オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】リーガルリリー『LIVE HOUSE TOUR 2025』at 渋谷クラブクアトロ 2025年4月3日(木)

開演前のフロア。いつものリーガルリリーのライブとは、少しだけ雰囲気が違うなと思った。期待と興奮が入り交じったような熱気を、いつも以上に感じたからだ。

 

渋谷クラブクアトロという数百人規模のライブハウスだから熱気が充満しやすいのか、それともいつもよりも男性客が多いからだろうか。何が理由だったにしろ、リーガルリリー『LIVE HOUSE TOUR 2025』の渋谷公演は、開演前の時点で良いライブになることが確定したかのような雰囲気である。

 

f:id:houroukamome121:20250412162030j:image

 

そんな空気の中、開演時間を過ぎてすぐに出てきたリーガルリリー。今回のサポートドラムも、12月に行われた対バンイベントと同様にDesire Nealyだ。そんなメンバーが鳴らした1曲目は『地獄』。

 

個人的には意外な選曲だったし、久々の披露に思えた。歌詞の内容も相まってか、ほんのりと緊張感を感じるヒリヒリした演奏が胸に刺さる。1曲目から圧巻の演奏に喰らってしまった観客が多いようで、演奏後に呆然としてしまっているような人が何人もいた。

 

しかしたかはしほのかの「こんばんは。リーガルリリーです」という簡単な挨拶から疾走感ある演奏で『17』が続くと、開演前と同様の熱気が会場を包み込む。サビでは腕を上げたり激しく動く観客がたくさんいた。最後のサビ前にタメるようにゆっくりとギター奏でて歌うたかはしの姿も印象的だ。

 

Desireの力強いドラムが響き、そこにうねるような海のベースの音が加わり、たかはしのテレキャスターの高速カッティングが加わり、ジャムセッションが始まる。観客もそれに合わせて手拍子したり歓声をあげたりと、さらに昂り始める。そんなジャムセッションは『東京』へと続く。当然ながらそんな展開に観客は興奮し歓声をあげた。

 

バンドもいつにも増して勢いがある。間髪入れずにたかはしが〈殺し屋が死ぬ〉と吐き捨てるように最初のフレーズを歌い『キラーチューン』が始めたが、その演奏はキレッキレで勢いがあったしサウンドは尖っていてクールだった。ロックバンドとしての凄みを見せつけるような姿である。

 

続く『ジョニー』も〈バカばっかの戦場に〉というフレーズのたかはしの歌から始まり、ヒリヒリしたサウンドをキレッキレな演奏で届ける。音源よりも長いアウトロも印象的だ。後半に自然と手拍子が巻き起こったことも、演奏が観客にしっかり届いていることの証明に思えた。

 

曲間を長く空けてから薄暗い照明の中、海の怪しげな音色のベースから始まったのは『9mmの花』。重厚なサウンドと中盤から激しくなったりと展開が複雑に変わる演奏が印象的で、バンドの演奏力の高さを実感できる楽曲だ。アウトロでのギターソロで歓声が湧き上がっていたのも納得の名演である。

 

フィードバックノイズが残る中、そのノイズを断ち切るように激しいドラムとベースから『60w』が始まると、再び観客のボルテージは一気に最高潮に。リーガルリリーの中でも特に疾走感ある楽曲で、観客も腕を上げたりと盛り上がる。

 

そんな観客の興奮も乾いた音のエレキギターをゆっくりとストロークしてから始まった『ノーワー』が始まると、再び緊張で張り詰めた空気になる。音楽によってリーガルリリーは一瞬で空気を変えてしまうのだ。中盤のギターソロはたかはしの感情がそのままギターの音に表れているかのような音色だった。

 

9曲連続で演奏して最初のMCへ。「こんばんは。ようこそ。たくさんの人が集まって、パンパンになっていて嬉しいです」と簡単に挨拶をするたかはし。手短にMCを終えると「とても久々の曲をやります」と告げてから『White out』が演奏された。2018年以来、約7年ぶりの披露だ。

 

たかはしが確かめるようにギターを1回ストロークしてから、息の合ったバンドの跳ねるリズムが奏でられる。サビでは衝動的な演奏になるがメロディは美しい。生で聴くと音源にはない音圧による迫力も加わっていて最高だ。リーガルリリーの個性がこれほどまでに詰まっている楽曲なのに、レア曲になってしまっていた。これからもライブで披露してほしい。

 

「春の曲をやります」と言って『春が嫌い』が始まったものの、途中で演奏を止めるバンド。どうやらギターのチューニングがずれていたらしい。演奏を止めると照れながら「チューニングをします」と話すたかはし。チューニングをしている間、海がトークで場を繋ぐ。

 

みなさん春はどうお過ごしですか?今は配信リリースでカバー企画をしていますけど、リーガルリリーの曲もいいですよね!

 

春は急に身体にガタッと来るじゃないですか。健康に気をつけていきましょう!

 

海がそんな話をした後にチューニングを終えたたかはしが「春が嫌い」と言って演奏を始めようとするから、まるで身体にガタッと来るから春が嫌いと言っているように聞こえてしまう。だからかフロアからは笑い声が漏れる。

 

今度の『春が嫌い』の演奏は、チューニングも合っていて完璧だった。桜色の照明も美しくて楽曲のイメージと合致していて最高だった。そこから轟音が響く演奏の『惑星トラッシュ』を続け、再びオルタナティブな演奏で観客を圧倒させる。シュールなMCが嘘かのようにかっこいい姿をこれでもかと見せつけきた。

 

観客が最も静かにステージを見つめた楽曲は『蛍狩り』だ。たかはしの弾き語りから始まり、ステージの照明も暗くなり、たかはしの側の豆電球だけが点灯し彼女を照らす。そこからバンドの演奏が丁寧に合わせるように入ってくる。豆電球の点灯する数もだんだんと増えていき、その光はまるで蛍のように見える。そんな美しい演奏と美しい景色に息を呑んでしまう。

 

静かに音が消え入るように曲が終わっていったが、観客は拍手を忘れるほどに曲の世界に引き込まれていた。そんな空気の中、たかはしがエレキギターの弾き語りで『ムーンライトリバース』を歌い始める。その歌声は音源よりも優しく聞こえた。

 

1番を歌い終わるとドラムとベースの繊細な演奏が加わる。音源ではピアノやストリングスの音が加わっているが、この日のライブは3人の音だけでオケを重ねずに演奏された。ライブ用の特別なアレンジがされていて、見事なロックバラードになっていた。12月のライブではオケを重ねて音源に近い形で披露していたので、今回のツアーで新たにアレンジを施したのだろう。

 

「MCをする時間です」という独特な挨拶からMCを始めるたかはし。

 

みなさんにはそれぞれ違う生活があって、それぞれ違う大切なものがあって、それぞれ違う場所から今日ここに来たと思います。わたしもその1人です。

 

この場所にやってきたことはいいとして、こと後はどうしよう。そんなことを無意識に考えているうちに、年齢は大人になりました。

 

私が1番大切にしたいものは、気持ちが弾けている時間ですそんな時間をキラキラの宝箱にいれたいと思っています。そんな気持ちが弾ける時間を作る実験をずっとしています。

 

自分の大切にしているものを、考えるきっかけにリーガルリリーのライブがなってくれたらなと思います。

 

ライブに込めた想いを語り「わたしが生まれた時の歌をうたいます」と告げて『1997』を演奏した。〈私は私の世界の世界の実験台〉という歌詞がたかはしのMCの言葉と重なり、よりグッとくる。重低音響くゴリゴリのロックサウンドも心と身体に響く。

 

ライブハウスツアーだからと、普段と想うことは変わりません。でも、私が音楽をやろうと思ったきっかけの場所は、ライブハウスでした。

 

自分というマッチ箱の中には、既に燃え尽きたマッチもあって、まだ燃えていないマッチもあって、たくさんマッチがあります。ライブハウスは炎の種がある場所だと思っています。ライブハウスもマッチ箱のようなものだと思っています。

 

そこで自分の中のマッチを燃やすように、演奏しようと思います。

 

淡々と語ってはいたものの、熱い想いがしかりと伝わってくる言葉だ。そんな言葉から続いたのは『天きりん』。疾走感ある演奏と他の曲よりも感情的に歌うたかはしの姿が印象的だ。観客がきりんのように腕を伸ばす景色も圧巻である。

 

そこから曲間なしで『キラキラの灰』が続く。音源よりもBPMが速い。メンバーの感情の昂りを表現するかのように演奏は音源よりも激しくなっていく。サビで爆発するような盛り上がりになる楽曲へと成長するとは、リリース当初は思わなかった。個人的には今回のライブのハイライトのひとつがこの楽曲だ。

 

たかはしとDesireが目を合わせて頷き合ってから最後に演奏されたのは『リッケンバッカー』。バンドの代表曲だ。

 

ライブではオリジナルのイントロをジャムセッションしてから始まることが多いが、今回は音源通りのイントロをいきなり始めるスタイルだった。それによっていつも以上に衝動的な演奏に聴こえ、だからか観客もいつも以上に騒ぐように盛り上がっていたように見える。ぼくだけのロックンロールを叩きつけるように演奏して、メンバーはステージから去っていった。

 

すぐにアンコールを求める拍手が鳴り響き、それに応えて再登場するメンバー。海から今後のライブ予定のお知らせがされたが、残念ながら自分はスケジュール都合がつかずに次のワンマンは行くことができない。悔しい。

 

たかはしは「今日はずっと思い出したいと思える日になりました。そんな場所に一緒にいてくれてありがとうございます」とこの日のライブの感想を話していた。そして「アンコール始めます!」と言ってから演奏が再開。

 

アンコールの1曲目は『ハイキ』。音源よりも長くなったイントロを演奏するメンバーは、心から音楽を楽しんでいるように見えた。最後のサビ前に自然と観客が手拍子を鳴らす。その観客の姿も、心から音楽を楽しんでいるように見えた。

 

たかはしが「みなさんの明日を願って最後に歌います」と告げてから最後に演奏されたのは『ますように』。祈るように丁寧に大切に歌っているように聴こえた。観客は心地よさそうに身体を揺らして、じっくりとリーガルリリーの音楽を受け取る。最後に深い余韻と幸せな気持ちを残して終演した。

 

今回のライブはリリースツアーでもないし、特別なコンセプトがあるわけではない。セットリストはレア曲もあったものの、ここ最近のライブで演奏されることが多い楽曲が中心だった。それでいて今までとは違うアレンジが施された楽曲もある。今回のライブツアーは実験的な部分もあったのかもしれない。

 

そんな実験的な演奏によって、今回のライブは気持ちが弾ける時間になった。中盤のMCでたかはしは最も大切にしたい時間は気持ちが弾けている時間と語っていたが、まさしくこの日のライブは、たかはしにとってもバンドにとっても観客にとっても、最も大切にしたい時間になったのだと思う。

 

f:id:houroukamome121:20250415172929j:image
f:id:houroukamome121:20250415172925j:image
f:id:houroukamome121:20250415172920j:image

 

◾️ リーガルリリー『LIVE HOUSE TOUR 2025』at 渋谷クラブクアトロ 2025年4月3日(木)セットリスト

1.地獄

2.17

3.東京

4.キラーチューン

5.ジョニー

6.9mmの花

7.60W

8.ノーワー

9.White out

10.春が嫌い

11.惑星トラッシュ

12.蛍狩り

13.ムーンライトリバース

14.1997

15.天きりん

16.キラキラの灰

17.リッケンバッカー

 

アンコール

18.ハイキ

19.ますように