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【ライブレポ・セットリスト】藤原さくら ワンマンライブ 2023 「週刊空港(エアポート)」Terminal1 at Shibuya WWW X 2023年10月3日(火)

開演前。「ご搭乗の最終案内です。ご登場をお急ぎください」というアナウンスが、会場のスピーカーから流れていた。同じ内容が英語でも流れていたので、会場はまるで空港構内のような空気が流れている。

 

それもそのはずだ。今回のライブは藤原さくらの最新アルバム『AIRPORT』をコンセプトとしたもの。ライブタイトルも『週刊空港(エアポート)』なので、空港をイメージしたライブにするつもりなのだろう。だから開演前からコンセプトを大切にしつつ、丁寧に空気を作っていたのだ。

 

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Shibuya WWW Xで行われた藤原さくらのワンマンライブ『週刊空港(エアポート)』。4週連続で同じ会場でワンマンを行い、2週間ごとにバンドメンバーを入れ替えるという、彼女にとって初めての試みの企画ライブだ。

 

中西道彦(Ba)

梅本浩亘(Dr)

関口シンゴ(Gt)

松井泉(Pr)
Meg(Ch)

 

『Terminal1』と名付けられた企画ライブ初日のバンドメンバーはこの5人。何度も一緒に作品を作ったりライブで共演してきた関口シンゴや中西道彦を含む一流ミュージシャンだらけの豪華な布陣である。

 

そんな豪華なバンドが先に登場し、ジャムセッションを始めた。それはバンドの実力を見せつけるかのような迫力ある演奏だ。

 

今回のバンドはビートを大切にしているような演奏に思う。打ち込みを多用していたアルバム『AIRPORT』をコンセプトにしているのだから、楽曲の再現はビートを重視せざるを得ない。その部分で適任なメンバーなのだろう。

 

観客の期待が高まったタイミングで、緑のワンピースを着た藤原さくらも登場。全員揃ったところで披露された1曲目は『わたしのLIFE』。アルバム『AIRPORT』でも1曲目に収録されている楽曲だ。

 

音源は打ち込みを使用されているが、今回のライブではパーカッションの音が印象的な、心地よいバンドサウンドだった。原曲の良さを壊すことなく、バンドだからこその温かみのあるサウンドが構築されている。ハンドマイクでステージを練り歩きながら歌う藤原さくらも、印象的で「かわいい」。

 

「こんばんは藤原さくらです!久々だあ!」と笑顔で挨拶してからの2曲目は『放っとこうぜ』。

 

音源ではひとつひとつのサウンドが複雑に絡み合う編曲だった。ライブでも同様にバンドの5人のサウンドが絡み合い極上の演奏になっているのだが、やはり生演奏になることで温かみが加わり心地よいサウンドになっている。

 

今回のライブはパーカッションの音色が要かもしれない。パーカッションの温かみのある音色で表現されることで、音源とは違う響きの心地よいビートが生まれている。『Terminal1』のバンドは、温かみのあるサウンドで『AIRPORT』の楽曲を心地よい編曲で再現しようとしているのだろうか。

 

過去の楽曲もこのメンバーで演奏すると、違う印象になる。前作アルバムに収録されている『Super Good』は、音源同様に明るく跳ねるようなリズムで披露されたが、より温かみのある心地よいサウンドになっていた。クロイタンバリンを叩きながら観客を煽りつつ歌う藤原さくらも、印象的で「かわいい」。

 

「楽しいですねえ。お客さんと近いね。前の人!セットリスト見てるでしょ!見ないで!」と、MCを喋り始めて直ぐに観客を叱る藤原さくら。足でセットリストを見えない位置に移動させていた。そんな姿も「かわいい」。

 

今回は一緒にアルバムを作った道さん(中西道彦)をバンマスに呼びました。生で再現することが難しい曲ばかりのアルバムなので、ライブでどう表現するか試行錯誤しました。今日はそれの発表会です。

 

今回のライブについての説明をしてから披露されたのは『迷宮飛行』。ドラムとパーカッションの掛け合いのようなソロプレイからバンドの演奏が重なるアレンジだ。この楽曲は特にライブでの再現が難しそうではあるが、見事なアレンジで表現していた。

 

『Monster』ではロックを感じる激しい演奏で魅了する。関口のギターソロも炸裂していて、それを藤原さくらは笑顔で見つめながらクロイタンバリンを叩いていた。そんな姿も「かわいい」。

 

さらにコーラスとパーカッションをフィーチャーさせたようなアレンジで『Feel the funk』を続ける。原曲は打ち込みのサウンドが楽曲を彩っていたが、ライブでは生の人間の鳴らす音が印象的なアレンジだ。

 

藤原さくらが木製のおもちゃのパーカッションを鳴らし、Megがサンドシェーカーを振り演奏に参加した『Waver』も素晴らしい。優しく繊細な演奏が、原曲の温かみを最大限に引き出している。

 

続く『いつか見た映画みたいに』も同様に温かみのある演奏だ。藤原さくらはここまでギターを持たずに歌っていたが、この楽曲では赤いエレキギターを指弾きで弾いている。そのギターの演奏を軸にバンドも演奏していたので、独特な温かさが音として表れていた。

 

アルバム『AIRPORT』の楽曲で最もライブ化けしたのは『Wonderful time』だろう。演奏は壮大になり、イントロで逆光の照明がステージのメンバーのシルエットを浮かび上がらせる演出が、めちゃくちゃカッコいい。ここまでのセットリストら落ち着いた演奏ややクールな楽曲が多かったが、『Wonderful time』でパッと会場の雰囲気が明るくなったように感じる。

 

ここで今回のバンドメンバーの紹介が行われた。

 

藤原さくら「バンマスの中西道彦!」

中西道彦「バンマスの器じゃないから止めてください」

藤原さくら「嫌な器に入れてすみません」

 

中西は控えめな性格のようだ。

 

藤原さくら「初めて参加してくれたbonobosの梅本浩亘!道さんがドラムを叩いて欲しいと熱望してたけど、予算の関係でなかなか難しかった人です」

中西道彦「スケジュールの都合で頼めなかっただけです」

藤原さくら「予算はありました」

 

藤原さくらの勘違いがあったようだ。

 

藤原さくら「パーカッションの松井泉さんです。楽器で演奏が難しい曲が多いので、要塞みたいにパーカッションを並べて、いっぱい叩いて表現してくれてます」

松井泉「照れ屋なのでお客さんへのバリアとして要塞にしています」

 

照れる松井泉が「かわいい」。

 

藤原さくら「私のボイトレもやってくれてる、コーラスのMegさんです」

Meg「くぁwせdrftgyふじこlp」

藤原さくら「Megさん、マイクを通して喋しましょう」

Meg「ごめんね!一緒にステージに立ったら母のような気持ちになっちゃって///くぁwせdrftgyふじこlp」

藤原さくら「Megさん、マイクを通して喋りましょう」

 

ライブが楽しすぎたのか、マイクの存在を忘れて自由に喋るMeg。何を言っているのか聞き取れなかった。

 

藤原さくら「関口シンゴさんです。10代の頃からずっと一緒に制作をしていました」

関口シンゴ「久々の共演なんで嬉しいです」

藤原さくら「久々だからってミスしてませんか?」

関口シンゴ「上手いこと誤魔化してます」

 

関口シンゴはギターの腕も一流だが、誤魔化すテクニックも一流のようだ。

 

今回のアルバムは、出会いや別れについて歌っています。

 

最後まで人間は一緒にいる人だけが運命の人というわけではなくて、その時々で一緒にいるという人も、運命ではと思います。

 

そんな愛について歌ってる曲を次は歌います。

 

アルバムに込めた想いについて改めて丁寧に語ってから、ガットギターを手に取り丁寧に歌い始める。披露されたのは『My Love』。藤原さくらの弾き語りを軸に、時折バンドメンバーが少しだけ音を重ねるミニマムなアレンジだ。

 

そこから『まばたき』を続けたが、こちらもガットギターと優しい歌声が際立つ丁寧な演奏で届けられる。『話そうよ』も近いアレンジだった。歌詞のメッセージもしっかりと届く演奏なので、バンドメンバーも楽曲を大切に思いながら演奏していることが伺える。

 

個人的にライブのハイライトに思ったのは『mother』だ。低音が身体に響くほど鳴らされるほどの迫力で、ゆったりとしたリズムながらも、壮大で音楽に吸い込まれる気持ちになる。それに対して歌声は繊細で表現豊かというギャップも魅力だ。客席天井のミラーボールが回り、会場全体を美しい光で包み込む演出も良い。

 

演奏後に「地響きみたいでしたね。地球が割れるかと思いました。この世の終わりにならなくて良かったです」と独特な感想を述べる藤原さくら。本人にとっても手応えのある演奏だったのだろう。

 

藤原さくら「もうすぐ終わります」

観客「ええええええええ!!!」

藤原さくら「ライブ終盤のお馴染みのやつだ!前回のツアーは声出し禁止だったんで、今日はみんなにフゥ!とか言ってもらえると嬉しい」

観客「ふぅううううううううう!!!」

藤原さくら「ありがとう」

観客「ふぅううううううううう!!!」

藤原さくら「うるさいな......」

 

ファンと独特なコミュニケーションを取る藤原さくら。

 

ライブも後半。ステージと客席の心の距離がより近づいたところで、再びクロイタンバリンを持ち煽りながら『Kirakira』を歌う。観客も手拍子したりと楽しそうだ。

 

このまま盛り上げて終わるかと思いきや、ラストソングは『ゆめのなか』。ふたたびガットギターを持ち丁寧に歌う。

 

演奏も繊細で丁寧だ。しかしそれでいて壮大でもある。ライブを締めるに相応しい感動の余韻を残すようなパフォーマンスだ。観客もこの日一番に感じる盛大な拍手を贈っていた。

 

アンコールでグッズのロングTシャツに着替えて登場した藤原さくら。やはり「かわいい」。

 

藤原さくら「グッズ紹介!盛り上がって行くぞ!!!」

観客「いええええええい!」

藤原さくら「ここが一番盛り上がるところだぞ!!!」

観客「ウオオオオオオオオオ!!!」

 

藤原さくらが唯一観客を煽る言葉を発したのは、グッズ紹介だった。物販は利益を得るためには重要なのである。

 

しかし相変わらずグッズの紹介はシュールだし、観客の反応もカオスだ。

 

「ライブハウスなのでブン回せるタオルを作りました」と彼女が言えば、観客は湘南乃風のファンのようにタオルをブン回す。それを見て「グッズ紹介の時しかブン回せないぞ!ここぞとばかりに回して!毛羽だてていこ~♪」と話す。演奏している時よりも盛り上がっていたかもしれない。

 

さらにはペーパークラフトの飛行機のグッズに対しては「絶対誰も欲しがらないものを作ろうと思った」と、商売として間違った発言をしてしまう。だが「完成品を見たら不本意ながらも可愛くなっちゃった。欲しい~!飛ばして行こ~♪」と言ってグッズのクオリティを褒めていた。

 

一通り紹介し終えたタイミングで、再登場するバンドメンバー。全員がグッズのロングTシャツを着ている。

 

だが藤原さくらに「みんな乳首が立ってるんで前かがみになってください」と言われたせいで、全員が恥ずかしそうに前かがみになりながら持ち場についていた。藤原さくらはドSで、バンドメンバーはドMである。

 

バンドメンバーの乳首が落ち着いたところで『君は天然色』からアンコールがスタート。Megが手拍子を煽り、藤原さくらはハンドマイクでステージを練り歩き歌う。バンドの煌びやかなサウンドは心地いいし、観客もみんな一緒に手拍子しながら楽しそうだ。

 

ラストは『「かわいい」』。音源よりもゆったりとしたリズムではあるが、演奏はより華やかになり、会場の空気がパッと明るくなる。やはり。ハンドマイクで練り歩きながら歌っていた藤原さくらは、時折客席に向けて手を振っていた。そんな姿も「かわいい」。

 

多幸感に満ちた空気を作り出して「また来週!」と言ってステージを去っていった。なかなかに珍しい去り際のセリフである。

 

今回のライブは最新アルバム『AIRPORT』をコンセプトとしたライブだった。しかし「最新の藤原さくらを見せる」という裏テーマもあって、それを実は重視していたのではないだろうかとも思う。なぜなら本編のセットリストは最新アルバムと前作『SUPERMARKET』の楽曲のみで構成されていたからだ。

 

藤原さくらは前作から音楽性の幅が拡がり、より自由に音楽を作るようになった。そこにさらに自由度を増してこだわりを加えた作品が『AIRPORT』に思う。だからこそ近作の2枚でセットリストを組んだことは必然なのだろうを

 

当然ながら「最新の藤原さくら」は素晴らしい。「最新こそ最高」ということを言葉でなく音楽で示すようなライブだった。確実に彼女はミュージシャンとして進化している。

 

だが藤原さくらが「かわいい」ことだけは、ずっと変わらない。アンコールで『「かわいい」』をやったことも、最新の藤原さくらが最もかわいいということを、音楽で伝えるためなのかもしれない。

 

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藤原さくら ワンマンライブ 2023 「週刊空港(エアポート)」Terminal1 at Shibuya WWW X 2023年10月3日(火) セットリスト

1.わたしのLife

2.放っとこうぜ

3.Super good

4.迷宮飛行

5.Monster

6.Feel the funk

7.Waver

8.いつか見た映画みたいに

9.Wonderful time

10.My Love

11.まばたき

12.話そうよ

13.mother

14.Kirakira

15.ゆめのなか

 

アンコール

16.君は天然色

17.「かわいい」

 

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