オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

レコードよりもサブスクの方が音は良いのかもしれない

10年ほど前、FM802で放送されている『802 RADIO MASTERS』という番組に、ザ・クロマニヨンズがゲスト出演していた。『YETI vs CROMAGNON』というアルバムのプロモーションだったと思う。

 

甲本ヒロトが最新アルバムのレコードを持参しての出演だった。他のゲストではCDを流しているので、ゲスト自らがレコードを持ってくることは珍しい。

 

「ロックンロールはレコードで聴いて欲しいんだ」と、ヒロトが言っていた気がする。

 

とはいえラジオの電波に乗った音を聴くわけで、直接レコードの音を聴けるわけではい。だからCDでもレコードでも、ラジオリスナーにとっては違いが分からない。

 

そう思っていた。そう思っていたのに、そんな思い込みや偏見が音を聴いた瞬間にぶっ壊れた。この番組によって、自分の価値観が大きく変わった。

 

ヒロト自らがレコードをプレイヤーに乗せ、針を落とした。針がレコードに触れた瞬間に「ブツッ」というノイズが鳴った。

 

自分はそのノイズを聴いて、なぜか鳥肌が立った。

 

CDやダウンロードした音源とは違う、生々しさを感じたからだ。回るレコードの上に針が落ちる景色が、頭の中に浮かび上がった。それぐらいに生々しかった。

 

そんな一瞬のノイズを挟んで『突撃ロック』が始まる。いつも以上にザ・クロマニヨンズのロックンロールが、真っ直ぐ胸に刺さる。

 

これが初めてレコードを聴く体験だった。

 

この生々しさはCDやDL音源では体感できないと思った。ヒロトが「レコードで聴いて欲しい」と言った意味がわかった気がした。

 

あの日の僕のレコードプレーヤーは
少しだけいばって こう言ったんだ
いつでもどんな時でも スイッチを入れろよ
そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ

(ザ・ハイロウズ / 十四才)

 

ザ・ハイロウズ『十四才』には、このような歌詞がある。この曲の作詞は甲本ヒロトだ。

 

レコードを体感することで、この歌詞の意味もようやく理解できた気がする。まさにレコードプレイヤーに十四才にしてもらった気分だ。

 

自分でもレコードプレイヤーを購入し、大好きなアルバムをレコードで購入し直して、自分で針を落として聴いてみた。

 

CDやDL音源との音質の違いは、正直よくわからなかった。むしろCDやハイレゾのDL音源のほうが良い音にすら感じた。

 

それでもレコードを聴く時は、他の媒体で聴く時とは違うワクワクがあった。

 

やはり針を落とした時の「ブチッ」というノイズが堪らない。ノイズを挟んで大好きな音楽がドカンとなる瞬間が最高だ。14才に戻った気持ちで音楽に触れ合えるし、それぐらいに音楽を聴く喜びを感じられる。

 

とはいえレコードは不便だ。値段はCDより高価だし管理も面倒くさい。大きいから邪魔になる。

 

今の時代ならば配信の方が便利だし、サブスクを使えばタダ同然の金額で沢山の音楽を楽しめる。なんならハイレゾやロスレスの音源配信も始まっているので、音質はレコードよりも良いかもしれない。

 

わざわざ安価な代替品がある上に不便で質が良いとは限らない「レコード」という時代遅れの商品を、わざわざ高いお金を出して買っているわけだ。世間一般には理解できない行動だろう。

 

 

 

 

しかしそんな不便な代物が、アメリカでは2020年に過去30年間の中で最高売上額を記録した。日本でも過去10年でレコード市場の規模は10倍以上になった。

 

レコードに慣れ親しんだ世代だけではなく、レコードが廃れてしまった後に産まれた若者にも、今はレコードが人気なようだ。

 

おそらく音質よりも体験を求め、レコードを購入している人は多いと思う。

 

レコードをプレイヤーに乗せ、それが回っている様子を見ながら慎重に針を落とす。微かなノイズの後に大好きな音楽が鳴る。

 

その時の興奮と感動を求めているのだろう。これはCDや配信音源では味わえない体験だ。この体験のためだけに不便な思いをしながら音楽を聴くのだ。

 

少なくとも自分がレコードを聴く時は、このような感情を求めている。音質の善し悪しはあまり求めていない。

 

自分がライブに行く理由も、レコードを聴く理由と似ている。ライブにも良い音を求めているわけではないし、ライブへ行くという体験を求めているからだ。

 

音質の良さは会場によってまちまちだし、演者がステージでミスをすることもある。

 

だからCDの方が音は良い時もあるし、演奏を間違えていないレコーディング音源の方が気持ちよく聴ける時もある。それに何度も繰り返し聴ける音源の方が、安価だし便利だしお得だ。

 

ライブはわざわざ会場まで出かけなければならないし、1回しか聴けないのに最低でも数千円は払わなければならない。お金も時間も勿体ないことをしている。

 

それなのに、自分はライブへ足繁く通う。

 

約2時間だけ音楽を聴くために、音が良いとは言えない環境のために、音源よりも下手かもしれない演奏のために、数千円のチケット代と交通費をかけて、わざわざライブ会場へと向かう。

 

とてつもなくコスパが悪いが、音源では味わえない興奮と感動がそこにはある。どうしてもそれを体感したいから、わざわざライブを観に行く。

 

会場の前で入場待ちをする時の緊張。入場してからライブが始まるまでの期待と興奮。開演時間を過ぎて大好きなアーティストが目の前に現れた瞬間の喜び。

 

熱気に満ちた客席から聞こえる雑音や拍手の音。アーティストが準備をしている時の楽器を触る音。様々なノイズが響く空間。そんなノイズをかき消すような爆音が鳴った時の感動。

 

音質が微妙だったとしても、演奏をミスったり歌詞を飛ばしたとしても、生の音を聴いた瞬間に、観客の反応を見た瞬間に、14才に戻ったかのような興奮と感動を味わえる。これはライブ以外では体感できない。

 

もちろん純粋にCDやサブスクで音楽を聴くことも楽しい。

 

ロスレスオーディオを聴いた時はその音の良さに驚いた。サブスクによって音楽がより身近になったとも思う。

 

これほど気軽に簡単に様々な音楽を聴くことができるのは最高だ。音質も悪くは無いし、自分も積極的に利用している。

 

サブスクによって新しい音楽とも出会いやすくなった。自分の知らない最高の音楽と出逢えた時も、めちゃくちゃ興奮するし感動する。それにはレコードと違う魅力があるし、ライブとは違う素晴らしさもある。

 

でもレコードにしかない感動や、ライブでしか味わえない感動も大切にしたい。「音楽を体感する」という部分において、レコードは打って付けだし、ライブは最高の環境だ。

 

レコードに針を落とす瞬間と、ライブが始まる瞬間。その時に聞こえるノイズ。それを自分はいつも求めている。

 

自分は音楽を聴くこと以上に、音楽を感じることが好きなのだ。

 

↓関連記事↓