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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE SUMMER SHOW at Zepp Shinjuku 2023年9月14日(木)

GRAPEVINEに夏のイメージがあるかと言えば、そのような印象を持っている人はファンでも少ないと思う。

 

なぜなら「夏のバンド」のパブリックイメージは、サザンやTUBEのようなバンドだからだ。GRAPEVINEはそれらのバンドとは、音楽性もキャラクターも全く違う。

 

だが思い返すとバインは夏が舞台の楽曲だったり、夏に関連する言葉が歌詞に使われていることが多い。他の夏バンドと方向性が違うだけで、彼らも夏バンドなのだ。なんならORANGE RANGEよりも夏曲が多い。

 

だから「SUMMER SHOW」というシンプルなライブツアータイトルも、実はバンドのイメージにマッチしているのかもしれない。

 

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自分はGRAPEVINE『SUMMER SHOW』の東京公演を観た。会場はZepp Shinjuku。今年開業したばかりのライブハウスで、バンドにとって初めてステージに立つ会場だ。

 

開演時間を過ぎ客席が暗転すると、リラックスした様子でゆっくりとステージに登場するメンバー。田中和将の「はい!こんばんはー!」という緩い挨拶からライブはスタートした。デビュー26年目のベテランとなると、どんな会場でも浮き足立たず、自分のペースを崩さないのだろう。

 

1曲目は『Ub(You bet on it)』。リリース間近の最新アルバムから先行配信されている新曲だ。田中のギターリフからバンドの重厚な演奏が重なるアレンジだが、ライブだと音源以上に迫力がある。ライブで聴いてこそ、魅力が最大限に伝わる楽曲だ。

 

オールスタンディングのライブハウスワンマンは久々だからか、観客のノリがいつにも増して良い。金戸覚のゴリゴリのベースから始まる『冥王星』では腕を上げて踊る観客もいたし、歓声も大きかった。

 

そこから『スレドニ・ヴァシュター』へと雪崩込む展開も良い。演奏の迫力はもちろん、田中のシャウトも最高だ。デビュー26年目の立派に成人したバンドだからこその、キレッキレな演奏である。

 

Zepp Shinjuku初めまして!

 

26日に新しいアルバムを出します!今日はうどん柄のグッズを売ってるので買ってください!

 

それ以外は言うことがないです!

 

簡潔にアルバムとグッズの宣伝をする田中。彼はロックの魂とともに商魂も持っている、商売上手なバンドマンだ。

 

続いてタイトルを告げてから披露されたのは、今回初披露の新曲『Ready To Get Started?』。最近のバインとしては珍しく、若手が演奏しても違和感がない瑞々しさと疾走感ある楽曲だ。

 

中盤で田中と西川弘剛が前方に出てユニゾンでギターソロを弾いたりと、パフォーマンスでも観客を盛り上げている。〈限られた人生を飛ばしていこう〉という歌詞があったが、これはベテランのロックバンドが歌うと、言葉に重みが出るし説得力がある。

 

先行配信の楽曲から判断するに、最新アルバムは前作『新しい果実』を発展させた楽曲が中心かと予測していた。しかしもっとバラエティに富んだ作品になるのかもしれない。

 

ここからさらにバインの深い世界へと沈ませるような濃い楽曲が続いた。R&Bとロックを組み合わせたようなサウンドの『目覚ましはいつも鳴りやまない』は、紫や黄色の薄暗ち照明の中で演奏されていたが、妖艶な印象を与える照明が楽曲とマッチしていて引き込まれる。

 

田中がアコースティックギターに持ち替えギターを爪弾いてから始まった『NOS』では、心地よい演奏で観客を魅了していた。GRAPEVINEはロックを軸に様々な音楽を取り込み、ファンを楽しませてくれるのだ。

 

序盤は立て続けに楽曲を続けていたが、ここで長い曲間が空いた。それを静かに見守る観客だが、『想うということ』で演奏が再開した瞬間に、感嘆の声と言える歓声が響いた。

 

20年以上前の楽曲だが、今でも色褪せないどころか音に深みが増して進化しているとすら感じる。その進化に観客は興奮し感動したからこそ、大きな歓声をあげたのだろう。

 

そんな過去の名曲の後に2021年の楽曲『ねずみ浄土』が演奏されても、違和感なくライブが進むことが凄い。これはサウンドや方向性が変化しても、バンドの軸はブレずに活動してきたことの証拠だ。

 

『ねずみ浄土』はリリース以降、ほぼ毎回のライブで披露されている。だからか演奏もコーラスワークも圧倒的で観る都度に進化しているので、毎回「前回よりも凄い」と思い圧倒されてしまう。

 

新曲『雀の子』も同じように、ライブで進化していくのかもしれない。先日行われたサニーデイ・サービスとの対バンでも披露されていたが、その時よりもさらにバンドのグルーヴが良くなっていた。ライブを重ねるごとに、さらに物凄い演奏になる予感がする。

 

この楽曲では渦を巻くような形の照明がステージを照らしていた。それはグッズのうどん柄に似ている。さ今回のライブはうどんがテーマの1つなのだろうか。

 

 

そんな最新曲の後に披露されたのは『here』。20年以上前のアルバムタイトル曲だが、やはり今聴いても色褪せない。

 

『SUMMER SHOW』というライブタイトルではあるが、ここまで夏らしい曲は演奏されなかった。

 

だが『here』は「夏」という言葉が歌詞に出てくるので今回のライブに相応しい。そんな楽曲を今の季節に聴けるからこそ、より心を沁みる。アウトロで少しずつ音が小さくなる繊細な演奏も美しくて素晴らしい。

 

アルバムが27日にリリースされます。本日は小出ししてますが、10月のツアーではガッツリやるので来てください。

 

あと6000万曲やるけど、大丈夫か?6000万曲いくぜ!

 

去年行われたワンマンでは400万曲やると言っていたので、この1年でワンマンの演奏曲数が15倍に膨れ上がってしまった。

 

 

田中が「新宿に捧げるディスタンス!」と言ってから演奏された『This Town』は、田中と西川向き合いユニゾンで長尺のギターソロを掻き鳴らしていた。ギターソロが終わった後に客席から大歓声と拍手が巻き起こるほどに、観客を興奮させている。

 

もうすぐ最新アルバム『Almost there』がリリースされるからか、ここで初披露の新曲が2曲続けて演奏された。どちらもミドルテンポでメロディが美しいのに、演奏は複雑かつ尖っていて、歌詞は田中節が効いていた。

 

2曲目の方は〈アニー〉という歌詞があったので、おそらく『Goodbye, Annie』だろう。全ての歌詞は聴き取れなかったが〈オリコンチャート〉という言葉が入っていた気がする。もしかしたら社会風刺も採り入れた歌かもしれない。

 

ライブも後半。ここから演奏はさらに凄まじくなっていく。落ち着いたテンポながらも演奏は重厚で時折叫ぶように歌う『Goodbye My World』も、貫禄と衝動を同時に感じる演奏だった。

 

〈遮っていた暑さは 夜空に開けた穴を拡げた〉という歌詞がある『Glare』を、暑い夏に生で聴けたことも嬉しい。演奏の迫力と美しくも切ないメロディで、胸がいっぱいになった。

 

そんな感動の余韻を観客は楽しんでいたが、バンドはそんな暇を与える気は無いようだ。

 

「南部の男になってくれ!」とお馴染みの台詞を言って、最後に『B.D.S.』が演奏された。今回は演奏の迫力で圧倒させたり、美しい音色で感動させる楽曲が中心のセットリストだった。しかしこの楽曲は観客を興奮させ盛り上げている。

 

「ありがとさあああん!さああん!さあん。さん......」とセルフでエコーをかけた挨拶を田中がして、機嫌良さそうに帰っていくメンバー。最高のライブによって機嫌が良くなった観客が、アンコールを求めて拍手を鳴らしている。

 

グッズのTシャツを着て再登場したメンバーだが、やはり田中はロックの魂だけでなく商魂も持っているようだ。

 

「HUMAN NATUREと書かれたTシャツを出しました。マイケル・ジャクソンみたいですね。是非お買い求めください」と、マイケルの名曲のタイトルと同じ文言が書かれていることを紹介して宣伝していた。和田唱が喜ぶと思うので売り付けてみて欲しい。

 

アンコールの1曲目は『SPF』。本編以上にリラックスした様子で、気持ち良さそうにバンドは音楽を鳴らしている。観客も同じようにリラックスした様子で心地よさそうに聴いていた。歌詞に〈迂闘なぼくらは紫外線集めた かざした右手で時を止めろ〉とあるように、夏が似合う楽曲だ。残暑の9月にか聴くと、よりグッとくる。

 

演奏を終えると『SPF』のことを「夏を代表する大ヒット曲でした」と田中は冗談を言って紹介していたが、次に演奏された楽曲は正真正銘のヒット曲『スロウ』。

 

久々に生で聴くと、ヒットした理由も、代表曲として愛される所以も、全て理解できるほどの名曲だと実感する。照明によってステージがアルバム『Lifetime』のジャケットカラーと同じ青色で染まっていたことにもグッとくる。

 

「もう一曲だけやらしてくれ!」と田中が言ってから、最後に『放浪フリーク』が演奏された。夏にピッタリの選曲だ。

 

照明が客席までも明るく照らしたので、ステージから観客の表情がよく見えたのかもしれない。だからかメンバーは他の曲よりも穏やかな表情で客席を眺めながら演奏していた。

 

ほんの少し夏を感じる選曲と、今最もバンドが鳴らしたいであろう新曲と、今のバンドが演奏することで魅力が増す楽曲が中心のライブだった。

 

短い夏がそこで粘っている中行われた『SUMMER SHOW』は、あの夏を超えるぐらい素晴らしいものだった。

 

GRAPEVINE SUMMER SHOW at Zepp Shinjuku 2023年9月14日(木) セットリスト

1.Ub(You bet on it)
2.冥王星
3.スレドニ・ヴァシュター

4.Ready To Get Started?  ※新曲
5.目覚ましはいつも鳴りやまない
6.NOS
7.想うということ
8.ねずみ浄土
9.雀の子
10.Here

11.This Town
12.新曲
13.新曲
14.Goodbye My World
15.Glare
16.B.D.S.

 

アンコール
17.SPF
18.スロウ
19.放浪フリーク