オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】小山田壮平バンドツアー2022 at 昭和女子大学 人見記念講堂 2022年6月28日(火)

バンドセットでは約1年ぶりとなる、小山田壮平の全国ツアー千秋楽。

 

約2000人の観客で満員に埋め尽くされる人見記念講堂に、スピッツ『流れ星』をSEにゆっくりと小山田壮平とバックバンドが登場した。

 

f:id:houroukamome121:20220629102353j:image

 

バンドメンバーはお馴染みの濱野夏椰(Gt.)と久富奈良(Dr.)に、andymori時代からの盟友の藤原寛(Ba.)。もはや小山田壮平とサポートメンバーというより、この4人でロックバンドとして活動していると評した方がしっくりくる。

 

だからか1曲目の『Sunrise & Sunsat』の時点で凄みのあるグルーヴを生み出していた。andymori時代の楽曲ではあるが、当時と比べると疾走感よりも音の厚みや余裕を感じる演奏で、そこにこの4人の個性を感じる。このメンバーだからこそ鳴らせるアンサンブルだ。

 

『旅に出るならどこまでも』では、そのグルーヴはより強靭になる。後半で展開が変わる楽曲だが、そこのうねるようなノリを作る演奏に痺れてしまう。

 

メンバー紹介の後に「ツアー千秋楽、じっくり楽しんでください」と伝えてから演奏されたのは『16』。andymori時代の楽曲だ。

 

前半2曲では力強いサウンドで圧倒させていたが、この楽曲では小山田はアコースティックギターを弾きながら繊細な歌声を響かせている。演奏も丁寧で心地よい。彼らは序盤から様々なタイプの音色で楽しませてくれる。

 

そこから力強いギターリフが印象的な『OH MY GOD』や疾走感ある演奏の『kapachino』で盛り上げるギャップには痺れてしまう。鬼気迫るような表情でシャウトする小山田の姿も最高だ。

 

あれだけ凄い歌をうたっていたのに、MCでは「ねっ!ねっ!千秋楽っ!だね!」と両腕をあげて変なポーズをしながら無邪気に喜ぶ小山田壮平。そうとうツアーが楽しかったのだろう。「全国13箇所を回ったので仕上がってます!」と言って演奏の出来を自画自賛していた。

 

MCの話題は「ツアーで行った先で美味しかった食べ物」になり、新潟の魚が美味しかったという話から、アニキサスに関する興味深い話へと広がっていった。

 

藤原寛「アニキサスの問題で俺は食べられない魚と食べられる魚がある」

小山田壮平「だから寛が食べれる魚をを分別して持って帰らせたんだよね」

藤原寛「でも、食べられるやっと駄目なやつを逆だと勘違いして、俺が食べられないやつばかり貰っちゃった」

小山田壮平「それ食べたの?」

藤原寛「勿体ないから食べた。食後1時間ぐらいは恐怖でふるえてたけど、結局何も無くて助かった」

 

恐ろしい話をする藤原。命を使ってギャンブルするのは控えて欲しい。

 

藤原寛「前澤友作さんがアニキサスのない魚を養殖しようとしているから、前澤さんの仕事には期待しています」

小山田壮平「前澤さんは凄いですし、本当にありがたいですね」

 

前澤社長に対するリスペクトの気持ちを表明する2人。しかし前澤社長から話を広げることができずに微妙な空気が流れてしまった。

 

すると突然ハイテンションで「いええええい!3階席!声は出せなくても気持ちは伝わってるぜ!」とシャウトする小山田壮平。しかし会場の人見記念講堂は2階席までしかない。彼には何が見えていたのだろうか。

 

 

 

 

そんなハイテンションさを見せていたものの、次に演奏されたのは『雨の散歩道』。ミドルテンポで心地よい楽曲だ。そのギャップも良い。

 

『スランプは底なし』では再びシャウトしながら歌い、演奏はオルタナティブな激しいものになっていく。やはりこの4人で様々な音楽を聴かせて楽しませてくれる。

 

続く『月光荘』は未音源の楽曲で、前回のバンドツアーでは新曲として弾き語りで披露されていた。しかし今回はバンドアレンジ。以前とは違う疾走感ある力強い楽曲へと進化していた。

 

アコースティックギターの音色が映える『ローヌの岸辺』の幻想的な雰囲気も良い。照明の光は美しくステージを包みこむ景色が胸に沁みる。そこから『彼女のジャズマスター』で再びロックの衝動をぶつけるような演奏を繰り広げ、『夕暮れのハイ』をオレンジの照明の中で壮大に響かせる展開も最高だ。

 

andymori時代の名曲『投げKISSをあげるよ』は、歌も演奏も照明も、優しく包み込んでくれるような温かさがあった。〈大丈夫ですよ 心配ないですよ〉と歌う小山田の声は、年々優しく語りかけるような声色になっていると感じる。

 

カラフルな照明の中で『恋はマーブルの海へ』を演奏し多幸感に満ちた空気を作ってから披露された『空は藍色』は、今回のライブで自分が特にグッときた楽曲である。

 

小山田のアコースティックギターの温かな音色と重厚なバンドの演奏が組み合わさったサウンドは、優しさと力強さが共存していて刺激的だ。最初のサビが終わった後の演出に自分は感動した。演奏が盛り上がって間奏になるタイミングで、ステージ全体がが照明によって藍色に包まれたのだ。その景色が楽曲の空気感を見事に表現していたからグッときたのだ。

 

そういえば今回の照明は歌詞の内容に沿ったものが多い。『Sunrise & Sunsat』で〈青い青い空の色に恋焦がれ〉と歌われた時はステージが美しい青に染まっていたし、『夕暮れのハイ』では時折オレンジになる照明が印象的だった。演者だけでなくスタッフも含めて楽曲を理解し音楽をリスペクトしているのだろう。

 

濱野夏椰「美ら海水族館に行ったんだよね?」

藤原寛「ウミガメを見ました。可愛かった/// 赤ちゃんウミガメが可愛かった/// ウミガメの水槽に住みたい///」

小山田壮平「僕は宮古島の海でウミガメと泳いだことがあります」

濱野夏椰「ウミガメはなんか言ってた?

小山田壮平「水温が良い感じって言ってた」

 

ウミガメにデレデレする藤原と、ウミガメと会話ができる小山田壮平。そもそも小山田がウミガメと会話ができると思っている濱野も少しおかしい。

 

会話の内容はおかしいが、音楽におかしい部分はない。最高の楽曲と最高の演奏だ。

 

 

 

 

新曲『スライディングギター』を爽やかな演奏で届けた後、小山田と濱野が向かい合ってユニゾンでギターを弾いてから始まる『HIGH WAY』で観客を心地よく揺らす。

 

アコースティックな『ゆうちゃん』の優しい音色や『君の愛する歌を歌いたい』の温かな歌唱も印象深い。後半は盛り上げるというよりも、しっかりと聴かせて深い余韻を残すタイプの楽曲や演奏が続いた。

 

「最後の曲です。本当に、今日はありがとう」と一言だけ告げて演奏されたラストソングの『サイン』も、そのような楽曲と演奏だった。

 

アコースティックギターでの弾き語りから始まり、そこからバンドの繊細な演奏が加わる。やはり小山田の歌声は、観客に優しく語りかけるようで、それでいて真っ直ぐ心を突き刺すようなものだった。これが彼の音楽の大きな魅力なのだと実感する。

 

パンデミックはまだ終わっていないし、戦争も起こっている中で、こうして音楽をやれる場に立てていることを幸せに思います。

 

アンコールに1人だけで出てきた小山田壮平。短めに音楽を続けられていることへの想いを語ってから、弾き語りで1曲披露した。

 

演奏されたのは未音源曲の『時をかけるメロディ』。アコースティックギターを丁寧にアルペジオで弾きながら、真っ直ぐな歌声を響かせていた。やはり本編の後半と同じように、温かくて優しい余韻が残る音楽だった。

 

観客の盛大な拍手を浴びながら「メンバーを呼びます」と言ってバンドを呼ぶ小山田壮平。その中にはさりげなく元くるりのファンファンも混ざっている。突然のサプライズゲストに驚き盛大な拍手を贈る観客。

 

小山田壮平「あら?ファンファンじゃないですか?」

ファンファン「来ちゃいました///」

小山田壮平「東京だけのスペシャルゲスト、ファンファン!」

 

とぼけたふりをした小山田による紹介で、さらに客席からの拍手はさらに大きくなっていく。ファンファンはandymoriのレコーディングに参加していたし、ツアーに同行したこともある。小山田壮平のファンにとっても馴染みのトランペッターだが、共演はかなり久々である。

 

そして「子どもを授かりました!」と言って両腕を上げてアピールする小山田壮平。ファンファンを招き入れたときよりも盛大な拍手を浴びている。さらに「濱野くんも子どもを授かりました!」と観客に伝え、さらに盛大な拍手を巻き起こす。「寛には立派な髭が生えました!」といって、特に何もない藤原寛をイジる小山田壮平。藤原も盛大な拍手を浴びていた。

 

小山田壮平「ファンファンから子育ての先輩としてアドバイスはないですか?」

ファンファン「子育てはすごく大変ですよ。でも、楽しいです」

 

ファンファンからのアドバイスを受けて、ニヤニヤする小山田と濱野。幸せそうな顔である。

 

 

 

 

そんな多幸感に満ちた中で演奏されたのは『1984』。andymori時代の名曲である。

 

ファンファンのトランペットが加わることで、音源に近いサウンドとして披露された。それでいて今の小山田が歌うからこその貫禄や余裕も感じられて、今の小山田壮平が歌うからこその音楽になっていた。中盤には自然と観客から手拍子が巻き起こったりと、貴重な共演に興奮しているようだ。

 

続く『アルティッチョの夜』ではまた違った熱量ある演奏で観客を圧倒させる。ファンファンはトランペットだけでなくタンバリンを叩いたりと、演奏に彩りを与えていた。〈何をしている ロックンロール〉というフレーズをシャウトする小山田壮平の姿は、まさにロックンロールとしか例えようがないほどの迫力だ。

 

最後に演奏されたのは『グロリアス軽トラ』。ミドルテンポの心地よいリズムの演奏に、ファンファンのトランペットが華やかさを加える。中盤には〈三茶の空の下〉と会場の最寄り駅へと歌詞を変えていた。その瞬間に会場が一体になった感覚が気持ちよかった。

 

最初から最後まで最高のライブだった。序盤のMCで言っていた通り、歌も演奏もツアー千秋楽だけあって仕上がっていたと感じる。

 

本人たちもライブの出来に満足しているのだろう。全ての演奏を終えた小山田壮平は、爆笑問題の太田光のような動きをして観客に感謝を伝えていた。ハイテンションである。

 

「千秋楽だから前に出て挨拶しよう」と小山田が言って、ステージ前方に出てくる5人。マイクを通さずに「ありがとうございました」と挨拶し頭を下げると、この日一番であろう大きな音の拍手が客席から鳴り響いた。

 

やはり小山田は嬉しすぎてハイテンションなのだろう。帰るときにモニタースピーカーに足をぶつけてズッコケそうになっていた。

 

今回のライブでも小山田壮平は、世界中を包み込むような愛する歌をうたってくれた。

 

f:id:houroukamome121:20220629102809j:image

 

小山田壮平バンドツアー2022 at 昭和女子大学 人見記念講堂 2022年6月28日(火) セットリスト

1.Sunrise & Sunsat (andymori)

2.旅に出るならどこまでも

3.16 (andymori)

4.OH MY GOD

5.kapachino

6..雨の散歩道

7.スランプは底なし

8.月光荘(未音源曲)

9.ローヌの岸辺

10.彼女のジャズマスター(未音源曲)

11.夕暮れのハイ

12.投げKISSをあげるよ (andymori)

13.恋はマーブルの海へ

14.空は藍色(andymori)

15.スライディングギター

16.HIGH WAY

17.ゆうちゃん

18.君の愛する歌

19.サイン

 

EN1.時をかけるメロディ(未音源曲)

EN2.1984(andymori) with ファンファン

EN3.アルティッチョの夜 with ファンファン

EN4.グロリアス軽トラ(andymori) with ファンファン