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【ライブレポ・セットリスト】サニーデイ・サービス × GRAPEVINE SHIBUYA CLUB QUATTRO 35TH ANNIV. “NEW VIEW” at 渋谷CLUB QUATTRO 2023年8月18日(金)

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サニーデイ・サービスとGRAPEVINE。

 

どちらも日本のロックシーンの中心からは外れてはいたものの、確実に日本のロックシーンに大きな影響を与えた偉大かつ独創的なバンドだと思う。むしろ個性が強く唯一無二だからこそ、ド真ん中へ行かなかったのかもしれない。

 

8月18日曜日。そんな2組の対バンライブが渋谷クラブクアトロの開業35周年を記念したイベントで行われた。もちろん会場は渋谷クラブクアトロ。昔から交流があるものの、意外にも今回が初めての2マンライブだという。

 

GRAPEVINE

 

先攻はGRAPEVINE。メジャーデビュー26年目のベテランということもあって、最近は後輩バンドとの対バンが多かった。そのため今の彼らにとって先輩バンドと対バンすることは、貴重で珍しいことである。

 

久々の後輩ポジションでどのようなライブをするかと思えば、新曲『からライブをスタートした。対バンライブとは思えない攻めた選曲だ。


田中和将のギターリフから演奏が始まり、そこに他の楽器が順番に音を重ねていく。バインとしてはシンプルな構成のストレートなロックサウンドだが、やはり曲の構成やメロディなどには独特のクセがある。「真っ直ぐなロックンロールをGRAPEVINEが鳴らしたら、結局のところ個性が強まってしまった」と評したくなるようなロックナンバーだ。

 

9月に最新アルバム『Almost there』のリリースを控えていることもあり、今のGRAPEVINEは新曲を鳴らしたいモードなのだろう。続いて演奏されたのも新曲『雀の子』。

 

こちらは以前から先行配信されてたためか、イントロで歓声があがっていた。今回がライブ初披露ではあるが、既に音源では物足りなく感じるほどに、ライブでの演奏が進化している。演奏が前面に出ていて迫力があることが印象的だ。フロア天井のミラーボール回ったりと、初披露ながらも楽曲の魅力を引き出す演出がしっかりとなされていた。

 

バインのライブでは演奏に圧倒され、観客の身動きが止まる時が頻繁にある。この楽曲でもそうなっていた。今後はライブ定番曲としてたくさん披露され、観客を圧倒させ続ける予感がする。

 

そのままライブ定番曲『Alright』がカラフルな照明の中で披露されると、会場の空気は大きく変わった。空気がパッと明るくなり、観客も腕を上げたり手拍子をしたりと森あり始めた。最初の2曲で最新のバンドの凄みを伝えつつも、しっかりと一見さんも楽しませるライブ構成だ。

 

渋谷クアトロ!35周年おめでとう!こんなパンパンに入ってくれてありがとう!

 

サニーデイパイセンとは高野勲繋がりで、昔から仲良くさせてもらっております。でもイベントやフェスで一緒になることはあっても、対バンをするのは初めてです。このブッキングをしたクアトロは素晴らしい!

 

我々が関西でアマチュアで活動していた時、サニーデイのアルバムの『若者たち』や『東京』を、うちらもそのうち東京に行くんかなと思いながら聴いておりました。

 

そんな我々もデビュー26周年です。関西より関東に住んでいる期間が長くなりました。もはや江戸のバンドです。だから今日は江戸弁で喋ります!

 

尊敬する先輩との対バンでテンションが上がったのだろうか。江戸弁を喋ることを宣言する田中。しかし江戸弁で喋ることはなかった。適当である。

 

しかし歌と演奏は適当ではない。隙のない一流のプロの音を聴かせてくれる。ロックとR&Bを組み合わせたサウンドの『目覚ましはいつも鳴り止まない』で妖艶な空気を作り出し、この今のバインだから鳴らせるロックで、サニーデイのファンを含むすべての観客の心をしっかりと掴んでいた。

 

常連のファンを喜ばせる選曲も忘れていない。田中がアコースティックギターに持ち帰ると『EAST OF THE SUN』が披露された。「何年ぶりのライブ披露だ?」と思ってしまうほどのレア曲だ。繊細な演奏と温かな歌声が心地よい。彼らは心に沁み入る演奏もできるのだ。

 

心地よい余韻が広がっていたが、それに浸る暇を与えずに『Gifted』が始まる。するとまた空気が変わった。照明は薄暗くなり演奏は重くドープなものになる。サビでは歌と演奏の迫力が凄まじい。2年前からほぼ毎回ライブで演奏される定番曲となったが、初めて聴いたサニーデイのファンは特に驚き圧倒されているようだ。

 

曲が終わっても高野勲のキーボードがなり続け、そのままメドレーのように『ねずみ浄土』へと続く。この楽曲も演奏の凄みを見せつけるような楽曲だ。それでいて歌声のハーモニーも美しい。この2曲を続けて聴けば、今のGRAPEVINEの深い魅力を言葉でなく感覚で理解できるはずだ。それをバンドも自身も理解しているからこそ、この2曲はライブ定番曲として続けて披露することが多いのだろう。

 

客「かずまさあああああああ!!!」

田中「なんだ?兄貴か母親が来てるのか?」

客「ファンだよぉぉおおおおおお!!!」

田中「wwwwww」

 

興奮しすぎて謎に名前を呼ぶファン。気持ちはわかる。それほどに素晴らしい演奏だったのだから。

 

GRAPEVINEはドSなので、まだまだ観客を興奮させる。続いて演奏されたのは『Reverb 』。田中の歌から楽曲が始まると、客席から歓声が湧き上がった。叫ぶような歌声と衝動的な演奏も最高だ。こちらも最近のライブでは演奏されていないレア曲。ファンが興奮してしまうのは当然だ。腕を上げたり踊っている観客も増えてきた。

 

『エレウテリア』も意外な選曲だ。美しいメロディが際立つ楽曲だが、後半は田中と西川弘剛が向き合ってギターソロを掛け合いのように交互にかき鳴らしていたりと、演奏の熱量は高い。

 

「クアトロありがとー!サニーデイ・サービスありがとー!アルバム出しまーす!ありがとー!ラストー!」と田中が捲し立てるように言ってから、最後に『放浪フリーク』が演奏された。この選曲も意外で嬉しい。〈短い夏はそこで粘ってんぞ〉という歌詞が今の季節にぴったりだからこその選曲だろうか。

 

明るく心地よい演奏と、客席まで明るくなる照明演出によって、会場全体が多幸感に満たされていく。先輩バンドのサニーデイ・サービスに、最高の空気を残してバトンを渡すかのようなラストだ。

 

ここ最近の対バンライブでのGRAPEVINEは、ベテランバンドとして貫禄を見せつけるようなステージが多かった。しかし今回は尊敬する先輩と共にやれることに喜びを感じてるような、勢いを感じた。

 

それでいて先輩にも負けないライブをやってやる気合いが込められた演奏にも思う。対バン相手によってもライブの空気感は変わるしパフォーマンスも変わる。それを実感するような名演だった。

 

■セットリスト

01.02.雀の子
03.Alright
04.目覚ましはいつも鳴り止まない
05.EAST OF THE SUN
06.Gifted
07.ねずみ浄土
08.Reverb 
09.エレウテリア
10.放浪フリーク

 

サニーデイ・サービス

 

SEもなくステージに登場するサニーデイ・サービスの3人。マイペースに楽器を持って準備を進め、ドラムの近くに集まる曽我部恵一と田中貴。その距離感はかなり近い。それぞれの鼓動や息までも聞こえているのではと思う距離だ。

 

そして大工原がドラムを鳴らし『サイダー・ウォー』からライブがスタート。曽我部は時折叫ぶように歌い、演奏も音源よりも荒々しく、衝動的なサウンドを鳴らしている。

 

続く『TOKYO SUNSET』も衝動的な演奏だし、『コンビニのコーヒー』なんて音源よりもかなり激しいパンクサウンドだ。アウトロではドラムの近くに小さく固まるように集まって、ひたすらに激しく長いジャムセッションをしていた。ドラムが丸山晴茂だった頃からは想像できない演奏だ。

 

メンバー紹介と簡単な挨拶をしてからの『春の風』で、さらに演奏が激しくなる。曽我部はシャウトしまくるし、まるでパンクバンドのようだ。

 

今回の対バンはサニーデイの方が先輩。そもそも結成から30年以上経っている大ベテランバンドだ。それなのに若手のような勢いと瑞々しさがある演奏である。それはベテランでありつつも「後輩に負けないライブをやる」という気合いからだろうか。

 

「コロナで困ってない?俺はコロナになっちゃったよ!でも今は治って元気だよ!」と話す曽我部。その言葉通りにいつにも増してテンションが高い。

 

バインとは昔から知り合いなんだけど、2マンは初めてなんだよね。だからめちゃくちゃ嬉しいです!

 

今日は60分やって良いって言われたから、時間いっぱいに曲を詰め込みました。だから喋ってる暇は本当はないんだよね(笑)だから次々とやっていきます!

 

時間がないと言いつつも、喋りまくる曽我部。今回の対バンが嬉しくて仕方がないのだろう。とても機嫌が良さそうだ。

 

そんな良い空気感の中で演奏されたのが『白い恋人』。ここまでコロナ禍以降の新曲を続けて演奏していたが、こちらは26年前の楽曲である。

 

しかし今のサニーデイ・サービスとして進化した形で演奏をしている。歌声は力強く、演奏は音源よりもシンプルながらも、激しくてロックだ。しかし楽曲において重要な部分は原曲に忠実である。美しい歌メロはそのままだし、ギターソロは音源通りに弾いていた。正統に進化させた上で披露しているのだ。

 

「喋っている暇はない」と言っていたくせに、今日の曽我部はやはりよく喋る。「ちょっと話して良い?」と観客に尋ねてまた話し始めた。

 

ロビーでフリーマーケットをやっています。僕らの私物を売っているんだけど、田中くんが出したサイン入りのレコードプレイヤーは売り切れたらしいです。

 

大工原くんはコロナの自粛期間中に遊んでいたPS2のゲームを1本100円で売ってるんだけど、1本も売れていないみたいです。僕は絶対にみんなが聴いたことがないマニアックなレコードを10枚詰め合わせた”レコード福袋”を売っています。あとウィーンに旅行に行った時に撮ったお気に入りの写真を額に入れて持ってきました。これが1つも売れていません......

 

そんな話を出番直前にスタッフからされたから、今までにない凄い気持ちでステージに出てきました(笑)でも、それって青春っぽいよね。売れないロックバンドの連続ドラマがあったら中盤に1回ぐらいはそういう回があるよね。それで売り切った田中だけはご機嫌でメンバーにラーメン奢ったりして(笑)

 

ちなみに終演後にフリーマーケットのコーナーを見ていたが、大久原の用意したPS2のソフトは大量に余っていた。

 

そんな切ない話から続いた曲は『八月の息子』。「自分が八月生まれだし八月にしかやれない曲だから」と、選曲理由について曽我部は話していた。こちらも20年以上前の楽曲だが、音源よりも重厚な演奏で披露し今のサニーデイ・サービスの曲として進化させている。

 

続く『魔法』もそうだ。3ピースのシンプルなロックサウンドになっているものの、曽我部によるギターのカッティングと田中と大工原の安定したビートにより、ダンスミュージックの影響を受けた原曲の雰囲気を壊すことなく今のサニーデイ・サービスの音楽へと昇華させている。

 

かと思えば20年以上前の楽曲を再現するかのような演奏もあった。『時計をとめて夜待てば』がそれだ。音源通りの優しい歌声と演奏で披露された。音源がミニマムで素朴なサウンドだからか、今の三人編成だと魅力が特に引き出される楽曲なのかもしれない。

 

ライブも後半。ここから再び演奏は熱気を帯びていく。叫ぶような歌声と衝動的な演奏で『パンチドランク・ラブソング』を叩きつけるかのように演奏し、そのまま『こわれそう』へとなだれ込む。その演奏はパンクバンドのようで、この3人による新しいサニーデイ・サービスの形なのだろう。

 

今回のライブ本編のハイライトは『セツナ』だ。毎回アウトロで長尺のセッションが行われるライブ定番曲だが、この日は特に熱量が凄まじかった。大工原のドラムの近くに曽我部と田中が集まり、激しく楽器を掻き鳴らす。

 

クラブクアトロはそれほど大きな会場ではない。ステージもホールやZeppなどと比べれば、狭いだろう。そんな会場でも小さく固まり近づい感て演奏する3人。狭いステージをさらに狭く使っている。その熱量が観客までダイレクトに伝わってくる。

 

これまでのサニーデイのライブでも毎回圧倒されていたが、この日は熱量がよりダイレクトに伝わってきたからか、今までで1番と言えるほどに圧倒された。

 

僕らがメジャーデビューして、最初にライブをしたのが渋谷クラブクアトロでした。

 

全然変わってないね。そのライブは緊張しすぎて1曲目の途中で止めてやり直したんだよね。あれから30年以上経ちます。そんな場所で長年交流のあるGRAPEVINEと、初めて一緒にやれて嬉しいです。

 

GRAPEVINEはポエジーなロックバンドどと思う。俺達もそんなバンドでありたいと思っています。だからバインは大好きなバンドだし、ライバルだと思っています。

 

クアトロとバインへの想いを語ってから、最後に演奏されたのは『風船賛歌』。会場全体が腕を上げたり身体を揺らしたりと、この日1番と言えるほどに盛り上がっている。メンバーも笑顔で演奏していて、会場が多幸感に満ちていた。

 

すぐにアンコールの拍手が鳴らされ再登場したメンバーだが、ステージ下手側にキーボードが設置され、バインのサポートキーボードでもお馴染みの高野勲も一緒に登場した。どうやら高野と一緒に演奏するようだ。

 

曽我部「『魔法』をやって思い出した。高野くんがプロデュースしてくれた曲なんだけど、レコーディングでは何度も歌い直させられて泣きそうになったんだった」

高野「ハンドマイクで歌わせたりしてたっけ?」

曽我部「それもやらされたし、自分で上手く歌えたと思った時も、何度ももう一回やろうかって言ってきて。言い方は優しいのにやってることは厳しいんだよ(笑)」

 

演奏前に過去の辛い記憶が蘇ってしまう曽我部。そんな思い出を昇華させるように演奏されたのは『週末』。高野のリクエストに応えての選曲だという。高野のキーボードが加わることで、サウンドに温かみが加わっていた。

 

今のサニーデイは過去の楽曲を演奏する時、衝動的なロックサウンドにアレンジすることが多い。しかしこの楽曲は制作当初を彷彿とさせるような表現で演奏し歌っている。〈オレンジ色の車に乗って〉という歌詞があるからか、照明の色はオレンジになっていた。粋な演出だ。

 

そんな様子を田中和将が袖から顔を出して観ている。眼鏡をかけて缶ビールを片手に、気持ちよさそうにノリながら歌を口ずさんでいる。観客と同じように楽しんでいるようだ。

 

続いて曽我部の呼び込みにより、袖で酔っ払っていた田中和将をステージに呼び込まれた。缶ビール片手にリラックスしている。やはり演者でありながら、観客と同じようなテンションでライブを楽しんでいるようだ。

 

曽我部恵一「ずっと知り合いだったけど、ツーマンは初めてだよねえ」

田中和将「イベントやフェスで一緒になることはあって、いつも袖から見させてもらっていました」

曽我部恵一「次は田中くんのセレクトで『雨の土曜日』という曲をやります」

田中和将「うちらは97年に自分がデビューして、その年にサニーデイは『雨の土曜日』が収録されている『愛と笑いの夜』を出したんです。そのリリース日が僕の誕生日だったんですよ。だからサニーデイで特に好きなアルバムなんです」

 

おそらく初めて語られた田中和将のサニーデイへの想いとエピソードの後に、サニーデイ・サービスと高野勲と田中和将で『雨の土曜日』が演奏された。

 

原曲に忠実な優しく爽やかな演奏で、曽我部と田中和将が楽しそうに歌っている。観客もそれを笑顔で見守るように楽しんでいる。ロックミュージシャンの共演で、ここまで多幸感に満ちた空気になることは珍しい。

 

曽我部が「GRAPEVINE!サニーデイ・サービス!」と叫び、長年の戦友の初めての対バンは終了した。

 

短い夏がそこで粘っている週末に行われたライブは、心震わせ言葉つまらせる素晴らしいものだった。

 

■セットリスト

01.サイダー・ウォー

02.TOKYO SUNSET

03.コンビニのコーヒー

04.春の風

05.白い恋人

06.八月の息子

07.魔法

08.時計をとめて夜待てば

09.パンチドランク・ラブソング

10.こわれそう

11.セツナ

12.風船賛歌

 

アンコール

13.週末 with 高野勲

14.雨の土曜日 with 高野勲&田中和将