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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE FALL TOUR@神奈川県民ホール 2020.11.01

※ネタバレあり

GRAPEVINE FALL TOUR

 

コロナ禍になってから行う最初のライブは、どのアーティストにとっても重要だ。

 

今のご時世でどのようなライブをやるのかによってバンドのスタンスや個性が伝わってくる。それは配信でも有観客のライブでも同様だ。

 

GRAPEVINEが有観客でのライブを行った。

 

これがバンドにとって1年ぶりのツアーであり、コロナ禍になって最初のライブである。

 

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コロナ禍で感じた想いをMCで話すバンドもいる。以前とは違うスタイルでライブを行うアーティストもいる。誰もがコロナ禍での新しいライブの形を模索しているし、ファンもどのように受け取るべきか考えつつ音楽に触れているようにも思う。

 

しかしGRAPEVINEは少しタイプが違った。結成27年目、デビュー23年目の貫禄と余裕を感じるようなステージで、コロナによって世界が変わったことなど感じさせないような涼しい顔でロックを鳴らしていた。だからファンも今まで通りに音楽に身を任せることができた。

 

つまり、GRAPEVINEは全く変わらずに、今までと変わらずに音楽だけで勝負していたのだ。

 

前半

 

 開演時間ちょうどに客席が暗転し、SEも流さずにゆっくりとステージに現れたメンバー。ゆっくりと準備をすすめ、ゆったりと演奏を始める。

 

1曲目は『HOPE(軽め) 』。ミドルテンポながらズッシリとした重低音が会場に響く。

 

ジワジワと空気を作っていく。涼しい顔をして演奏しているのに「これがGRAPEVINEだ」と演奏で伝えるかのような力強さだ。

 

「どうもありがとー」と1曲目を終えて挨拶をしたボーカルの田中和将。会場から破れんばかりの拍手が鳴る。

 

心なしかいつもよりも盛大で大きな拍手に思う。バインの演奏を再び生で聴けることへの感動と感謝と、一年ぶりのライブべの期待を感じるような拍手だ。

 

2曲目は『Arma』。

 

Arma

Arma

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

このままここで終われないさ
先はまだ長そうだ
疲れなんて微塵もない
とは言わないこともないけど

(GRAPEVINE / Arma)

 

サビの歌詞がいつも以上に心に響く。まるで今のご時世に対するバンドとしての意思表明にも感じるようなフレーズ。バインは言葉や行動ではなく、バンドとして音楽と歌でメッセージを伝えようとしているのだ。涼しい顔をして演奏しているのに、熱い想いを鳴らした音で表現しているのだ。

 

「こんばんは。元気にしてましたか?これぐらい長年活動していると、みなさんの心の声が聞き取れます。椅子があるので座ったまま寝るもよし。たまに目を覚まして二度寝するもよし。歌うことだけはご勘弁で、最後までご自由に。GRAPEVINEです」

 

いつも通りのMCに思った。一年ぶりという今までにない異質な状に軽く触れつつも、ユーモアを含んだ話。だからこちらも特別な感情を持たずに、フラットに音楽に身を任せようと思う。

 

青く薄暗い照明の中で怪しげなイントロが響く。ライブの定番曲でありバンドのセッションに凄みを感じる『豚の皿』だ。「座ったまま寝るもよし」と田中は話していたが、こんなヒリヒリした演奏を聴かされたら、寝れるわけがない。

 

豚の皿

豚の皿

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

『豚の皿』はライブで化ける曲だ。CDでは体感できない鳥肌が立つような衝撃を毎回与えてくれる演奏。原曲よりも長くなったセッションには毎回引き込まれてしまう。改めて「バインのライブを再び観れている」と実感した。

 

そして『また始まるために』へと続ける。コロナで活動できなかったバンドが、また始めるために行うようなライブで演奏することにはバンドからのメッセージを感じてしまう。『報道』は今の世の中を皮肉っているかのように感じた。演奏曲やセットリストで今の想いを伝えようとしているのだろう。

 

また始まるために

また始まるために

  • GRAPEVINE
  • ロッ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

『すべてのありふれた光』『The milk(of human kindness)』と美しいメロディの楽曲を力強いバンドサウンドで表現する。良い曲をロックバンドとして良い演奏で伝える。これはバンドの魅力がわかりやすく伝わる2曲だ。

 

デビュー曲の『そら』や19年前のシングル曲『Our Song』、20年前のアルバムのタイトル曲『here』と懐かしい曲を続ける。しかし今のGRAPEVINEだからこそ鳴らせる貫禄と円熟を感じる演奏である。楽曲に説得力が強まっているのだ。

 

here

here

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

あの夏をそういう街を
愛せることに今更気づいて

(GRAPEVINE / here) 

 

『here』を聴いて、今年の夏も愛せるような日がくればいいなと思った。楽曲に込められた意味は違うものだとしても、音楽によって心が動かされた。リリースから20年の月日が流れて、別の特別な意味を感じてしまった。

 

 

後半

 

「買い物カゴが売っているそうですね。みなさん、買ったんですか?買ってどうするんですか?それは席のどこに置いてるんですか?このご時世なので、わたしも週に2〜3回スーパーに通っています。みなさん、そのカゴを持ってスーパーに言ってくださいね。では、楽しい時間はあっという間で、残り5万曲になりました」

 

今回のライブではグッズで買い物カゴが売っていた。スーパーにおいてあるようなやつだ。なぜ出したのかはわからない。生活密着型バンドになったのだろうか。

 

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冗談を交えたMCを挟み、「後半戦もヨロシク」と行ってから『Alright』を披露。ここまでは落ち着いた曲が中心だったが、この曲は華やかで明るい。

 

Alright

Alright

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

赤青紫黄色とカラフルな照明がステージを照らす。

 

煽ることが滅多にないバンドだが、間奏で手拍子を煽り、客席もそれに応えて手拍子をする。

 

『片側一車線の夢』はカントリー風の曲調で跳ねるリズムで会場を多幸感で満たす。そして代表曲の1つである『光について』へと続けた。

 

光について

光について

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

先ほどまではバンドのキレッキレな演奏をファンが受け取り感動するライブが続いていた。しかしこの3曲では、生のライブでしか体験することができない「ステージとフロアの一体感」が生まれている。

 

序盤のMCで「どうぞご自由に」と話していたが、音楽で全員を巻き込もうとしているように感じた。

 

そしてRadioheadの影響を感じるような複雑な構成の『CORE』へ。

 

〈ここは七色〉という歌詞に合わせるように、照明もカラフルにステージを照らした。ドープで怪しげで重低音が響く演奏。CDよりも長くなったセッション。心地よくも刺激的で緊張感がある。

 

この心地よさとヒリヒリした感じの絶妙なバランスが、GRAPEVINEのライブの魅力の一つだ。

 

「どーも!ありがとー!」と田中が叫んで、ラストに演奏されたのは『超える』。壮大なロックサウンドが会場に響き渡る。

 

超える

超える

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

〈ばかでっかい音量で曝け出すつもりだ〉と歌う声は、まさに歌によって想いを曝け出しているようだった。それを支える力強い演奏も、音楽によって曝け出しているようだった。

 

様々なことを”超える”ことで、今日のライブが成立し、バンドの活動を進めることができているのだと感じる。

 

会場に集まった人たちもこのご時世なので、様々な事情で来場することに悩んだ人もいると思う。様々な困難を”超える”ことで、こうしてGRAPEVINEの音を浴びることができたはずだ。

 

ラストの曲に全ての想いを乗せるようにしてライブを終え、ステージを後にした。しかしすぐにアンコールの拍手が巻き起こる。いつものライブ以上に大きな音で。

 

すぐにステージへ戻ってきたメンバー。準備をしながら田中が演奏前にMCを挟む。

 

「あえて今のご時世に触れはしないですが、このツアーの後の予定が未定なのがもどかしく思います。でも次のアクションに期待しておいてください」

 

GRAPEVINEらしいMCだと思った。

 

熱い想いは音楽に全て打ち込むから、あえて言葉では伝えない。それでも希望や期待を感じさせる言葉はサラッと伝える。

 

アンコール1曲目は『指先』。肌寒くなってきた今日この頃に聴くとより胸に染みる冬の名曲だ。

 

指先

指先

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

切なくてしんみりとした余韻が残る中、『NOS』を続けて披露。渋いブルースな演奏で会場を包む。後半の長めのセッションでは、やはりバンドの演奏力の高さを感じてしまう。

 

そしてこの日のセットリストで最も激しくテンポが速い楽曲である『ミスフライハイ』では、今日1番の盛り上がりに。

 

ホールで座席があるので座って楽しんでいる人がほとんどだが、座りつつもみんな体や頭を揺らしたり腕を上げていた。

 

ミスフライハイ

ミスフライハイ

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

全く違うタイプの楽曲が続いたアンコールで、バンドの音楽生の幅広さを感じる曲順だ。

 

「どーもありがとさーん!また会いましょう!」と田中が叫び、正真正銘、最後の曲へ。

 

ラストは『真昼の子供たち』。

 

美しいピアノの旋律と優しい歌声。バンドの演奏も会場を包み込むように温かい。

 

真昼の子供たち

真昼の子供たち

  • GRAPEVINE
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

世界を変えてしまうかもしれない
君は笑うかもしれない

(GRAPEVINE / 真昼の子供たち)

 

コロナの影響で一年前とは全く違う世界になってしまった。

 

そんな中で感染症対策を徹底してライブを行ったGRAPEVINE。しかしそこには以前と変わらないバンドの姿があって、以前と変わらない最高の音楽を鳴らすバンドの魂があった。

 

GRAPEVINEは変わってしまった世界でも、変わっていない。いつも通りに最高のライブをやってくれた。

 

それこそが、世界を変えてしまうことかもしれない。

 

こんなご時世でもバンドが変わらずに生で音楽を鳴らしてくれることによって、救われる人がたくさんいるのだ。

 

GRAPEVINEの1年ぶりのライブであり、ツアーの初日。コロナ禍の先の光について考えさせてくれるような最高のライブだった。

 

そんな余韻に浸りながら、終演後に「豚の皿」ではなく「牛の皿」を食べた。

 

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 GRAPEVINE FALL TOUR@神奈川県民ホール 2020.11.01

■セットリスト

01.HOPE(軽め)
02.Arma
03.豚の皿
04.また始まるために
05.報道
06.すべてのありふれた光
07.The milk(of human kindness)
08.そら
09.Our Song
10.here
11.Alright
12.片側一車線の夢
13.光について
14.CORE
15.超える

en.

16.指先
17.NOS
18.ミスフライハイ
19.真昼の子供たち

 

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