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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE 『in a lifetime presents another sky 』at 昭和女子大学 人見記念講堂 2022年7月1日(金)

GRAPEVINEが『another sky』をリリースした当時を、自分はリアルタイムでは知らない。

 

だから『another sky』の再現ライブが行われることを嬉しく思う。名曲が揃ったアルバムだが、最近は演奏される機会が減っている曲が多いアルバムでもあるからだ。それに過去の名曲に再びスポットライトを当てることも大切だ。

 

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人見記念講堂で行われたGRAPEVINE『another sky』の再現ライブ『grapevine in a lifetime
presents another sky』。久々の楽曲を聴けることと、それを今のGRAPEVINEがどのように表現するのかに期待しつつ会場へと向かった。

 

特別なライブであるものの、始まり方はいつも通りではあった。

 

メンバーはリラックスした様子で登場し準備を進めている。違う部分と言えば田中和将が『lifetime 』のCDジャケットに使われたと光るボードを持ってきて、客先に満面の笑みで見せびらかしていたことぐらいだ。

 

そんなメンバーの姿を見て「当時に戻った感覚で20年前のアルバムを再現するライブ」ではなく「今のGRAPEVINEとして20年前のアルバムを再表現するライブ」なのだと察した。

 

1曲目の『マリーのサウンドトラック』からしても、メジャーデビュー25周年のバンドだからこその貫禄を感じる。おそらく20年前には出せていなかった風格だ。やはり再現と言うよりも再表現だ。

 

しかし『ドリフト160(改)』や『BLUE BACK』のような疾走感ある楽曲が続くと、「20年前にタイムスリップした?」と思うような勢いや衝動を感じる演奏をしていた。汗だくになって演奏する田中と金戸覚の姿は、まるで若手ロックバンドのようだ。なぜか西川弘剛は涼しそうな顔をしている。汗もほとんどかいていない。謎である。

 

 

 

 

演奏も盛り上がりも熱すぎたためか、早くも白シャツの袖をまくる田中。何度もタオルで顔の汗を拭いている。使い終わったタオルは丁寧ににたたんでいた。偉い。

 

ちなみにGRAPEVINEはタオルのたたみ方だけだなく、演奏も丁寧なバンドである。

 

続く『カレーマダクッテナイデショー』はバンドの全楽曲の中でも、特にファンキーな演奏の楽曲だ。

 

その心地よく気持ちいいリズムを奏でるためには、丁寧な演奏が必要だ。GRAPEVINEはとても丁寧なバンドなので、丁寧な演奏で音源以上にファンキーで気持ちいいビートを鳴らしてくれる。

 

この丁寧さもメジャーデビュー25年のキャリアがあるからだろう。アウトロでは田中が金戸を指さし、それを合図に前に出てベースを弾き倒す金戸の姿は最高にクールだった。丁寧かつ熱いプレイだった。

 

田中がアコースティックギターに持ち替えてから演奏された『それでも』は、さらに丁寧さが際立っていた。メロディアスな楽曲だが、田中はその魅力を繊細な表現で歌い表現している。音源での歌唱よりも深みが増しているように感じた。

 

今回のライブで最も丁寧だったのは『Colors』に思う。スローテンポで重厚なサウンドだが、これは丁寧さがなければ表現できない。

 

バンド演奏はスローテンポの方が難しいのだが、GRAPEVINEは丁寧な演奏で難しい演奏も難なくこなすのだ。

 

そこから『Tinydogs』『Let me in〜おれがおれが〜』と重厚な演奏の楽曲が続いた。

 

『another sky』の収録曲はバンドのグルーヴやサウンドが、それ以前の作品以上に際立っている楽曲が多い。それは現在のGRAPEVINEの方向性に大きな影響を与えたと思う。この方向性を突き詰めていき、和製Radiohead(マカえんのはっとりが関ジャムで言っていた)と評される音楽を完成させたのだと感じる。

 

そんなキレッキレの熱い演奏をしてさらに汗だくになった田中は、何度もタオルで顔を拭いていた。そしてやはり、使い終わったタオルを丁寧にたたんでいた。偉い。

 

 

 

 

改めて集中するためか、少しの無音を挟んでから『ナツノヒカリ』が披露された。7月に入った今ら最もシチュエーションにマッチしている楽曲だ。

 

音源と同様に爽やかさと煌めきを感じるサウンドだが、やはり貫禄と余裕を感じる。それがあるから圧倒されてしまう。そこから続く『Sundown and hightide』の演奏は若手時代と変わらない疾走感や衝動があった。しかもそれに加えてベテランだからこその深みも感じさせるのだから、今のGRAPEVINEは最強なのだ。

 

前回のツアーでも演奏されたりと披露回数が多い『アナザーワールド』で完成度の高い演奏を聴かせてから、アルバムのラストナンバーである『ふたり』へと続く。

 

この楽曲は特に「再現と言うよりも再表現」に感じるアレンジがされていた。

 

音源通りに演奏が再現されていくが、歌唱パートが終わるとジャムセッションが始まったのだ。流石の演奏力と迫力ある音圧に圧倒させる。あまりの凄さに観客が傍観してしまうほどだ。

 

セッションが終わると1人ずつステージから去っていくメンバー。最後に高野勲がアルバム1曲目の『マリーのサウンドトラック』のギターで鳴らされていたリフをシンセサイザーで弾いて、演奏が完全に止まった。

 

この演出や編曲はアルバムの流れの重要さや意味を、言葉でなく音楽で表現しているように感じた。ライブによって音源の重要さを伝えているのだ。

 

『another sky』の楽曲をアルバムの曲順通りに、MCをせずに演奏した再現ライブ。このライブを観たことでアルバムの魅力をより深く知れたような気がする。

 

メンバーはステージから去ったものの、まだライブが始まってから1時間も経っていない。だからライブはまだまだ続く。休憩を挟んでからアルバム再現とは関係がない、今のGRAPEVINEのライブが始まった。

 

再登場すると「我々は今年で25周年です! 」と言って手を合わせて客席を拝む田中。「お客様は神様」の精神なのだろうか。GRAPEVINEのファンは匙を投げないタイプの神様だと信じている故の行動だろう。

 

「今回Another skyの再現をやったのは、アルバムリリースから20年経ってキリが良かったからです。それ以外に理由はありません(笑)」と再現ライブをやった理由を語る。深い意味はなく、やりたいからやるというのが彼ららしい。

 

 

 

 

「ここからは自由にやらせてもらいます」と言ってから演奏された後半の1曲目は『CORE』。

 

〈ここは七色 ここは七色になる〉という歌詞に合わせてか、前半はカラフルな照明がステージを彩っていた。しかし演奏は重厚なロックサウンド。後半は凄まじいセッションになっていく楽曲だ。音と景色のギャップに痺れてしまう。

 

後半は「今やりたい曲」を中心に披露したかったのだろうか。『さみだれ』『Gifted』『ねずみ浄土』と最新アルバムの楽曲を続けていった。

 

特に『ねずみ浄土』のコーラスワークと音数を減らし音の隙間を作ることでノリを生み出す演奏は、今のGRAPEVINEだからこその魅力が詰まっている。

 

このまま新曲中心のセットリストが続くのかと思いきや、次に演奏されたのは『コーヒー付き』。アルバム『Here』に収録されているインタールード的な短い楽曲だ。調べたところ22年振りのライブ披露だったらしい。超絶レア曲だ。

 

さらに『1977』と最近のライブでは珍しい楽曲を続ける。今回のライブはアルバム再現+新曲&レア曲を演奏することが目的と思ってしまうようなセットリストだ。

 

ツアーが今日から始まりました。こうしてライブがたくさんできるようになったことが嬉しいです。

 

暑い日が続きますので、気をつけつつも、また遊びに来てください。

 

とはいえ、今日は400万曲やりますので。

 

恐ろしい長尺ライブになることを伝える田中。

 

ちなみに春の中野サンプラザ公演では「650万曲やる」と言っていた。今回のツアーは曲数が250万曲も減ってしまった。

 

続けて演奏されたのは『STUDY』。こちらもレア曲だ。『BLUE BACK』のカップリングだから披露されたのだろう。うねるようなグルーヴが最高なロックナンバーだ。

 

そして『Score』を畳み掛ける。こちらも久々に演奏されたレア曲で、6年振りのライブ披露である。

 

予想外の曲が続く後半。観客は驚きと興奮で感情がぐちゃぐちゃになっていたと思う。さらに『R&Rニアラズ』とまた珍しい曲を続けるのだから、さらに感情がぐちゃぐちゃになる。亀井亨の力強いドラムから始まりギターリフが重なる瞬間が最高だ。

 

「しっかり夏をすごせよーーー!」と爽やか発言をしてから最後に披露されたのは『風の歌』。これも最近のライブでは披露回数が少ない意外な選曲だ。

 

どこまでも先を描いてゆく

いつだって少しの夢を見て

揺れていたいんだ

GRAPEVINE / 風の歌

 

今年でメジャーデビュー25年目。リリースから20年経ったアルバムの再現ライブを行った日の最後のこの歌詞の楽曲を披露されると、それが「まだまだバンドを続けていく」という意思表示に感じる。

 

「今日はあつい日でした」と田中が言って去っていくメンバー。気温についてもライブについても触れているようなダブルミーニング的な発言である。

 

アンコールに出てくると「漢字ドリルを売っています。これはみなさんの夏休みの宿題です。この夏で賢くなってください」と言って物販紹介をする田中。演奏だけでなく商売に対しても抜かりがない。

 

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最後に演奏されたのは『Arma』。この曲は今のバンドの姿を示した歌だと個人的に思っている。〈物語は終わりじゃないさ〉と高らかに歌う姿と、壮大な演奏を鳴らすバンドの姿に、そんなことを思ってしまう。

 

今回のコンセプトは『another sky』の再現ライブ。だから懐かしのナンバーに思いを馳せるつもりでいた。

 

実際に今とは違う若々しさを演奏から感じる瞬間はあったし、メンバーの表情も当時を彷彿とさせるものはあったかもしれない。

 

しかし今のGRAPEVINEとして20年前のアルバムを進化した形で表現していた。後半は今のGRAPEVINEだからこそ映えるセットリストや演奏だった。

 

そこからは懐かしさではなく新しさを感じた。確実にバンドが進化していることを実感するライブだったからだ。思いを馳せるどころか、今後の活動が楽しみになるライブだった。

 

空を見ると季節が変わることを実感するぐらいにナツノヒカリのせいで暑かった日に観たライブは、これからもGRAPEVINEがどこまでも先を描いていくのだと思ってしまうライブだった。

 

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GRAPEVINE grapevine in a lifetime
presents another sky
 at 昭和女子大学 人見記念講堂 2022年7月1日(金) セットリスト

- 第一部 -

01.マリーのサウンドトラック
02.ドリフト160(改)
03.BLUE BACK
04.マダカレークッテナイデショー 
05.それでも 
06.Colors 
07.Tinydogs 重厚
08.Let me in〜おれがおれが〜 
09.ナツノヒカリ
10.Sundown and hightide
11.アナザーワールド
12.ふたり

- 第二部 -

13.CORE 
14.さみだれ
15.Gifted
16.ねずみ浄土
17.コーヒー付
18.1977
19.STUDY
20.Scare
21.R&Rニアラズ
22.風の歌

EN1.Arma

 

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