2021-10-29 【ライブレポ・セットリスト】フジファブリック『山内総一郎生誕祭October Ensemble~』は愛が8割でカオスが2割のライブだった フジファブリック ライブのレポート フジファブリックが「山内総一郎生誕祭~October Ensemble~」というタイトルのライブを行った。 タイトル通り開催当日の10月25日に、40歳の誕生日を迎える山内総一郎を祝うためのライブである。 始まった瞬間に、普段とは違う特別なライブだと察した。普段はメンバー全員が同時に出てくるはずなのに、山内が1人でステージに出てきたからだ。 登場するとアコースティックギターを持って、ゆっくりと今回のライブのコンセプトについて語り始めた。 October Ensembleというタイトルを付けましたが、これは自分はアンサンブルをして多くの人と出会って今があるから、ここに立てていると思っているからです。 今日は今までの40年間を、可能な限り音楽で表現しようと思っています。 そして『Walk On The Way』を弾き語りで演奏した。 普段と違う雰囲気で緊張感のある客席の空気を「手拍子してもいいよ?」と言って解す。ファンは山内の誕生日を祝う気持ちを込めるかのように、温かな手拍子を鳴らす。 そして今のフジファブリックにとって特に大切な楽曲である『手紙』を繊細なギターの音色と魂を感じる歌声で届ける。 弾き語りで続けて聴くことで、メロディの美しさと歌声の力強さがダイレクトに伝わってくる。 僕はフジファブリックが人生において1番大きくて、志村くんとの出会いが全てと言っても良いぐらいに大きな存在です。 志村くんは天才だと思っています。自分が鼻歌でうたった曲を持っていって、そこに彼の歌声と歌詞が乗った時にめちゃくちゃ感動したことを覚えています。頑固でワガママだと思う時もあったけれど、友人としてもバンドマンとしてもずっと尊敬しています。 これからもずっと志村くんは側に居ると思っています。 フジファブリックと志村正彦への想いを語ってから「志村くんと初めて一緒に作った曲です」と言って『水飴と綿飴』を披露。 滅多に演奏されないレア曲だ。自分がライブで聴いたのは『京都音楽博覧会2011』以来なので、10年振りである。 3曲連続で弾き語りを披露したが、ここでゲストを呼び込む。山内の高校時代の同級生であり、チェリストの内田麒麟だ。 『Green Bird』などのレコーディングに参加していたりと、フジファブリックとしても関わりが深いミュージシャンでもある。 高校時代の思い出話をして「感慨深いよねえ」と言って「えへへへへ」とオードリーの漫才のように笑い合う2人。仲良しである。 そして「デモの段階から2人で作っていた曲」と言って『Water Lily Flower』を2人で演奏した。チェロの音が加わることで、楽曲の幻想的な雰囲気が際立つ。 〈明けて七色のアーチを描いている〉という歌詞の部分では、照明が七色になり2人を照らす。演出によって楽曲の魅力が、さらに引き出される。 演奏を終えてステージを去る内田麒麟に盛大な拍手が贈られると、「同級生に続いては、家族に登場してもらいます」と話す山内総一郎。 まさか平岩紙が来るのかとビビるが、出てきたのは加藤慎一。「メンバーは家族みたいなものだから」と語る山内。つまり加藤慎一と平岩紙も実質家族である。 初めて出会った日の話をする2人。初対面はライブを宣伝するための撮影だったらしい。 加藤「初めて会った時に学生服着てガラの悪い学生役をやっていたから、印象悪かったかなあと思っていて....」 山内「ソンナコトナイヨ!水をくれたりして、優しかったよ///// 覚えてない?」 加藤「覚えてないけど、良い事してたんだなあ。良かった/////」 「えへへへへ」とオードリーの漫才のように照れながら笑い合う2人。仲良しである。 そして加藤が作詞作曲した『たりないすくない』を、仲の良さを感じるグルーヴを醸し出しながら披露。2人の編成だからこそ、加藤のベースの凄みがハッキリ伝わってくる。 音はズッシリと重く演奏を支える大黒柱の様なベースを弾くが、ベースラインはギタリストのようにメロディアスである。そんな彼のベーシストとしての個性を改めて実感した。 そんな演奏に感動していると、曲の途中で演奏が止まる。すると落語の演目として有名な『寿限無』を、加藤が軽妙な話術で突然話し始めた。カオスである。 導入からオチまでしっかりと噺をする加藤。動揺する客席。たまに噛んで照れる加藤。それにも動揺する客席。これでは金ちゃんのコブは引っ込んでも、ファンの動揺は引っ込まない。 寿限無は「寿に限りが無い」という意味があるのてま、山内に「幸せに限りがない人生を過ごして欲しい」という想いを込めて、噺を披露したそうだ。 いやしかしなぜに、曲中なのに踏み切って披露したかは謎である。ファンの動揺は引っ込まない。 加藤がステージを去ると、次に登場したのは金澤ダイスケ。 空港の環境音をBGMに、飛行機の機長のコスプレをして登場した。2020年に行われた『金澤ダイスケ生誕祭』というカオスでヤバいユーモアに溢れたライブで着ていた衣装と同じだ。 ↑この衣装 自らを「キャプテン」と名乗り、会場を「第4ターミナル」と言い張り、1年半雲の上に居たと謎な話をする。ちなみに羽田空港に第4ターミナルは存在しない。このターミナルからどこに飛ぶつもりだろうか。 そして「勢いと繊細さを兼ね備えた曲」と紹介し『スワン』を2人だけで披露。 たしかに勢いを感じる力強さがあるのに、1つひとつの音は繊細で美しい。彼はコスプレイヤーではなく、スベりまくる芸人でもない。一流のキーボーディストだ。それを改めて思い出す。 続いては2020年からサポートドラムとして参加している伊藤大地。フジファブリックとは2年に満たないほどの関わりだが、山内とは20年近く前からの付き合いだという。 彼らが20代前半のころに、下北沢440というライブハウスで、おおはた雄一主催でミュージシャンが集まりセッションをする会が行われていたという。他にも永積崇など多くのミュージシャンが参加していたらしい。 山内「他のミュージシャンの演奏を椅子に座って聴いてたら、大地くんが横に来て、楽しいねって言ってくれた。覚えてる?」 伊藤「全然覚えてないwww」 山内「その雰囲気がすごく好きで///// それから大地くんのことを凄くチェックしてた/////」 伊藤「ビル・フリゼールのライブで偶然会ったりもしたよね」 山内「そうそう。!趣味も合うんだよね/////」 「えへへへへ」とオードリーの漫才のように笑い合う2人。仲良しである。 そして2人のジャムセッションから『東京』を披露。 原曲はダンサンブルなアレンジだが、2人の演奏はオルタナティブロック。The White Stripesのようなアレンジになっている。 山内と伊藤はジャック・ホワイトとメグ・ホワイトと同じぐらいに、仲の良さが伝わるようなグルーヴである。 一人ひとりがどんな音を出していて、バンドがどう成り立っているのかって、こういう形だとわかりやすいでしょ? ここまで1人ずつセッションを行った意図を説明する山内。自身の人生において最も大きな存在であるフジファブリックの魅力を、あえてバンドを解体して聴かせることで深く知ってもらいたかったのだろう。 もちろんそれは、志村正彦も含めてだ。『水飴と綿飴』では、志村とセッションをしていたのだと思う。あの瞬間は、志村の音が聴こえた気がした。 そういえば志村はフジファブリックを「ユニコーンのようなバンドにしたい」とかつて語っていた。 ユニコーンはメンバーそれぞれが個性的で、全員を主役に感じるバンドだ。いつしかフジファブリックもそのようなバンドになっていた。彼の意志をバンドは引き継いで続いている。 ここからはみんなの力が合わさった音楽を届けようと思います。 改めまして、こんばんは。フジファブリックです。 メンバー全員が出てきて、改めて挨拶する山内。声や表情は自信に満ちている。バンドのことを、メンバーのことを、心の底から最高だと思っているのだろう。 ここからフジファブリックとしてのライブが始まる。バンドとしての1曲目は『徒然モノクローム』。現体制になってから、初めてリリースしたシングル曲だ。 そんな曲だからこそ〈行き詰まった所がほら それが始まりです〉という歌詞が胸に刺さる。今日は山内がバンドへの愛を目いっぱいに伝えた後に聴いたから、特に胸に響く。 そして『SUPER』へとなだれ込む。イントロで「東京!」と叫んだり、後半は山内と加藤が前まで出てきて煽ったりと盛り上げていく。 やはりバンドになると、ロックバンドとしての力強さと勢いを感じる。それによって自然と身体も心も盛り上がってくる。 〈君を忘れはしないよ〉というフレーズを歌いながら、上を見上げて天を指さす山内。 毎回この曲を演奏する時は行っている動きではある。でも今日はいつも以上に、この歌詞とこの動きに意味を感じてしまう。久々に志村について語られたライブだから、彼に向けていると思ってしまう。 フジファブリックは演奏が上手いし良い曲が揃っている。でもそれ以上に楽曲や演奏から「想い」を感じるから、自分はずっと魅了され続けているのだ。 「バンドは良いなあ」と2曲の演奏を終えて、しみじみと語る山内。想いがファンにしっかり伝わっている手応えがあるからこそ、そう思ったのかもしれない。 フジファブリックは過去の曲だけでなく、今の曲も現在進行形でカッコいい。今でも新しい挑戦を繰り返して進化を続けている。 続いて披露された新曲『音の庭』は幻想的でありつつ壮大で、今までのフジファブリックにはなかったタイプの楽曲だ。これも進化を繰り返しているが故に生まれた曲だろう。 この曲からは内田麒麟が率いる4人組のストリグス隊も演奏に参加した。楽曲の魅力を引き出す、最高の味付けを加える。 そして『Green Bird』では音源の再現に感じるような、壮大な音を響かせる内田麒麟ストリングス。そこにバンドの演奏が加わり、音源を超える力強い楽曲になる。 この日のこの曲を聴けたことでチケット代の元は取ったと思えるほどの、素晴らしい演奏だった。鳥肌が止まらなかった。 きっと会場の多くの人が同じように思ったのだろう。この曲が終わってからの拍手は、とても長くて大きかった。声を出せない分、ファンは拍手で精一杯の想いを伝えていた。 このライブが決まった時に、どんな内容にしようかと考えたんですが、結局僕はフジファブリックやこれまで出会った人達の素晴らしさを伝えたいのだと思いました。そんなみんなとこれからも一緒に音楽を奏でていきたいです。 最後にやろうと決めていた曲を、精一杯想いを込めて歌おうと思います。 最後に演奏されたのは『ECHO』。 近年は特別なタイミングで演奏されることが多く、現体制になってからの初期は、特別な想いを乗せて演奏することが多かった楽曲。 この日の『ECHO』も素晴らしかった。いつもよりも長いギターソロに心が震えた。「志村正彦という存在の素晴らしさ」をメッセージとして音楽に乗せて伝えているように感じた。 ファブリックのボーカルとして自分が歌う、という意志をはっきりとメンバーとスタッフに伝えたのは、”ECHO”が出来たときに「この曲は自分にしか歌えない」と強く思ったのがきっかけだそう。 ※LINER NOTES | FUJIFABRIC STAR SPECIAL SITE リリース当初に掲載されたスタッフによるライナーノーツには、このように書かれていた。 『ECHO』があったからこそ、フジファブリックは今も続いているのかもしれない。だからこそ山内は自身の節目であるライブで、この曲を歌ったのだろう。 本編を終えてのアンコール。「予定よりも長くやりすぎたみたい」と言って、「えへへへへ」と1人で笑う山内。たしかに想いが溢れすぎていたのか、MCはいつにも増して長かった。 そして12月に今年最後のライブを開催することを発表し、ファンから盛大な拍手が贈られる。仕事の予定的に行けないことが確定している自分は絶望する。 「帰りたくないな。ずっとステージに居たいなあ」とボソッとつぶやいてから、言葉を選びながら、改めてバンドへの想いを語った。 僕にとっては、フジファブリックが人生の希望なんです。 この希望がみんなに寄り添って力になれるように、たくさん曲を作って、ライブをやって、これからもみんなのところに会いに行きます。 だからフジファブリックに着いて着いてきてね///// 最後に少し照れてしまう山内総一郎。それを見て「えへへへ」と笑う一部のファン。 バンド内でつくられる空気だけでなく、ファンと作られる空気も含めて「フジファブリック」なのだと感じる。 ラストに演奏されたのは『STAR』。疾走感ある演奏と希望に満ちた音色が会場に響く。それに腕を挙げたり手拍子したりと応えるファン。 この曲が、ライブで観るこの景色が、ファンにとっても希望になっている。 元気で笑顔で、また会いましょう!40代頑張る///// 最後に照れながら「頑張る」と宣言する山内。子どものように無邪気である。 ロックバンドが『生誕祭』とタイトルを付けたライブを行うことは珍しい。「アイドルのようだ」とバカにする人もいるかもしれない。 しかしフジファブリックのメンバーもスタッフもファンも、歳を重ねることが当然のことではないと理解ている。年齢が増えていくことは特別だと感じている。 だからこそ節目の年齢で、本人がやりたいことをトコトンやる記念ライブを始めたのだろう。 演奏後に話していた「元気に笑顔で会いましょう」という言葉。これも当然のことではない。それもきっと理解しているからこそ、あえてファンに伝えたのだろう。 でも当然ではないからこそ、元気に笑顔でフジファブリックに、また会いたいと思う。そう思わせるような希望を、彼らはファンに音楽で与えてくれる。 ■フジファブリック 山内総一郎生誕祭 ~October Ensemble 2021年10月25日(月) Zepp Haneda 01.Walk On The Way 02.手紙03.水飴と綿飴04.Water Lily Flower05.たりないすくない06.スワン07.東京08.徒然モノクローム09.SUPER!!10.音の庭11.Green Bird12.ECHO EN1.STAR ↓フジファブリックの他の記事はこちら↓