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【ライブレポ・セットリスト】UNISON SQAUARE GARDEN TOUR 2023 ”Ninth Peel” at ぴあアリーナMM 2023年5月27日(土)

ロッキング・オン編集長の山崎洋一郎は『JAPAN RADIO』というpodcast番組をやっている。毎回1組のロックバンドを取り上げて魅力について語るという内容の番組だ。

 

そのpodcastの5月に配信された最新回で、UNISON SQUARE GARDENが特集されていた。番組内で山崎がユニゾンについて「ロックバンドはライブハウスを好むのに、ユニゾンはホールでツアーをやりたがる珍しいバンド。でもホールを回るロックバンドは一番カッコいい」と解説していた。

 

UNISON SQUARE GARDENは「わかりやすい一体感」というものとは無縁のバンドだと思う。観客は音楽に身を任せ、騒ぎたければ騒ぎ、歌いたければ歌い、じっくり観たい人はじっくり観る。バンドもファンも音楽を生で奏でていることの尊さを理解し、それを共有することの素晴らしさを知っていて、それを最も大切にしているように見える。

 

そういえば山崎は「ユニゾンのワンマンライブはバンドとファンとの信頼関係を感じる」とも語っていた。しっかりと音楽を全員に伝え、会場の全員と信頼関係を結べる空間は、ホール会場が最も適しているということなのだろうか。

 

しかし今のUNISON SQUARE GARDENは、もっと大きな規模でもファンとの信頼関係を感じるライブはできるのだと、アリーナ会場であるぴあアリーナMMでのワンマンライブを観て実感した。アリーナ会場だとしてもバンドと観客との信頼関係を感じる、いつも通りに素晴らしいワンマンライブを行っていたからだ。

 

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ステージに登場する様子もいつも通りである。薄暗い青い照明の中、斎藤宏介と鈴木貴雄はゆっくりと登場し演奏の準備を進めていた。田淵智也は既に荒ぶった様子で変な動きをしている。

 

今回はマスク着用を条件に声出しが許可されていた。しかし観客は無駄に歓声をあげたり声援を送ったりはしない。この関係性もいつも通りだ。いつもと同じ距離感だ。

 

そんな空気の中で演奏された1曲目は『夢が覚めたら (at that river)』。5年前にリリースされた楽曲だ。斎藤がスポットライトを浴びながら、弾き語りで始まるミドルテンポの楽曲からスタートしたことと、新作のリリースツアーとは思えない意外な1曲目に驚いた観客は多いかもしれない。

 

それでもステージに立つ3人は、いつもと変わらないキレのある演奏をしている。彼らはやはり、どの会場でも変わらない。だが田淵智也がマイクの前で微動だにせず演奏していたのは、いつもと違ったかもしれない。普段の彼は基本的にバレリーナのように足をあげるか、シャドーボクシングをするか、飼い主が大好きな大型犬のように斎藤に絡んでいる。

 

そんな田淵は2曲目で「いつもの田淵」になる。斎藤の「UNISON SQAUARE GARDENです!ようこそ!」という挨拶から『シュガーソングとビターステップ』へとなだれ込むと、田淵は暴れ始めた。マイケル・ジャクソンのようにポーズを決め、ステージをシャトルランし、鈴木にちょっかいをかけ、斎藤の横に近づいてみたりする。とても楽しそうである。

 

観客は2曲目も意外な選曲に思ったかもしれない。ライブで特に盛り上がる代表曲かつ、新作の収録曲でもないからだ。予想通りなのは田淵の動きぐらいだろう。

 

序盤から代表曲で最高の盛り上がりを作ってしまったが、今回は最新アルバム『Ninth Peel』のリリースツアー。ここからは最新のユニゾンが最もカッコいいことを証明するかのような選曲と演奏が続く。

 

ギターリフが印象的な『ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ』では、ステージ上に置かれたアルバムタイトルが書かれたネオンが華やかに光っていた。演奏だけでなく演出でも楽しませている。続く『Nihil Pip Viper』ではネオンや照明はカラフルになり、その景色も美しかった。田淵は愛も変わらず何かを蹴り上げたりシャトルランをしている。

 

「最後までよろしく!」と斉藤が挨拶してから始まった『City peel』で、会場の空気が変わった。序盤はアップテンポの楽曲を畳み掛けるように続けたが、この楽曲はミドルテンポで音の響きがオシャレ。観客は心地良さそうに揺れている。青い照明に包まれながら演奏するメンバーのクールさも良い。

 

さらに『静謐甘美秋暮抒情』と、落ち着いた空気感の楽曲を続け、観客を音楽によって酔わせる。田淵は落ち着いた様子ながらも、時折不思議な動きをしていた。

 

『WINDOW開ける』も意外な選曲である。10年以上前のデビュー初期の楽曲だからだ。しかし今のメンバーが演奏しても違和感がない。初期からバンドの軸は固まっていたということだろう。後半の演奏は壮大だ。轟音が会場を包み込む。デビュー当初からユニゾンは、このようなアリーナで通用する楽曲を作っていたのだ。

 

ここから空気を変えるかのように、アップテンポの『シューゲイザースピーカー』『アンチ・トレンディ・クラブ』を畳み掛ける。田淵は再びシャトルランを開始した。

 

『MIDNIGHT JUNGLE』では〈もったいない〉という歌詞を観客も一緒に叫んでいる。田淵はシャトルランをまだ続けていた。曲名を告げてから披露された『Phantom Joke』も、キレッキレな演奏で痺れてしまう。田淵は身体の柔らかさをアピールするかのように足をバレリーナのように上げていた。

 

かと思えばオシャレで心地よいサウンドを鳴らしたりもする。『Numbness like a ginger』がまさにそれだ。シティポップからの影響を感じる繊細な演奏でしっかりと聴かせる。ユニゾンはロックバンドの軸はズラさずに、様々な表現で音楽を鳴らしているのだ。

 

そんな演奏に酔いしれていると、予想外の選曲に驚き興奮してしまった。『お人好しカメレオン』が演奏されたからだ。今回のツアー以前は、有観客で1度しか披露されていないレア曲である。

 

斎藤のアルペジオでの弾き語りから歌がはじまりバンドの演奏が重なる。まるでライブ定番曲かのようにライブ映えするサウンドだし、観客も盛り上がっていた。田淵は踊っていた。

 

そんなレア曲に驚いている観客を、鈴木貴雄がさらに興奮させる。ここから彼のドラムソロが始まったのだ。

 

個性的なフレーズをひたすらに刻む鈴木。激しくもテクニカルなドラミングに圧倒されてしまう。田淵は彼を静かに見守っていた。演奏を終えると立ち上がり客席を見渡す鈴木。観客からはこの日1番と感じるほどの歓声が湧き上がる。満足気な表情の鈴木が少し可愛い。

 

斎藤と田淵はドラムソロの凄まじさと鈴木の可愛さの余韻を観客が感じる暇を与えなかった。そのまま田淵のベースソロが始まり、そこに斎藤がギターで加勢する。可愛かった鈴木は再びカッコいい鈴木に戻りドラムを叩く。そのままジャムセッションが始まったのだ。

 

3人の演奏にまたもや興奮する観客。そしてそのまま『スペースシャトル・ララバイ』はと雪崩込む。クールなセッションから明るくポップな楽曲へと繋がる展開のギャップに痺れてしまう。

 

スペースシャトルや惑星の形をしたネオンの看板も登場し、ステージ上は鮮やかに彩られていく。ライブ後半に向けて演出も盛り上げに加担しているのだ。

 

さらに『放課後マリアージュ』とポップな印象がある楽曲が続く。このような楽曲はアリーナやホールが似合う。会場全体が華やかで明るい空気で包まれていた。

 

ライブも終盤。ここから全てを出し切るように演奏は熱気をさらに増していく。『徹頭徹尾夜な夜なドライブ』では煙が出る演出も取り入れられ、ド派手な盛り上がりに。暴れる田淵も煙に一瞬だけ隠れた。

 

サビで斎藤がマイクから離れて客席を眺めている様子が印象的だった。まるで観客に「歌え」と言葉でなく行動で示しているようだ。当然ながら観客はそれに応えるように歌っている人が多い。

 

最新アルバムの中でも特に激しい楽曲の『カオスが極まる』もキレッキレな演奏だ。田淵もテンションが上がったのか、見えない何かに向かって猫パンチをしていた。

 

「UNISON SQUARE GARDENでした。ラスト!」と一言だけ斎藤が告げてから演奏されたのは『恋する惑星』。華やかで多幸感に満ちた楽曲だ。バンドロゴやリンゴや猫などのネオンのステージセットも登場し、演出でもさらに盛り上げていく。やはりこのような演出は大きな会場だと映えて感動的だ。

 

演奏を終えて颯爽と去っていく斎藤と興奮しながら帰る田淵。鈴木は投げキッスをしてロックスターとしての貫禄を見せつけながらステージを後にした。投げキッスした瞬間、この日1番の黄色い声援が送られた。

 

すぐにアンコールの拍手が響く客席。すると30秒ほどでメンバーが再登場した。あまりにも早すぎる。観客に休む暇を与えないどころか、本人たちも休む暇を自ら無くしている。ストイックかドMかのどちらかだろう。

 

斎藤が「オマケ!」と言ってから『ガリレオのショーケース』が演奏された。オマケとは思えないほどに衝動的でキレッキレな演奏だ。観客もオマケどころかメインのつもりで盛り上がっている。

 

この楽曲で田淵はぶっ壊れていた。斎藤をストーキングし、彼への愛を態度で示していた。

 

齋藤に近づいて顔を下から覗き込んだり、演奏しているギターの近くまで顔を近づけたりと、愛が暴走している。どうしても斎藤に近づきたいようだが、斎藤は苦笑いしてかわそうとしていた。間奏では近づいてくる田淵から逃げているうちに、ステージ上手側の隅っこまで斎藤は追いやられていた。田淵は満面の笑みで嬉しそうである。その様子は飼い主にシッポを振る大型犬のようだ。

 

暴れ回って満足したのか、曲が終わる頃には自分の立ち位置に戻る田淵。本編で出し切れなかった動きの全てを披露していた。

 

最後に演奏されたのは『kaleido proud fiesta』。〈かくしてまたストーリーは始まる〉という歌詞から始まる楽曲がライブの最後とは粋だ。このライブを終えてまた新しいストーリーが始まるとも感じられる選曲である。

 

サビでは観客の合唱も聴こえる。田淵は時折バレリーナのように足を上げる。最高の楽曲と最高の演奏と最高の観客によって、ライブは大団円で終了した。

 

颯爽と去っていく斎藤とベースを投げ捨てるようスタッフに渡し暴れながら去る田淵。鈴木は穏やかな表情で両腕を広げ、抱きしめるような動きをしてからステージを後にした。何かの教祖だろうか。観客は鈴木教祖に盛大な拍手を送っていた。

 

今回のユニゾンのライブはマスク着用のもと声出しが許可された。自分が見た限りはルールを守っている人しか居ないように見えた。かといって無駄に声を出したり歌ったりする人も居ない。心から感動した時と興奮した時に歓声をあげ、ここぞと言う時に一緒に歌っていた。

 

前述した通り山崎洋一郎は「ユニゾンのワンマンライブはバンドとファンとの信頼関係を感じる」と評している。それをアリーナでも成立させるようなライブに感じたし、この関係性だからこそUNISON SQAUARE GARDENのライブは最高の空間になっているのかもしれない。

 

■UNISON SQAUARE GARDEN TOUR 2023 ”Ninth Peel” at ぴあアリーナMM 2023年5月27日(土) セットリスト

 

1.夢が覚めたら (at that river)

2. シュガーソングとビターステップ

3. ミレニアムハッピー・チェーンソーエッヂ

4. Nihil Pip Viper

5. City peel

6. 静謐甘美秋暮抒情

7. WINDOW開ける

8. シューゲイザースピーカー

9. アンチ・トレンディ・クラブ

10. MIDNIGHT JUNGLE

11. Phantom Joke

12.Numbness like a ginger

13. お人好しカメレオン

14. スペースシャトル・ララバイ
15. 放課後マリアージュ
16. 徹頭徹尾夜な夜なドライブ
17. カオスが極まる
18. 恋する惑星

 

EN1. ガリレオのショーケース
EN2. kaleido proud fiesta