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【レビュー】YUKI『パレードが続くなら』で感じる不思議な感覚について

 

楽曲だけで評価するならば、アルバムとして統一感があるかというと、それはないように感じる。

 

『My Vision』のような疾走感あるロックナンバーか流れたと思えば、次はクールなダンスミュージックの『ハンサムなピルエット』か続いたりする。ジャズやシティポップの影響を感じる『どんどん君を好きになる』のような楽曲もあれば、感動的なバラード『私の瞳は黒い色』もある。収録曲の方向性はバラバラだし、曲順の振り幅も激しいのだ。

 

そもそも今作は打ち込みのダンスミュージックが収録されたEP『Free & Fancy』と、バンドサウンドの楽曲が収録されたEP『Bump & Grind』の2作品を1枚に詰め込み、そこに新曲を加えたものである。そんな全く違う方向性の2作をまとめたのだから、統一感があるはずはない。

 

しかし不思議なのだ。最初から最後まで通して聴くと、ひとつの作品として綺麗にまとまっているように感じる。

 

『パレードが続くなら』というアルバムは、そんな不思議な作品だ。

 

それはYUKIの歌声が影響しているのだろう。彼女は曲によって表現方法は変えている。しかし声色は変わらないし歌唱の癖も強い。だから良い意味で「何を歌ってもYUKIの音楽」になってしまう。だからジャンルが違う楽曲を歌ったとしても、その全てが「YUKIの音楽」になるのだ。

 

とはいえ他にも声質や歌唱法が独特で、唯一無二の個性をもっているアーティストは沢山いる。これは一流のシンガーならば、必ず持っている強みだ。

 

しかし一流のシンガーだとしても、どんな曲を歌っても「自分の音楽」にできるかといえば、そうとは限らない。シンガーごとに得意ジャンルや個性が活きるジャンルがある。

 

実力派のロックバントのボーカリストがR&Bを歌っても実力を最大限発揮できないだろうし、オペラ歌手がカッコいいラップをできるとも限らない。各々が1番実力を発揮出来る場所を見極め、そこで力を最大限発揮できるシンカーこそ、一流なのだとも思う。

 

YUKIも一流のシンガーだ。しかし彼女は異質なシンガーでもある。なぜなら前述した通り、どんなジャンルでも「YUKIの音楽」にしてしまうからだ。それは彼女が過去に歌ってきた音楽がジャンルレスだからに思う。

 

彼女はJUDY AND MARYの頃はロックを歌っていた。ソロになると1stアルバム『PRISMIC』でポップスを軸に音楽性の幅を少しずつ広げ、ダンスミュージックの影響が強い『JOY』をソロの代表曲と言える評価を集めた。4thアルバム『Wave』では複雑で難解な編曲の楽曲を、彼女の歌声でキャッチーにするという大業を成し遂げた。

 

その後はダンスミュージックとポップスの色が強くなっていくものの、ビッグバンド編成でライブを行ったり、ジャズのテイストを取り入れたりと、音楽性はさらに拡げていった。

 

それでいて音楽への探究心も強い。9thアルバム『forme』では初のセルフプロデュースに挑戦したかと思えば、10thアルバム『Terminal』では他者との共同制作に重点を置いている。柔軟に音楽制作に取り組み、ベテランと呼ばれるキャリアになっても挑戦をし続けている。

 

そんな挑戦を続けているうちに、ソロデビュー20周年を迎えた。ジュディマリでの10年とソロ活動の20年で、様々な音楽に挑戦し、様々な歌をうたい続けてきた。そのジャンルの幅は他のキャリアが近いシンガーと比べても、かなり幅広いだろう。

 

だからジャンルがバラバラな楽曲が集まったアルバムでも、彼女の歌唱によって個性を加え、統一感ある作品に仕上げることができる。今までの経験を活かせば、それは容易いことだろう。

 

ソロデビュー20周年のタイミングでリリースしたオリジナルアルバム『パレードが続くなら』は、まさに「YUKIの歌声」て違うジャンルの音楽を繋げて「YUKIの音楽」にしてしまった作品だ。これは彼女の歴史や経験があっからこそ作り出せたのだろう。

 

それでいて最新作でも、やはり新しい挑戦をしている。YUKIはオリジナル曲では自分が作詞を必ず手がけていたが、今作で初めて他者が提供した歌詞を歌ったのた。

 

その楽曲は銀杏BOYZの峯田和伸が手がけた『Dreamin'』である。過去にもYUKIか銀杏BOYZの楽曲に参加したり対バンしたりと、交流はあった。その縁のあって、YUKIの初めての試みに峯田が参加したようだ。

 

この楽曲は歌詞もメロディも、峯田和伸の個性が強い。YUKIが参加した銀杏BOYZ『駆け抜けて性春』のセルフオマージュと思えるフレーズがあるのも面白い。そんな楽曲でも、やはりYUKIが歌うと「YUKIの音楽」になってしまう。作詞作曲者の情報を知らなければ、峯田和伸の提供とは気づかないほどだ。

 

他にもYUKIは今作で新しい挑戦をきている。『タイムカプセル』はThe Cureを彷彿とさせるサウンドの疾走感あるロックソングだが、このような楽曲は過去の彼女の作品にはなかった。それでもやはり、YUKIが歌うと彼女以外は歌えないと感じるほどの「YUKIの音楽」へと昇華してしまう。

 

ソロデビュー20周年ながら、妥協することなく新しい挑戦を続けている。それでいてキャリアに裏付けられた個性や実力が作品から滲み出ている。『パレードが続くなら』は、最新のYUKIこそ最高なのだと実感するような作品だ。