2023-05-01 【ライブレポ・セットリスト】ゲスの極み乙女『歌舞伎乙女』 at 中野サンプラザ 2023年4月21日(金) ゲスの極み乙女。 川谷絵音 ライブのレポート 『歌舞伎乙女』というツアータイトルが付いている通り、今回のゲスの極み乙女のライブは『歌舞伎』をコンセプトにした特別な内容だった。 開演前のステージは緞帳で隠れていたものの、ステージ下手側には落語で使われることが多い『めくり台』が置かれており、そこにはツアータイトルが書かれていた。どことなく和の雰囲気を感じるステージだ。 開演時間を過ぎて幕が上がると、歌舞伎の世界観と和の雰囲気はより強くなる。バンド名やツアータイトル、メンバーの名前が書かれた提灯が設置され、歌舞伎ではお馴染みの赤と橙と黒の幕が張られていたからだ。 そんなステージにゆっくりと登場するメンバーたち。それぞれが顔に歌舞伎を連想させる隈取りのお面を被っていた。演出にもこだわり世界観を構築しているようだ。 しかし「キラーボールで踊りませんか?」という川谷絵音の煽りから『キラーボール』が始まると、良い意味でコンセプトに囚われない熱いライブが始まる。 今回のツアーはゲスの極み乙女にとって、コロナ禍以降で初めての声出しOKのツアーだ。東京では3年以上ぶりの声出しライブになる。それもあってか川谷は、ハンドマイクでステージを動きながらひたすらに煽る。観客はそれに応えるように、歌ったり叫んだりしている。 座席ありのホールライブだが、ライブハウスのような熱気だ。その勢いのまま『星降る夜に花束を』とライブ定番曲を続け、さらに盛り上げていく。 このまま定番曲で盛り上げていく展開かと思いきや、レア曲『列車クラシックさん』で驚かせる。約9年ぶりの披露だ。ちゃんMARIが美しい旋律のピアノを奏でるなか、彼女を囲むように他のメンバーが隈取りのお面を被って〈ガタンゴトン〉と歌う。コンセプトに合っているようでズレている。シュールでカオスだ。 そんなカオスな演出によって呆然とする観客だが『猟奇的なキスを私にして』が間髪入れずに始まると、カオスな出来事を忘れたかのように盛り上がる。そういえば『星降る夜に花束を』『列車クラシックさん』『猟奇的なキスを私にして』の流れは、アルバム『魅力がすごいよ』の曲順と同じだ。まさか一部分とはいえ9年前のアルバム再現と言える曲順で披露されふとは。長く応援していたファンには嬉しかっただろう。 そんな過去の名曲もライブでは進化した形で届けられな。アウトロは音源よりも長尺になっていたが、それはメンバーの演奏力を感じるセッション要素が強いアレンジになっている。 そこから曲間なしでメドレーのように『イメージセンリャク』へと続く流れには痺れた。ゲスの極み乙女の音楽は盛り上がるだけではない。続く『心歌舞く』はミドルテンポの心地よい演奏でしっかりと聴かせる。 ゲスの極み乙女の音楽は幅広い。ほないこかとちゃんMARIの「私の方が先にワタルを好きになったのに」「そんなの絶対嘘よ、私の方が先よ」という楽曲中盤の掛け合いを最初に披露してから始まった『ゲスな三角関係』では、ユーモアも交えて楽しませる。〈複雑な三角関係〉という歌詞を休日課長が指を三本立てながら歌った時、自分の周囲ではこの日一番の、悲鳴に近い歓声が湧き上がった。本当に悲鳴だったのかもしれない。 そして『crying march』が続くと、観客のボルテージは一気に最高潮に。ここ数年はライブの定番となっている疾走感あるロックナンバーだ。休日課長に悲鳴を上げていた観客も全力で盛り上がっている。 そんな盛り上がりの余韻が残る中、『蜜と遠吠え』で幻想的な空気を作りだす。この楽曲では川谷絵音とサポートコーラスのえつこと佐々木みおのハーモニーが印象的だ。最初の3人の美しいハーモニーによって、いっきに楽曲の世界観に引き込まれてしまう。続く『人生の針』でも美しいハーモニーで惹きつけ、繊細な演奏で感動させる。やはりゲスの極み乙女は音楽の幅が広い。 演奏を終えステージを去っていくメンバー。終演にはまだ早すぎる。すると『いけないダンスダンスダンス』の音源が流れた。ステージに誰もいない中、照明が妖艶にステージを照らす。それをじっと見つめる観客すると後半にサポートコーラスのえつこと佐々木みおだけが再登場し、二人がステージで向き合いながらユニゾンで歌う。普段はコーラスなので支える側の二人だが、こうして歌うと歌唱力の高さを実感する。 そして衣装チェンジしたメンバーが再登場。そのまま『いけないダンスダンスダンス』に合わせる形でジャムセッションを始める。その演奏の凄まじさに興奮してしまうが、よく見ると川谷だけがいない。 それを不思議に思っていると、演奏が『某東京』へと変化する。そして1階席後方の扉が開きそこにスポットライトが当てられ、川谷が登場した。そのまま通路を練り歩きながら客席を煽りながら歌う。まさかの演出に観客のボルテージは一気に最高潮に。 自分は通路側の座席だったので、川谷がすぐ毛穴や鼻の穴の中が見えるほどの近い距離で見ることができた。彼の肌はスベスベで毛穴はほとんどなかったし、鼻毛は生えていなかった。 そんな熱気に包まれた中、コアなファンでなければ知らないであろう楽曲『Ink』とBLURのオマージュ楽曲『song3』を畳み掛ける。今回のライブは「ここが盛り上がりのピークか?」と思うタイミングが何度も訪れた。それぐらいに今回のゲスの極み乙女は衝動的で全力なライブなのだ。 そんな衝動的なライブはまだまだ続く。休日課長の煽りから久々のコールアンドレスポンスを挟み『ドレスを脱げ』が始まった。 この楽曲は観客も一緒に歌う楽曲で、活動初期からライブを支えていた重要な楽曲だ。コロナ禍になってからは観客が声を出すことができなかったが、今日は思う存分叫ぶことができる。中野サンプラザに観客の「ドレスを脱げ!」という大きな叫び声が響いた。みんなマスクはしているものの、コロナ禍以前と変わらない空間になっている。 駆け抜けるように15曲連続で披露したが、ここでようやく最初のMCとなった。感慨深そうに「みんなの声が聞こえるし、ライブハウスみたいな熱気で楽しいです」と話す川谷。 川谷絵音「後ろから出てきて、中野行けるか!って煽ったけど、誰も反応してくれなかった」 休日課長「二階席からじゃ見えないし後ろから出てくると思わないからね」 川谷絵音「出てくる前にロビーで準備してたら、物販のスタッフが全員俺をガン見してた」 演奏はキレッキレなのに、MCはゆるっゆるだ。会場に穏やかな空気が流れる。 そんな空気の中で次に披露されたのは『発生中』。2022年に発表された最新曲だ。ハンドマイクでステージを動き回りながら歌う川谷。それに呼応するように観客も盛り上がる。初期の楽曲も多く披露されたライブだが、最新曲もしっかりライブを彩る重要な曲としてファンに受け入れられている。 そして「まだ踊れますか?」という川谷の煽りからちゃんMARIによる軽快なピアノが鳴らされ『シアワセ林檎』が続く。この楽曲はほないこかとのデュエット部分がある曲で、その時のいこかはドラマを演奏せずにハンドマイクで歌う。 その間の演奏はどうするのかと思いきや、indigo la Endのドラマー佐藤栄太郎が登場しドラムを代わりに演奏した。まさかのゲストに驚く観客。彼はこのためだけに来たようだ。 こうして同じ曲を違うドラマーによる演奏で聴くと、それぞれの演奏の個性がよりダイレクトに伝わって刺激的である。リズムパターンも違うし音の響き方も違うように聴こえる。佐藤は演奏を終えるとすぐにステージを後にした。 「栄太郎にはこの一分半のために来てもらいました。全公演に来てもらってるんだけど、大阪公演ななんて往復5時間かけて栄太郎の出番は1分半(笑)」と言って笑う川谷。わざわざ時間を作って駆けつける佐藤は、たぶん性格が良い。 川谷絵音「今回のツアーは久々にやる曲もありました。『ドレスを脱げ』てはコープアンドレスポンスができて、久々にみんなの声が聞けてお客さんのおかげでライブが出来上がっていると改めて思いました。次が最後の曲です」 女性客「嫌ですぅ~!」 川谷絵音「え?」 休日課長「地下鉄って聞こえた」 こうして観客と言葉を交わしてコミュニケーションを取れるのも久々だ。女性客は久々の声出しライブだからか、少し気の抜けたテンションの声援になってしまったのだろうか。 川谷絵音「中野サンプラザはindigo la Endでは何度も立ったけどゲスの極み乙女では立ったことがなくて、今日が最初で最後でした」 休日課長「山下達郎さんを観た場所なので憧れの場所でした。最後に立てて良かったです」 川谷絵音「俺は岡村ちゃん(岡村靖幸)を何度も観たから岡村ちゃんのイメージ。岡村ちゃんは小声で中野ベイビーって言って煽るんだよ。1の声量でお客さんは10の歓声を返す」 休日課長「『ドレスを脱げ』の時にさりげなく中野ベイビーって言ったんですけど、全く返って来なかったです...。10の声量で0でした...」 中野サンプラザは今年で閉館する。それもあって中野サンプラザの思い出について2人は語っていたが、休日課長がスベったことの切なさが、閉館の切なさに勝ってしまった。 川谷が「最後にゲスの極み乙女にとって大切な曲をやります」と告げてから演奏されたのは『だけど僕は』。 イントロでちゃんMARIが「中野ベイベー!」と10の声量で叫び、観客は10の声量で返していた。なぜ休日課長の時は反応がなかったのか。 明るい曲調と切ないメロディでライブの締めに相応しい余韻を残してステージを去るメンバー。しかしもっとゲスの極み乙女の音楽を聴きたい。すぐにアンコールを求める拍手が巻き起こる。 メンバーが再登場すると、ほないこかによる物販紹介が行われた。 観客「かわいい!!!」 ほないこか「そうなんです」 観客「かわいい!!!!!!」 ほないこか「そうなんです」 デレデレした観客と謎のやり取りをするほないこか。そのまま「物販でコールアンドレスポンスをしたい!」というはないかかな謎の提案によって、「ぶっ」といこかが言って「ぱん」を客が言う謎のやり取りも行われた。さらには川谷の「16ビートでコールアンドレスポンスをして」という謎提案により「ぶっ」「ぱん」で高速コールアンドレスポンスも行われた。カオスである。 本編ではMCが少なかった反動か、アンコールでは喋りまくるメンバー。話題はどんどん脱線していく。 川谷絵音「くるりの正しい発音がわからないんだけど、正しい発音はなに?“る”にアクセントを置くの?B'zの発音は“イ”にアクセントを置くのが正しいんだよね?」 休日課長「Huluは九州と同じ発音です」 川谷絵音「ネトフリの正しい発音はバタフリーと同じだっけ?」 少なくともHuluはバタフライの発音ではない。 こんなふざけたトークをひたすらにするわけだが、彼らは音楽には真摯に向き合い真剣に作っている。新曲を披露する前、川谷は改めて自身の音楽やライブについて語った。 次は新曲ですけど、めちゃくちゃ暗い曲です。 でも僕の書く曲は、曲調は明るいけど歌詞は暗いものが多くて。『だけど僕は』も歌詞は暗いんです。ずっと「だけど僕は」って言っていて。 でも自分が明るくなる時って、明るく振る舞おうとしている時が多いんです。それが歌詞に表れているのかもしれない。 もちろんライブをやっている時は楽しいです。歌詞の意味を考えなくてもいいぐらい楽しんでいると思う。お客さんも同じ気持ちなのかなって見ていて思う。歌詞が音楽を超えることもあるし、音楽が歌詞を超えることもあるんです。 僕らは根本的には変わらずに、これからも活動していきます。 そう語ってから新曲『ハードモード』が演奏された。たしかに曲調は暗い。歌詞の全てまでは聴き取れなかったが、気持ちが昂るような内容はなかったと思う。 しかしバンドのアンサンブルや紡ぐメロディや言葉は、川谷絵音だからこその魅力を感じるし、バンドの個性を感じた。各々の活動が忙しいからかバンドの活動は以前よりもスローペースではある。しかし新曲を披露することで、バンドはこれからも続くことを示しているように思った。 続く曲は『両成敗でいいじゃない』。コーラスの2人と一緒にダンスをする観客。大団円と言えるような多幸感で会場が満たされる。 これにて終了かと思いきや、すぐに休日課長課長がベースで『アソビ』のイントロを弾いた。そして「最後にゲスの極み乙女と遊びませんか!?」という川谷の煽りから最後の楽曲が始まる。演奏されたのはもちろん『アソビ』。 イントロから自然と手拍子が客席から巻き起こり、サビではみんなで一緒に歌う。最後の最後で一番の盛り上がりを作り出した。 全ての演奏を終えて、やり切った表情と笑顔の観客。最後に全員で記念撮影をして終わったが、そこで佐藤栄太郎の切ないエピソードを川谷が話していた。 ゲスのツアー中にインディゴのインタビューがあって、その時にゲスのツアーに参加してる栄太郎が「ゲスの極み乙女は盛り上がっているのに、indigo la Endは全然盛り上がらなかったです」って言っていて... そんな暗い雰囲気のインタビューがもうすぐ発表されると思います... 音楽性の違いによるもので、indigo la Endのファンもライブを楽しんでいるはずだ。佐藤は元気を出してほしい。 最後に川谷は「特に告知はないです。あんまり本数をやれないバンドだから、ライブをやる時は来てください」と伝えてステージを後にした。やはり各々の活動が忙しいのだろう。 しかしその分だけライブをやれば溜まったエネルギーを放出するかのような、凄まじい演奏を聴かせてくれる。ライブ本数は少なくなっても、むしろ熱量は上がっているのではないだろうか。 次にワンマンを観れる日はいつかわからないがその時も必ず足を運び、またゲスの極み乙女と一緒に、覚めた奴らの目を気にしながら踊りたい。 ■ゲスの極み乙女『歌舞伎乙女』at 中野サンプラザ 2023年4月21日(金) セットリスト 1.キラーボール 2.星降る夜に花束を 3.列車クラシックさん 4.猟奇的なキスを私にして 5.イメージセンリャク 6.心歌舞く 7.ゲスな三角関係 8.crying march 9.蜜と遠吠え 10.人生の針 11.いけないダンスダンス 12.某東京 13.Ink 14.song3 15.ドレスを脱げ 16.発生中 17.シアワセ林檎 18.だけど僕は En1.ハードモード ※新曲 En2.両成敗でいいじゃない En3.アソビ