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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE The Decade Show Summer Live 2004 at 日比谷野外大音楽堂 2024年7月13日(土)

季節外れの雨が好きなあなたには悪いけど、GRAPEVINEのライブは晴れた日の空の下で観たかった。朝の天気予報は雨予報でなかったから雨具は用意していなかったし、雨の野外ライブは過酷で音楽に集中できない。

 

そんな文句を言いたくなるものの、余計な言葉よりも公園までの数分のブルーズが大切だと思い、日比谷公園へと向かった。この日はビクターへのレーベル移籍10周年を記念したGRAPEVINEのライブが、日比谷野音大音楽堂で行われるからだ。

 

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しかしGRAPEVINEは晴れバンド。開演時間になると雨はあがっていた。ライブハウスやホールと違う日が暮れる前の野外なので、開演時間をステージが暗転することもない。そんな演出皆無の中でSEを使わずに、ふらっと現れたかのようにメンバーが登場した。我々の日常の中にGRAPEVINEの存在が自然と入り込んできたかのような、不思議な気持ちになる。

 

1曲目は『サクリファイス』。音数の少ない演奏なので、田中和将の歌声が際立っていた。彼の歌声が空の向こうにどこまでも伸びていくような、そんな気持ちよさを感じる。蝉の鳴き声も演奏に参加しているかのように響いていて、そんな部分からも日常の中にGRAPEVINEの音楽が自然と溶け込んでいく感じがして、不思議な気持ちになる。

 

田中がアコースティックギターに持ち替えてから演奏された、メンバーのコーラスワークが印象的な『The milk(of human kindness)』の、ミニマムな演奏から壮大な演奏へと変化する展開も生で聴くと最高だ。この壮大さは野外で聴くと気持ちいい。

 

そこからミドルテンポで美しい楽器の音色や歌のメロディが印象的な『EAST OF THE SUN』を、しっかりと聴かせて観客を心地よくさせる展開にもグッとくる。

 

東京のビル群が見える日常を感じる野外会場というシチュエーションなので、日常の中にGRAPEVINEの音楽をじわりと溶け込ませるような選曲や演奏を意識しているのかもしれない。

 

千代田区のアモーレ達よ。降るかと思ったら止みましたね。カッパ共が集まって妖怪大戦争と言おうと思っていたんですが...

 

最近の田中がファンをアモーレと呼ぶ都度に少しだけヒヤヒヤするが、今日も田中はご機嫌で楽しそうだ。河童と合羽をかけた駄洒落はスベッていた。

 

続けて演奏された『Big tree song』では演奏が止まり観客とメンバーの手拍子だけをバックに歌うパートがある。そこで観客が演奏に参加することで一体感が増していく。この楽曲で会場のステージと客席の心の距離が近づいた気がた。

 

メロディアスながらも長いアウトロで演奏力の高さを見せつける『Seclet A』も良い。このような楽曲を演奏できるのはGRAPEVINEの魅力だろう。『ソープオペラ』の気持ちの良いギターのカッティングも野外会場で生で聴くと、いつも以上に気持ち良い。少しずつ空が暗くなってきたこともあってか、照明演出も使われるようになった。この楽曲では紫色にステージが照らされていて、それが美しかった。

 

もしかしたらGRAPEVINEのことを、最近好きになった観客は少なくはないのかもしれない。もしくは最新のGRAPEVINEこそ至高だと思うファンが多いのだろうか。

 

そんなことを最新アルバムのリード曲『雀の子』の演奏始まりで思った。他の曲では歓声は少なかったのに、客席から「待ってました!」とでも言いたげな歓声が響いたからだ。メンバーも会場の空気を感じ取ったのだろうか。田中は間奏で「日比谷!」と煽っていたりと楽しそうにしている。

 

「新しい曲も出ていますので」と言ってから演奏されたのは、リリースされたばかりの新曲『NINJYA POP CITY』。疾走感ある楽曲でこれからライブで演奏されることが増えそうだ。

 

田中はイントロで忍者のポーズをしたり、手裏剣を投げる真似をしたりと、歌と演奏だけでなくダンスにも励んでいた。万が一にもTikTokでバインの楽曲がバズるとしたら、この楽曲を忍者ダンスした動画かもしれない。

 

今回のライブはビクター移籍10周年を記念した公演である。そのため移籍後の楽曲でセットリストが組まれているわけだが、その中でも特にコアなファンがもとめているような濃密な楽曲や渋い楽曲が多い。シングルやアルバムリード曲だけを聴いてきたライトファンは困惑するほどに。

 

続く『弁天』や『吹曝しのシェヴィ』もそうだ。バンドの濃い部分が滲み出ている楽曲ではあるものの、なかなかにマニアックである。特に『吹曝しのシェヴィ』なんて、シングルのカップリング曲なのだから。

 

ほんのりと80年代リバイバルの匂いを感じる『MAWATA』や、独特なリズムが特徴で田中の叫ぶような歌唱が胸に刺さる『ミチバシリ』も、なかなかにマニアックな楽曲である。だがそんな曲もしっかりと観客全員に伝わっている空気感なので、会場の空気は常に良い感じだ。

 

メロディアスながら演奏は重厚で特に西川弘剛のギターソロが印象的な『楽園で遅い朝食』も、隠れた名曲と言うべき楽曲かもしれない。だがそのような楽曲でも観客は身体を揺らしたり、盛大な拍手を鳴らしたりしていた。

 

ライブタイトルに使われた”Decade”とは日本語で10年という意味ですが、我々はビクターに移籍して今年で10周年ということでタイトルに使いました。

 

これから20年30年と続けていきます。俺が先に死ぬか、お前が先に死ぬか、どっちが先か(笑)

 

ここから千代田区を!千代田区を!どうしてやろうか......?

 

まあ、いいか。千代田区は千代田区のままでいい!

 

改めてレーベル移籍10周年について語る田中。千代田区を主語にして観客を煽ろうとしたものの、思い浮かばなかったのか煽ることを諦めていた。

 

「あと7兆曲!」と言って演奏が再開。実際は7曲だった。

 

やはり最新アルバムをきっかけにライブへ足を運んだ人が少なくはないのだろう。最新アルバムのリード曲である『UB(You bet on it)』で歓声が巻き起こっていた。田中が千代田区を主語にして煽る必要などなかったのだ。演奏と選曲で観客はしっかりと盛り上がっていたのだから。

 

だがGRAPEVINEは盛り上げるよりもしっかりと音楽を聴かせることに重きを置いているバンドだとは思う。続く『雪解け』では繊細な演奏と歌で、観客をステージに集中させる。後半のバンドの演奏が重なり壮大になっていく展開はものすごい迫力だ。外も暗くなって照明が映える時間になったこともあって、照明演出も楽曲の壮大さをより感じさせるための手助けになっている。

 

西川のキレッキレなギターリフと力強い亀井亨のドラムから始まった『HESO』も最高だ。田中のシャウトも凄まじい。ミドルテンポながらも聴いたものの心を奮い立たせる熱いロックだ。ギターソロで歓声をあげる観客がいたことも納得である。

 

そこからなだれ込むように『リヴァイアサン』が続く流れにも痺れてしまう。こちらもギターの音が際立つロックナンバー。GRAPEVINEのライブで観客が腕を上げることは珍しいのだが、この楽曲ではテンション高めに腕をあげて盛り上がっている観客がたくさんいた。

 

〈雨あがって〉という歌詞から始まる『さみだれ』も、雨上がりに行われたライブの選曲としてはシチュエーションがマッチしすぎていて完璧である。紫色の照明に照らされながら演奏する姿も良い。

 

個人的に今回のライブで最もグッときたのは『Gifted』だ。ライブで演奏される回数が多い楽曲ではあるが、怪しげな轟音と化け物のような声量の田中のボーカルが、東京の曇った夜空を突き抜けるように響いていくことに鳥肌が立つ。薄暗い真っ青な照明もカッコいい。ライブでも聴きなれている楽曲だが、それでも新鮮に感動できるほどの名演で素晴らしかった。

 

ラストは『SEX』。メンバーは紫色の照明に包まれ、後ろの壁には照明の光による渦のような模様が浮かび上がる。そんな妖艶な景色が、色気のある演奏や歌声と相性が良い。最後に田中が深々とお辞儀をして、心地よい余韻を残してメンバーはステージを後にした。

 

田中「(曇り空を見上げながら)本日はお日柄も良く、皆さん合羽もぬぎすててますが、何もかも脱ぎ捨ててしまえ!」

観客「wwwwww」

 

アンコールで出てきたと思えば、全裸になるようファンに勧める田中。誰も脱がなかった。

 

「アンコールやるぜ!Are you ready日比谷!?Are you readyアモーレたちよ!」と田中が叫んでから始まったのは『Ready to get started』。田中と西川のユニゾンでのギターが痺れるほどにカッコいい。疾走感ある演奏で、観客も心地よさそうに踊っている。サビ前に毎回ポージングしながら空を指さす田中は少しかわいい。

 

観客と同様に笑顔で楽しそうなメンバー。「あと2兆曲やるからな!」と叫ぶ田中。実際は残り2曲だった。

 

売店の酒は飲み尽くしましたか?

 

「それでもバインの客か!?」思われるのは嫌なんで売り切れになるまで飲んでください(笑)

 

まだまだ夏は続きますが、そんな感じに過ごしていきましょうじゃないですか

 

売店の売上とバンドのイメージを大切に想い、アンコールでアルコールの話をする田中。

 

続けて演奏されたのは『SPF』。〈迂闊な僕らは紫外線集めた〉という歌詞から始まる、夏の野外がピッタリの楽曲だ。歌詞だけでなくメロディアスな歌と渋いロックサウンドも、夏の夜にピッタリだ。

 

移籍して10年ですが、バンド自体はにじゅう、えーと、忘れたけど二十何年かやってます!まだ続けて行きます!

 

また会おうぜ千代田区!!!

 

自身のキャリアを忘れてしまう田中。だが今後もずっとバンドを続けていくつもりなのだから、何年やったかなんてたいして気にしないのだろう。

 

そんな話をしてから〈このままここで終われないさ 先はまだ長そうだ〉と歌う『Arma』を歌うのだから、感動するのは当然だ。この楽曲も〈君を夏に例えた〉という歌詞があるように、夏の野外がピッタリである。

 

サポートキーボードの高野勲もアコースティックギターを弾くことで、音に厚みが増していた。それによって演奏は壮大になっていく。この楽曲はライブで頻繁に演奏されるが、その毎回が特別なタイミングや重要なタイミングに思う。今回も特別かつ重要なタイミングだったのだろう。そして「これからも続けていく」という宣言にも聴こえた。

 

一番のサビを歌え終えた後に田中はマイクを通さずに口パクで「ありがとう!」と言っていたし、アウトロでは何度も「ありがとう!」と叫んでいた。この楽曲には感謝を伝える想いも込められているのだろうか。

 

やりきった表情をしてステージを去っていくメンバーと盛大な拍手を贈る観客。高野は持っていたアコースティックギターをステージ中央に立て掛けてから去っていった。ハミングバードの模様が客席から見ても美しい。「これで今回のライブは終わり」というメッセージを、行動で示しているようだ。

 

今回のライブはビクターへの移籍10周年を記念したもので、移籍後の曲で構成されたライブだった。しかし「集大成」とは思わなかった。移籍後の曲をやるというコンセプトライブに思った。

 

なぜなら未来の話や続けるという宣言をMCで話していたし、選曲からもそのような意志を感じたからだ。

 

もちろん何があるかわからないものがバンドだとは思う。だが自分は「これから20年30年と続けていきます。俺が先に死ぬか、お前が先に死ぬか、どっちが先か(笑)」といつブラックジョークに、すべてのありふれた光が詰まったかのような強い希望を感じてしまったのだ。その自分が感じた気持ちを信じたい。

 

武器はいらない。GRAPEVINEのいる次の夏が来ればいい。

 

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■GRAPEVINE The Decade Show Summer Live 2004 at 日比谷野外大音楽堂 2024年7月13日(土) セットリスト

1.サクリファイス
2.The milk(of human kindness)
3.EAST OF THE SUN
4.Big tree song
5.Seclet A
6.ソープオペラ
7.雀の子
8.NINJYA POP CITY
9.弁天
10.吹き曝しのシェヴィ
11.MAWATA
12.ミチバシリ
13.楽園で遅い朝食
14.UB(You bet on it)
15.雪解け
16.HESO
17.リヴァイアサン
18.さみだれ
19.Gifted
20.SEX

 

アンコール

21.Ready to get started
22.SPF
23.Arma