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【ライブレポ・セットリスト】クリープハイプ「クリープハイプの日 2021(仮)」2021年9月8日 東京ガーデンシアター

9月8日。東京ガーデンシアターでクリープハイプが、ワンマンライブ『クリープハイプの日 2021(仮)』を開催した。尾崎世界観はライブの最後にこのように語っていた。

 

もしかしたらこれからも延期になったり中止になったり、何度も裏切るかもしれないけれど、これからも何度だって約束しましょう

 

ライブの開催可否について「裏切る」「約束」という言葉を使いアーティストが説明することに、とてつもない重みを感じた。

 

今は当然のようにアーティストはライブを開催し、ファンが気軽に会場へ向かう時代ではなくなってしまった。それを改めて実感した。

 

バンドの想いをファンは理解しているようだった。開演前から客席は静かで、会話をしている人など皆無。ライブ中も歓声はおろか、MC中に笑い声すら聴こえない。各々が感染リスクを減らす行動を心がけていた。

 

クリープハイプは器用なバンドではない。だからそんな重くて緊張感ある空気を、音楽によって変えようとはしない。だから重い空気がずっと流れるライブだった。でもだからこそリアルで生々しく感じたを

 

SEを流さずにメンバーは登場。挨拶もせず静かに演奏の準備をしている。そして緊張で張り詰めた空気の中でライブは始まった。

 

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1曲目は『キケンナアソビ』メンバーの顔も見えないほど薄暗い照明のステージ。そこに置かれた炎がメンバーを照らす演出がなされていた。

 

その中で集中した様子で演奏するバンド。続く『月の逆襲』でも丁寧に確かめるように演奏していた。それをファンはしっかりと集中し聴き入っている。

 

3月に行われたワンマンライブでは『栞』『鬼』とライブ定番曲で盛り上がる鉄板曲から始まっている。それと比べると明らかに空気が違う。会場全体が重い空気で包まれている。

 

 

普段のライブとは違うこの緊張感も、感情を隠さずに歌と演奏で表現するクリープハイプならば、必然のものかもしれない。

 

今のご時世で行われるライブは「非日常」ではない。日常と向き合った上で行われている。それを感じる空間になっている。

 

目の前にいることが全てだと信じて、今日はライブをやります。

 

短いMCを挟んでから「だから......」と尾崎が一言つぶやいて、それを合図に〈ずっとそばにいて〉と歌い始めて『一生のお願い』が披露される。

 

この重い空気を客席と慎重に確かめ合って、少しずつ空気をほぐすように、優しくて暖かなメロディと演奏が会場に響く。

 

今回はライブ定番曲やシングル曲が少ないセットリストだった。その代わりインディーズ時代の楽曲やカップリング曲が多かった。

 

ライブの本数が少なくなったこともあり、メンバーが今一番やりたい曲を中心にセットリストを組んだのだろうか。

 

『君の部屋』はバンドのグルーヴをより感じる疾走感あるアレンジだった。この曲はメジャーデビュー後に再録されたバージョンとインディーズ時代とでは歌詞が変更されている。

 

今回は〈誰にも言えない秘密のインターフォンを ヘラヘラしながらピンポンダッシュしました〉とインディーズ時代の歌詞で披露された。過去と今も繋がっていることを実感する。

 

少しずつ「今までと同じ空気」が作られていく。クリープハイプは強引に空気を作るのではなく、確かめ合いながらそんな空気を作っていく。

 

『リグレット』『週刊誌』とアップテンポのロックナンバーが続くと、客席も腕を挙げて盛り上がる。この日初めて客席から分かりやすい反応が来た瞬間かもしれない。ファンも一緒に「今までと同じ空気」を作ろうとしている。

 

レア曲『喋る』でファンを驚かせ、新曲の『四季』でファンを喜ばせてから、緊急事態宣言下でライブを行うことへの想いを言葉を選びながら語った。

 

やれてよかったと思うけれど、やっていいのかなとも思っていて、ずっと迷っています。正解っぽいことを発信するミュージシャンもいるけれど、個人的には正解がよくわからないから、それはあまり好きじゃないです。

 

わからないことだから、正直に「わからないです」と言えるフロントマンでありたいです。嘘をつくぐらいならカッコ悪くてもいいと思っています。

 

そして「こんな気分の時にちょうどいい曲をやります」と言ってから『僕は君の答えになりたいな』を演奏した。タイトルも歌詞も今の状況へのバンドからの答えを表明しているようにも感じる。

 

『陽』『大丈夫』と捻くれつつも前向きなメッセージが含まれた曲が続く。重くて緊張した空気はまだ残っているが、そんな会場だからこそ歌のメッセージに温かみを感じる。

 

この前8年間住んだ家を引っ越しました。空っぽになった部屋を見て泣きそうになりました。

 

でも新しい家はいいなとすぐに気落ちが切り替わっていると気づいて、それに元の部屋はどう思っているのかなと思ってしまって。ネットで「中学の時にクリープハイプよく聴いてた!」とか離れてしまったファンの人の書き込みをみるけれど、それに自分が思う気持ちと同じだと思いました。自分も同じことをしているなあと。

 

そういう向き合い方をされることもあるし、自分も同じことをしているんだなと、引っ越しをして気づきました。

 

でも今でも同じ曲をやっているし、それは消えないし、「コロナ禍にライブへ行ったな」といつか思うかもしれないけれど、そんな今日の記憶も消えないと思います。そんな都合のいい気持ちを懐かしい曲で伝えたいと思います。

 

このMCもクリープハイプとしての、捻くれつつも前向きな想いを込めたメッセージかもしれない。ほんの少しだけコロナ禍の先の希望を感じさせてくれる話だった。

 

そして初の全国流通盤のリード曲『ねがいり』を披露。活動初期の楽曲をアリーナ規模でも変わらずに演奏している。これもクリープハイプとしての、捻くれつつも前向きな想いを込めた選曲に思う。

 

今回のライブは落ち着いた楽曲が多いセットだった。しかしクリープハイプはロックバンド。熱い演奏で興奮させることも忘れてはいない。

 

『百八円の恋』『社会の窓と同じ構成』と尖っていて衝動的な楽曲を連発する。再び客席全体が腕を挙げて盛り上がる。声を出せない代わりに身体で応える。バンドとファンが協力して、コロナ禍でもロックのライブは成立すると証明している。

 

 

 

そしてシングル曲の『寝癖』と新曲であり原点回帰と言える歌詞の『しょうもな』で、さらにロックバンドとして力強い演奏を続ける。

 

緊張感あるフロアに今のロックバンドのリアルを生々しく音で伝える。熱気を最高潮にしてから、ゆっくりと尾崎が喋り始めた。

 

3年3ヶ月ぶりにアルバムを出します。毎年のように出していた時期もあるし、求めてもいないのに勝手に出されたこともあったので、これぐらいの期間がちょうどいいと思います。

 

かつてレーベルの都合で出されたベスト盤のことを自虐して話す尾崎世界観。

 

笑わせようとしたのだろうが、静かにしている客席。その様子を確認してから「笑いたいんだけど笑えないんだよな。クリープハイプのお客さんは真面目だね」と呟く。

 

感染リスクを減らすために何があっても声を出さないことと、メンバーが傷ついた出来事を笑わないことについて、尾崎は言及したのだと思う。バンドとファンの間で強固な信頼関係が出来上がっているのだ。

 

MC後に初披露された新曲『ナイトオンザプラネット』は新境地と言える楽曲だった。

 

シンセサイザーの音色が要の編曲で、ゆったりとしたポエトリーリーディングを取り入れていることも新鮮だ。ステージ上ではミラーボールが輝いていたが、それがよく似合う妖艶さを持った楽曲である。次のアルバムは音楽性の幅を大きく広げる作品になる予感がする。

 

ライブは終盤に差し掛かったが、普段のライブとは違う展開を繰り広げていく。ラストに向けて盛り上げるというよりも、多幸感に満ちた優しい空気を作ろうとしていたのだ。

 

『さっきはごめんね、ありがとう』では間奏でベースのカオナシが客席に手拍子を煽った。会場に手拍子の音が大きく響く。声を出せなくても一体感は生まれる。その空気が心地よくて感動的だった。

 

続く『蜂蜜と風呂場』もそうだ。音源とは違う長いイントロでファンの手拍子を煽ってから曲が始まった。感染症対策をした上でのライブの楽しみ方を提示している。

 

多幸感に満ちた空気を作り出した後、そこに切なくて感動的な空気を加える楽曲を披露した。『ex ダーリン』だ。

 

今では手に入らないメジャーデビューアルバムの初回盤のみに収録されたボーナストラックである。尾崎世界観の弾き語りでは披露されることが多いが、バンドで披露されることは滅多にない。

 

逆光のスポットライトに照らされながら、尾崎がアコースティックギターで弾き語る。音数が少ないこともあり、歌詞がダイレクトに胸に響く。そして2番からバンドの演奏が重なる。音源では終始弾き語りの曲だが、ライブでバンドの曲へと昇華された。

 

これで終わっても問題ないほどに、深い余韻がステージにもフロアにも残っている。

 

しかしクリープハイプは最後にロックバンドとしてカマして爪痕を残した。重い空気に終始包まれていたライブではあったが、彼らが常にロックを鳴らしていることは変わっていなかった。

 

最後に演奏されたのは『イノチミジカシコイセヨオトメ』。バンドの衝動的な演奏が印象的なライブ定番曲。〈生まれ変わってもクリープハイプになりたい〉と歌詞を一部変えて歌っていた。

 

クリープハイプはこの状況で活動することを、悩み葛藤しながらも後悔はしていないように思う。

 

この曲は3月のワンマンライブでも披露されたが、その時は歌詞を変えずに歌っていた。この半年でコロナ禍で活動することへの強い覚悟を持ったのかもしれない。だからこのように歌ったのかもしれない。

 

今まで以上にステージで喋ることが重いな。でも自分たちは恵まれている方だと実感してます。

 

この曲を演奏する前のMCで、このように話していた。

 

音楽業界は厳しい状況にある。仕事を失った関係者や、解散や活動休止を決めたバンドやアーティストも少なくはない。それも知った上での発言なのだろう。恵まれていると実感しているからこそ、その状況に葛藤している部分があるのかもしれない。

 

そして自分たちが活動することで、救われる業界人がいることも理解しているのだと思う。

 

ライブが終わった後も『イノチミジカシコイセヨオトメ』の〈明日には変われるやろか 明日には笑えるやろか〉というサビの歌詞が、頭の中で響き続けた。明日がどうなっているかわからない世の中だからこそ、聴いていて様々なことを考えてしまった。

 

まだまだ厳しい時代は続く。悲しくて悔しい出来事もたくさんあるだろう。

 

でも少なくとも、ライブを観てからしばらくは希望を持って生きていける。クリープハイプは現実の延長としてライブをやってくれたからこそ、明日には笑えると信じることができた。そんな力をもらうことができた。

 

ライブを普通にできる日常が戻ることを祈りたい。叫んだり歌ったりできるライブを観れますようにと願いたい。

 

今度クリープハイプと会った時には、そんなライブを観れるだろうか。その時は、できれば、今度会ったら、セッ●スしたい。

 

■クリープハイプ「クリープハイプの日 2021(仮)」2021年9月8日 東京ガーデンシアター セットリスト

1.キケンナアソビ
2.月の逆襲
3.一生のお願い
4.君の部屋
5.バブル、弾ける
6.リグレット
7.週刊誌
8.喋る
9.四季
10.僕は君の答えになりたいな
11.ベランダの外
12.陽
13.大丈夫
14.ねがいり
15.百八円の恋
16.社会の窓と同じ構成
17.寝癖
18.しょうもな
19.ナイトオンザプラネット ※新曲
20.さっきはごめんね、ありがとう
21.蜂蜜と風呂場
22.ex ダーリン
23.イノチミジカシコイセヨオトメ

 

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