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【ライブレポ・セットリスト】フジフレンドパーク 2022 (出演:フジファブリック Saucy Dog) at Zepp Divercity Tokyo 2022年9月29日(木)

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フジフレンドパーク2022の東京公演初日。かなり若いファンが多いバンドをゲストで呼んだと思った。

 

フジファブリックが呼んだ対バン相手はSaucy Dog。いまやアリーナツアーですら簡単にチケットは取れない超絶人気バンドだ。『シンデレラボーイ』のバズり方から考えたら、もしかしたら紅白歌合戦に出場してもおかしくないレベルである。

 

だから普段のフジファブリックとは、少しだけ違う客層だった。学校帰りなのか制服を着た若い客が多い。もしかしたらフジファブリックの曲をあまり知らない世代かもしれない。

 

そんなSaucy Dogのファンに、フジファブリックの音楽はどのように聴こえるのだろうか。そしてフジファブリックのファンは、飛ぶ鳥を落とす勢いのSaucy Dogをどのように受け取るのか。

 

世代やファン層が違うバンド同士の対バンだからこその面白さを、自分はライブ前から感じて期待していた。

 

Saucy Dog

 

久々に彼らをライブハウスで観るからだろうか。それともフジファブリックとの対バンだからだろうか。この日のSaucy Dogは自分が今まで観た中で、最も熱くて泥臭いライブをやっていると感じた。そんな姿にいつも以上にグッと来た。

 

メンバーか登場し楽器を持つ、とドラムを中心に3人が集まり「Saucy Dog!」と石原慎也が叫び気合いを入れていた。マイクを通さずとも、会場全体に響くような声量だ。この時点でいつも以上の気迫を感じる。

 

石原が深呼吸してから『シーグラス』からライブがスタート。楽曲の前半は丁寧な演奏と歌だったものの、中盤からどんどん熱気を帯びて激しくなっていく。Saucy Dogのヒット曲しか知らない人は、彼らにポップなイメージを持っているかもしれない。しかし彼らはゴリゴリのロックバンドだ。それを演奏で伝えているようにも感じる。

 

「僕が今まで言われて1番悔しかったこと」とつぶやいてから演奏された『煙』もそうだ。美しいメロディながらも、衝動的で激しい演奏をしている。叫ぶように歌っているし、この日のSaucy Dogはとにかく泥臭い。

 

「俺たちバンドマンの歌です」と言って『メトロノウム』を続けるのも、やはり泥臭いロックバンドだからこそだ。叫ぶように歌う石原の姿は、自らがロックバンドてあることを、言葉でなく音楽で伝えようとしているように見える。

 

序盤から激しい演奏で盛り上げていたが、Saucy Dogは勢いだけのバンドではない。ミドルテンポの『BLUE』では、ズッシリと身体に響くサウンドを轟かせる。彼らの演奏は芯がある。そしてその芯は強い。それを感じる轟音だ。

 

せとゆいかが少し緊張気味に「はじめましてSaucy Dogと申します」と挨拶をして、この日最初のMCへ。

 

トークの内容はフジファブリックへの愛をひたすらに語るものだった。音楽の好みがメンバー全員バラバラだが、それでも3人全員が好きなバンドが何組かおり、その1つがフジファブリックだという。

 

石原は高校生時代に初めて組んだバンドで、初めてコピーして演奏をしたのがフジファブリック『虹』だと話していた。初めて購入したバンドスコアはフジファブリックのもので、アルバム『FAB FOX』のスコアだったそうだ。彼の音楽の原点の1つがフジファブリックなのだろう。

 

メンバーの中でも秋澤和貴は特に熱狂的なフジファブリックのファンで、せとゆいかにフジファブリックを教えたのも彼だと話していた。

 

MCで作った和やかな空気をそのままに、石原が「みんなで楽しめる曲を」と言って、 『雀ノ欠伸』から演奏が再開。「ワン、ツー!」と3人が声を合わせカウントをし演奏を始めた様子は、見ているだけで楽しいし笑顔になってしまう。観客も楽しそうに手拍子していた。

 

そして「どんどん行こう!」と石原が叫び『ナイトクルージング』へとなだれ込む。前半と同じぐらいの熱気に包まれているが、客席からは温かな手拍子も聞こえる。初めて彼らを観た人も含め、Saucy Dogがこの場の全員に受け入れられた証拠だろう。

 

「ベースソロ!秋澤和樹!」と石原が叫び、秋澤のベースソロから始まった『雷に打たれて』は、個人的に特にテンションが上がった。

 

会場は温かな空気になっていたが、その中で衝動的なロックサウンドを鳴らす姿に痺れた。石原は前方に出てきてギターを掻き鳴らす。ライブも後半に差し掛かったからか、熱量はさらに増大していた。

 

とはいえ「ここにいるあなたが、自分らしくあれるように!」と叫んでから始まった『Be yourself』では、演奏に合わせ観客が手を叩く景色は優しくて心地よかった。観客の手拍子も演奏の一部になっている。そんな心地よい雰囲気も最高だ。

 

「特に秋澤はフジファブリックの大ファンなんです」と言って、秋澤に話を振る石原。秋澤は「色々と話したいことはありますが、泣いちゃうんで止めときます(笑)」と照れながら話す。

 

しかし「自分が音楽をまた頑張ろうと思えたのは、フジファブリックがいたからなんです」と短いながらも想いがこもった言葉を残した。

 

秋澤がライブ中に話すことは珍しい。対バンでMCを担当したのは初めてかもしれない。それでも彼が話をしたのは、やはりフジファブリックとの対バンだからだろう。

 

メンバーが抜けて音楽を続けられるかわからなくなった時、2人が入って来てくれたから音楽を続ける事ができました。今日はこの3人になったばかりの頃に作った曲を中心にやっています。

 

石原はバンドに対する想いを語っていた。理由は違うものの、フジファブリックも音楽やバンドを続けられるかわからなくなったタイミングがある。それでもフジファブリックはバンドを続けてきた。

 

続けることのカッコよさや、続けることができるたいう希望を与えたのだと思う。Saucy Dogはフジファブリックの音楽だけでなく、ロックバンドとしての生き様にも影響を受けたのかもしれない。

 

そして「特に大切な曲を」と石原がつぶやいてから『いつか』が演奏された。最近は特に大切なタイミングや演奏されることが多い楽曲だ。彼らにとってフジファブリックとの対バンは、特に大切なライブということなのだろう。

 

やはり『いつか』の歌も演奏も、魂が込められていた。落ち着いたスローテンポの曲なのに、この日1番と感じるほどの熱量だった。そんな彼らの音と魂に、心をガッとつかまれた。

 

「ありがとうございました!サウシードッグでした!」と挨拶してから最後に演奏されたのは『優しさに溢れた世界で』。

 

「この3人になったばかりの頃に作った曲を中心にやっている」とこの日のセットリストについて語っていたのに、最後は新曲のひとつを演奏した。それは「今のSaucy Dog」もしっかりと伝えたいという想いからだろうか。

 

でも、新曲を演奏するSaucy Dogは、めちゃくちゃカッコよかった。観客をしっかり巻き込んで盛り上げている。

 

全ての演奏を終えて「今日、楽しかった人!?」と叫びながら観客に尋ねる石原。Saucy Dogのライブでは定番の最後に行う挨拶だ。客席の多くの人が手を挙げたり、拍手で応えていた。

 

きっと初めてSaucy Dogを観た人も、雷に打たれてしまったような衝撃を受けたはずだ。

 

■セットリスト

1.シーグラス
2.煙
3.メトロノウム
4. BLUE
5.雀ノ欠伸
6.ナイトクロージング
7. 雷に打たれて
8. Be yourself
9.いつか
10. 優しさに溢れた世界で

 

フジファブリック

 

ポップなSEが流れる中、満面の笑みで登場したフジファブリック。カラフルな衣装を着て、フロアを眺めながら準備を進めている。Saucy Dogが作った良い空気感を、じっくりと感じ取っているようだ。

 

後輩が最高の演奏をやって綺麗にバトンを渡したのだから、それに応えなければならない。そんな想いをこの日のフジファブリックの演奏からは感じた。

 

だからか山内総一郎の弾き語りから始まった1曲目の『LIFE』からしても気迫が凄い。煽りまくるしギターも掻き鳴らしまくっている。観客もそんな演奏に興奮し、初っ端から会場全体が盛り上がっていた。

 

そこから『Sugar!!』を続けるのだから、当然ながら熱気はどんどん上昇する。観客の手拍子は大きく会場に響き渡っていた。山内は「Zepp Diversity!」と叫び煽る。彼はライブ中に甘噛みすることが多いが、歌う時と煽る時はスムーズに言葉を発することができるのだ。

 

しゃうしーどっぐの皆さん。......今、少し甘噛みしました。

 

Saucy Dogの皆さん、リスペクトを感じるライブをありがとうございます。それに応えられるよう、最高のライブをやります

 

やはりMCになった途端、山内は甘噛みしてしまう。演奏はキレッキレなのに、MCはゆるゆる行ってしまう。

 

そんな空気を再び音楽で塗り替え、熱い空気に変えていく。青や赤の妖艶な照明の中で『夜明けのBEAT』を激しく演奏した。Saucy Dogにも負けないほどの若々しくて勢いあるサウンドだ。

 

山内は加藤慎一の近くまで行き、ギターを背面弾きしたりと視覚的にも魅せるパフォーマンスをしていた。それを優しい目で見守る加藤の姿にはホッコリする。

 

そのまま『カンヌの休日』へとなだれ込み、観客のボルテージは一気に最高潮に。この楽曲の演奏も衝動的で熱い。

 

そんな激しい曲を連発したものの、そこから『楽園』を続けて音に酔わせる流れも良い。この楽曲はダークな雰囲気があり、ブラックミュージックの影響もほんのり感じる。

 

フジファブリックが様々なタイプの楽曲を持っていることを実感する流れだ。心地よい演奏に合わせ観客は身体を揺らしているし、間奏で山内が手拍子を煽ると会場全体が手を叩き楽しんでいた。しかしアウトロで音源よりも、激しくなる展開は、やはり熱くて泥臭くて最高だ。

 

「Saucy Dogにも同名の曲があって、今日もやっくれましたね」と言ってから『ブルー』が演奏された時、会場の空気が変わった気がした。

 

この曲は美しいメロディと優しい歌詞が印象的なミドルテンポの楽曲だ。前半は全力で盛り上がっていた観客が静かに聴き入り、バンドは繊細で丁寧な演奏をしている。青い照明の光に包まれながら演奏する姿は幻想的で美しい。長尺のアウトロでの掻き鳴らすようなギターソロは圧巻だ。

 

そんな演奏や演出圧倒されている客席だが、MCになるとメンバーのゆるゆるな空気で、再びホッコリとしてしまう。

 

金澤ダイスケ「Saucy Dog、本当に良いライブでしたね。僕たちの音楽に刺激を受けてくれていることは嬉しいし、逆にそういった話を聞くと僕らも刺激を受けます」

山内総一郎「福井のフェスで初めて会って少し話して、その時はライブも袖で見てたんですけど、すごくカッコいいスリーピースバンドだと思いました。うちは特殊でキーボードがいるけれど」

金澤ダイスケ「僕が特殊な人間みたいに聞こえるから止めてもらえます?」

 

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金澤ダイスケは自身が特殊である自覚がないようだ。

 

僕らは日常を歌って行きたいと思っています。日常の中での感動が自分たちを突き動かしていると思っています。そこにトキメキがあると思います

 

MCはゆるゆるで特殊なキーボードがいるバンドだが、その合間にバンドが音楽に込めた想いを丁寧に話すからグッとくる。

 

そして「トキメキをもっとちょうだい!」と山内が煽ってから『SUPER!!』へと続く。Saucy Dog目当てだった人も全力で盛り上がるほどに、観客全員を魅了していた。

 

そこから曲間なしでセッションが始まり、滑らかに曲が始まった『Feverman』もそうだ。お祭り騒ぎかのように客席全体が腕を上げたり身体を揺らしたりと、みんなが自由に踊っている。サビは観客も一緒に踊る振り付けがある曲だが、Saucy Dogのファンはすぐに振り付けを覚えて踊っていた。若いからすぐに覚えられるのだろう。羨ましい。

 

そして畳み掛けるように『電光石火』を演奏し、ラストスパートをかけるように盛り上げていく。このまま最後まで盛り上げて行くかと思いきや、最後の曲を演奏する前に、山内が言葉を選びながら丁寧に話し始めた。

 

まだコロナ禍で大変な時期なのに、こうして集まってくれてありがとうございます。

 

色々なことがあるだろうし、環境もそれぞれ違うから、なかなか会えない人もいると思います。

 

でもまた会えることを願って、この曲を歌います

 

そう言って最後に演奏されたのは『破顔』。壮大な演奏に力強いメッセージが乗る。観客はメッセージを受け取るかのように、ステージをじっと見つめている。

 

特に〈ただ息をする今日という日が何より素晴らしいことさ〉という歌詞は「日常を歌っていきたい」と語るフジファブリックの目指すものを表しているのかもしれない。

 

そんな圧巻の演奏の余韻が残る中、ステージを後にするメンバー。

 

すぐにアンコールを求める拍手が響き、それに応えて金澤と加藤とサポートドラムの伊藤大地が出てきて、3人でトークを始めた。

 

やはりトークはゆるゆる行ってしまうようで、茶番の寸劇を挟んだ物販紹介をする3人。Saucy Dogのファンはあまりのゆるさに動揺したかもしれない。

 

山内は物販紹介が終わったタイミングで「サウシーのメンバーと話し込んじゃった」と言って再登場し、自身が着ている物販のTシャツを見て「あぁぁぁ!!!」と叫んでいた。頼まれてもいないのに自ら茶番の寸劇に参加する山内。彼は積極的な性格である。

 

そして「去年はコロナの影響でコラボはできなかったけれど、今年はやってみようと思います」と話してから石原慎也をステージに呼び込んだ。

 

少し緊張気味な様子からは、彼が本当にフジファブリックが好きだということが伝わってくる。以前PEDROと対バンした際の石原は全然緊張していなかった。アユニ・Dと見つめあって『結』を歌うという、けしからんコラボをしていたが、その時とは様子が違う。

 

 

コラボをした曲は『若者のすべて』。1番は石原がメインボーカルを担当し、2番は山内がメインボーカルを務める歌割りだった。

 

しかし基本的には石原が歌う部分が多く。山内がコーラスをする形になっている。先輩として後輩を引き立たせたいのだろうか。

 

Saucy Dogの曲と比べるとキーが低いので、石原の得意とするキーではないかもしれない。それでもやはり歌が上手いことがわかるし、大切に丁寧に歌おうとしていた。そんな姿からもフジファブリックへのリスペクトを感じる。

 

また笑顔で会えますように。遥か彼方まで行きましょう!

 

ぎょうは、今日は、本当にありがとうございました!

 

最後の挨拶で甘噛みしてしまう山内。しかし想いはしっかり伝わった。

 

ラストは『徒然モノクローム』。再び腕を上げたりと盛り上がる観客。多幸感に満ちた空間が最高だ。

 

そういえばSaucy DogのMCで石原は「メンバーが抜けて1人になった時、音楽を続けられないと思ったけど、2人が入ってくれたから続けられた」と語っていた。

 

〈あきらめるのはまだ早い 行き詰まった所がほら それが始まりです〉という歌詞がある『徒然モノクローム』を最後に演奏したのは、Saucy

Dogへのエールかもしれない。そして続けて来た彼らへの賞賛の想いも込めているのだろう。

 

演奏が終わる直前に山内は「今日、楽しかった人!?」と叫びながら観客に尋ねていた。

 

これはSaucy Dogがライブの最後に言うことが多い定番の挨拶だ。それを真似したのだろう。

 

フジファブリックはSaucy Dogよりも先輩だしベテランの域に入りつつあるロックバンドだ。しかし後輩だとしてとカッコいいバンドはリスペクトしているのだと思う。

 

『フジフレンドパーク』は、特殊で特別な対バンライブだと思う。プロモーターが企画したものとは、少しだけ雰囲気が違う。

 

ホスト側のフジファブリックからは対バン相手へのリスペクトや愛を感じるし、逆に呼ばれた側からとフジファブリックへの熱い想いを感じる。

 

突拍子もない組み合わせに感じたりファン層が違う同士の対バンになることも多いが、実際にライブを観れば組み合わせの必然性がわかる。この日も必然的な対バンだったし、両者ともに素晴らしいライブだった。

 

優しさに溢れた世界だったこの日のライブは、何年経っても思い出してしまうな。

 

■セットリスト

1.LIFE
2.Sugar!!
3.夜明けのBEAT
4.カンヌの休日
5.楽園
6.ブルー
7.SUPER!!
8.FEVERMAN
9.電光石火
10.破顔

 

EN1.若者のすべて with 石原慎也
EN2.徒然モノクローム

 

↓去年のフジフレンドパークのレポはこちら↓