オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

ライブのセットリストやMCを記憶する方法について

ライブを不正に録音しているのではと疑われた。

 

「MCまでも詳細にライブレポを書けるのは録音しているとしか思えない」といった趣旨のメールが、ブログの問い合わせフォームを経由して送られて来たのだ。

 

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自分は趣味で参加した音楽ライブのレポートを日記感覚でブログに書いているが、たしかに内容は詳細だ。MCの内容も覚えていることは全て書いている。セットリストも記載しているし、詳細故に6000~10000字の長文になることが多い。

 

しかし録音などしていない。公演中にメモも取っていない。他の多くの観客と同じように、ステージを集中して観ている。

 

「録音していない証拠を出せ」と言われたら困ってしまうが、X(旧Twitter)には自分と一緒にライブへ行ったことがある人や横で観たことがある人が何人かいるので、その人たちの証言を証拠と捉えて欲しい。

 

『基礎結合法』という記憶術のテクニックがある。覚えたい情報を自分が元々覚えている物事と結合することで記憶する方法だ。記憶術の中ではメジャーで初心者向けの基礎となる手法らしく、自分は学生時代に教師から教わった。

 

詳しい方法はネットで検索して出てくるサイトや記憶術の本に書いてあるはずなので、調べてみてほしい。教わった学生は使いこなしていた人も少なくはないので、訓練と慣れによって多くの人がマスターできる記憶術だと思う。

 

ライブの内容を覚える時は、自分がやりやすい方法に『基礎結合法』を少しだけアレンジしたオリジナルの方法にしている。

 

どのような方法で覚えているかを説明しよう。まずは下記をみて欲しい。

 

1→右手親指

2→右手人差し指

3→右手中指

4→右手薬指

5→右手小指

6→左手親指

7→左手人差し指

8→左手中指

9→左手薬指

10→左手小指

 

まずはこのように番号を手の指に結合させる。それを覚えた上でライブ中は指に対してセットリストを結合する。

 

例えば2曲目を覚える時は「右手人差し指は〇〇という曲」、7曲目を覚える時は「左手人差し指は◾️◾️という曲」といった感じで。もしも曲名を忘れた場合は、歌詞の中で印象的なワードを曲名代わりに結合させる。

 

つまり無機質で形が無い番号ではなく、身近で形を持っている指を番号の代わりに使うのだ。これによって情報をイメージとして記憶できるので覚えやすい。

 

さらに自分はこの際に、指を実際に動かしている。例えば1曲目ならば右手親指をクイっと立たせてみて、4曲目ならば右手薬指を立たせてみたり。少し恥ずかしいので手を下に下ろしている時にやる。行動をセットにすることで、身体にも情報を覚えさせるようなイメージだ。

 

だが3曲目と8曲目で中指を立たせなければならない欠点がある。もし他人に見られたら色々と勘違いされそうで、怖い。

 

ちなみにMCも指に結合できる。先日自分が参加したフジファブリックの東京キネマクラブ公演のセットリストとMCを指に代入すると下記のようになる。

 

 

右手親指→ショウ・タイム
右手人差し指→プラネタリア
右手中指→Particle Dreams

右手薬指→アルバム発売日に行うライブは久々と勘違いしたMC

右手小指→新曲の『ショウ・タイム』と『KARAKURI』について語るMC

左手親指→KARAKURI

左手人差し指→KARAKURIを自画自賛する山内とラップをしたことに触れる加藤のMC

左手中指→月見草

左手薬指→くちトロンボーンという謎ワード登場のMC

左手小指→音楽

 

MCは要点だけを一言にまとめて指に結合すると便利だ。しかしフジファブリックはMCが長いので、MC一回分の情報量をひとつの指では覚えきれない。その場合は複数の指に分割し結合することで記憶している。

 

ここで問題がある。両手の指だけでは10曲分(MCを含めるともっと少ない曲数)しか覚えられないことだ。足の指を使うこともできるが、自分の場合は指ばかりだと混乱して順番を間違えてしまう。

 

そのため両手の指を使い終えてしまった後の11曲目からは、干支の十二支を代わりに使っている。これでさらに12曲分記憶できる。フジファブリックの東京キネマ倶楽部公演の後半は下記のように暗記する。

 

→『音楽』の歌詞に民生とサザンの名前を使うことを本人から許可を貰ったというMC

うし→音の庭

とら→『音の庭』の間奏はトム・ヨークと呼んでたというMC

う→瞳のランデヴー

たつ→ミラクルレボリューション No.9

み→フジファブリックにとって音楽とライブは青春というMC

うま→Portrait

 

だが十二支を結合する時は、指を結合させる時とは少しだけ記憶方法が違う。自分の脳内で十二支の動物をアニメキャラにして、その動物がライブに参加した様子を想像するのだ。

 

例えばねずみがMCで笑っている様子を想像したり、うさぎが『瞳のランデヴー』で騒いでいる様子を想像したり。こうして番号が代入された動物を曲やMCと結合させイメージとして脳内で映像化することで、曲順を記憶させやすくするのだ。

 

たまに干支でも足りなくなることがある。

 

その場合、自分は再び身体を結合させる。身体の上から順に「頭」「目」「耳」「鼻」「口」「首」「腕」「乳首」「へそ」と。ちなみに“乳首は30番目”ということをあらかじめ記憶しておくことで、全体の順序を忘れづらくもしている。乳首はとても重要なのだ。

 

指のようにライブ中に動かすことはできないので、脳だけを使い結合することになるが、多くのライブの場合は十二支までで事足りるし、後半の数曲だけ使うなら脳だけを使い記憶したとしても忘れにくい。

 

だが最も重要なことは記憶よりも記録だ。インプットした情報は早めにアウトプットしなければならない。記憶術を使ったとしても1回限りのインプットでは記憶が定着しないので、そのほとんどは数時間で忘れてしまう短期記憶のままなのだ。

 

そのため忘れないうちに、iPhoneのメモ帳に記憶したことを時系列で箇条書きにする。

 

箇条書きをしていると、不思議と記憶したこと以外も思い出してくる。例えば「あの曲の照明は青くてレーザーが使われていた」「この曲ではボーカルがハンドマイクになって煽っていた」「その曲では観客がAメロで手拍子していて、近くに笑顔で踊っている男の子がいた」などなどと。自分の使う記憶術では、セットリストと大まかなMCしか記憶していないのにだ。

 

MCの内容だってそう。記憶した大まかな内容を箇条書きにして「こことここの話しの間に何を言っていたかな?」と少し考えると「あ!こんな話もしていたな」「この時のメンバーはあんな表情だったな」と、細かな情報やシーンを思い出してくる。

 

きっと記憶が新鮮なうちならば、ひとつの記憶の断片をきっかけとして数珠繋ぎのように様々なことを思い出すのだろう。だからアウトプットすることが大切なのだ。

 

自分は完璧な記憶力を持っているわけではない。全ては記憶できないし忘れてしまう時もある。そんな時はSNSで他のライブ参加者の感想を読んだりする。

 

自分が忘れていたことを書いている人もいて「そういえばそうだった!」と思い出すこともある。それを参考にしてライブレポを書いたりもする。こうやって参加者のたくさんの声が集まることで、記録はより深く綿密になっていき、大切な情報へと昇華する。

 

勝手に参考にしたSNSの人たち、ごめんなさい。そして色々と思い出させてくれて、ありがとう。

 

このように自分が覚えた情報をアウトプットしたメモと、SNSの別のファンの声を参考にし、それをまとめて自分はライブレポを書いているのだ。

 

ただ記憶術に慣れていない人が、いきなり記憶術を使いライブレポを書こうとすると、陥ってしまう危険もある。

 

慣れていない人がライブ中に「記憶しよう」と意気込んでしまって、純粋にライブを楽しめなくなる可能性があるのだ。自分は試験勉強などで記憶術を使っていたこともあり慣れているし、自分に合った記憶術を見つけることができたので、ライブ中は必死にならずとも記憶できる。

 

一瞬だけ右手中指を立てれば3曲目が何かは記憶できるし、一瞬だけ牛を脳内でダンスさせれば12曲目を覚えられる。その時間は1秒もないので、ライブを純粋に楽しむことへの邪魔になることもない。他の観客と同じように自由に楽しめている。

 

でも記憶術に慣れていない人が、いきなりライブのセットリストやMCを記憶術を使い覚えようとすると、覚えることに必死になってしまうはずだ。それではライブへ行く目的が“ライブ内容を情報として記憶すること”になってまう。それでは本末転倒だ。本来のライブレポは楽しかった思い出を記録として残すことが目的なのだから。まずはライブ以外の他の物事を覚える訓練をしてから挑むべきだ。

 

それにライブの内容を記憶していることが、凄いことというわけではないし、偉いわけでも正しいわけでもない。

 

音楽の楽しみ方は自由だ。ライブハウスの前方で踊り狂うのも、じっくりと座って音に聴き入るのも、楽しかった思い出を記録として残すことも、全て自由だ。

 

「ライブが始まったら熱中しすぎて記憶を無くしちゃう...」という人もいる。そんな人がSNSに「楽しかったのに忘れちゃうのが勿体無い...」と投稿し落ち込んでいる様子を見たことがある。

 

でも自分は我を忘れて熱中して「全部忘れたけど楽しかった!」という楽しみ方も最高だと思う。落ち込むことではない。

 

それほど音楽に熱中できるなんて幸せじゃないか。むしろ音楽との素晴らしい向き合い方ができている自身のことを誇るべきだ。

 

そんな人はどうしても覚えたいという理由がない限りは、ライブの内容を覚えるために記憶術を学ぶ必要はないし「忘れて上等!」ぐらいの気持ちで熱中し続けて欲しい。あなたがあの日の思い出に浸りたくなった時のために、自分のような人がライブレポを書いて、インターネット上のどこかに残しておくから。

 

書いて残したい人や書いて残せる人に、記憶も記録も任せればいい。だから目の前の瞬間を楽しんでくれ。