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The Birthdayがミッシェルと比べて過小評価されている件

THEE MICHELLE GUN ELEPHANTが解散して、今年で20年が経った。

 

それほどの年月が経っているのだから、例えロックが好きだとしても、若者はバンドの存在や楽曲を知らないことが当然だろう。なんなら若手バンドマンですら「ミッシェル?知らないけど.....」と思っていてもおかしくはない。

 

しかし実際は今でも、ミッシェルはロック好きの若者へ多大な影響を与えている。

 

その理由はおそらく、メンバー各々の個性が強すぎるが故に、今でも真似できる者が居ないほどの他にない唯一無二のサウンドになっているからだろう。

 

例えばチバユウスケのボーカル。彼のがなる歌唱は一度聴いたら忘れられないインパクトがある。われるような叫びは凄まじい迫力だし、だれるような声質も唯一無二だ。

 

アベフトシのサウンドは日本のロックシーンでトップクラスの個性とインパクトがある。彼はエフェクターを使わず、テレキャスターをアンプに直接シールドで繋いでいた。ギターのトーンを調整することで音色を作り、歪みはアンプのノイズを利用して鳴らすという特殊なプレイスタイルだ。それでいて高速カッティングとあう誰にも真似出来ないプレイをする。彼の作り出す轟音は唯一無二で、誰にも真似できないしバンドの核と言えるサウンドとなっていた。

 

ベーシストのウエノコウジもエフェクターをあまり使わない。しかし音は太くて迫力がある。おそらくピックを強く当てるように演奏するからだろう。ベースといえばバンドを陰で支えるような役割になりがちだが、彼の演奏は主役かと思うほどに存在感と迫力がある。

 

そんな中でクハラカズユキのドラムは、他のメンバーと比べると強い個性は感じづらいかもしれない。シンプルなエイトビートを叩くことが多いからだろうか。しかし彼の安定感あるドラミングがあるからこそ、個性的なメンバーが揃ってもバンドとして成立できたのではと思う。それに彼のドラムも一つひとつの音のアタックが強くてクールだ。それが個性であり強みに思う。

 

こんなクセが強すぎるメンバー揃ったバンドが生まれたことは、きっと奇跡なのだろう。そりゃあ伝説のバンドとして語り継がれることも納得だ。

 

大きな影響を与えたバンドが解散すると、元メンバーのその後の活動が、過去の活動や実績と比較される。特に特にボーカリストが同じバンドは、前バンドと比較されることが多い。比較されて「昔の方が良かった」「いや今の方がいい」「別物だから比較する必要がない」「どっちもカッコイイ」などの議論が、ファンの間で起こりがちである。

 

チバユウスケがボーカルを務めるThe Birthdayも例外ではない。だがあくまで自分の肌感覚ではあるが、The Birthdayは「ミッシェルの方が良かった」と言われることが多いように感じる。それはミッシェルが偉大すぎるからこそ、ファンはミッシェルの幻影を求めてしまうからかもしれない。

 

しかしそもそもメンバーが一部同じなだけで、やっている音楽は別物である。比較することがおかしいのかもしれない。おそらくミッシェルとThe Birthdayとでは、チバもクハラも全く違う音楽をやろうとしているのではないだろうか。共通点はロックバンドであることぐらいだ。

 

The Birthdayは「歌」や「言葉」を特に大切にしたバンドに聴こえる。それはデビューシングル『stupid』の頃からそうだ。

 

Stupid

Stupid

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この楽曲はポエトリーリーディングのような歌唱を取り入れている。それによって言葉がスっと頭に入ってくる。これは偶然そうなったのではなく、言葉を伝えることを重視してた故に生まれた必然ではないだろうか。

 

〈絶望ってやつと 希望ってやつは タチが悪いから すぐ入り込めるぜ〉という言葉が、特に印象的だ。ミッシェル解散とROSSO活動休止を経てからの新バンド結成という当時の経緯も考えると、チバの心情も歌詞に反映されているようにも聴こえる。

 

The Birthdayは過去にチバが所属していたバンドの歌詞よりも、心情が反映されていたり何かしらのメッセージをはっきりと伝えようとするものが多いようだ。そしてそれを物語を語るような歌詞で表現している。

 

2007年に発表された『KAMINARI TODAY』は、The Birthdayだから歌うことができたのだと思う。

 

KAMINARI TODAY

KAMINARI TODAY

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この楽曲は〈忘れたか あの時を〉というフレーズから始まる、過去を振り返るような物語性ある歌詞だ。それでいて現在の心情を吐露するような言葉も綴られている。

 

歌い方も優しい。がなるわれる歌声ではない。語りかけるように歌い始め、感情を少しずつ強めていくような感じだ。

 

このような歌唱を彼が他のバンドで行うことは、殆どなかった。つまりチバユウスケの歌唱表現の豊かさや深みは、The Birthdayの楽曲で最も味わうことができるのだ。だから自分The Birthdayは「歌」や「言葉」を特に大切にしたバンドに思うのである。

 

『涙がこぼれそう』も、The Birthdayだからこその歌だろう。

 

涙がこぼれそう

涙がこぼれそう

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
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〈涙がこぼれそう でラブコール あの娘にラブコール〉なんて自身の感情をまっすぐに歌うことは、ミッシェルではありえなかった。

 

だがここまでまっすぐな歌をうたうチバユウスケは、とても魅力的に思う。歌い出しの囁くような温かな歌声も、the Birthdayだから聴ける表現だ。

 

『抱きしめたい』はタイトルからしても、The Birthday以外ではありえない曲だと思う。

 

抱きしめたい

抱きしめたい

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

〈俺は決めたんだ あのクズ共から 世界を奪い返すって それで青に還すんだ その後でお前を
根こそぎ抱きしめてやる〉なんて真っ直ぐすぎる歌詞を書き、真っ直ぐに感情を込めながら歌うなんて、ミッシェルをやっていた頃には想像できなかった。

 

なぜか今日は

なぜか今日は

  • The Birthday
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

〈なぜか今日は殺人なんて起こらない気がする
だけど裏側には何かがある気もする〉と『なぜか今日は』で歌っている。このようなメッセージ性のある歌詞も増えた。やはりそれも感情を込めながら、The Birthdayだからこその表現でチバは歌う。

 

このように言葉の意味や込められた想いを大切にし、それをしっかりと伝える表現を作詞でも歌唱でも行うことが、チバユウスケにとってthe Birthdayの活動テーマの一つなのかもしれない。ミッシェルの表現を他のバンドではできなかったように、the Birthdayでしか実現できない表現もあるのだ。

 

それはバンドの演奏でも明確な違いがある。ミッシェルはまるで戦いかのようにメンバーの個性がぶつかり合った結果、奇跡的とも言える絶妙なバランスで演奏が成り立っていたように思う。これがミッシェルの個性であり唯一無二の魅力だった。むしろあの四人ではこのような演奏にならざるを得なかったのだろう。

 

対してThe Birthdayは「言葉を大切にする」という共通認識の元、歌を引き立てことを意識して演奏と編曲をしているように聴こえる。ぶつかり合わずに、肩を組み合っているような感じだ。

 

例えば『アリシア』のようなBPMの早いロックソングでも、演奏はミッシェルのような耳に刺さるサウンドではない。耳障りが良く聴きやすいサウンドだ。楽器も掻き鳴らすというよりも、全体のバランスを考えて控えめに弾いているよつに思う。そんな編曲によって歌がもっとも際立つようになるのだ。

 

アリシア

アリシア

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし歌が主役で演奏が脇役のオマケかと言うと、そういうわけではない。The Birthdayはロックバンドとしてのアンサンブルが、美しく心地良いのだ。それは衝撃を与えて一気に興奮させるのではなく、じっくりと熱を加えて胸を奮い立たせるような演奏である。脇役ではあるが、名脇役と言うべき演奏だ。

 

特にギターの演奏にこだわりを感じる。サウンドはロックからブレることはないが、演奏自体は繊細だ。二本のギターはロックサウンドから離れることはないものの、互いの演奏を邪魔しないように美しく絡み合い、心地よさを生み出す。

 

ベースのヒライハルキは、曲に寄り添うようなプレイをしている。だが彼のプレイも特徴的だ。主張が強いわけではないが、低音部分でメロディを奏でるようなベースラインが多い。その演奏はリズム隊としてバンドを支えるだけでなく、楽曲に彩りを加える要素にもなっている。彼のバンドへの好感度は高い。

 

クハラカズユキのドラムは、シンプルながらも力強いビートを刻んでいる。そのプレイスタイルはミッシェルの時に近いが、役割が変化しているようだ。ミッシェルではクセの強い個性的なメンバーをまとめる役割だったが、the Birthdayではバンド全体の安定したアンサンブルに力強さを加える役割になったのではないだろうか。

 

イマイアキノブが脱退しフジイケンジがギタリストとして加入してからは、さらにバンドのアンサンブルを重視した演奏になったと感じる。

 

フジイはクールで印象的なリフを弾くことが多い。そのリフは自身の個性を全面に出すと言うよりも、楽曲に寄り添って楽曲の魅力を引き出すものに思う。

 

それは空が加入して最初のシングル『なぜか今日は』の時からそうだった。この楽曲でThe Birthdayが新たなステージへ行ったと思った。

 

そして年月を重ねるごとにThe Birthdayとしてのフジイケンジのプレイスタイルが確立し、バンドのアンサンブルも進化している。

 

自分は『夢とバッハとカフェインと』を聴いた時、もうこの四人以外のThe Birthdayは有り得ないと思うほどに、バンドの演奏が唯一無二のものとなったと実感した。

 

夢とバッハとカフェインと

夢とバッハとカフェインと

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

1本目のギターのリフが最初に鳴らされ、そこに2本目のギターのリフが重なり、曲が始まる。そこにベースとドラムのリズム隊が加わり、バンドの音になる。そしてチバユウスケの歌声が重なった瞬間、最高のロックアンサンブルが生まれる。

 

ボーカル以外の楽器の主張は強くはない。歌や楽曲の魅力を引き立てることを優先的に考え、あえて裏で支えるような演奏をしている感じだ。

 

しかしそれなのに、四人のどの音を切り取っても魅力的に聴こえる。「楽曲や歌に寄り添うことを優先した演奏」をすること自体に個性が生まれ、主張せずとも自然と魅力が伝わるthe Birthdayだからこその演奏になっているからだろう。バンドの演奏に個性が生まれたことで、プレイヤー各々の個性も際立つのだ。

 

個人的にthe Birthdayで最も好きな楽曲は『青空』である。

 

青空

青空

  • The Birthday
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この楽曲もアンサンブルが素晴らしい。メロディを奏でるようなベースの演奏と、力強いドラムから曲が始まり、そこにメロディの違う2つのギターリフが重なる。それはバンドの全作品の中でも特に演奏が繊細で、凝った編曲になっているのだ。

 

それでもやはり、歌や楽曲に寄り添った演奏になっている。複雑な演奏でも歌を邪魔することがなく、スッと歌詞が頭に入ってくる程度の絶妙なバランスの演奏をしている。それでいてサビではシンプルながらも激しく熱がこもった演奏になる。そのギャップがカッコいい。

 

明日はきっと 青空だって
お前の未来は きっと青空だって
言ってやるよ

 

この真っ直ぐで希望に満ちたサビの歌詞も好きだ。自分はこの歌詞に「救われた」と思った経験がある。

 

ミッシェルの頃を求めてしまう人には「チバらしくない」と思うかもしれない。だが「らしくない言葉」をこんなに真っ直ぐに歌うことを、自分はカッコいいとも思う。そんな歌を最大限に伝える為の演奏をするバンドも最高だ。

 

過去のイメージもファンの期待も関係なく歌いたいことを歌い、それによって救われる人もいる。それは活動内容が違うだけで、ミッシェルの頃から活動の軸はブレていない証拠だろう。きっとあの頃も歌いたい歌をうたい、鳴らしたい音を鳴らしていたのだろうから。

 

2023年4月。チバユウスケが食道がんと診断され、治療のため療養に入ることが発表された。必然的にThe Birthdayは活動休止となる。

 

「新たなるアナウンスが出来る日までどうか見守っていただけますと幸いです」と公式サイトにコメントが残されているものの、詳細な病状は公表されていない。どうしても不安を感じてしまうし、心配をしてしまう。

 

だが「治療に専念するための休養」だ。復帰が前提なのだろう。桑田佳祐だって大木温之だって、食道がんから復帰した。チバもきっと帰ってくるだろう。いつになるかは分からないけれど、自分はそれを信じ続ける。

 

この文章の締めとして、チバユウスケの復活への想いを込め、お返しするかようにこの歌詞を贈ろうと思う。かつて自分が救われた歌詞だ。

 

〈お前の未来は きっと青空だって 言ってやるよ〉