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2022年 個人的年間ベストアルバム 10選

2022年に聴いたアルバムで個人的に特に好きな作品を10枚選びました。

 

今の自分は自分自身が音楽に点数や順位を付けることに懐疑的なので、ランキングではなく五十音順で紹介しています。(他人が順位をつけることは悪いとは思っていない。ただ真摯に音楽に向き合うべきだとは思う)

 

その理由については以前記事にしています。

 

 

ロックなサウンドとキャッチーなメロディの音楽が好きなので、今回選んだ10枚もそのような作品が多いです。

 

 

Wet Leg『Wet Leg』

 

自分がWet Legを知ったのは2021年。『Chaise Longue』のミュージックビデオを観て「変な新人が出てきたな」と思った。女性2人が登場するMVなのだが、そのうち1人は顔が完全に隠れる大きな帽子を被っていたからだ。大木伸夫もびっくりするぐらいに個性的な帽子である。そんな格好で踊ったり止まったり変な動きをしている。少し不気味なその映像が、とにかくぶっとんでいて忘れられなかった。

 

だが映像のインパクトだけで勝負しているイロモノではないのだと、すぐに気づいた。数回MVを観ただけなのに、楽曲の方も頭から離れなくなったからだ。サビのメロディはすぐに覚えて口ずさめるようになったし、ギターのリフまでも口ずさめるようになった。このロックデュオは、楽曲でもしっかりインパクトを残すのだ。

 

そして2022年にリリースされた1stアルバムを聴いて、やはりこのWet Legは「変な新人」ではなく「凄い新人」なのだと確信した。全曲のメロディがキャッチーで耳から離れないし、演奏も同様に耳にこびりつくぐらいに名フレーズを連発しているからだ。

 

例えば『Angekica』や『Wet Dream』のギターのフレーズ。ヘンテコで不安定なのに、それがクセになる独特なフレーズだ。正直演奏は上手いわけではない。音もローファイで綺麗とは言えない。それでも惹きつけられてしまうのは、印象的で個性的なフレーズが盛り沢山だからだ。

 

まるで音楽や演奏が好きな友人同士が、自身が鳴らして楽しいと思う音だけを鳴らして、それをツギハギに組み合わせたら曲になってしまったかのような、そんな奇跡的なバランスで成り立っている様に感じる。そんなヘンテコだけど魅力的でクールなロックアルバムだ。

 

しかし美しい旋律の『I Don't Wanna Go Out』や壮大で多幸感に満ちた『Supermarket』のような楽曲もある。意外にも音楽性は幅広く、1枚のアルバムの中に様々なタイプの楽曲が収録されているのだ。

 

イロモノとしてではなく音楽として「面白い新人」が出てきたと感じる作品である。

 

結束バンド『結束バンド』

 

『ぼっち・ざ・ろっく!』は素晴らしいアニメだった。日常系アニメとして楽しむことができるのに、音楽アニメとしても熱い展開があって惹き込まれる。それでいて邦ロックファンだからこそ気づけるような細かな仕掛けや文脈、描写があったりと凝っている。そんな名作アニメだった。

 

作中で使われていた楽曲も良い。王道なの耳から離れない個性があるサウンドだ。2000年代~2010年代前半の邦ロックにアニメソングを隠し味に入れて、現代の価値観に合わせたような凄さがある。

 

使われている音はギター、ベース、ドラムの音だけ。楽曲の基本的な構成も一般的なJ-popや邦ロックのフォーマット通り。しかし編曲が変態的に凝りまくっているし、参加ミュージシャンには成立させるだけの演奏技術がある。それでいてボーカルは声優なので、その声を生かした歌唱をしている。だから歌についてはアニソンの要素が強い。

 

つまり邦ロックとしてもアニソンとしても王道的な雰囲気があるが、その2つが綺麗に組み合わさっているので、耳に残る唯一無二のキャッチーさがあるのだ。それでいてよくよく聴くと演奏の凄まじさに感服する。アニメの企画モノではなく、かなり作り込まれた最高のロックアルバムだ。

 

アニメを観た人にはより響く作風になっているのも良い。例えば後藤ひとりによるASIAN KUNG-FU GENERATION『転がる岩、君に朝が降る』のカバー。〈俳優や映画スターには成れない それどころか君の前でさえも上手に笑えない〉という歌詞なんて、まさに作中のぼっちちゃんの気持ちとリンクしているではないか。

 

アニメ内のバンドの楽曲という文脈も含めて評価すると、より魅力が増す素晴らしいアルバムに思う。

 

Cody・Lee (李)『心拍数とラヴレター、それと優しさ』

 

Cody・Lee(李)が一皮剥けたと思った。前作も素晴らしい作品だったが、それを超える完成度と個性を手に入れている。

 

2020年にリリースされた『生活のニュース』は衝撃的だった。聴けば耳から離れない楽曲ばかりで、これから日本のロックシーンを引っ張っていくバンドの1組になると確信するほどである。

 

しかし影響を受けたバンドの匂いを強く感じる作品でもあった。特にフジファブリックの影響は色濃いし、ボーカルの高橋響もそれを公言している。それに対して否定的で心ない意見を、自分は見かけたことがあった。「これならフジファブリックを聴く」などと。

 

だが今作は彼らが影響を受けた音楽の匂いを含みつつも、Cody・Lee (李)にしかない個性も生まれているように思う。

 

例えば『異星人と熱帯夜』。男女ツインボーカルを活かした掛け合いのような歌割りが、この曲は特にカッチリとハマっている。それが影響してなのか、少し不思議なメロディと歌詞なのに爽やかさも含んだ楽曲だ。今作は「爽やかさ」が前作よりも強まっていて、それが彼らにしかない個性へと昇華されたのではないだろうか。

 

特に『江ノ島電鉄』や『世田谷代田』は爽やかだ。しかしBGMにできる爽やかさではなく、ほんのりと違和感を覚える要素を含んでいる。良い意味で耳に引っかかる不思議な音やメロディがあるのだ。それはメンバーが聴いてきた音楽からの影響からだろう。他の収録曲も同様で、爽やかさと変態さと不思議さが、それぞれバランスが違うものの絶妙に混じりあって、Cody・Lee(李)の唯一無二の個性となっているのだ。

 

そして何より丁寧な編曲が良い。バンドメンバーの楽器の音だけに頼らず、楽曲の魅力を引き出すならば、外部の音も積極的に取り組む。しかし編曲や演奏が独創的なので、このメンバーでなければ成立しない音楽になっている。

 

Cody・Lee(李)にしか作れない音楽を完済させたと感じる名盤。

 

syrup16g『Les Misé blue』

Les Misé blue

Les Misé blue

  • アーティスト:syrup16g
  • DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT INC.
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1曲目『I Will Come (before new dawn)』の1音目を聴いた瞬間に「これはSyrup16gだ」と思った。それほどの個性が、このバンドにはあるのだ。曲がどうこうの前に、サウンドが唯一無二で、それだけで惹き付けられてしまう。新作を聴いて、改めてそう思った。

 

14曲約1時間のボリュームがある作品だが、曲調は似たものが多い。悪く言えば平坦な流れで「これぞ!」というキラーチューンが無いと感じるかもしれない。

 

しかし全体的に統一感があり、一枚の作品として浸れるとも評価できる。「歴史に残る過去最高傑作を作る」という気合やエネルギーも感じないが、いい感じに力が抜けていて、それによって心地よく長く聴ける作品が生まれたのではないだろうか。そして聴いているうちに作品の世界観にぐいぐいと惹き込まれ、感情がかき回されて、聴き終わった後に深い余韻が残る。活動休止期間があったとはいえ、ベテランバンドだからこその経験や貫禄が音に現れた結果なのだろう。

 

とはいえ過去の焼き増しだとは思わないし、適当に作ったとも思わない。きちんと聴くと今まで以上に凝った編曲であることがわかるからだ。

 

『Dinosaur』のドラムのリズムパターンは複雑だし『Alone In Lonely』のベースラインからは演奏を支えつつも音色として面白みを加えていることがわかる。『深緑のMorning glow』の曲展開も新鮮だ。つまり細かい部分からは過去を超える進化や変化を感じるのである。これはsyrup16gが現役のバンドとして、まだ衰えていないことを示している。

 

人によってはマンネリに感じるかもしれない。しかしsyrup16gの個性が色濃くでた作品でもある。そして聴けば聴くほど凄みにハマってしまう名盤でもある。

 

Sexy Zone『ザ・ハイライト』

 

個人的にSexy Zoneは音楽的な部分でのチャレンジやクオリティの追求に関しては、ジャニーズの中で頭ひとつ飛び抜けているように思う。

 

決して他のジャニーズの音楽が劣っていると言いたいわけではない。所謂「音楽マニア」「音楽ファン」と言われる、音楽を大量に聴いたり分析する層の琴線に触れる楽曲が多いと言いたいのだ。

 

それはアルバム『POP×STEP!?』以降、さらに言うとレーベル移籍からより顕著に思う。

 

特に『RIGHT NEXT TO YOU』は音楽ファンの間で大きなバズを巻き起こし、今までSexy Zoneに見向きもしなかった音楽評論家やライターも彼らの音楽に注目するようになった。

 

それは一時だけの奇跡ではなく、現在進行形で名曲を作り続けている。2022年にリリースされた『ザ・ハイライト』も素晴らしい作品だ。その個人的な感想は過去に別の記事で書いたので読んで欲しい。

 

 

今作は80年代リバイバルがテーマだ。しかしただのリバイバルではない。そこには「アイドルだからこそ成立する要素」が含まれているし「J-POPへと昇華することでJ-POPの凄さを改めて伝える」ことを裏テーマにしていると感じる内容にもなっている。それがSexy Zoneの音楽の個性であり、Sexy Zoneのアイドルとしてのプライドに感じた。

 

サブスクで聴けないためファン以外になかなか広がらないことが残念ではあるが、ぜひ聴いてもらいたい名盤だ。

 

Tele『NEW BORN GHOST』

NEW BORN GHOST

NEW BORN GHOST

  • Birth Records
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正直、teleは最初は大人の事情があって推されているのかと思っていた。

 

今年デビューした新人にも関わらず、1月にはロッキングオンで記事が書かれ、スペシャでミドルローテーションに採用されMVが定期的に流れ、1stアルバムがリリースされるとタワレコなどのCDショップで大々的に推されていたからだ。レコード会社が次に売りたい新人だから、宣伝費をかけているのだと思った。

 

しかし1stアルバムを聴いて、そんなことではなく素晴らしい才能を持っているから注目されているのだと確信した。自分の邪推はとても失礼なことだった。

 

まず歌声が素晴らしい。儚さを感じる声色だがよく通るボーカルなので演奏に埋もれない。むしろ浮き上がって聴こえるから耳に残るし、歌詞の言葉がすっと頭に入ってくる。かと思えば『夜行バス』の後半では力強い歌声を出したり『誰も愛せない人』で繊細で美しい裏声を出したりもする。ボーカリストとしての表現力が高い。

 

演奏は基本的にギター、ベース、ドラムが中心のシンプルなものである。しかし編曲は凝っている。ギターはただコードを弾くだけというアレンジはないし、『バースデイ』などではベースだけの演奏になるタイミングがあって、それが楽曲の要になっていたりと面白い。ドラムのリズムパターンも独特だ。手数が多いが演奏や歌の邪魔をせず、必然と感じるプレイに思う。

 

とはいえ他にも様々な楽器の音が使われている。例えば『私小説』ではピアノの音が印象に残るオシャレな編曲になっているし、『花瓶』のオープニングのストリングスは少し不穏な雰囲気をまとっていてゾクゾクする。つまり新人とは思えないほどに音楽の幅は広く、高いクオリティの凝った楽曲を作っているのだ。

 

どことなくandymoriの影響を感じる編曲やメロディの楽曲が多い。そして時折中村一義の初期楽曲に見られるユーモアに近しい部分もある。直接的なのか間接的なのかはわからないが、偉大な先輩ミュージシャンの影響をほんのりと感じるのだ。

 

しかしそこにTeleの個性と現代の価値観と若手だからこその瑞々しさが加わって、唯一無二の音楽になっている。偉大な先輩のモノマネではない。これは新しい音楽だ。

 

こんな名盤をデビュー1年目で出してしまったので、今後は1stアルバムを超える名盤を作れるかが勝負になってしまった。自分自身がライバルになる新人なんて、なかなか出てこない。

 

個人的に今年出会ったアーティストで、最も衝撃を受けたのがTeleだ。

 

ばってん少女隊『九祭』

九祭

九祭

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「ばってん少女隊、とんでもない作品を作ったな」と思った。

 

今までも様々な音楽的なチャレンジをしていたアイドルグループだとは思うが、今作はレベルが違う。コンセプトアルバムで、1枚通して聴くことで魅力がわかる作風も良いし、そのひとつひとつの楽曲のクオリティが半端なく高い。

 

一般的なポップスやアイドルソングとは少しずれた楽曲が多いのだが、メンバーの歌声によってポップな音楽へと彩られていることも凄い。

 

今作の詳細な感想はリリース時に記事を書いたので、そちらを読んで欲しい。

 

The Beth『EXPERT IN A DYING FIELD』

EXPERT IN A DYING FIELD

EXPERT IN A DYING FIELD

  • アーティスト:THE BETHS
  • CARPARK RECORDS
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ボーカル、ギター、ベース、ドラムとシンプルな編成の楽曲ばかりが並ぶ。だからか難しいことを考えずにスッと頭に入ってくる。疾走感ある楽曲が多いアルバムなので、自然と心と身体が熱くなってしまう。

 

ロックミュージックの本質をしっかりと表現し、わかりやすく伝えているのだ。The Bethはそんなバンドだと思うし、新作『EXPERT IN A DYING FIELD』はそのような作品だと思う。

 

しかしよくよく演奏を聴くと、シンプルな編成で複雑なことをやっているのだ。例えば『Best left』や『A passing rain』ではギターの音作りや演奏の構築も練りに練っているように感じる。コーラスワークも絶妙だ。

 

メンバーの楽器の音だけでは少し物足りなくなってしまうような部分で、絶妙なタイミングで入ってきて音に厚みを加え、魅力を増大させている。The KillersやThe Strokesの影響を感じる楽曲もあるが、それも自身の音楽へと昇華しThe Bethの個性を取り入れていることも注目ポイントだ。

 

今作の一番の魅力はメロディに思う。どの曲も一度聴いたらい忘れられないメロディで、思わず口ずさみたくなるものばかりなのだ。特に『When You Know You Know』なんて日本語しかわからないとしても、言葉の壁を超えて合唱できるぐらいにキャッチーだ。

 

最近の海外の音楽は、メロディよりもリズムが重視されることが多い。しかしThe Bethはメロディを大切にしているバンドだと思う。それが魅力であり個性となっている。ロックだとしてもメロディの美しさは重要だということを、改めて教えてくれる作品だ。

 

MUSE『Will Of The People』

 

久々のMUSEの新作『Will Of The People』は「自分の得意分野を改めて今やったアルバム」といった感じがする。派手で大袈裟で壮大で激しく、それでいて美しい。

 

『Kill Or Be Killed』や『Wont't Stand Down』のメタルの影響を感じるギターリフなんて「これぞMUSE」と言いたげな、2000年代の最も注目されていた頃のバンドのイメージにバッチり当てはまるサウンドだと思う。それでいてバンド史上トップクラスにハードで重厚な楽曲だとも思う。ベテランバンドでありながらも進化もしているのだ。

 

そんな進化については『Compliance』からも感じる。デジタルサウンドと組み合わせたロックも、近年の活動があったからこそ生まれた楽曲だろう。Queenを彷彿とさせるオペラ調のロック『Liberation』もクールだし、美しいピアノの旋律が印象的な『Ghosts (How Can I Move On)』も素晴らしい。

 

それらも全てMUSEに思い描く音楽ファンのイメージを崩さずに、今のMUSEを見せる楽曲に思う。今作は初期のMUSEの方向性で今のMUSEが新作を作ったというイメージだ。原点回帰というよりも、原点を再構築&再定義しているような作品だ。

 

 

ちなみにリードトラックかつタイトル曲の『Will Of The People』のサビが空耳で「うぇらざちんぽうぇらざちんぽ」に聴こえる。そのせいで聴く都度に頭にちんぽが浮かんでしまって困っている。

 

リーガルリリー『Cとし生けるもの』

 

リーガルリリーの新作『Cとし生けるもの』は、聴けば聴くほど「これはリーガルリリーの濃度が凄いな」と思うほどに、バンドの個性が強い。サウンドはこのメンバーでなければ鳴らせないものになっているし、メロディはたかはしほのかで無ければ書けない唯一無二の魅力がある。

 

しかし今作は過去作と比べると、より開いた作風になっているようだ。その部分や詳細な感想については、リリース時に記事を書いているのでそちらを読んで欲しい。

 

とにかく今のリーガルリリーが最高のバンドであり、さらに広がる可能性を秘めていることが伝わる名盤に思う。

 

 

まとめ

・Wet Leg『Wet Leg』

・結束バンド『結束バンド』

・Cody・Lee (李)『心拍数とラヴレター、それと優しさ』

・syrup16g『Les Misé blue』

・Sexy Zone『ザ・ハイライト』

・Tele『NEW BORN GHOST』

・ばってん少女隊『九祭』

・The Beth『EXPERT IN A DYING FIELD』

・MUSE『Will Of The People』

・リーガルリリー『Cとし生けるもの』

 

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