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【ライブレポ・セットリスト】サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている at 豊洲PIT 2022.3.4(金)

暖色の照明に包まれたステージに、ゆっくりと登場したサニーデイ・サービスの3人。マイペースに準備する様子を見て、「3人がスタジオに入った時もこんな雰囲気なのかな?」と想像してしまう。

 

こんなアットホームでお客さんを招くようなな雰囲気だから、彼らは登場した瞬間にファンをステージに集中させてしまのだ。

 

サニーデイ・サービス『コンサート 2022・春の風が吹いている』。

 

バンドにとって2022年初ワンマンライブではあったが、久々のワンマンとは思えないほどに名演が続くライブだった。

 

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1曲目の『恋におちたら』の時点で最高のライブになると確信するような素晴らしい演奏だった。ベースの田中貴がイントロを弾いて曲が始まった瞬間に、会場が温かな空気で包まれる。その空気がたまらなく心地よい。

 

そこに大工原幹雄によるスローテンポながらも力強いドラムと、曽我部恵一の繊細な歌声とギターが重なる。それが音に酔ってしまうほどに心地よい。これはサニーデイ・サービスにしか作れない空気感だ。

 

久々のワンマンとは思えない完璧な演奏で幕を開けたライブ。これが長年日本のロックシーンで爪痕を残したバンドの凄みかと思う。

 

そう思ったのに、次の曲の出だしで、ミスった。

 

演奏を止めてしまったもののすぐに気を取り直し、曽我部が「あ゛」と謎の声を発してから演奏を再開。

 

今回のライブは後日WOWOWで放送される。わかりやすい編集ポイントをを作って、編集しやすくしたのだろうか。気がきくミュージシャンである。

 

ミスなど忘れてしまうような、完璧な演奏を響かせるバンド。3人が中心に集まってジャムセッションをするアウトロの演奏は、あまりの迫力に鳥肌が立つ。やはり久々のワンマンとは思えない凄さだ。

 

卒業式みたいですねえ。みんな並べられた椅子に座って、じっとステージを見ていて。

 

昔金八先生のパロディで曽我八先生というのをやったんですよ。それを思い出します。

 

現在もコロナ禍で客席から声を出すことはできない。ライブハウスではあるが椅子席である。そんな様子はたしかに卒業式に来た保護者のようだ。

 

そして今の曽我部恵一は長髪で、武田鉄矢と同じ髪型である。この日も曽我八先生をやっていたということだろうか。

 

話題は前日の3月3日が大工原が誕生日だったことに移る。しかし「だから昨日スタジオにケーキがあったんだ!誕生日なんて知らなかった!」と雑にコメントする曽我部。どうやら大工原はスタッフに祝ってもらえても、メンバーには祝ってもらえていないようだ。切ない。

 

 

 

 

メンバーに誕生日を祝ってもらえない悲しみを吹き飛ばすように『パンチドランク・ラブソング』を激しく演奏する大工原。他の2人の演奏も激しくなっていく。曽我部恵一は武田鉄矢と同じ長髪を振り乱していた。

 

会場を熱気で満たしたものの、ライブはまだまだ序盤。この後も様々なタイプの楽曲をいくつも披露して楽しませてくれた。

 

『苺畑でつかまえて』『今日を生きよう』と、スローテンポの楽曲を続ける。サニーデイ・サービスの魅力の1つはは、繊細で表現が豊かな演奏だ。この2曲はそんな魅力が、特に発揮されている。

 

そこからバンドのグルーヴの凄みを感じる『スローライダー』に繋がるセットリストも良い。

 

派手な演出はないライブではある。その代わり最高の演奏がある。ロックを軸に様々な楽曲を聴かせてくれるバンドだから、演出が最小限のライブでもしっかり伝わるのだ。

 

演奏を終えると長めの沈黙が続いた。それを息を飲むように見守る客席。曽我部がテレキャスターからレスポールに持ち替えると、気合いを入れ直すようにメンバーとアイコンタクトをする。

 

そして『心に雲を持つ少年』から演奏を再開。

 

去年行われたワンマンライブでは、ドラムソロから始まる音源とは違うアレンジで披露された楽曲だ。しかし今回は原曲の途中から曲が始まったかと錯覚するような独特なイントロを、生演奏で完全再現している。

 

そこから『OH!ブルーベリー』が続いたが、これは2020年に発表したアルバム『いいね!』と全く同じ曲順だ。。序盤は過去の名曲が多かったが、この2曲では最新のサニーデイ・サービスも凄いことを伝えているようだ。

 

この次に披露された『おみやげを持って』はリリースされたばかりの新曲。

 

音源はアコースティックな優しいアレンジだったが、ライブでは重低音響くロックサウンドになっていた。このように意外なアレンジによって、ライブで印象が変わる楽曲もある。

 

『おみやげを持って』は今のところ1番新しい曲です。

 

田中さんが下北沢を歩くだけの低予算MVだったんですけど、予算と時間をかけて作った他のMVよりも評判が良くてショックです......(笑)

 

このMVは曲が終わったら田中の本格的なラーメンレポが流れるんですけど、最初は簡単なレポかと思ってたのに本格的にやるからビックリしてそのまま映像に残しました(笑)

 

新曲のエピソードも意外なもので、このように裏話を聞くと印象が変わる場合もある。ファンは凝った映像よりも、素朴なほのぼの映像を求めているのだろうか。

 

ここからまた、ライブの雰囲気が変わる。

 

曽我部が小さな音でエレキギターをアルペジオで奏で、それに合わせて田中と大工原も同じように小さな音で繊細な演奏をする。先程までの爆音のロックとは全く違う演奏だ。

 

 

 

 

始まったのは『海へ出た夏の旅』。

 

ステージ後方の白いスクリーンは、照明によって濃い青色に染まっていた。それは海の色を表現しているようだ。照明の演出によって、楽曲の魅力をライブでしか体感できない形で伝えている。

 

次に演奏された『星を見たかい』もそうだ。ステージに置かれたいくつもの小さな丸い電球が、星のように光っていた。それもあってか先ほどまで海に見えた青いバックが夜空に見えてくる。

 

まるで星が輝く夜空の下で、バンドの演奏を聴いている気分だ。やはりライブだからこその表現で、楽曲の魅力を最大限まで引き出している。

 

『サマーソルジャー』ではバックの青色が少しずつ薄くなっていった。

 

それは陽が昇ったばかりの明け方の空のようだ。心地よい演奏が進むにつれ、バックは再び青くなり、そしてオレンジ色に染まっていく。1曲の中で1日の流れを表現しているのだろうか。

 

そんな演出だからこそ、名曲も名演も映える。音楽は耳で聴くものではあるが、ライブは身体で感じるものだ。それを改めて感じる。

 

会場には心地よい余韻が残っていたが、それをロックバンドとしてキレッキレの演奏をすることで、あえてぶち壊す。

 

バンド史上最もBPMが早いであろう『春の風』では、『サマーソルジャー』を演奏していた時とは別のバンドかと思ってしまうような衝動的な演奏になった。

 

大工原の手数は多くなり、田中はベースをかき鳴らす。曽我部は武田鉄矢と同じ長髪を振り乱している。

 

そのまま『コンビニのコーヒー』へと雪崩込み、さらに演奏は熱気を帯びていく。この楽曲はライブと音源とでは印象が大きく変わる。アウトロで長尺のジャムセッションが行われるからだ。

 

中心に3人が集まり、広いステージを狭く使いながら爆音のロックサウンドをかき鳴らす。その演奏は圧巻すぎて客席は身動きが取れなくなる。「盛り上がり」を超えた熱い演奏は、それほどにまで圧倒させられてしまうのだ。

 

さらに『セツナ』を続けるのだから、鳥肌が止まらなくなる。この楽曲もアウトロのジャムセッションが凄まじいからだ。

 

しかも特に長尺で激しく演奏する楽曲だ。歌唱中から曽我部はシャウトしていたし、後半は座り込むほどにギターをかき鳴らしていた。そんな衝動的な演奏の衝撃のせいで、頭から足先まで震えてしまう。

 

この曲でライブが終わりかと思った。それぐらいに全てを出し切るような熱い演奏だったからだ。客席からは長くて大きな拍手が鳴り響いていたし、メンバーは満足げな表情をしていた。

 

 

 

 

しかしまだまだライブは続く。やりたい曲がまだあるのだろう。ここからは熱いライブの余韻をゆっくりと楽しむような、落ち着いたロックナンバーが続いた。

 

スローテンポで『愛と笑いの夜』『花火』を繊細な演奏で届けてから、〈パラリンピックが終わって空っぽの9月〉という歌詞から始まる2021年の世相を現した『TOKYO SUNSET』を続ける。

 

『日傘をさして』の繊細な歌と演奏も素晴らしい。先ほどまで熱い演奏に圧倒されていた客席が、今度は心地よい演奏に酔いしれている。

 

それでいて演奏に想いを乗せて感動させてもくれる。「バンドを結成したばかりの頃は毎回やって曲」と紹介してから披露した『ご機嫌いかが』は、まさにそのような楽曲だ。

 

結成された当初のサニーデイ・サービスを自分は知らない。活動当初と今とではメンバーも違う。

 

それでも演奏からバンドの歴史を感じた。そんな想いが乗っているように感じた。

 

曽我部「26年前からやってるのに、演奏力が全然変わらないね。ベースも26年前から上達してないじゃん(笑)」

田中「不思議だよね。全然成長してないのに今もバンドが続いてる(笑)」

 

こんなことを言って笑い合っていたが、26年前から音楽で感動させていたことも、変わっていないのだろう。

 

それにファンの目線からすると、バンドが成長していないとは思えない。次に演奏された『ここで逢いましょう』はキャリアにあるバンドが演奏しているからこその貫禄を感じた。

 

真っ赤な照明の中で爆音を鳴らすバンドに、客席の誰もが圧倒されていた。これは若手バンドでは不可能な演奏だ。

 

ライブが最高すぎたようで「もう、サイコー、サイコー、サイコー」と語彙力を失い同じ言葉を連呼する曽我部恵一。少しテンションを落ち着かせ語彙力を取り戻してから、再び話始めた。

 

お客さんが声を出して騒がないか、スタッフが心配していたんですよ。「今はお客さんが騒いだら色々とマズイよねえ」とか自分も話したりしていたんどけど、でもみんなルールを守って静かに聴いてくれて嬉しかったです。

 

いつかまた、一緒に立って騒いで、そうやって楽しめるるようになったらいいね。

 

最後に演奏されたのは『青春狂走曲』。

 

笑顔で客席を見渡して前の方にも出て演奏する曽我部と、手拍子で演奏に参加する客席が印象的だった。

 

演奏を終えてステージを去るメンバー。すぐにアンコールの拍手が巻き起こり再登場すると、曽我部がやり切った表情で最後の挨拶をした。

 

今日はやりたい曲はだいたいできたね。まだやりい曲はあるにはあるけれど、今日はやりきった気分です。もう2時間もやったからね。

 

今サニーデイ・サービスはレコーディングをしています。今後もライブをやり続けます。これからも応援してください。

 

うちのコーヒーフィルターがなくなってコンビニに買いに行ったんですけど、コンビニに売ってないんですね。だからコーヒーを飲みたい気分です。だからちょっとした曲ですけど、この曲をやります。

 

アンコールで演奏されたのは『コーヒーと恋愛』。温かくて優しい楽曲だ。

 

この楽曲も客席が手拍子で演奏に参加していた。ステージと客席とでライブを作っていた。

 

久々のワンマンでありレコ発でもないライブ。だからかメンバーが今一番演奏した楽曲だけを集めたセットリストに思った。本人たちが「やりたい曲はだいたいできた」と言っていたことに、嘘はないのだろう。

 

まだコロナ禍は終わっていない。だから開催するにあたって様々な制限がある。まだまだ自由にライブを楽しむことは難しいし、ライブを開催するリスクは高いままである。

 

それでも最高のライブを行うことは可能だ。最高の音楽と最高のお客さんがいれば、最高のライブは成立するのだ。

 

コーヒーと恋愛が共にあればいいことと同じように、バンドとファンが共にあればいいのだ。

 

■サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている at 豊洲PIT 2022.3.4(金)

01.恋におちたら
02.I'm a boy
03.パンチドランク・ラブソング
04.苺畑でつかまえて
05.今日を生きよう
06.スロウライダー
07.心に雲を持つ少年
08.OH!ブルーベリー
09.おみやげを持って
10.海へ出た夏の旅
11.星を見たかい
12.サマーソルジャー
13.春の風
14.コンビニのコーヒー
15.セツナ
16.愛と笑いの夜
17.花火
18.TOKYO SUNSET
19.日傘をさして
20.ご機嫌いかが
21.ここで逢いましょう
22.青春狂走曲


EN1.コーヒーと恋愛

 

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