2023-06-17 【レビュー】ずっと真夜中でいいのに。『沈香学』でACAねの歌唱方法が変わった ずっと真夜中でいいのに。 レビュー ずっと真夜中でいいのに。の音楽は、ビートの強さが要だ。自分はずとまよの音楽と出会った時から、そんなことをずっと思っていた。J-POPとしてのキャッチーさを忘れずにビートの強さを極めることで、ずとまよの個性は深まり魅力が増大すると信じている。 ビートの強い楽曲は、リリースを重なるごとに増えていた。 1stアルバム『潜潜話』の収録曲は、メロディアスでボカロ文化の影響を受けつつもビートが個性的な楽曲が中心だった。それが2ndアルバム『ぐされ』でビートがより強くなる。その流れを汲んで6月にリリースされたばかりの3rdアルバム『沈香学』は、ビートを最重要視した作品になっていた。 『沈香学』は導入がリズム楽器から始まる楽曲が複数ある。例えば『残機』『馴れ合いサーブ』。この2曲はベースの演奏から始まり、そこにドラムが重なるという構成だ。『綺羅キラー』のように、ギターのカッティングから始まる楽曲もある。これらは自然とビートを意識してしまう仕掛けの編曲だ。 今作は音楽ジャンルとしてビートが重要となるジャンルを取り入れ、その影響を伝えるかのような楽曲も収録されている。『花一匁』はソウルミュージックのテイストを取り入れているし『不法侵入』はR&Bの影響を感じる。『上辺の私自身なんだよ』はダブのリズムで、フィッシュマンズへのリスペクトを感じるような編曲だ。 この傾向は2ndアルバムまでのずとまよとは、少しだけ違う。2ndアルバムまではビートを大切にしつつも、メロディアスな部分を最重視した作風に感じるからだ。それが3rdアルバムでビートの強さを重視する方向へ振り切ったことで、ずとまよの音楽により深みが増したのである。 ACAねの歌唱方法も、ビートを意識したものに変化した。今作の歌唱は「メロディを歌う」というよりも「声や言葉をビートに当てはめている」と感じるのだ。言葉を細かく区切ったり、一音に2文字を詰め込むように歌っている。あえて言葉を曖昧に発音することも多い。これは過去作ではほとんど見られなかった傾向だ。聞き取りづらくなったとしても、耳で聴いていて心地よい音になるよう工夫したのだろう。 この歌唱方法によって、歌だけでも踊れてしまうようなビートが生まれるのだ。試しに『沈香学』収録曲の歌に、ピッタリと合わせるように手拍子してみてほしい。複雑ながらも気持ちの良いビートをならす手拍子になっていることがわかるはずだ。今作のACAねは歌声をリズム楽器のように使っているとも言える。他のシンガーはメロディを重視することが多いので、このような感覚になることは少ない。 歌詞もビートを意識したものが多い。歌詞のどれもに意味やメッセージがあることが前提の話ではあるが、歌唱としては意味よりも韻や響きを重視している。 例えば『あいつら全員同窓会』の〈ステンバイミー 自然体に シャイな空騒ぎ〉などは、意味よりも言葉遊びの要素が強い。しかし綺麗に韻を踏んでいるので聴いていて気持ちいい。『綺羅キラー』の〈最低なコンプだし 最高のこんぶ出汁 揃ってるだけじゃつまらんし〉というフレーズも同様だ。 言葉の発音をあえて間違ったものにすることで、ビートの心地よさを作っている歌唱もある。『馴れ合いサーブ』で歌われる〈ラリー〉というフレーズや『ミラーチューン』の〈笑っとく〉や『花一匁』の〈淡い残りがの攻撃に〉などがそれだ。言葉として正しい発音にしてしまってはビートの心地よさが損なわれてしまう。それを防ぐために、あえて個性的な発音で歌っているのだろう。 だがビートを意識しすぎては、心地よすぎて聞き流されてしまい、楽曲が印象に残らない可能性もある。 その対処として楽曲内の一部分は言葉をはっきりと発音している。特にサビの最初のフレーズではっきりと発音することが多い。『猫リセット』『花一匁』などでそれを感じる。 これによって「ビートに偏りすぎた音楽」ではなく、キャチーなポップスとしてキャッチーな音楽として成立しているのだ。だからサビのフレーズは一度聴けば覚えてしまう楽曲が多い。 ビートの心地よさは損なわれる危険性もあるが、ずとまよはバンドメンバーも一流だ。ビートを重視した演奏をしている。ギターなどのメロディを奏でる楽器だとしても、リズムを刻むような演奏が中心だ。 ビートの維持が成立するギリギリを攻めた歌唱かつ、ビートに傾倒しすぎないように気をつけた歌唱をしているACAね。そしてバンドはそれを支えつつ、楽曲全体的のビートの気持ちよさを意識した演奏をする。それによって絶妙なバランスで成立している、ずとまよだからこその個性を感じる音楽になるのだ。 その傾向は活動初期からあったのかもしれない。しかし今作で今までの積み重ねの成果が形となって現れ、ずとまよの個性は強まり魅力が深まった。 そんな音楽によって、自分はずとまよにさらに魅了された。きっと自分は肋の骨が折れるまで、ずとまよを聴き続けるだろう。 ↓ずとまよの過去記事はこちら↓ 【メーカー特典あり】『沈香学』初回限定DELUXE LIVE Blu-ray盤 (2枚組)(Blu-Ray付)(特典:①ZUTOMAYO CARD ベーシックパック②「沈香学」限定ZUTOMAYO CARD 1枚付) アーティスト:ずっと真夜中でいいのに。 Universal Music Amazon