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ライブ中に「ルールを破り写真撮影する人」と「ルールを破った者を過剰に叩く人」のどちらが悪なのか?

「ライブ中に写真を撮り続けて、何が面白いの?」と、音楽を聴くためにライブへ行く自分は思う。

 

写真撮影が許可されているライブもあるので、その場合は自分も記念に数枚撮っている。だから写真撮影自体を否定しているわけではない。思い出を振り返られる形で残せるのは嬉しいことだ。

 

しかしスマホを掲げ続けひたすらに写真や動画を撮って、画面越しにステージを観る必要性は理解できない。

 

自宅でYouTubeを観るのと変わりないと思う。写真を撮ることばかりに集中していては、生で音楽を聴く体験を蔑ろにしてはいないだろうか。

 

アイドル現場に多いカメコのような、写真撮影が趣味の人ならば、楽しむ目的が違うのだと納得できる。

 

趣味を全力で楽しむのは最高だ。カメコの人が撮ったアイドルの写真は被写体への愛が溢れていて、プロカメラマンとは違う魅力がある。

 

しかし音楽を聴くことを目的とした人達が、わざわざライブ中に写真を撮り続ける理由がわからない。「音楽を聴くことが趣味の人」がそのようなことをして、趣味を全力で楽しめているのだろうか。

 

写真撮影禁止のライブは多いが、ルールを破ってまで撮影する人もいる。その理由は何なのか。彼らも写真撮影が趣味なのか。

 

ツタロックという音楽フェスについて、SNSが荒れていた。このフェスは演奏中の写真撮影が禁止だったが、一部の観客が演者のいるステージを撮影していたらしい。ルールを破った客が叩かれていた。

 

自分はこのフェスには行っていないので、この件について深くは言及できないし、するつもりもない。

 

それでも少し気になってしまった。フェスを楽しんだ人の感想よりも、違反者を叩くツイートの方が自分のTwitterのタイムラインで目立っていたからだ。

 

当然ながらルールを破ってはならない。ルール違反は悪だ。その行動自体は擁護できない。

 

しかし公式サイトのガイドラインには「写真撮影禁止」とは書いていなかった。

 

会場でどの程度アナウンスされていたかはわからないが、ルールを知らない人も多かったのかもしれない。それならばルールの周知方法にも問題があった可能性もある。

 

違反者を批判する声の中には「ライブの撮影禁止は常識」と言う人もいた。はたしてそれは本当に「常識」なのだろうか。

 

 

 

 

来場者には初めてライブに行く人や、初めて音楽フェスに行く人もいる。その人たちは「フェスの常識」の殆どは知らない。

 

事前に調べたとしても、公式サイトのガイドラインに書いてないルールもある。フェスごとにも違うルールがあったりもする。これでは把握しきれないだろう。

 

そもそも今は撮影OKのライブもあるわけで、撮影禁止が絶対的な常識でもない。自分が当然に知っていることは常識的なことだと思い込みがちだが、それが必ずしも世間一般の常識とは限らないのだ。

 

さらには「これは言い過ぎでは?」と思うような酷い言葉で罵るように違反者を叩く人もいた。それは正義の暴走だし、批判や注意の範囲を超えている。

 

ルール違反者の写真を撮って、それをSNSに投稿し批判している人もいた。自身の正義を言い訳にして、盗撮という犯罪行為をしている。それではルール違反者とやっていることは同じだ。

 

SNSでは「こいつは叩いてもいい」というターゲットを見つけたら、徹底的に叩き過剰に批判する人が沢山いる。今回の騒ぎもそんな感じかもしれない。

 

「違反者の行動を訂正し反省させたい」ではなく「自身の正しさの証明」へと、無自覚のうちに目的が変わっている人もいる。それによってストレスを解消したり、同意を集めて自己肯定感を高めることで気持ちよくなっているのだろう。

 

悪を潰すために自身が悪になってはならない。「ルールを破った悪」を潰すために、自分が「他人を傷つける悪」になっては駄目だ。

 

ルールを知らなかった人もいるかもしれない。その人たちに落ち度があることは確かだが、悪意がないことも確かである。

 

「悪意があるルール違反」と「悪意がないルール違反」は分けて考えるべきだ。悪意の大きさについても考慮すべきに思う。

 

 

 

 

悪意がない違反者に伝えるべきことは、辛辣な言葉ではなく、ルールの存在とその重要性ではないだろうか。

 

ライブ会場はできる限りピースフルな空間であるべきだ。そんな空間を作るためにルールはあるし、守るべきものとして存在している。

 

だからルールを破る者が最も悪い。ルールを知った上で破っている奴がいるなら、それは許せない。

 

しかしルールを破った人を過剰に叩くことは、反省を促すものではない。傷つく人が増えるだけだし、不毛な争いや分断を生んでしまう。それでは本末転倒だ。

 

ルールを知らないならば調べるべきだ。破ってしまったら反省すべきだ。

 

ルールを知っている人はその人たちに教えてあげて欲しい。まずは怒るよりも優しさを向けて欲しい。

 

そして運営は丁寧にルールの存在と理由を伝えて欲しい。

 

ところで「ライブの写真撮影」が禁止されている理由は何だろうか。

 

例えば感染症対策ルールならば存在する理由が説明されることは多い。避難誘導等がライブ中に消える理由も、開演前のアナウンスで基本的に説明される。

 

しかし「写真撮影禁止」については、理由まで説明されることは少ない。

 

実際は禁止されていることでも、その詳細や理由が説明されなかったり、会場内に掲示されていないこともある。それではルールを知らない人が居ても当然だ。

 

おそらくアーティストの肖像権や、ステージセットの著作権などを守ることが理由の1つだとは思う。他にも多岐にわたる理由があって、理由を説明しきれないのかもしれない。

 

写真撮影に関するルールは、ライブごとに全く違う。

 

会場内は全面的に撮影禁止の場合もあるし、ライブ中でなければ許されるパターンもある。先日フレデリックのライブを観た時は、終演後に「アーティストのいないステージの写真を撮っても大丈夫」とアナウンスされていた。

 

BiSHやセカオワのように全面的に写真撮影を許可している場合もある。基本は禁止だけど「1曲だけOK」や「MC中はOK」など特殊なパターンもある。フジファブリックやスピッツのライブで、そのようなことがあった。

 

 

セカオワのSaoriは「禁止にする理由はない」とも語っている。アーティストによって考え方が全く違うのだろう。統一されたルールがないので、客が現場ごとに確認と判断をしなければならない。

 

これではライブやフェスに行きなれていない人は、写真撮影禁止のルールを知らなかったり、勘違いして撮ってしまっても仕方がない。

 

周囲の雰囲気や集中してステージを観る文化が根付いている日本だから、かつては説明せずともルールは守られていたのかもしれない。

 

しかし今はスマホが普及したことで価値観は変わりつつある。ライブや音楽フェスの来場者はコロナ禍で減少したが、それでもここ10年以上は年々増加していた。初めてライブへ行く人は今でも増え続けている。

 

ルールの存在とともに理由を丁寧に説明し周知すれば、納得してルールを破る人も減るかもしれない。きっと知らない人が多いだけなのだ。悪意がない人ばかりなはずだ。

 

そんなことを思っていた。そのように信じていた。

 

でも、説明しても無駄な時もあって、悪意を持ったルール違反者は、少なくないのかもしれない。

 

 

 

 

今は感染症対策の細かいルールがある。それらは他のルール以上に、会場内で細かくルールの存在と理由を説明されていると感じる。

 

それでも、感染症対策のルールを破る客がいる。例えばマスクから鼻を出したり、規制退場を破ったりと。

 

特に規制退場に関しては、終演後のアナウンスで「案内があるまでお席でお待ちください」と言われても無視して帰る人を、いくつものライブで何人も観てきた。

 

「密集を防ぐため」と理由とともにアナウンスされていても、無視する客がいる。

 

1人がルールを破れば、それに連れられるように規制退場を無視する奴が、増えていく。

 

それは自分のことしか考えていない身勝手な行動だ。アナウンスされている最中に無視するのならば「知らなかった」という言い訳は通用しない。

 

「赤信号。みんなで渡れば怖くない」の精神で、ルールを破ってしまうのだろう。1人で身勝手な行動をする度胸はないし、自分だけが批判されることは恐れるのに、周りに流されるならば身勝手になっても気にしない最低な考えだ。

 

もしかしたら撮影禁止のライブで写真を撮る人の中には、ルール違反を理解しながら行っている奴がいるのかもしれない。周りがやっているからと、ルール違反を理解しつつ流されている奴がいるのかもしれない。

 

他人からは「ルールを知らなかった悪意のない違反者」と「ルールを知った上で破る悪意のある違反者」を区別する手段はない。

 

感染症対策のルールを破ることは、写真撮影禁止のルールを破ること以上に罪深いことに思う。ライブシーンと音楽業界と、人の命を守るためのルールなのだから。

 

ルールは守るべきだ。その理由に納得できず異議を唱えるとしても、まずはルールを守ってから行うべきだ。

 

「知らなかった」を言い訳にする前に、ルールを確認しよう。それでもルールとして許されているかわからず不安に思うのならば、不安な気持ちを信じて立ち止まった方が良い。周りに流されて、なあなあにしてはならない。

 

もしも知らずに破ってしまったなら、反省して同じ過ちをしないよう気をつければ良い。

 

その上でルールを守っている人たちは、ルールを破る人たちが許せないとしても、まずは「ライブ空間をピースフルにするためにどうすべきか」を考えてほしい。

 

違反者を過剰に叩いてしまえば、ライブの空間は拍車をかけてギスギスした雰囲気になるし、ライブの余韻も最低なものになってしまう。

 

だからこそルールを守ることは大切なのだ。全てはルールが破られるから生まれてしまう問題であり不毛な争いなのだ。

 

常識は時代とともに変わるし、人それぞれで価値観も違う。

 

その変化に合わせられていない、時代遅れなルールや意味不明なルールもあるだろう。そんなルールは破ってもいいと思うことがあるかもしれない。

 

しかしそのルールが存在する中に入るならば、ルールを守ることを徹底する必要がある。そこからルールの存在意義や意味について考え訴えるべきだ。

 

これは「ルールを破ることは悪だ」「ルール違反者を過剰に叩くべきではない」という話というよりも、「身勝手な行動をしてはならない」という話である。

 

身勝手にならないことが大切だ。

 

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