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【ライブレポ・セットリスト】小山田壮平『日比谷音楽祭2023』 at 日比谷公園 小音楽堂 2023年6月4日(日)

6月4日。日比谷公園で行われた『日比谷音楽祭2023』に小山田壮平が出演した。

 

出演ステージは小音楽堂。キャパ約1000人の会場だが、座席は全て埋まっておりキャパオーバーしていた。そのためか立ち見客もたくさんいて、開演前には入場も制限していたようだ。

 

それもそのはずだ。東京のワンマンならば2000人規模のホールを当然のように完売させるシンガーソングライターなのだから。短い時間のライブだとしても、入場無料だし観客は殺到するだろう。

 

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そんな満員の客席は熱気に満ちていたが、ステージに登場した小山田壮平はマイペースだ。ゆっくりと登場してチューニングをしている。そして満員の客席を眺めてから、嬉しそうに笑い「こんにちは。小山田壮平です」と挨拶して、一呼吸置いてから弾き語りで演奏を始めた。

 

観客から歓声や声援も贈られていたが、1曲目にandymoriの名曲『16』が歌われると、すぐに客席は静かになった。確かめるように丁寧に弾かれるギターと優しい歌声に、全員が自然と聴き入ってしまったのだ。

 

〈16のビートで空をいく〉という歌詞があるように、この楽曲には「空」という言葉がいくつも出てくる。野外でこの曲が歌われると、シチュエーションとマッチしてより感動的に聴こえる。この日は曇り空だったので〈空がこんなに青すぎると〉という歌詞とは、少しだけ状況が違う。しかし空を見上げながらサビを歌う姿にはグッときてしまう。

 

歌い終わり盛大な拍手と歓声を浴びる小山田。少し照れながら頭を下げ、すぐにまたチューニングをする。そしてハーモニカを首にかけてから、丁寧にギターを爪弾いて演奏が再開。2曲目は『ベースマン』。こちらもandymoriの名曲だ。

 

始まった瞬間に観客から歓びに満ちた拍手や歓声があがっていた。andymoriが好きだった観客が多いのだろう。音源よりもスローテンポになっていて、間奏はハーモニカでメロディを演奏していた。弾き語り用にアレンジされた編曲が最高だ。

 

『雨の散歩道』では彼がギタリストとしても上手いことを実感させられた。弾き語りではあるもののリフを弾いたりソロを弾いたりと、凝ったアレンジになっていたからだ。弾き語りはシンプルな演奏になりがちだが、小山田壮平は弾き語りでも複雑な演奏をすることがある。

 

かと思えば『ゆうちゃん』は、コードをジャカジャカと弾くシンプルなスタイルだった。しかしかわいらしくほっこりする内容の歌詞と跳ねるようなリズムには、このような演奏が似合う。小山田壮平は「弾き語り」というアレンジをして、自らの楽曲をライブで披露しているのかもしれない。

 

小山田壮平「亀田誠治さんから直々にオファーされて出演を決めました。このご時世なのでZOOMで打ち合わせをしたんですけど、ZOOMの画面に亀田さんがw画面にwバッと出てきてwww」

観客「・・・・・・」

小山田壮平「今日は晴れてよかったですね・・・・・・」

 

小山田壮平の笑いのツボは、変な場所にあるのだろうか。亀田誠治がZOOMの画面に出てくることが面白かったらしい。観客は動揺していた。彼も動揺したのか、天気の話へと話題を変えた。

 

ハーモニカとギターでイントロを演奏してから披露された『恋はマーブルの海へ 』も素晴らしかった。音源ではイントロはなくすぐに歌に入るのだが、イントロが加えられたことで楽曲の世界にじわじわと入り込めるアレンジになっていたと思う。音源よりもスローテンポだから歌詞がより胸に沁みる。

 

個人的に今回のハイライトは『空は藍色』だ。優しく奏でつつも楽曲展開に合わせてプレイスタイルを変えるギターの演奏が素晴らしい。歌が最も際立つようにギターアレンジを変えているように思う。イントロや間奏ではハーモニカも演奏し、楽曲を鮮やかに彩る。それにタイトル通り晴れた野外で聴くとよりグッとくる歌詞だ。この日に演奏されるべき画曲である。

 

野外だから周囲の環境に音楽は影響を受ける。『空は藍色』の最初のサビを歌っている時、ステージ後方の空に飛行機が通り過ぎた。飛行機雲はできてはいなかったが〈飛行機〉という言葉が歌われた時の出来事だった。

 

その瞬間周囲の環境が、音楽に影響を与えたと思った。それによって音楽への感動が増大したからだ。観客の拍手は長かった。きっとみんな同じように感動していたのだと思う。

 

次に演奏されたのは『時をかけるメロディ』。かなり前から存在しているものの、なぜか音源化されない未発表曲だ。早く音源リリースしてくれ。

 

この楽曲は繊細なタッチのアルペジオで演奏された。歌声も同じく繊細で、優しく語りかけるようだつまた。〈光をつれてゆく 時代に殴られても〉という歌詞が、コロナ禍を経て少しずつ状況が変わりゆく過渡期の今聴くと、特別な意味を感じてしまう。

 

盛大な拍手を浴びながら、ギターにカポをはめて次の曲の準備を進める小山田。しかしスタッフがステージ前に出てきて、演奏を止めさせた。どうやら持ち時間をオーバーしてしまったようだ。小山田壮平は苦笑いしながら「時間になっちゃったみたいです(笑)ありがとうございました」と言ってステージを後にした。

 

持ち時間を忘れてしまうほど、ステージに立っていて楽しいと思えるライブだったのだろう。観客も同じように最高のライブだと思っていたはずだ。フェスのトリではないのにアンコールを求める拍手をしている人が複数人いたのだから。

 

それにしても最後に演奏しようとしていた曲は何だったのだろう。その答えはわからない。

 

しかし今回のライブの続きは観れないが、「3メートル隣で鳴らす夢の続き」は次回の小山田壮平のライブで観ることができるはずだ。

 

■小山田壮平『日比谷音楽祭2023』 at 日比谷公園 小音楽堂 2023年6月4日(日) セットリスト

1.16 ※andymori
2.ベースマン ※andymori
3.雨の散歩道
4.ゆうちゃん
5.恋はマーブルの海へ
6.空は藍色 ※andymori
7.時をかけるメロディー ※未発表曲