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【ライブレポ・セットリスト】GRAPEVINE TOUR 2023 at LINE CUBE SHIBUYA 2023年10月26日(木)

「こんばんは!渋谷!渋谷!」と、登場時から機嫌が良さそうな田中和将。去年様々な事があり半年ほど活動が止まっていた時期があったためか、今年のライブは緊張感ある雰囲気の登場が多かった。

 

だが今回は違う。バンドは純粋にステージに立ち演奏することを喜び、観客は純粋に彼らの鳴らす音楽を楽しもうとしている。今年ライブやツアーを例年以上に行い、新作アルバムをリリースしたことで通常のペースを取り戻したのだろうか。

 

そんな良い空気が流れる中で『GRAPEVINE TOUR2023』のLINE CUBE SHIBUYA公演は始まった。

 

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今回は最新アルバム『Almost there』のリリースツアー。それもあってか1曲目はアルバムと同じ『Ub(You bet on it)』。田中のギターリフから演奏が始まりバンドの演奏が重なると、重厚ながら爽やかなサウンドが会場に響いた。そのまま『スレドニー・ヴァシュター』へとなだれ込み、会場の熱気を上昇させていく。

 

近年のGRAPEVINEはベテランとしての貫禄を感じさせるライブをやることが多い。今回も例外ではないのだが、それに加えて若々しさや衝動があるように感じる。GRAPEVINEはキャリア30年目を迎えて一定の地位を築きつつも尚、それに驕ることなく進化と挑戦をしているのだ。

 

それにしても今日の田中はご機嫌である。「どうもサンキュー!そしてウェルカム!ウェルカムー!」とハイテンションで挨拶していた。

 

そこから『Goodbye,Annie』を続けたのは〈よくぞいらっしゃい東の果ての島まで〉という歌詞から始まるからだろか。ライブ序盤には打って付けな楽曲だが、歌詞の内容は尖っていてロックである。こちらも疾走感ある演奏で観客をしっかりと盛り上げていた。

 

今回はアルバムのリリースツアーです。

 

もしも万が一アルバムを聴いていなかったという方は、知らない曲だらけなので着席してください(笑)

 

と言いつつも次は昔の曲。優しい!

 

やはり今日の田中はいつにも増してテンションが高い。自らの優しさを自画自賛する余裕がある。

 

演奏されたのは『聖ルチア』。優しいと言いつつも、なかなかにマニアックなアルバム曲だ。

 

しかしメロディアスな歌に骨太な演奏が組み合わさる楽曲で、今回のアルバム曲と通ずるものがある。最新作と相性が良いので納得の選曲だ。

 

そこから田中がアコースティックギターに持ち替えてからの『Darlin’ from hell』も、心地よい演奏で最高だ。

 

前半のハイライトは『遠くの君へ』に思う。「初期の曲を」と呟くように田中が言ってから演奏された1stアルバム収録曲である。

 

初期特有の青さを残しつつも、今のGRAPEVINEだからこその貫禄も感じる演奏だ。初期から地続きでバンドの歴史は続いていることを、実感させられる。

 

そこから続いたのは『COME ON』。先程までと全くテイストの違う、バンドのグルーヴが魅力的なロックナンバーだ。赤い照明の中で重厚なサウンドが鳴らされ、自ずと客席は盛り上がっていく。

 

最新アルバムのリリースツアーではあるものの、序盤は過去の名曲が中心のセットリストだった。だがここからは新作からの選曲が増えていく。

 

 ミドルテンポで幻想的なサウンドの『Ophelie』や、ピアノの音に合わせて田中がフェイクで歌ってから始まった『大停電の夜に』は、観客を音に浸らせるようなバンドの深い魅力を感じる選曲だ。GLAYのTERUのように田中が両腕を広げながら歌った『Amateras』も印象的である。

 

ここで長い間が空いた。何かしらトラブルが田中の機材に発生したようだ。

 

スタッフが出てきて機材を確認している間、ずっと「セーフ?セーフ?」と鳴き声のように言い続ける田中。無事にトラブルは解決したようで「セーフでした!」と嬉しそうに言う田中。客席からは温かい拍手が贈られた。トラフによってステージと客席の心の距離がさらに近づいたと感じる。

 

そんな空気の中での次の曲は『ねずみ浄土』。亀井のドラムから始まり、そこにバンドの音が段々と重なるアレンジだ。凄まじい演奏の迫力で、温かな空気を一瞬でピンと張り詰めた空気に変えてしまった。ここ2年ほどはほぼ毎回ライブで披露される定番曲ではあるが、演奏を重ねる毎に凄みが増している。

 

『雀の子』も凄まじい演奏だ。音源を圧倒する音圧と迫力で、最新アルバムの中で最もライブ化けする楽曲に思う。自分がライブで初めて聴いたのはサニーデイ・サービスとの対バンライブで生で聴くのが今回で3回目だが、聴く都度に凄みが増している。

 

 

そこからミドルテンポでラップ調の歌唱が印象的な『SEX』が続いた。紫色の照明が妖艶で、演奏もそれと同じように色気がある。

 

先月は新宿で今日は渋谷。東京を満喫しております。11月は空港の近くで、12月には渋谷でまたライブがあるようです。え?違う?どっちも11月?

 

何も把握しておりません。各自調べてください。

 

物覚えが悪い田中。だが機嫌はめちゃくちゃ良いようで「残り7万曲となりました!7万曲よろしく!」とハイテンションで叫ぶ田中。実際は残り7曲だった。

 

後半戦1曲目は『片側一車線の夢』。跳ねるようなリズムで会場をじわりと盛り上げていく。 そして『I Must Be High』では演奏も歌も激しくなり、観客のボルテージは一気に最高潮に。

 

『実はもう熟れ』はバンドにとって新境地と言える演奏だった。カラフルな照明の中で、ダンスミュージックを人力で鳴らすかのような演奏をする。バンドサウンドではあるものの、打ち込みのダンスミュージックのような構成や質感だ。

 

そんな楽曲で観客を踊らせたかと思えば、ミドルテンポの『それは永遠』をしっとりと聴かせる。そこからの『Glare』も感動的で沁みる。後半のロングトーンでのシャウトは圧巻だ。

 

ライブも残り2万曲(実際は2曲)。最高のラストに向けて、演奏の勢いが増していく。「よっしゃ!超えていこうぜ!」と煽ってから『超える』を続けると、腕を上げたりと観客も演奏の熱気に身体で応えていた。

 

それにしても田中は最後までずっとテンションが高い。最後の曲を演奏する前も「どうもありがとーー!!!アユレディ!?アユレディ!?」と、ハイテンションで叫んでいる。

 

本編ラストは『Ready to get started?』。近年のGRAPEVINEとしては珍しい、真っ直ぐなロックナンバーだ。若手バンドのような衝動があるものの、ベテランだからこその貫禄や余裕も感じる演奏だ。それらが同居していることが、今のGRAPEVINEの魅力のひとつかもしれない。

 

最後までハイテンションな田中。ステージを去る時も「渋谷!ありがとさーーーん!」とウキウキした声色で挨拶していた。田中と同様に観客も機嫌が良さそうだ。温かくも盛大な拍手でアンコールを求めている。

 

それに応えて再登場するメンバー。アンコールも田中は相も変わらずハイテンションだ。

 

田中「アンコールありがとう!アンコールは3万曲用意しました。気合い入れて演奏します」

観客「おおお!」

田中「思ったよりも静かですね。今日は歌わずに喋り中心のライブにしましょうか?」

観客(失笑)

田中「なんでもないです......」

 

最近話題になった某シンガーソングライターのライブを、いじって観客を失笑させ反省する田中。ちなみにアンコールの曲数は3万曲ではなく3曲だった。

 

MCでは失笑されても演奏と歌はしっかり感動させるGRAPEVINE。

 

アンコール1曲目は『Era』。繊細な演奏と美しいメロディをホールに響き渡らせる。だが演奏直後の観客が余韻に浸っている時に「2002年に西海岸で大ヒットした曲でした。何一つ合ってない(笑)」と冗談を飛ばす。いつになく機嫌が良いので、冗談を言いまくりたいのだろうか。

 

だがやはり音楽ではしっかり感動させる。続いて演奏されたのは『光について』。代表曲かつライブ定番曲だが、普遍的な名曲なので何度聴いても飽きない。

 

ステージが薄暗い中で、丁寧に演奏するメンバー。少しずつ照明が明るくなり〈僕らはまだここにあるさ〉という最後のフレーズが歌われた時、眩しいほどの光でステージが照らされる。

 

演奏と歌と演出で『光について』に込められたメッセージを届けようとしているかのように感じた。この楽曲はライブによって解像度がさらに上がる楽曲かもしれない。

 

「残り1万曲!南部の男になってくれ!」と田中が叫んでから『B.D.S.』が演奏された。ちなみに残り1万曲といっていたが、これがラスト1曲だった。

 

最後に最高のロックナンバーを颯爽と演奏し、興奮と感動を残し去っていくメンバー。やはり機嫌が良さそうで、嬉しそうな表情をしている。メンバーも良いライブをやった手応えがあったのだろう。

 

最新アルバム『Almost there』を聴いた時、結成30年目にして更なる挑戦をしている名作に感じた。そして今回そのレコ発ライブを観て、その挑戦が実り進化したのだと思った。

 

新しい果実は熟したので、再びReady to get startedして、GRAPEVINEはさらなる凄みへと向かうのだろう。

 

GRAPEVINE TOUR 2023 at LINE CUBE SHIBUYA 2023年10月26日(木) セットリスト

1.Ub(You bet on it)

2.スレドニー・ヴァシュター

3.Goodbye,Annie

4.聖ルチア

5.Darlin’ from hell

6.遠くの君へ

7.COME ON

8.Ophelie

9.停電の夜

10.Amateras

11.ねずみ浄土

12.雀の子

13.SEX

14.片側一車線の夢

15.I Must Be High

16.実はもう熟れ

17.それは永遠

18.Glare

19.超える

20.Ready to get started?

 

アンコール

21.Era

22.光について

23.B.D.S.