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【ライブレポ・セットリスト】藤原さくら 弾き語りツアー 2022-2023 "heartbeat" at 埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 小ホール 2022年6月17日(金)

開演時間を過ぎて、ピンクのTシャツとロングのキャミワンピースを合わせたファッションで登場した藤原さくら。そのルックスは「かわいい」。

 

観客からかわいさへの賞賛とライブへの期待が入り交じった盛大な拍手を浴びても、無表情でお辞儀をしている藤原さくら。その態度も「かわいい」。

 

椅子に座りギターや機材の確認を始めたが、足元のエフェクターを踏んだ瞬間、「ボン!」という破裂音が会場に響いた。その音に驚きざわめく客席。藤原さくらも「え?」と言って客席を見渡してキョトンとしている。

 

どうやら機材トラブルのようだ。機材やギターを触って確認していたが、とりあえずは演奏に支障はなさそうだ。

 

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少々不穏な空気が漂う中で、藤原さくらの弾き語りツアー“heartbeat”の埼玉公演は始まった。しかし「こんばんは。藤原さくらです」と挨拶してギターを弾き歌い出すと、一瞬で空気が変わる。

 

1曲目に演奏された『500マイル』は、ガットギターを丁寧なアルペジオで弾き、繊細かつ感情豊かな歌声で披露された。その心地よい音色によって、観客を音楽の世界に引き込み集中させてしまう。機材トラブルのことなど、音楽の素晴らしさでわすれてしまった。

 

しかしそのまま同じく丁寧なアルペジオで『Ellie』を続けて歌っている最中、謎のノイズがスピーカーから流れた。弾き語りなのにシューゲイザーみたいな音色になっている。どうやらギター周りの機材に、再び問題が発生したらしい。

 

「凄い音が鳴ってませんか?鳴ってますよね?はい。鳴っていますw」と言って演奏を止める藤原さくら。すぐにスタッフが駆け寄ってギターを回収して行った。

 

ぽかんとした表情でギターを見送り「どこへ連れていんですか?悲しいんですけどぉ」と、テンションが低い時のギャルみたいに無表情でつぶやく。藤原さくらの中にはギャルが存在しているようだ。

 

しかし彼女の本業はギャルではなくミュージシャン。「今少しだけやった曲は、10代の頃に作ったちょっぴり切ない曲です」と言ってから、エレキギターに持ち替えて『Ellie』の演奏をやり直した。

 

おそらくこの曲をエレキギターで弾き語りしたのは初めてだろう。しかしこれはこれで良い。ロックなテイストもほんのりと加わり、楽曲にクールさが増している。

 

急遽のトラブル対応による演奏だったものの、本人も満足の出来だったようだ。「エレキでやるのも悪くないね」と言ってはにかむ。その表情は「かわいい」。

 

ここからは再びガットギターで繊細な演奏を披露していく。

 

続けて披露されたのは『Firewood』。Regina Spektorのカバーだ。

 

以前もライブで演奏していたし、つい先日パーソナリティを務めるラジオでも弾き語りを披露していた。未音源のカバーではあるが、聴き馴染みがあるファンも多いかもしれない。

 

原曲はピアノの演奏が印象的な楽曲だが、今回はガットギターでのカバー。きちんと藤原さくらが演奏する意味があるカバーとなっている。

 

藤原さくら「さいたまでのワンマンライブは初めてです。ここの会場は客席がコロシアムみたいですね。戦いが始まりそうな雰囲気です。戦いたくなったら呼ぼうと思います」

観客「??????(何を?誰を?)」

 

音楽は素晴らしいのにMCはシュールでカオスである。彼女は何と戦うつもりだろうか。

 

コロナ禍でこれからどうなるかわからない時期にこの曲を改めて聴いたら、これは希望の曲だと思いました。

 

しかし真面目な話も時折する。このように話してから演奏されたのは『春の歌』。スピッツのカバーである。こちらも彼女だからこそのアレンジで披露され、繊細な歌と演奏で観客を引き付けていた。

 

序盤はギターと歌だけのシンプルな弾き語りを行っていたが、ここからは今までとは違う新しいアレンジを取り入れて、弾き語りながらも刺激的な演奏をしていく。

 

『Walking on the clouds』ではフットパーカッションを使用し、リズムを奏でながらガットギターを弾いていた。その跳ねるような演奏に連れられて、自然と観客が手拍子を鳴らす。優しく温かい空気が流れる中で聴く彼女の音楽は、とても心地よい。

 

続く『わたしのLife』ではフットパーカッションの音色を変更し、『marionette』ではフットパーカッションのリズムパターンを変えて複雑なリズムを作り出していた。ギターだけで披露された『spell on me』ではギターを掻き鳴らすように弾いていた。

 

弾き語りと言えども幅広い音楽性を感じさせてくれる。今回の弾き語りツアーは、彼女にとって形を破り進化した演奏を披露することが目的の1つなのかもしれない。

 

今回は2年半ぶりのツアーです。コロナがあったのでアルバムを出しても、この2年半は全国に行くことはできませんでした。

 

人との接触を避けなければなかった2年半でした。だから今回はみんなの顔を近くで見れて、人との鼓動を感じられたらと思って開催したツアーです。だから全国の小さな会場を細かく回っています。

 

今回のツアーへの想いを語る藤原さくら。MCでは淡々と喋ることが多い。しかし心の奥底には熱い想いを持っているのだろう。

 

藤原さくら「次にやる曲は自粛期間中に朝までゲームをやりながら書いた曲です。昼夜逆転してました。埼玉の人たちも昼夜逆転してゲームをしていたことでしょう」

観客「??????」

藤原さくら「勝手ながら、埼玉の人達はそういう人とさせてもらいます」

観客「!!!!!!」

 

しかしやはり、音楽以外のことに触れるとシュールでカオスなことを話してしまう。

 

そんなカオストークの後に歌われたのは『Waver』。

 

この曲はエレキギターとリズムマシーンを駆使しながら披露された。そのサウンドは弾き語りの温かさと打ち込みの無機質さがミックスされていて、独特な音色になっていた。

 

今回のライブで特に衝撃的でハイライトと言える演奏だったのは『生活』だろう。

 

エレキギターでリフを弾きループマシンに録音させ流し、そこにリズムマシンの奏でるビートを組み合わせた。さらにフットパーカッションも鳴らしてビートを重厚にし、エレキギターも弾くことで音に迫力を加える。

 

そんな「1人でバンドをやっている」と言えるような演奏をしながら歌ったのだ。

 

しかもリズムマシンを途中で止めたり動かしたり、フットパーカッションのリズムを変えたりと、様々な作業をしている。それに加えてギターも弾き歌っているのだ。かなり難しいことをしているのに、涼しい表情で歌っている。

 

観客からは余裕を持っているように見えていたが、本人は物凄く集中していたのかもしれない。「上手くいって良かったぁ」と言って少しはにかむ。「かわいい」。

 

みんなも身近な人に対して素直になれなかった経験があると思います。みんなが少しだけ素直になれますようにという想いを込めて、この曲を歌います。

 

そう言ってから『ゆめのなか』が披露された。リズムマシンもフットパーカッションも使わずに、エレキギターの優しいアルペジオの音だけに合わせ、優しく語るように歌っていた。音源よりもスローになったテンポは心地よくて、胸に音楽が沁み入るようだ。

 

『mother』もエレキギター1本だけで披露されたが、ボーカルやギターにリバーブがかかっていて、それが幻想的な空気を作り出していた。その音色は段々と壮大になっていく。弾き語りとは思えないようなスケール感だ。

 

藤原さくら「今のブロックはみんなを眠らせるブロックでした。仙台ではプラネタリウムでライブをやったんですけど、本当にお客さんは寝たと思う」

観客「wwwwww」

藤原さくら「プラネタリウムは眠りに行く場所でしょ?」

観客「??????」

藤原さくら「私もライブ前にプラネタリウムを見たんですけど、上映中にクイズが出たらしいんですよ。でも寝てたんでクイズが出たことを一切覚えていません」

観客「wwwwww」

 

やはりMCはシュールでカオスである。

 

「ここからはみんなを叩き起こしまぁす」と緩い宣言をして、ガットギターに持ち替え演奏を再開。

 

「今日みたいな夜のことを歌った曲です」と言ってから『Lovely Night』を歌い始めると、自然と手拍子が客席から鳴らされる。寝てた観客も起きたようだ。会場が温かな空気で包まれる。

 

そのまま『Soup』『「かわいい」』とポップな曲を続けた。多幸感に満ちた中で演奏を終え「さよならぁ」と緩く挨拶して去っていく藤原さくら。あまりの緩さに謎の笑い声が客席に響く。

 

すぐにアンコールを求める拍手をする観客。それに応えて再登場した藤原さくらは、グッズのTシャツに着替えていた。

 

Tシャツを見せびらかしてから「皆さん、お待ちかねのグッズ紹介です!」と、この日1番と思えるような明るい声で言う藤原さくら。失笑しながら拍手をして「待ってました!」感を出そうとする観客。

 

次々とツアーグッズを紹介していくのだが、その紹介方法の全てが「売る気はあるのか?」と思ってしまうようなシュールな言葉である。

 

タオルを紹介する時は「男性はトイレで手を洗わないんですよね?汚いから手を洗ってこのタオルで拭いてください💢」と言って理不尽に男性ファンに怒っていた。しかし藤原さくらのファンはドMが多いだろうから問題ない。

 

「キーホルダーを作りました。ぶん回して遊んでください」「とても良い水筒を作りました。なぜなら私はサステナブルだからです」と他のグッズの紹介もシュールである。

 

グミに関しては「4つ入りで1000円のグミを作りました。人類が未だかつて見たことない高級な金額です。誰が買うんですか?」とマイナスプロモーションまでしていた。

 

しかし予想外に売れ行きが好調らしく「なぜかめちゃくちゃ売れてるみたいです。みんな、どうしたんですか?」とファンをディスる始末だ。しかし藤原さくらのファンはドMが多いので問題ない。

 

アンコール、何をやろっかなあ?

 

今日はファンの方が多く来てくれているようです。ん?ファンじゃなきゃ来ないのか?ここにいる人はわたしのファンばかりですか?

 

前半に機材トラブルがあってみんなを悲しませちゃったんで、そのお詫びとして予定より1曲多くやろうと思います。練習してない曲だけど、できるかな?

 

藤原さくらはドSではあるが、ドMなファンにご褒美もくれる。この日は1曲多めに披露するというご褒美だった。歓喜の拍手をする観客。

 

演奏されたのは『お月さま』。今回のツアーでは披露予定がなかったから練習はしていなかったのかもしれない。しかし活動初期から歌い慣れた楽曲ではある。だからか練習していないとは思えないほどに、素晴らしい歌と演奏だった。

 

音源よりもスローテンポで丁寧に演奏していたが、2番に入る前に「もうちょっと早くやろっかな」と言って、演奏のテンポをあげた。すると自然と客席からは手拍子が鳴らされる。演者と観客との阿吽の呼吸が最高だ。

 

新しい曲を沢山作っています。また新曲を持って埼玉に来ます。最後の曲は笑ってまた会おうという気持ちを込めて歌います。

 

再会を約束して最後に演奏されたのは『byebye』。この曲でも自然と客席から手拍子が鳴らされていた。

 

多幸感に満ちた空気の中、前に出て深くお辞儀をしてから去っていった藤原さくら。弾き語りと言えども様々な表現で魅せて聴かせてくれる、心地良さと刺激が両立したライブだった。

 

今回のツアーは数十人から数百人程度の小さな会場を回るツアーらしい。埼玉公演も3~400人程は入っていたものの、大きな会場とは言えない。正直なところ、それほど大きな儲けは出ないと思う。

 

それでも来年までツアーを行い全国各地を細かく回る理由は、MCで言っていた通り近くで顔を見て鼓動を感じるためだろう。

 

そういえば「さくらさんが大人になっても、おばあちゃんになっても音楽を続けていけるようにしたいですね」と言われたことがアミューズに入ったきっかけと以前インタビューで話していた。だからこそのツアーなのかもしれない。

 

彼女が音楽を続けるためには全国の小規模会場でたくさん演奏することも必要なのだろう。大きな儲けよりも大切なものがあるのだ。

 

小さな会場はチケットが簡単に取れない難点もあるが、ファンにとって嬉しいことはある。やはり近くで鼓動を感じられるし、音楽の温かみもより実感することができる。それに近くで見る藤原さくらは「かわいい」。

 

そんな藤原さくらの魅力の全てを味わいつくせるライブだった。

 

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■藤原さくら 弾き語りツアー 2022-2023 "heartbeat" at 埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 小ホール 2022年6月17日(金)

01.500マイル

02.Ellie

03.Firewood ※Regina Spektorのカバー

04.春の歌 ※スピッツのカバー

05.Walking on the clouds

06.わたしのLife

07.marionette

08.spell on me 

09.Waver

10.生活

11.ゆめのなか

12.mother

13.Lovely Night 

14.Soup

15.「かわいい」

 

EN1.お月さま

EN2.bye bye