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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE 「SPRING TOUR」 at 中野サンプラザ 2022.3.18(金)

「GRAPEVINE、なぜにこんなグッズを売るのか?」と思った。

 

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漢字ドリルを公式グッズとして売り出したからだ。しかも特設の展示コーナーまで作って、イチオシ商品としてアピールしている。

 

メンバーとスペースシャワーの社員による「お手本」まで展示されていた。GRAPEVINE史上最も力を入れて売り込んでいると思う。

 

意外な商品を、意外なほど推す、GRAPEVINE。彼らは意外なことをやるのが好きなのだろうか。

 

グッズだけでなく、ライブ内容も意外なものだった。漢字ドリル以上にライブのセットリストもぶっ飛んでいて濃かった。

 

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1曲目から意外な選曲で驚く。リリース当初のツアー以来演奏されていない『虎を放つ』から始まったからだ。これは漢字ドリルを売ることも同じぐらいにぶっ飛んだ選曲である。

 

暖色の照明の素朴な光の中で、5人の音が複雑に絡み合う。ゆったりとしたリズムで演奏しているのに緊張感がある。少しだけヒリヒリした空気感だが、それが痺れるほどにカッコいい。圧倒されすぎて身動きすら取れなくなる。

 

しかし続く『Alright』ではカラフルな照明演出も相まって、会場を華やかに彩った。中盤ではファンも手拍子で参加すると、緊張でヒリヒリした空気が温かいものへと変わった。

 

意外な曲順ではあるが、様々なタイプの楽曲があることもGRAPEVINEの強みだ。だからこその一瞬で空気を変えるし、どのような演奏でもファンの心を掴むのだろう。

 

『EVIL EYE』では拳を上げて盛り上がる人もいた。いつものライブよりも若々しさと勢いがある。

 

GRAPEVINEのライブは大人しく鑑賞するファンが多い。普段は盛り上がるかどうかは意識せず、バンドはいつも愚直に自身のロックを鳴らしている。

 

だからこの光景は意外だったし、バインのライブとしては珍しいと思った。そんな意外なセットリストだからこそ、今回のライブは普段と違う刺激がある。

 

SPRING TOURというツアータイトルなんですけど、今日は真冬に戻ったかのような気温ですね。雨も降ってるし。

 

コロナ禍になって2年経ったので、みなさんのマスク姿も見慣れてきました。今ではマスクの下の顔も、心の声も、聴こえるようになりました。

 

今日もいつも通り心を込めて演奏しますので、良い演奏だと思ったら最大限の拍手とマスクの下の最高の笑顔で応えてください。

 

相も変わらずユーモアと弄れがミックスされた田中和将のMC。そんなトークを挟んで演奏が再開されると、再び会場の空気が変わる。

 

胸の深いところまで音楽を浸透させるような楽曲が続いたからだ。先程の2曲で作り上げた華やかな空気は、一瞬で消え去った。

 

ブラックミュージックをロックと掛け合わせたサウンドの『目覚ましはいつも鳴りやまない』で、雰囲気がいっきに暗くなる。

 

 

 

 

GRAPEVINEのライブにおいて、雰囲気が暗くなることは悪いことではない。彼らは盛り上がるとか心地よいとかを超えた、音楽のもっと深い部分まで連れていくような演奏をやってくれる。

 

だからファンは音楽に対して、物凄く集中する。圧倒されて身動きすらできなくなるので、空気が暗く感じるのだ。この暗さが最高に気持ちいい。他のバンドでは体験できないこの空気を求めているファンもいるはずだ。

 

かなり久々に演奏されたレア曲『Metamorphose』の重厚なサウンドも、ミニマムな演奏の『雪解け』も同様に空気を暗くする。それがやはり気持ちいい。

 

そんな楽曲を続けたのに、次に演奏されたのが爽やかで疾走感ある『ジュブナイル』。これは意外な曲順である。田中はサビ前に客席を指さしたりと、珍しく煽っている。これは意外な動きである。

 

複雑なリズムパターンと個性的なギターリフが印象的な『Babel』も刺激的なサウンドで最高だ。圧倒されつつも、会場はしっかり盛り上がっている。

 

GRAPEVINEのライブは近い系統の楽曲を続け、じわじわと音楽の沼に沈めていくようなライブ構成の時が多い。

 

今回のよう1曲ごとに段丘のあるセットリストは珍しい。もしかしたらライブ全体を通し、今までとは違う音楽の届け方の挑戦かもしれない。

 

ここからは演出も派手になっていく。人力でダンスミュージックを奏でるような演奏の『Neo Burlesque』では、カラフルな照明で華やかにステージを彩っていた。

 

亀井亨(Dr)の後ろに置かれたミラーボールには照明が当たり、そこから光が散らばり会場を照らす。その光は亀井から後光が差しているようにも見える。まるで亀井が神になったようだ。ありがたみを感じる。

 

そして発表直後からライブ定番曲になっている『ねずみ浄土』が続く。音の隙間を作ることで生まれる独特なノリと、メンバーによるコーラスワークの美しさが印象的な楽曲だ。ライブだとその凄みがよりダイレクトに伝わってくる。

 

照明は先程のカラフルさが嘘のようにダークで落ち着いたものになった。やはり今日のライブは段丘がある。その代わり1曲ごとに違った景色を観せてくれるので、楽曲の世界に入り込みやすくもある。

 

だからか次の『KINGDOM COME』では、再びカラフルな照明になった。ミラーボールも光で照らされて、再び亀井から後光が差す。やはり亀井は神なのかもしれない。ありがたみを感じる。

 

この楽曲ではバンドの壮大なサウンドも素晴らしく、そんな演奏に感動してしまう。GRAPEVINE自体が神なのだろうか。ありがたみを感じる。

 

不安定な社会情勢で行われるライブで演奏される『世界が変わるにつれて』には、タイトルや歌詞からしめても、バンドからのメッセージが込められた選曲にも感じた。

 

〈世界から日常から抜け出せるかい〉という歌詞がある『アナザーワールド』も、今のタイミングだからこそ演奏したのかもしれない。

 

GRAPEVINEは愚直にロックを鳴らして、聴き手を圧倒させるバンドだ。それでいて言葉で多くを伝えない代わりに、音楽によって伝えるべきことを伝えるバンドにも思う。

 

こんな感じでスプリングツアー、寒い日バージョンをやっております。今回はリリースツアーでは無いので、新曲ばかりやっています。皆さんの知らない曲だらけで申し訳ありません(笑)

 

そういえば、大事なお知らせがあります。我々、メジャーデビュー25周年です!

 

嘘である。新曲は1曲も演奏されていない。知っている曲だらけである。

 

しかしメジャーデビュー25周年は本当だ。田中はGLAYのTERUのように両腕を広げて、客席からの祝福の拍手を浴びていた。

 

ここから先も頑張って参りますので、今後も是非ともご贔屓に......なんじゃこの挨拶は(笑)

 

まだ残り650万曲もあります。皆の衆、よろしく!

 

これも嘘である。650万曲も演奏しなかった。

 

それにしても今日の田中和将は「皆の衆」という言葉がお気に入りのようだ。頻繁に使っていた。

 

そんな皆の衆を『Silverado』で再び音楽の沼へと沈み込み、『Shame』で踊らせる。皆の衆は最高の音楽を心の底から楽しんでいるようだ。

 

GRAPEVINEは去年『新しい果実』というアルバムをリリースした。レコ発ツアーは行ったものの、まだ新曲を多く披露したいモードなのだろう。この後は最新作から2曲続けて披露された。

 

 

 

 

『阿』では金戸覚のゴリゴリなベースから少しずつ他の楽器の音も重なっていき、重厚で迫力ある演奏へと変化していった。セッション要素が強い楽曲だからかライブで特に化ける楽曲だ。そこから最新作の中でも特にメロディが美しい『さみだれ』を続ける。

 

最新作から立て続けに演奏することで、最新のGRAPEVINEの素晴らしさを伝えているようだ。25年目を迎えても個性はそのままに、新しい方向性を模索している。

 

だから大ヒット曲はなくとも、長年ロックシーンの第一線で強い存在感を示すバンドであり続けるのだと思う。

 

個人的に意外な選曲に思ったのは『その未来』だ。

 

リリース当初にGOING UNDER GROUNDの松本素生が自身のラジオ番組でこの曲を流し「バインが激しい曲をやるなんてビックリですね。後輩として自分も負けられない」と語っていたことを覚えている。

 

この日もリリース当初と変わらない衝動的で激しい演奏を披露していた。田中もシャウトしたり煽ったりと他の楽曲では見せないパフォーマンスをしている。

 

そういえば2008年にJCBホール(元・東京ドームシティホール)で行われたライブで、この曲が始まった瞬間にフロアの客がいっきに前に詰めて暴れていた。

 

今でもコロナ禍以前のライブハウスならばモッシュが起こっていたかもしれない。そんな熱い演奏だった。GRAPEVINEのライブでも、またいつかその景色を見てみたいとも思う。

 

本編ラストは『Gifted』。セッション要素の強い楽曲で、圧倒させる。この楽曲には〈神様が匙投げた 華やかなふりをした世界で〉という歌詞がある。こんな時代だから、この言葉を意味深に感じてしまった。

 

アンコールの拍手に応え再登場したメンバー。田中はグッズのTシャツに着替えて、心なしかルンルンなテンションを醸し出していた。「こんなグッズを売っています!」と言いながら自慢げに自身のTシャツを見せつけていた。

 

今回は漢字ドリルも売ってます!大人気らしいです。早めにお買い求めください。

 

いつ無くなるのか中野サンプラザ!存続できるのか!?

 

無くなると聞いてからここでやるのは3回目。2度あることは3度ある。だから4度目はないので、存続は無理でしょう。

 

アンコールやるぜ!

 

建て替え工事が決まっている中野サンプラザに対して、辛辣なコメントをする田中。しかしこのバンドは全員が捻くれ者である。彼なりに会場への愛を表現したのかもしれない。

 

アンコール1曲目は『BREAKTHROUGH 』。この楽曲も久々の披露である。

 

疾走感ある演奏に身を委ねながら、客席は腕を上げたりと盛り上がっている。メンバーは穏やかな表情で客席を眺めながら楽しそうに演奏している。おそらく15周年ライブ以来なので、約10年ぶりの披露だ。

 

さらには『手のひらの上』とさらにレアな楽曲を続ける。デビューミニアルバムの収録曲で、バンドにとって初期のナンバーだ。こちらも滅多に演奏されない。

 

若手時代の楽曲だからか、編曲や構成はシンプルではある。しかし今の複雑な演奏をするGRAPEVINEがライブで披露しても、全く違和感はない。

 

むしろ貫禄が出てきた今だからこそ、楽曲の魅力が最大限に引き出されていると感じる。つまりデビュー当初から、軸は変わっていないということだ。その上でバンドは進化してきたのだ。

 

最近のライブではほぼ毎回演奏されている『光について』も、キャリアを詰んだ今だからこそ説得力が増している。

 

メンバーの表情が見えないほどに薄暗い照明の中で、繊細な音色で丁寧に演奏するメンバー。最後のフレーズを歌い終わった瞬間にステージの光が明るく点灯する。

 

ここ数年は毎回同じ演出で披露されているが、観る都度に毎回鳥肌が立つ。演出と演奏によって、聴き手の心に光を与えようとしている。それに感動してしまうのだ。

 

「東京の人はまた近いうちに会おうぜ!またアナウンスするぜー!」と言う田中。どうやら近いうちにもライブの予定があって、他にも面白い企画を企てているようだ。25周年イヤーは例年以上に活動が活発になるのかもしれない。

 

最後に演奏されたのは『ふれていたい』。

 

〈ふれてイエー いよう 全ては大成功 君が笑った明日は晴れ〉というフレーズを聴くと、なぜか泣きそうになる。捻くれたロックバンドによる捻くれた応援ソングに感じる。こんなロックバンドの音楽だから、自分は聴くことで救われてきたのだ。

 

「皆の衆!本日!これにて!」と言って颯爽と帰っていく5人。やはり田中は皆の衆という言葉が好きなようだ。

 

会場に集まった皆の衆も、最高のライブによって笑顔になっていた。会場から出る時の皆の衆もやはり笑顔だった。

 

この日の東京は冷たい雨が降っていた。だけどGRAPEVINEが〈君が笑った 明日は晴れ〉と力強く歌ったのだから、絶対に明日は晴れだと確信しながら帰宅した。

 

それなのに、翌日の東京は、土砂降りの雨が降った......。

 

■GRAPEVINE 「SPRING TOUR」 at 中野サンプラザ 2022.3.18(金) セットリスト

01.虎を放つ
02.Alright
03.EVIL EYE
04.目覚ましはいつも鳴りやまない
05.Metamorphose
06.雪解け
07.ジュブナイル
08.Babel
09.Neo Burlesque
10.ねずみ浄土
11.KINGDOM COME
12.世界が変わるにつれて
13.アナザーワールド
14.Silverado
15.Shame
16.阿
17.さみだれ
18.その未来
19.Gifted

 

EN1.BREAKTHROUGH
EN2.手のひらの上
EN3.光について
EN4..ふれていたい

 

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