている。だがアルバムに収録されると少し違った印象になる楽曲だ。メンバーもそれを感じているようで「アルバムに入ると『音の庭』もプログレっぽく感じて新鮮」と語っていた。ちなみに間奏の複雑な演奏箇所は『トム・ヨーク』という仮タイトルをつけていたらしい。たしかにレディオヘッドの匂いを感じる演奏ではあった。

 

山内「今回はアルバムのコンセプトを決めませんでした。自分たちが楽しいと思える音楽をひたすら作って、作った曲を精査して選びアルバムにしました」

金澤「最近の他のバンドのアルバムには入ってなさそうな複雑な曲や演奏が長い曲が多いでしょ?でもフジファブリックのファンは、こういう曲は好きでしょ?

 

金澤の問いかけに盛大な拍手で応える観客。流行りの音楽ではないけれど、これほどカッコいいロックバンドが活動を続けてくれている。他のバンドがやっていないことをメンバー自身が楽しんでやっているから、フジファブリックは唯一無二なのだ。

 

フジファブリックのライブはMCが長くなりがちだ。今回も長かったのだがアルバムについて語ることがメインだったので、トークがだれることなく進む。加藤が「『KARAKURI』と『Portrait』を同時期に歌詞を書いてたから頭がおかしくなりそうだったw」と、個人の作詞作曲時のエピソードも語ってくれることも嬉しい。

 

山内「アルバムに一曲だけフレデリックとコラボしてる曲があります。なんと今日は特別に!」

観客「おおおおおお!!!」

山内「フレデリックが来るということはないので、代わりに金澤ダイスケが歌う特別バージョンです(笑)」

観客「おおおおおお!!!」

 

何に対しても歓声で応える観客。山内はテンションがMAXになっのだろう。曲を始めようとせず、楽しそうにギターでアドリブを弾き倒す。

 

まるで「お前も弾いてくれよ!」とでも言いたげな無邪気な表情で金澤や加藤の近くまで行って弾き続ける山内。アドリブを弾かずに迷惑そうな顔で拒否する金澤と加藤。「アドリブハラスメント!」「訴えるぞ!」という怒号をが二人が叫ぶ。

 

山内の気が済んだところで『瞳のランデヴー』が始まる。盛り上がりも最高で、金澤がハンドマイクで前方に出て歌うと観客から黄色い声援が贈られた。心做しか金澤の表情は満足気に見えた。

 

そして畳がけるように『ミラクルレボリューション No.9』が続く。最近のライブ定番曲なので、観客はみんな見事に揃ったダンスを踊って楽しんでいる。

 

またもや山内はテンションがMAXになったのだろう。ハンドマイクになって前方に出て観客を煽る。だがマイクのコードがぐちゃぐちゃに絡んでしまった。焦るスタッフと苦笑いしつつも楽しそうな山内。

 

東京キネマ倶楽部はキャバレーを改築して作られたライブハウスだからか、下手側に華やかで豪華な階段と小さなステージがある。山内はそちらが気になるのだろう。

 

絡んだコードを解く作業はスタッフに任せ、無邪気に階段に登り歌う山内。手すりに足をかけて歌って歓声を浴びたりと気持ちよさそうだ。昭和の大スターかのごとく、ゆっくりと手を振りながら歌う姿も印象的だった。

 

演奏を終えて金澤が「錦野旦かと思った(笑)」と、山内のパフォーマンスについて話していた。山内は照れていた。

 

「初めてライブでやる曲が多かったけど、上手にやれたなあ」と自画自賛する山内。観客は「初めてライブで聴く曲が多かったけど、めちゃくちゃ良かったなあ」という意味を込めた拍手を贈る。

 

フジファブリックとしての青春は、音楽であってライブです。こうしてバンドを続けることができていること自体が青春なんです。

 

みんなが居たから青春を続けることができています。そんな感謝の気持ちを込めた曲です。

 

山内が言葉を選びながら丁寧に感謝を伝えて、最後にアルバム表題曲『Portrait』が演奏された。

 

美しいピアノの旋律に合わせ、感謝を伝えた時と同じように丁寧に歌う山内。演奏もロックバンドとしての力強さはあるものの、音色はどことなく優しい。

 

曲終わりにギターのGコードを鳴らして、演奏が終わった。Gコードは『茜色の夕日』や『手紙』の最初に使われているコードなので、この音を鳴らして曲を終えることにも、特別な想いが込められているのだと思う。

 

普段のワンマンライブと比べると短めの約90分。セットリストは全曲最新アルバムからの選曲。おそらくバンドにとって身近な存在であるファンクラブの会員に、真っ先にライブで新曲を届けたかったのだろう。

 

改めて「フジファブリックの新譜がよかったよなあ」と実感させるライブであり、「フジファブリックのライブもよかったよあな」と思わせてくれる内容だった。

 

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フジファブリック〈FABch会員限定〉アルバム発売記念プレミアムライブ at 東京キネマ倶楽部 2024年2月28日(水) セットリスト

1. ショウ・タイム
2. プラネタリア
3. Particle Dreams
4. KARAKURI
5. 月見草
6. 音楽
7. 音の庭
8. 瞳のランデヴー
9. ミラクルレボリューション No.9
10. Portrait