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映画『ドキュメント サニーデイ・サービス』の感想

2時間半近くある映画なのに、中弛みが全然しなかった。むしろ時間が足りないとすら思った。

 

人間の集中力の限界は90分と言われている。しかし自分は最後までずっと集中して観ていた。目が全く離せなかった。内容が濃密すぎて、集中が途切れる隙がない内容だったからだろう。

 

鑑賞した映画は『ドキュメント サニーデイ・サービス』。結成から現在まで31年間、解散して再結成するまでの期間を含めた、サニーデイ・サービスの活動の軌跡を追ったドキュメンタリー作品である。

 

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とはいえファンならば知っている内容や、ある程度は察していた内容も多い。

 

楽曲やアルバム制作についてはメンバーが過去にインタビューなどで語っているし、2000年に一度解散するまでの流れや理由については、2017年に発売された単行本『青春狂走曲』にも書かれている。それらで公表されたものと映画の内容は被る部分が多い。

 

しかし映画として表現されるからこそ、深く知ることができ、深く感じることもできた部分は多い。

 

今作で過去を振り返るパートは、基本的にはメンバーではなく当時の多くの関係者へのインタビューで構成されている。これまで語られてきたサニーデイ・サービスの活動や解散までの軌跡はメンバーによる主観のインタビューが中心だったが、今回は周囲による客観的な視点で当時の様子が伝えられているのだ。

 

そのため関係者自身がバンドと関わった時に感じた自身の気持ちについて、赤裸々に語るエピソードが中心である。客観的ではあるものの憶測も多い。だが周囲の関係者の反応を知れることによって、過去にメンバーが語ってきた内容との答え合わせができたり、メンバーが語らなかったり語れなかったことや、周囲だから感じた空気感も知ることができる。

 

メンバーの赤裸々なインタビューを中心に構成された単行本『青春狂走曲』と組み合わせることで、バンドの裏側をより深く知れるだろう。

 

 

複数の関係者にインタビューをしているが、語る内容は共通点が多い。バンドの空気が悪くなったと関係者が感じたタイミングが、それぞれ同じだったことが印象的だ。

 

それが関係者自身のエピソードを交えて語られるので生々しい。例えば小宮山雄飛がライブのリハーサルにアポ無しで行った時の話。ピリピリした雰囲気で緊張感があったという。それについて「曽我部くんは曲を大切にしている。求めるレベルが高いのは、曲に申し訳ないと思っているから」という小宮山による分析は興味深い。

 

かつてはただのファンだったエレキコミックのやついいちろうは「デビュー当初は音楽雑誌で批判されていたから、このバンドを良いと思うのはダサいと思っていた。でも好きになってしまった」と素直に感想を述べる姿が印象的だ。活動初期の評価について「パッとしない」という印象だったことは、他の関係者たちも語っている。

 

曽我部恵一のソングライターとしての才能の物凄さや、それ故のメンバーに高いものを求めすぎる性格については、多くの関係者が言及していた。メンバーに厳しいのに誰よりもメンバーを愛していて、辞めたいと言ったら全力で引き留めていたというエピソードも彼の人柄がよく表れている。

 

田中貴についての「元ギタリストだからこその思い浮かぶ面白いフレーズを弾くベーシスト」という評価も納得だ。

 

そんなメンバーに対する評価の中でも、丸山晴茂良い部分も悪い部分も関係者の評価が一致していたことが印象深い。

 

酒に溺れてだらしない。レコーディングに遅刻することもしょっちゅう。体調も崩しがちで心配。それなのにメンバーにも関係者にも、とても愛されていた。ドラマーとしては一目置かれていて、彼のドラムはサニーデイ・サービスの演奏の要だったと評価する関係者が多いようだ。

 

丸山は2018年に亡くなった。再結成時から彼の体調は万全ではなかったし、晩年はメンバーとして籍は残しつつも、体調を理由にサニーデイ・サービスの活動は離れていた。メンバーや関係者も覚悟をしていたのかもしれない。「晴茂くんはサニーデイ以外のバンドはやるつもりがなかったと思う」と何人かの関係者が語っていた。

 

丸山はサニーデイ・サービスを愛していたのだと思う。

 

彼が戦線離脱してもサポートを入れてバンドを続けたのは、丸山が帰ってくる場所を守ろうとしたのかもしれない。丸山が亡くなってから新メンバーを入れて活動を続けたことも、他に代わりがいるからという意味ではなく、彼の愛したサニーデイ・サービスをずっと続けるための選択だったのだろう。

 

大工原幹雄が新メンバーとして加入してからのパートでは、メンバーのインタビューが中心に構成されていた。

 

彼が加入したのは2020年1月28日。コロナ禍直前である。このドキュメンタリーは彼の加入直前からリアルタイムで追っているので、結成から丸山の逝去までのパートとは違う構成になったのだろう。

 

そういった意味では2020年以降の話こそ、この映画における本当の意味でドキュメントかもしれない。大工原加入以前は「物語を聞いている」という感覚だったが、メンバーをリアルタイムで追うことは生々しい実際を映像に収めているのドキュメントなのだから。

 

その中でもコロナ禍初期のバンドの活動をリアルタイムで追った映像は、特に生々しいドキュメントになっていた。特に音楽活動を停めて曽我部恵一が自身がオーナーを務めるカレー店の厨房に立ち、実際にカレーを作って営業していたシーン。「コロナ禍で音楽活動ができないからお金が無い。日銭を稼ぐしかない」と語るシーンが印象的だ。

 

だがそれ以上に印象的なシーンは他にある。それはバンドの演奏シーンだ。

 

この映画はライブ映像が多い。時代ごとに重要なライブや、印象的な演奏シーンをピックアップしているようだ。これが関係者のインタビューよりも、メンバーの語る言葉よりも、この映画の要となっている。なぜなら時代ごとの演奏を時系列に聴くだけで、バンドの変化や進化を感じ取れるからだ。

 

明らかに時代ごとに演奏スタイルも歌唱法も楽器の音色もグルーヴも違う。演奏中の空気感も違う。ドラマーが丸山から大工原に変わった時の演奏の明らかな違いは、きっと映画を観たものは誰もが感じ取ったはずだ。

 

その中でも特に印象的なライブシーンがある。丸山の追悼ライブだ。

 

このライブは曽我部と田中の2人だけでステージに立った。その時の2人の表情や歌声や演奏からは、映像だとしても悲しみや切なさが伝わってくる。でも、魂のこもった名演でもあった。バンドの物語は言葉で語るよりも、音楽を聴いた方が伝わるのかもしれない。これは映画という映像作品だからこそ感じる事だと思う。

 

サニーデイ・サービスは現役のバンドだ。1度は解散したものの再結成し、その後は解散前よりも長い期間活動が続いている。きっともう解散することはないのだろう。つまり今作はバンドの歴史総まとめというよりも、バンドの途中経過を知らせる作品だ。

 

映画のラストシーンは素晴らしかった。これからも続いていくバンドだからこその、映画のラストシーンだった。このラストはバンドのことを理解して撮影と編集がされたからこそだと思う。

 

このラストは是非映画を観て、実際に確認して欲しい。続いていくロックバンドのドキュメント映像として、納得のラストシーンだから

 

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