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Sexy Zone『Forever Gold』の何が凄いのかを分析してみた

ここ数年、Sexy Zoneは音楽へのこだわりを強めていると感じる。新しい挑戦をしていることはもちろん、1曲ごとのクオリティを高めることに注力しているようだ。

 

『POP×STEP!?』というアルバムをリリースして以降、アイドルファンやジャニーズファン意外にも彼らの音楽が注目され始めた。特に『RIGHT NEXT TO YOU』はSNSを中心に音楽ファンの間でバズり、大きな話題になったことは記憶に新しい。

 

最新アルバム『ザ・ハイライト』も、多くの音楽ファンに注目されるはずだろう。そんなことを、リード曲の『Forever Gold』を聴いて確信した。この楽曲もクオリティが高い上に、Sexy Zoneの新しい魅力を伝える楽曲になっているからだ。

 

 

『ザ・ハイライト』は80年代の音楽やカルチャーを取り込むことがコンセプトの一つである。それもあって、この楽曲は80年台リバイバルと言えるサウンドと編曲がされている。80年代当時を知る人は懐かしさを感じ、若い世代は新鮮さを感じるだろう。

 

しかし「80年代リバイバル」は珍しいことではない。むしろ2022年では流行りを通り過ぎて定番になり、個性を出すことが難しいジャンルになりつつある。「80年代リバイバル」は10年ほど前にはブームになりつつあったからだ。

 

2012年にリリースされたBruno Marsのアルバム『UNORTHODOX JUKEBOX』が、ブームのきっかけの1つだろう。全体から80年代の匂いを感じる作品で、グラミー賞を受賞した大ヒット作である。このヒットはインパクトが強かったし、その後もBruno Marsは80年代の匂いを感じるが曲をヒットさせ続けた。影響を受けたミュージシャンが世界中に表れるのは当然だ。

 

 

Taylor Swift『1989』のヒットもブームに貢献しているはずだ。2014年にリリースされた今作は、Taylor Swift自身が「80年代後期のポップスから影響を受けた」と公言している。

 

それまでのテイラーの特徴であったカントリーポップな曲調は一切取り入れない作風で、彼女にとって大きな転換となったアルバムでもある。発売初週で128万枚を売り上げる大ヒット作だ。彼女も80年代リバイバルのブームを引っ張った存在の1人だろう。

 

 

2019年前後からは現代的な価値観やセンスを加えてよりアップデートされた新しい形の「80年代リバイバル」が増えてきた。

 

2019年発表で世界的大ヒットとなったThe Weeknd『Blinding Lights』は、80年代ニューウェイブやシンセポップの影響を色濃く感じるサウンドの楽曲だが、奥行きのある音像は現代的である。その組み合わせが新しいのだ。

 

Blinding Lights

Blinding Lights

  • ザ・ウィークエンド
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

世界的大ヒットになったし、K-POPの枠を飛び越え世界的アーティストとなったBTSは『Dynamite』でMVも含めて80年代の音楽やカルチャーをリバイバルしつつも、音数が少ない編曲にしてメロディを聴かせるよりもリズムで踊らせるような楽曲になっている。これも現代の価値観をプラスしてアップデートさせているのだ。

 

 

日本のアーティストも同様だ。例えばサカナクションはアルバム『834.194』では『忘れられないの』や『新寶島』など複数の楽曲で80年代サウンドを取り入れている。しかも「日本のロックバンド」として上手く昇華して海外アーティストには作れない80年代リバイバルな音楽を作り上げていた。

 

忘れられないの

忘れられないの

  • サカナクション
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

つまり「2022年に80年代リバイバルを行うこと」は珍しいことではないのだ。むしろ今から「80年代リバイバルをやる」と大々的に打ち出しても「今更になってそれ?」と思われてしまうぐらいに、手垢まみれの二番煎じである。それに流行っているジャンルに手を出す時こそ、慎重になるべきだ。迂闊に手を出したら「流行りにのっただけ」と思われて火傷するだけだ。

 

80年代に作られたものとは違う価値を生み出さなければ、わざわざ80年代リバイバルを作る理由が生まれない。80年代の音楽やカルチャーをリスペクトしつつ、新しいものを価値観を作るからこそ価値があるのだ。

 

そう考えるとSexy Zoneは流行りに乗ることが一足遅れてしまったのかもしれない。だからこそ「2022年に80年代リバイバルを押し出す理由」が必要になる。これは高いハードルだ。

 

しかしSezy Zoneは見事にハードルを超えてきた。海外の80年代ポップスをサウンドの軸に置きつつも、「J-POPの王道」と「日本のアイドルソングの王道」を組み合わせた楽曲構成にすることで、新しい音楽を作り出した。特に『Forever Gold』は日本のアイドルにしか作れない、Sexy Zoneだからこそ表現できる音楽となっている。

 

『Forever Gold』のサウンドは80年代の洋楽ポップスを意識している。シンセサイザーの音色と中盤のギターソロはVan Halen『JUMP』をオマージュしたものだろう。80年代を代表する大ヒット曲の音色やアレンジを取り入れることで、80年代の空気を2022年の楽曲に反映させることに成功した。

 

Jump

Jump

  • ヴァン・ヘイレン
  • ハードロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし『JUMP』は名曲かつ大ヒット曲なので、世界各国でオマージュがやり尽くされている。ただオマージュするだけならば、Sexy Zoneがやる意味はない。だからこそ「J-POPの王道」と言える成分も取り入れ、彼らがやる意味に説得力を加えているのだ。

 

その成分の一つがメロディである。

 

『Forever Gold』はメロディの展開が多く複雑だ。目まぐるしく変化しサビに向けて盛り上げていくことが特徴である。そして楽曲構成はAメロ→Bメロ→サビというJ-POPの定番な楽曲構成となっている。これらは90年代以降のJ-POPの定番であり、2000年代になり磨きがかかったJ-POPの王道だ。

 

「アイドルソングの定番」を取りれていることにも注目したい。イントロのシンセサイザーのメロディは、サビの歌メロと同じメロディを弾いている。それによってサビのメロディをより印象付けようとしているのだ。

 

アイイドルソングはサビやAメロの歌メロをアレンジしたメロディをイントロで鳴らすことで、歌の訴求力を高めようとすることが多い。このようなイントロは例えばAKB48『Everyday,カチューシャ』や乃木坂46『ジコチューでいこう!』などでも使われている。特に明るい印象を与えるアイドルソングでは多い傾向だ。

 

それをSexy Zoneも取り入れているので『Forever Gold』は、アイドルソングの魅力を損なっていない。「80年代リバイバル」が一つのテーマだとしても、J-POPとしての魅力もアイドルソングとしての魅力も大切にしている。彼らの軸は「J-POPを歌う日本のアイドル」なのだ。

 

しかし80年代リバイバルの中にJ-POPの王道とアイドルソングの王道を組み合わせることは、危険な挑戦でもある。時代がバラバラなものを組み合わせるので、それぞれのジャンルの魅力を潰しあう可能性もあるからだ。

 

それを潰し合わずにバランスの良い楽曲にできた理由は、「サウンドは80年代」「メロディと構成は王道J-POP」「隠し味として王道アイドルソングの編曲を一部取り入れる」と潰し合わないように工夫して楽曲を作ったからだろう。おそらく製作陣も80年代リバイバルをただやっても意味がないことを理解していたのだろう、Sexy Zoneがやる意味やグループの性質についても考えていたとも思う。

 

この工夫によって「Sexy Zoneがやるべき意味と価値のある80年代リバイバル」を作ることに成功し、「今までにない80年代リバイバルのJ-POP」を作り出したのだ。このような80年代リバイバル楽曲は、他にはないだろう。

 

Sezy Zoneは2020年に海外進出を視野にいれるこを理由に、レーベルを移籍している。それ以降は海外を意識した方向性の楽曲が増えた。

 

 

しかしSexy Zoneは海外進出を意識したからと言って、海外のトレンドに迂闊に乗ることはない。「海外でウケそうな音楽」をただ真似したところで受け入れられるはずがないのだ。そこには「このアーティストであるべき価値」が必要になる。それをメンバーも関係者も理解しているはずだ。だからこそ『ザ・ハイライト』のようなアルバムが作られ、『Forever Gold』がリード曲に選ばれたのだろう。

 

自分はSexy Zoneの価値は「J-POPを突き詰めていること」に思う。海外のトレンドや新しい音楽を取り入れつつも、音楽の軸はJ-POPであり続けているし、アイドルという存在からブレることがない。それが強みに思う。

 

アルバム『ザ・ハイライト』を聴いた。やはり「Sexy Zoneであるべき価値」を感じる作品だった。ただ80年代リバイバルをするわけでも、シティポップを取り入れるわけでも、海外を意識した音楽を作っているわけでもない。J-POPかつアイドルソングとして、意味と価値がある音楽を作っている。アルバム全体を通して、一筋縄では説明できないほどに作り込まれている。

 

そんな音楽をアーティストとしてしっかりと表現できるのがSexy Zoneの5人だと思う。楽曲が素晴らしいことはもちろんだが、Sexy Zoneが歌い表現するからこその魅力もあるのだ。

 

今作に参加しているのは4人だが、それでもグループの魅力が溢れている。前作に負けないぐらい素晴らしい作品である。

 

4人でこれほど凄い楽曲が揃ったアルバムを作れるのならば、5人になった時はどれほど凄い作品を作れるのだろう。5人が再び揃った時が、グループにとって本当のハイライトかもしれない。

 

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