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【ライブレポ・セットリスト】the pillows『Go! Top Beat! Go!〜1st Anniversary of Top Beat Club〜』at 荻窪TOP BEAT CLUB 2024年2月15日(木)

今回のthe pillowsのライブが行われる荻窪TOP BEAT CLUBは約300人ほどしか入らないらしい。Zeppクラスの会場でワンマンを行うバンドだ。都内でこれほど小さなキャパでワンマンを行うことは少ない。しかもチケット販売は1回限りの先着販売。当然ながら販売開始直後に完売するプレミアチケットとなった。

 

運良くチケットを確保できた自分は、久々に都内の小さなキャパでライブを観れることに浮き足立っていた。今回は荻窪TOP BEAT CLUBの開店1周年を記念した、1回限りの特別な公演。きっと先日まで行われていたツアーとは内容が変わる。どのようなライブを行うのだろうか。

 

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開演時刻を過ぎていつも通りにSALON MUSICの『KELLY'S DUCK』をSEに登場するメンバー。なぜか前方に出てきて一列に並び、全員が同じように腰に手を当てるモデルポーズをする。謎の行動に謎の歓声をあげる観客。メンバーは謎に満足げな表情を見せていた。

 

今回はサポートベースの有江嘉典がスケジュールの都合で不参加なので、その代わりにHiGEの宮川トモユキが参加している。会場だけでなくバンド編成も特別だ。

 

そんな特別なライブで披露された1曲目は『Advice』。山中さわおがゆっくりとギターリフを弾き、それがだんだん大きくなってきて音源と同じBPMになっていく。そんなアレンジに沸き立つ観客。山中は叫ぶように歌い、真鍋吉明もフロアギリギリまで出てきて煽りながらギターをかき鳴らしたりと、演奏もパフォーマンスも最初からものすごい勢いだ。

 

そこからなだれ込むように『LAST DINASAUR』が続くと、フロア中央より前方の観客が一気に前方に詰め寄る。それは勢いある若手ロックバンドのライブと同じ景色だ。バスターズは若者に負けないぐらい元気である。

 

メンバーも若手バンドに負けないぐらいに元気である。山中が曲名を叫んで『Blues Drive Monster』を続けて、さらに激しく熱い演奏を繰り広げる。ペース配分が普段のワンマンと比べておかしい。観客も脳内麻薬が出てしまっているのか、いつも以上に激しい展開にいつも以上の激しいノリで応えている。

 

だがMCで「最初から飛ばし過ぎたら疲れた......」と早くも反省する山中。そして「君たちも凄いな!見た感じみんなも若くはないのに!」と褒めてるのかディスっているのかよくわからない言葉を観客に投げかける。だが観客はみんな喜んでいるようで元気な歓声をあげる。MC中も若くはないのに元気な観客だ。

 

「荻窪TOP BEAT CLUB、1周年おめでとう。今日は楽しもう!」と挨拶して『ノンフィクション』から演奏が再開。若くはないのに元気な観客は、相変わらず踊ったり腕を上げたりと楽しそうだ。

 

中盤で演奏を止めて、曲途中ながら喋り始める山中。この楽曲がライブ披露された時の定番演出だ。「ピロウズにプレデターズに山中さわおのソロ。全ての特典映像に出ている宮川トモユキ。ようやく一緒にステージに立っている。これがノンフィクションだ!」と、今回のみサポート参加する宮川について触れていた。宮川は照れ臭そうに苦笑いしている。

 

それにしても今日のthe pillowsのセットリストはかっ飛ばすような選曲だ。続く『Mr.Droopy』でも山中と真鍋が前方に出てきて煽ったりと煽りまくる。山中にスポットライトが当たり、弾き語りから始まった『Midnight Down』も、久々の披露という事もあってからものすごい盛り上がりだ。

 

初期楽曲『ぼくはかけら』が演奏されれば、若くはないけど元気な観客はさらに若者に負けないほどの熱狂を見せる。

 

今回はリリースツアーでも再現ツアーでもない。だから次に何が演奏されるのかは全く予想つかない。その結果としての今回のライブは、まるで「コアなファンが選んだファン投票ランキング」をそのまま演奏しているかのようなセットリストになっている。これは観客もいつも以上に興奮するのも当然だ。

 

そんなフロアの景色を見て「ツアーが終わったばかりなのに、ずいぶん俺たちに夢中じゃないか!」とアイドルの決め台詞かのような言葉を発する山中。観客は「あういえええええええ!」と叫び夢中な気持ちを伝える。

 

今回サポートベースを担当している宮川とは、3回しかリハーサルをできなかったらしい。「ワンマンなのに3回で20曲以上を身体に入れてくれました。俺がこの立場だったらと思うとゾッとするよ......」と最大限の賞賛を宮川に贈る山中。たしかに初参加かつ3回しかリハをやっていないとは思えないほどに、宮川は素晴らしい演奏をしている。

 

「ここからはロックンロールからオルタナの時間だ」と山中が告げてから、会場の空気が変わる。

 

演奏されたのは『カーニバル』。あきらかに序盤の楽曲とほサウンドの質感がかわったし、観客は序盤のひたすら騒いで盛り上がるわけではなく、オルタナな演奏に圧倒され傍観している。the pillowsは今年で結成35周年。それだけの期間第一線でロックバンドをやってきたので、音楽性の幅も広いのだ。

 

だが続く『Kim deal』では、サウンドはオルタナながらも会場の空気が明るく彩られる。今度は腕を上げたり身体を揺らす観客も多い。多幸感に満ちた空気だ。だが〈僕の涙を乾かせるのは みんなの好きな下らない歌じゃない〉というフレーズを叫ぶように歌う姿は、ロックの尖った魂を感じる。

 

会場が最もひとつになった楽曲は『Funnybunny』だ。ファン以外の多くの人にも知られる代表曲でライブ定番曲なので、コアなファンはライブでも聴きなれている。だがサビの大合唱はコアなファンが集まった空間だからこそ、めちゃくちゃ大きな声で感動的だ。

 

山中は観客に向けてマイクを通さずに「ありがとう!」と叫んでいた。自分の所感ではあるが、山中さわおが「サンキュー」ではなく「ありがとう」と言う時の方が、カッコつけて言っているのではなく心の奥底からの本心に感じる。

 

山中「アウイエ!」

観客「あういえええ!!!」

山中「……」

観客「……」

山中「こんなに黙るものなんですね(笑)」

観客「ふーーー!」「アウイエ」「さわおさぁぁん!」「うぎゃああ!」

山中「……」

観客「……」

 

the pillowsもバスターズもみんなストレンジカメレオンなので、他のバンドやファンとはライブ中の反応や関係性が少し違う。

 

山中「緊張してる?」

宮川「めちゃくちゃしてますよ。ミスが怖くて手元しか見れない。Funnybunnyでテンション上がったけど、お客さんを見たら間違えると思って見れなかったです(笑)」

山中「めちゃくちゃ良い演奏をしてくれているんだけど一つだけ問題がって、宮川くんは背が高すぎるか俺たちが小さく見える!だから今日は少し後ろに下がって演奏してもらってる 」

宮川「股を開いて演奏しましょうか?」

山中「淳を思い出すから止めてくれ......。色々あったから......」

 

そういえばかつてサポートベースをしていたものの諸事情で解雇された鈴木淳は、股を開いて演奏することが多かった。

 

なんとも言えない気まずい雰囲気になってしまったが、山中が「ここからはまたロックンロールの時間だ!」とと言って演奏が再開されると、そんな不穏な空気は熱気に満ちた空気へと塗り変わる。

 

『バビロン天使の詩』で再びフロアの熱気を高まり『I know you』で会場全体に手拍子が響き渡った。前回のツアーで久々に披露された『Ladybird girl』でもしっかり盛り上がっている。

 

山中は前回のツアーのMCで「50歳を超えて歌うのはどうなんだろうと思って封印していたけれど、佐野元春さんがライブで時代関係なくやりたい曲をやっていたから、自分もやりたい曲をやる。これからも『Ladybird girl』を歌い続けるよ」と話していた。その宣言通りに、また歌ってくれた。早くも有言実行だ。

 

 

『空中レジスター』で観客に大声で〈I can fly〉と叫ばせ、最高の空気を作ってからメンバー紹介を含むMCへ。

 

宮川は今回the pillowsのライブへ初参加であることに触れ「昨年末にさわおさんに笑顔で追いかけられる夢を見ました。それは今日の正夢だったのかも知れません」と山中さわおの怨念が夢に影響したことを語っていた。

 

佐藤シンイチロウ「楽屋で話していて判明したんですが、宮川くんは便座に座って小便をするそうです」

山中「俺もそうだよか」

真鍋(無言で手を上げる)

佐藤「臭いが付きにくいから皆さんにおすすめしようと思ったんですが、やっているようですね。でも俺はそんな面倒なことやってられない!」

山中「ぎっくり腰になった時に座って小便したら思いのほか排便も掃除も楽で、それから座ってするようになった。何でライブでこんな話しなきゃならないんだよ!?」

 

トイレの話に花が咲くメンバー。終演後はトイレに花を積みに行くのかもしれない。

 

やはり本日限りサポートで参加する宮川への言及が多い。

 

真鍋「宮川くんのやっていることは凄いんですよ。普段なら演奏について相談されたら冗談で嘘を言って困らせたりするけど、可哀想だから真面目に本当のことを言いました」

山中「普段から誰にも可哀想なことはするなよ!」

 

宮川の演奏技術と真摯な姿勢は真鍋の心を動かしたらしい。

 

ライブも後半。山中の「連れてってやるよ!この世の果てまで!」とお馴染みの台詞を合図に『この世の果てまで』から演奏が再開。

 

結成30周年記念の横浜アリーナ公演で1曲目に演奏された曲だ。当時は壮大なロックアンセムとしてアリーナを包み込むような迫力があった。だがこの日は迫力はそのままに、会場が小さい分だけ直接観客の心に刺してくるような近さと力強さを感じた。

 

ここまで15年以上前の過去の名曲が続いていたが、続く楽曲は『Rebroadcast』。現時点での最新アルバム(とはいえ2018年リリース)からのタイトル曲だ。

 

過去の名曲に興奮していた観客だが、近年の曲でも変わらずに盛り上がっている。サビは観客も合唱していたし、むしろ盛り上がりのピークにすら感じる。

 

さらに畳み掛けるように『RUNNERS HIGH』が続く。手拍子は綺麗に揃っていて完璧だし、観客は楽しそうに踊って歌っている。観客のみんなで一緒に叫びまくるのが楽しすぎる。

 

ラストは『Locomotion, more! more!』。これもひたすらに楽しいロックンロールだ。歌詞にある〈5.4.3.2.1!〉というカウントをみんなで演奏がかき消されるほどの大声で叫ぶ。この日の楽しさのピークはこの瞬間だったかもしれない。

 

楽しさしかない余韻を残して本編を終えたが、アンコールも素晴らしい選曲と演奏だった。

 

アンコールの拍手に応えてメンバーが再登場すると、山中が「荻窪TOP BEAT CLUBが1周年なので」と一言だけ告げて、エレキギターをストロークした。

 

演奏されたのは『アナザーモーニング』。山中がマイクスタンドから離れ、弾き語りでスピーカーを通さない生声でサビを歌うと、観客も一緒に歌う。

 

今日は新しい僕の誕生日なんだ

記念写真を撮り直すからおいでよ

素敵な思い出を映す

ロウソクは消さないで

生まれ変わる朝が来た

 

このフレーズをみんなで歌い、1周年をみんなでお祝いする空間は、多幸感に満ちていてみんな笑顔になっていたと思う。

 

だがthe pillowsはロックバンド。最後は『WAITING AT THE BUSSTOP』を衝動的に演奏し、最高の熱気を作り上げる。〈I still want you〉という最後のフレーズは、音源の何倍も多く叫ぶように連呼して歌っていた。そんなアレンジもカッコよくて痺れる。

 

そのままクールに颯爽に去っていくかと思いきや、山中は「I still want youを言いすぎて息が出来なくて死ぬかと思った」と言ってステージを後にした。このカッコつけきれないところも、自分は好きだ。

 

観客は強欲かつthe pillowsが大好きすぎるようで、ダブルアンコールを求める拍手がひたすらに続く。それに応えて再び登場するメンバー。ビールを片手にご機嫌な様子だ。

 

「喋ることがない。でもビールを飲んでからじゃなきゃやりたくない(笑)」と駄々をこねる山中。喋ることがないと言ったわりには、ひたすらに喋り続けていた。

 

この日は楽屋に怒髪天の増子直純か来ていたそうだ。怒髪天と言えばベースの清水泰次が解雇されたばかり。バンドのフロントマンの増子は、自身のバンドとしての決断だったとしても少し心は弱っていたようだ。

 

増子さんは反射神経で冗談を言う人なんだよ。怒髪天のことを俺が気にかけて真面目なことを言っても冗談で返す。

 

解雇の話が決まって伝えられてから初めて怒髪天がステージに出る場にTOSHI-LOWが居たんだよ。

 

それは最悪だよ(笑)ひたすらにイジってくるだろ。TOSHI-LOWは反射神経で毒舌を言ってしまう人だから(笑)裏では良い奴なんだけど、こういうタイミングでTOSHI-LOWと一緒は嫌すぎるだろ(笑)

 

でも、3人で頑張って続けていくみたいだから応援しようぜ

 

今日は楽しかったね。こんな話をした後に言うことではないか(笑)

 

温かな拍手が会場に響く。怒髪天とthe pillowsは関係性が深い。それにthe pillowsもサポートメンバーとはいえ近い事情でメンバーを解雇した過去がある。バンドもそうだしファンも怒髪天のことは他人事だとは思えないのだ。

 

話題は今年の9月16日に行われる結成35周年記念公演に移る。

 

「真鍋くんが『TRIP DANCER』をやりたがっていたからやろう!」「『Comic Sonic』を久々にやろうと思ったけど、再現ツアーでやるべき曲か?」「30周年とは被らない内容にしたい」「気持ちとしては軽い感じにやりたいんだよなあ」

 

などなどとファンの前で内容について公開ミーティングを始めるメンバー。長く話していることに気づいたのか「疲れてるから、まだまだ喋るよ?」と話す山中。

 

ひたすらに35周年公演について話していたものの「これから内容については考えるよ」と言って話を締め、内容はまとまりきらなかった。そして俺は自分が作った曲が全部好きなんだ。だから何をやったって問題ないだろ?」と話すと、観客から大歓声が響く。それは観客も同じ気持ちだ。

 

ラストは『No Surrender』。再び熱気に満ちる会場。当然ながら観客も一緒に〈No Surrender〉と叫ぶ。

 

山中が〈どんなに悲しくても生き延びて又会おう〉というフレーズを叫ぶように歌うと、大歓声と拳で観客は応える。そんな再会を誓う名曲でライブは終演した。

 

そういえば去年のライブで山中は「ライブハウスはエンターテイメントとドキュメントの狭間だ。それを繋ぐのが俺たちロックバンドだ」と話していた。

 

 

今日のライブも正しく、そんなロックバンドの力を感じた。ライブハウスは現実逃避の場ではない。現実と繋がっていて、その現実を生き抜く力を与えてくれる場だ。the pillowsのライブへ行くとそれを思い出すし、毎回現実を生き抜く力を与えてくれる。

 

とりあえず次にthe pillowsを観る日まで、どんなに悲しくても生き延びて又会おう。

 

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the pillows『Go! Top Beat! Go!〜1st Anniversary of Top Beat Club〜』at 荻窪TOP BEAT CLUB 2024年2月15日(木) セットリスト

1.Advice

2.LAST DINASAUR

3.Blues Drive Monster

4.ノンフィクション

5.Mr.Droopy

6.Midnight Down

7.ぼくはかけら

8.カーニバル

9.Kim deal

10.Funnybunny

11.バビロン天使の詩

12.I know you

13.Ladybird girl

14.空中レジスター

15.この世の果てまで

16.Rebroadcast

17.RUNNERS HIGH

18.Locomotion, more! more!


アンコール

19.アナザーモーニング

20.WAITING AT THE BUSSTOP


ダブルアンコール

21.No Surrender

 

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