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【ライブレポ・セットリスト】中村一義 BAND LIVE 2024『これにあり。』at新代田FEVER 2024年1月27日(土)

中村一義のライブを久々に観に行った。ライブの開演前は、期待に満ちてワクワクしていることが多い。しかし久々に中村一義のワンマンを観に行った自分は、期待よりも不安の気持ちの方が勝っていた。

 

それは中村が出演していた2019年のロックインジャパンでのパフォーマンスが理由だ。歌詞を覚えていないのかずっと足元の歌詞を見ながら歌っていたし、そのせいか歌も不安定でパフォーマンスはイマイチに感じた。代表曲や人気曲がフェスの短い持ち時間に詰め込まれた、素晴らしいセットリストだったというのに。

 

そもそもライブを頻繁に行うアーティストでは無いためか、パフォーマンスのクオリティの落差は激しい。過去に何度かライブを観ているが、めちゃくちゃ良い時もあればその真逆な時もある。

 

だから一抹の不安を抱えながらライブ会場の新代田FEVERへと足を運んだわけだが、実際はそんな不安も心配も無用だった。なぜならめちゃくちゃ良いライブだったからだ。

 

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バンドだけが先に登場し、ジャムセッションを始めた瞬間から「これは良いライブになる」と思い、期待が不安を上回った。

 

バックバンドは『一座』と名付けられている。ギターに『ぼっち・ざ・ろっく!』楽曲の編曲を務めたLOST IN TIMEの三井律郎(Gt.)とSPARTA LOCALSの伊東真一を招き、ドラムにセカイイチの吉澤響、ベースにはセカイイチのサポートを務める中村昌史が参加していた。コーラスは何度か中村と共演している、シンガーソングライターのあずままどかだ。

 

2000年代の下北沢近辺の音楽シーンで活動していたミュージシャンの代表を集めたかのような豪華な布陣である。そんなメンバーが耳をつんざくような轟音のジャムセッションを繰り広げる。そのサウンドは中村一義のイメージとは違うものではあるが、めちゃくちゃハイクオリティかつ、めちゃくちゃクールなロックサウンドだ。

 

そんなジャムセッションが少しずつ『ラッタッタ』のイントロへと変化していく。それに観客が湧き立ち歓声をあげたタイミングで登場した中村一義。「中村一義と一座です!満員御礼!ありがとうございます!」と挨拶し歌い始めた。

 

もちろん披露されたのは『ラッタッタ』。音源よりもオルタナティブなサウンドになっていて、演奏は激しい。歌唱も感情的になっている。このバンドメンバーだからこその、新鮮なアレンジだ。

 

そこから美しいコーラスが際立つ『いつだってそうさ』や、観客の温かな手拍子が心地よい『世界は変わる』を続ける。熱い演奏だけでなくしっかり聴かせる曲も序盤から披露し、様々なタイプの楽曲で会場の空気を作っていく。

 

久々のライブですが、最高のバンドを引き連れてきたんで許してください!

 

新曲も作りました。今回は新曲を披露するために開催したライブです。

 

僕は名曲しか作らないんですよ。ただ、完成まで時間がかかります。アルバムとなると小学生が高校生になるぐらいまで時間がかかります(笑)

 

自画自賛と自虐を両方織り交ぜたMCをする中村。しかし楽しくて仕方がないのだろうか。ずっと笑顔でライブができることが嬉しそうに見える。会場も温かくて、かなり良い雰囲気だ。

 

新曲を披露するライブといいつつも、続けて演奏されたのは往年の名曲『セブンスター』と『メキシコ』。どちらもミドルテンポの聴かせる楽曲ではあるが、アレンジはオルタナティブで轟音だ。中村の歌声も演奏に負けないほどまっすぐである。

 

そんな中で比較的最近の楽曲である『叶しみの道』は、個人的に序盤のハイライトだ。

 

中村のアカペラから始まったが、澄んでいる声色なのにまっすぐ鼓膜と胸に突き刺さるような迫力がある。そんな歌声に鳥肌が立ってしまう。バンドの演奏も同様に迫力がすごい。会場は数百人規模のライブハウスではあるが、まるでアリーナで聴いているかのような壮大さだ。

 

バンドも魂がこもりすぎてしまったのだろう。アウトロがいつもよりも長くなってしまったらしい。歌い終わってから「アウトロが長い!」と、中村が笑いながら叫んでいた。

 

身動きができないほどに超満のフロアを眺めながら「パンパンだね!熱いけど大丈夫ですか?名曲ばかりだから許してね!」と、2回目のMCでも自画自賛する中村。今日はいつにも増してご機嫌な様子だ。

 

ライブタイトルの『これにあり。』の”これ”をアルファベットにすると”CORE”になります。”CORE”は英語で”芯”という意味です。つまりこのライブが中村一義の芯だという意味も込めています。僕はダブルミーニングが得意なソングライターとして評価され続けてきたので、このでもダブルミーニングです(笑)

 

つまり今回は人間の”CORE”となるような、ホーリーな曲を中心に披露していきたいと思います。「ホーリー」ですよ?わかりますよね?

 

大木伸夫が言いそうな「ホーリー」という言葉を連呼して、観客を動揺させる中村。

 

だが続いて演奏された『フラワーロード』の繊細な演奏と優しい歌声には、ホーリーを感じた。間髪入れずに続けた『まごころに』もそうだ。壮大な演奏と歌声はホーリーと言えるのかもしれない。

 

しっとり聴かせる曲を続けたが、続く『Yes』では中村は観客を煽り、観客はそらに応えて腕を上げてジャンプしたりと、再び熱気に満ちたフロアを作り出す。このバンドメンバーだからこそのロックな演奏だ。

 

今回のツアーはライブ初披露の曲がいくつかあった。『フラワーロード』『まごころに』がそれだ。

 

「アルバムを出してもツアーをやらないことが多いので、ライブでやったことがない曲が沢山あります。昔はとんがってましたからね。トンガリキッズでした」と丸くなった中村がシュールなジョークを言う。ファン目線としてはツアーをやって欲しいし、なんならアルバムはもっとハイペースで出して欲しい。

 

三井が優しい音色でギターアルペジを鳴らした『イース誕』から曲間なしで『愛にしたわ。』に続く流れは、あまりにも感動的で鳥肌が立つ。ハイレベルな演奏だけでなく、中村の歌声にものすごい熱量を感じたからだ。喉の調子が絶好調ではなかったかもしれないが、それでも伝わる魂があった。

 

そこからなだれ込むように代表曲のひとつ『君ノ声』が始まる。観客もこの曲を求めていた人が多いのだろう。イントロが鳴った瞬間に歓声が湧き上がり、手拍子が巻き起こる。サビで中村がマイクを客席に向けた時の大合唱も最高だ。

 

あまりの名演に男性客が曲終わりに「やばい!!!最高!!!」と叫んでいた。中村は観客の叫びを聴きながら、嬉しそうに笑みを見せペットボトルの水を飲んでいる。だがなぜか焦っていたのか「水が上手く口に入らない」と言ってビショビショにこぼしていた。

 

ここで改めてメンバー紹介された。バンドメンバー同士は中村のサポート以前から、交流があるらしい。三井は「こうして2000年代に下北沢で切磋琢磨してきた仲間と、当時音楽シーンの一時代を築いた人のサポートをできることが嬉しい」と語っていた。

 

ここから後半戦。「一緒に歌ってね!」と中村が叫んでから始まったのは『ショートホープ』。アップテンポのロックナンバーだが、このバンドで演奏すると音源よりも更に激しく熱を帯びた差運になっている。観客もそれに鼓舞されてか、演奏をかき消すほどの大合唱を巻き起こす。「中村一義のライブでここまで観客が大声で歌うことはあったか?」と思うほどの盛り上がりだ。

 

本編で1番の盛り上がりは『1,2,3』に思う。イントロが鳴った時の歓声も「オイ!」という掛け声も、この日1番の大きさで熱気に満ちていた。歌い終わってから「熱い!冬だよね!?」と中村が言ってしまうほどにだ。

 

会場が熱気で満ちる中、中村が「コロナ禍に描いた曲をやります。もうすぐ春になりますね」と告げてから最後に『春になれば』が歌われた。正式に音源としてリリースされていない新曲だ。

 

丁寧に歌い楽曲のメッセージをしっかりと届けようとしているように見えた。活動初期の空気感を持った楽曲ではあるが、しっかりと今の空気も取り込んだ現代の楽曲になっている。

 

最高の熱気を作り出す音楽を歌った後、その熱気を優しく包み込む音楽によって、ライブ本編が終了した。

 

しかしライブタイトルにもなっている新曲がまだ披露されていない。それならば新曲を聴くため、盛大な拍手でアンコールを求めるしかない。中村は盛大な拍手で迎えられたいから、あえて新曲を本編で披露しなかったのだろう

 

盛大な拍手を浴びながら再登場した中村とバンドメンバー。満足気な表情である。

 

披露されたのは予想通り、新曲の『これにあり。』。ポップな印象を与えるリズムとキャッチーなメロディが印象的な明るい楽曲だ。『金字塔』や『太陽』に収録されていても違和感を覚えない曲調である。しかし過去の焼き直しではない新しさも感じる。今の中村一義は原点回帰しつつも新しい方向性を見出している最中なのかもしれない。

 

最後に演奏されたのは『キャノンボール』。ギターのアルペジオから始まり、観客が「この曲はなんだっけ?」と思っているうちに原曲のイントロへと変化する、特別なライブアレンジだ。

 

そんなイントロを聴かされた観客のボルテージは一気に最高潮に。演奏は音源以上に激しいロックサウンドで、中村の歌声も技術よりも熱量を意識した荒々しい。それに連れられて観客も熱狂している感じだ。

 

だがあまりにも勢い任せに歌っているので、歌は荒々しすぎる。後半のサビでは「声が出ねえ!みんな代わりに歌ってくれ!」としゃがれた声で叫ぶ中村。観客はそれに応えて、この日1番の大声で合唱する。これがこの日のハイライトであり、会場が最もひとつにまとまった瞬間だ。

 

声が出ないと言いつつも〈僕は死ぬように生きてる場合じゃない〉という最後のサビのフレーズは、振り絞るような声で〈みんな死ぬように生きてる場合じゃない〉と力強く歌っていた。その1フレーズの荒々しい歌唱に、自分はこの日のライブで最もグッときた。

 

中村一義の音楽活動は、ものすごくスローペースだ。かつて熱心に聴いていた人も忘れてしまう人がいるほどに。

 

だが中村一義は今でも現役のシンガーソングライターとして、素晴らしい音楽を奏でている。新境地だって作っている。そして実は今、めちゃくちゃ良いライブをやっている。

 

もしもかつて中村一義を追いかけていたけれど最近の活動を知らないという人は、ぜひもう一度中村一義の音楽を聴きに行って欲しい。懲りず君に伝えるため、彼は歌い続けているのだから。

 

中村一義 BAND LIVE 2024『これにあり。』at新代田FEVER 2024年1月27日(土) セットリスト

1.ラッタッタ
2.いつだってそうさ
3.世界は変わる
4.セブンスター
5.メキシコ
6.叶しみの道
7.フラワーロード
8.まごころに
9.Yes
10.イース誕
11.愛にしたわ
12.君の声
13.ショートホープ
14.1,2,3
15.春になれば


アンコール
16.これにあり。(新曲)
17.キャノンボール