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【ライブレポ・セットリスト】BiSH FES at 国立代々木競技場 第一体育館 2022年12月20日(火)

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2022年12月20日。代々木第一体育館で不思議な音楽フェスが開催された。そのタイトルはBiSH FES。

 

フェスなので複数の出演者がいるわけだが、4組の全出演アーティストがBiSHとなっている。意味不明である。

 

つまりBiSHによる「フェス」をテーマとしたワンマンライブということなのだが、フェスというよりも「4種類の方向性が違うBiSHを見せる」という特別なコンセプトを持った、この日でなければ観れないライブだった。

 

BiSH

 

開演前のBGMとしてサンボマスターや緑黄色社会など、音楽フェスの常連バンドの楽曲が流れている。それも含めて「音楽フェス」をコンセプトにしていのだろう。

 

BiSHが登場する前の演出もそうだ。音楽フェスで出演者を知らせる時と同じように、会場のビジョンにBiSHのアーティスト写真と名前が映し出される。この演出だけ見ると、完全に音楽フェスの雰囲気だ。

 

1組目のBiSHは、シンプルなライブだった。

 

ステージセットはない。バックバンドもいない。BiSHの6人が身体だけでぶつかってくるような、小さなライブハウスと変わらないパフォーマンスだ。そのノリなのに代々木第一体育館という1万人以上のキャパで成立するライブをやってのけるのだから、今のBiSHがアーティストとして凄まじい力を持っていることがわかる。

 

1曲目は『BiSH-星が瞬く夜に』。代表曲でありライブ定番曲だ。イントロでセントチヒロチッチが「BiSHフェス!始まるよ!」と叫べば、それに応えるように腕を上げたり振りコピしたり、ペンライトを光らせる清掃員。メンバーだけでなく清掃員もライブハウスと変わらない熱量をアリーナ規模で見せている。

 

最高の盛り上がりでフェスのスタートを切ったわけだが、2曲目のイントロがなった瞬間、客席がざわついた。『BiSH-星が瞬く夜に』が再び披露されたからだ。

 

アイナ・ジ・エンドは「帰っちゃダメだよ!」と動揺する客に訴えかける。モモコグミカンピニーは「スク水だからって写真ばっかり撮ってんじゃねえ!」と、今回のステージ衣装であるスクール水着に触れて観客を煽る。ぶっちゃけ、写真を撮ってる客は、少なかった。

 

観客の動揺はまだまだ続く。3曲目も『BiSH-星が瞬く夜に』だったからだ。客席からは笑い声も聞こえる。ずっこけそうになり身体をのけぞる客が、自分の近くにはいた。

 

ここまで来ると観客も脳みそがぶっ壊れたような盛り上がりになる。アユニ・Dは「端から端まで盛り上がっていきましょう!」と煽っていたが、客席は盛り上がるというよりも発狂したような雰囲気になっていた。

 

同じ曲が3回続き煽る言葉が見つからなかったのか、アイナジエンドは「いええええええええ」と発狂するように叫び煽っていた。

 

そんなカオスな空間は終わらない。4曲目も『BiSH-星が瞬く夜に』だったからだ。モモコは「まだ終わりませんwwwチケット代は返さないからwww残念でしたwww」と煽る。彼女は生意気なことを言う姿が似合う。モモコの煽りに苦笑したチッチは、出だしの歌詞を飛ばした。

 

そして、5回目の『BiSH-星が瞬く夜に』で。BiSHも清掃員もぶっ壊れる。

 

この場にいる全員が最初から最後までひたすらにヘドバンする流れになったからだ。メンバーは踊らず歌も荒々しいまま激しくヘドバンする。清掃員も同じようにヘドバンしている。1万人以上がはげしくヘドバンし、曲の後半は満身創痍になっている景色は、圧巻かつカオスだ。

 

どれだけ人気のアイドルでも解散することがあるように、どんな物事にも終わりがある。このカオスなステージにも終わりは訪れる。6回目の『BiSH-星が瞬く夜に』が、1組目のBiSHの最後の曲だった。

 

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ただ最後の『BiSH-星が瞬く夜に』は、カオスさはなかった。感動的だった。グループの結成から現在までを、過去のライブの様子を中心にまとめた映像が、曲の進行に合わせて流されたからだ。

 

BiSHは2023年に解散する。6月29日の東京ドーム公演が最後のステージになる予定だ。BiSHの最もライブで披露された大切な曲でこのような演出をされると、まるで活動の集大成を見せられている気分になって、感動と寂しさが同時に押し寄せてくる。

 

曲の後半になり映像はこの日のライブのリアルタイムの映像になった。現代の映像に追いついたのだ。客席の様子も映された。笑顔で楽しそうな人や、真剣にパフォーマンスを見つめる人、泣きそうな表情の人、などなど様々なひとがスクリーンに映された。

 

人それぞれでライブの楽しみ方もその時々の感情も、全く違うだろう。しかしBiSHのことが心の底から好きなことだけは共通していると思う。

 

活動初期のBiSHは、持ち曲が少なかったことやBiSの影響からか、同じ曲を連続で何度も行うことが少なくなかった。TIFでは『BiSH-星が瞬く夜に』を連続で行うことが定番となっていた。

 

「フェス」と「BiSH」の組み合わせといえば、『BiSH-星が瞬く夜に』を連続でやることをイメージする清掃員は多い。BiSHの主催フェスにおいて、このセットリストになることは必然だったのだろう。

 

 1組目のBiSHは「楽器を持たないパンクバンド」を身体で表現するような、尖ったパフォーマンスだった。

 

■セットリスト

1. BiSH-星が瞬く夜に
2. BiSH-星が瞬く夜に
3. BiSH-星が瞬く夜に
4. BiSH-星が瞬く夜に
5. BiSH-星が瞬く夜に
6. BiSH-星が瞬く夜に

 

BiSH

 

続く出演者もBiSHである。再び音楽フェスの登場時のようにビジョンにアーティスト名とアーティスト写真が映されて、2組目のBiSHのライブが始まった。

 

2組目のBiSHもカオスな始まり方だ。ハシヤスメアツコのソロ曲『ア・ラ・モード』が1曲目だったのである。ハシヤスメ以外のメンバーをバックダンサーに従えて、伸び伸びと歌い踊るハシヤスメ。

 

さらにはセクシーな衣装のサンバダンサーまで登場し、カオスなお祭り騒ぎになっていく。ハシヤスメ以外のメンバーは死んだ魚の目をしていた。

 

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パフォーマンスを終えると生き生きとした表情と声色で「バックダンサーはBiSHです!」と他の5人を紹介するハシヤスメ。彼女以外の5人は死んだ魚の目をしている。

 

このままカオスなライブ展開になるかと慄いていたが、カオスなのは1曲目だけのようだ。続く『脱・既成概念』では、映像演出を使いつつクールなパフォーマンスで魅せる。いつも通りのカッコいいBiSHだ。ハシヤスメ以外のメンバーも水を得た魚のように元気である。

 

個人的に最も2組目のBiSHで心を掴まれたのは『Am I FRENZY??』だ。リンリンが真っ赤な和傘を使いパフォーマンスしていたが、その動きや表情が、楽曲やライブの世界に入り込んでいることがわかるオーラがあった。それに引き込まれて圧倒させられてしまった。この曲からはバンドが加わったので、音に迫力が増す。

 

『MORE THAN LiKE』のアリーナ会場だからこその演出も素晴らしかった。MVの映像をバックに丁寧に歌う姿が印象敵で、後半のサビで紙吹雪が舞う中で歌う姿は美しかった。

 

「次にやる曲は、清掃員に向けて歌詞を描きました」とアイナが語ってから歌われた『ハッピーエンドじゃなくても』も感動的だった。ライブでは今回が初披露だったが、それでも観客はBiSHからのメッセージをしっかり受け取ろうと、真剣に聴き入る。歌詞がビジョンに映る演出だったので、言葉がスッと胸に入ってくる。

 

ラストの『スーパーヒーローミュージック』ではアユニが「皆さんBiSHの音楽は好きですか!?私もBiSH5音楽が大好きです!」とイントロで叫ぶ姿が印象的だった。彼女の言葉とBiSHの熱いパフォーマンスによって、会場がハッピーな空気で満たされる。

 

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曲の後半にはMVに出ていた着ぐるみもステージに出てきて一緒に踊っていた。

 

2組目のBiSHはカッコよさと楽しさがミックスされた、多幸感に満ちたステージだった。

 

■セットリスト

1.ア・ラ・モード
2.脱・既成概念
3.Am I FRENZY??
4.MORE THAN LiKE
5.ハッピーエンドじゃなくても
6.スーパーヒーローミュージック

 

BiSH

 

3組目のBiSHは、これまた違う方向性のステージだった。熱量や楽しさではなく、緊張で張り詰めたピリピリした空気が流れていたからだ。

 

客電が消えてもメンバーは登場せず、アニメーション映像が流れる。薄暗い部屋に少しずつ家具やインテリアが置かれていく映像だ。不気味なのに引き込まれる不思議な演出である。

 

その雰囲気と不気味な映像を残したまま、気付かぬうちに床に倒れていたBiSHが立ち上がり『Marionette』からライブがスタート。赤い照明の中で妖艶かつクールに魅せる。

 

その空気感のまま続くかと思いきや、今度は映像が朝の日が差し込むような明るい部屋の映像に変わる。雰囲気も爽やかなものになった。そこで『スパーク』をパフォーマンスするのだから、心が温かな気持ちになる。

 

かと思えば再び薄暗い部屋の映像になり、不穏な空気のまま『優しいPAiN』が始まった。アイナはこの曲の振り付けについて「壊れていく『スパーク』を意識した振り付けを作った」と、かつてインタビューで語っていた。

 

それもあって曲調が真逆の2曲を続けたのかもしれない。感情が大きく揺さぶられ上下するセットリストではあるが、そこにも意味がある。それに揺さぶられることで、このセットリストだからこそ引き出される楽曲の魅力がある。特に『スパーク』と『優しいPAIN』の流れからはそれを感じる。

 

ここからの振り幅も物凄い。美しいメロディと繊細な歌声が印象的な『Life is beautiful』で再び温かく優しい空気を作り出すBiSH。映像は部屋を飛び出し青空や草原のアニメーションになり、この日1番と思うほどの穏やかな映像だ。

 

しかし次に披露されたのは『FREEZE DRY THE PASTS』。BiSH史上、最も狂気に満ちていると言える楽曲だ。

 

リンリンが椅子に座り、何かが憑依したかのようなおぞましい表情で歌う。その周りを他のメンバーが囲み、楽曲の世界に入り込んだ、独創的なダンスで魅せる。それを清掃員は身動きせずにジっと見つめていた。、パフォーマンスに引き込まれてしまい、身動きが取れなくなってしまったとも言える。

 

パフォーマンスを終えると、挨拶もせずに暗転したステージから、BiSHはゆっくりと歩いて去っていった。圧倒されすぎた清掃員は、ただただそれを見つめていた。

 

ライブというよりも前衛的な舞台作品を観た気分である。清掃員が今まで観たことがない、新しいBiSHの一面を感じるステージだった。

 

セットリスト

1.Marionette
2.スパーク
3.優しいPAiN
4.Life is beautiful
5.FREEZE DRY THE PASTS

 

BiSH

 

今回のフェスのトリは、当然ながらBiSHである。4組目のBiSHはトリに相応しいパフォーマンスの、良い意味で「いつも通りの音楽フェスのBiSH」だった。

 

ここ最近の音楽フェス出演時と同じように、バックバンドを従えたBiSH。年末のライブだからか、バンドがベートーヴェン『第9』を演奏する中、メンバーはゆっくりとステージに登場した。幻想的で穏やかな空気が流れる。

 

しかしパフォーマンスは激しく衝動的だ。『ZENSHiN ZENREi』で客席の熱量を高め、『デパーチャーズ』で観客のボルテージは一気に最高潮に。

 

その勢いは止まらない。さらに『MONSTERS』を立て続けに披露した。アリーナの客席一面がヘドバンする姿は圧巻だ。今回のライブはまだ声出しが禁止されており、清掃員は皆ルールをしっかり守っていたが、そ声が出せないことなど関係ないと思うほどの盛り上がりだ。その熱量はコロナ禍以前のライブハウスと変わらない。

 

過去の楽曲だけでなく最新曲でもしっかり盛り上がる。『MONSTER』から曲間なしで続いた2022年リリースの『サヨナラサラバ』は、既に盛り上がり確実のキラーチューンになっていた。

 

2022年に掲げた4つのプロミスのうちの1つです。それが今日で4つ全てが達成されました。

 

この後のライブも残された活動も、精一杯届けていきます。これからも一緒に約束を作っていけたらいいなと、思っています。

 

チッチが言葉を選びながら、丁寧に想いをこめながら語りかけるように話した。BiSHは2023年6月29日に、東京ドーム公演で解散する。プロミスが達成されたことで、改めて活動の終わりが近づいていることを実感し、寂しさと切なさが胸に込み上げる。

 

チッチの言葉と同じぐらいに、パフォーマンスにも想いがこもっている。プロミスを達成した後の『プロミスザスター』は、特にそれを感じた。

 

歌声はエモーショナルで熱いのに、優しさも感じる。この日の『プロミスザスター』は、メンバーはいつもとは少し違う気持ちで歌っていた気がするし、清掃員も少し違う気持ちで受け止めていたように思う。

 

ラストスパート!全員見えてるからね!みんなの想いを全部受け止めます!明日からもみんなが目いっぱい生きていますように!

 

チッチが笑顔で叫ぶように煽ってから『beautifulさ』が始まる。いつしかBiSHのライブに欠かせない存在となった、ライブで育った楽曲だ。メンバーはもちろん一緒に振りコピする清掃員はみんな楽しそうに見える。マスクをしているし声も出さないけど、きっとみんな笑顔だったはずだ。

 

あまりにもメンバーも楽しそうにパフォーマンスをしているからか、アイナは自分のパートで他のメンバーの様子を見て笑って歌詞を飛ばしていた。完璧な歌唱ではなかったとしても、最高のライブであったことは変わらない。

 

そのまま曲間で雪崩れ込むように『サラバかな』へと続く。これが最後の曲だ。

 

最後もやはりステージも客席も熱気が凄い。自然と手拍子が巻き起こる瞬間、鳥肌が立つ。まだ客席から声を出すことはできない。でも、解散するまでのどこかで、コロナ禍以前と同じようにアイナと「その手を離さないよう」と合唱したい。

 

4組目のBiSHは「これぞ音楽フェスのBiSH」と言えるような、誰もが盛り上がる完璧なセットリストのライブだった。前半のカオスさを忘れるほどの凄みを感じた。

 

アンコールも本編の熱気や余韻を残したまま、最高の歌を届けるBiSH。アンコールは新曲『ZUTTO』から始まったが、横一列に並び客席を全体を眺めながら歌う姿は、歌詞の内容も相まってまるで清掃員にメッセージを送っているように見える。

 

「こんな形でライブをやったのは初めてです。どうでしたか?BiSHは楽しかったです」と改めて挨拶をするチッチ。メンバーは順番にBiSH FESの感想を告げていく。アユニは「びっくりしたかもしれないけど、どうしたら楽しんでもらえるかをメンバーと切磋琢磨して考えた」とやりきった表情で語っていた。特別なライブだからこそ、いつもとは違う準備や挑戦をしたのだろう。

 

アイナは『Am I FRENZY??』に特に思い入れがあるようだ。この楽曲はずっとリンリンに和傘を持ってパフォーマンスをして欲しかったらしいが、それが今回でようやく実現したたらしい。

 

この曲がリリースされた当初、BiSHはまだ大きな会場でライブができる人気がなく、ライブハウスのステージの広さでは傘は使えないからと断念したそうだ。解散が近づいているからか、思い残すことがないようにと、やりたいことを残された期間で全てやろうとしているのかもしれない。

 

最後の曲は『ALL YOU NEED IS LOVE』。チッチが「感謝と愛を込めて届けます」と話してから披露された。客席ビジョンに大きく歌詞が表示されたので、いつも以上に歌詞のメッセージが胸に沁みる。

 

かつては客席の清掃員も肩を組んで、この楽器もで合唱していた。もちろんそれはまだできない。もしかしたらBiSHが解散する日も、それはできないかもしれない。

 

しかしステージに向ける真剣な清掃員の眼差しや、懸命に腕を上げたり拍手をする姿に込められた想いは、しっかりBiSHに届いているはずだ。BiSHがコロナ禍以前と同じように、想いを届けてくれるように。

 

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全てのパフォーマンスを終えたBiSH。6人が前に出てきて、マイクを通さずに「また会いましょう!」と叫んで頭を下げていた。自分はスタンド席の後方だったが、その声はしっかり届いていた。

 

残りの時間は長くはないけれど、「また会う」というプロミスも、絶対に達成しなければ。

 

■セットリスト

1. ZENSHiN ZENREi
2. デパーチャーズ
3. MONSTERS
4. サヨナラサラバ
5. プロミスザスター
6. beautifulさ
7. サラバかな

 

EN1. ZUTTO
EN2. ALL YOU NEED IS LOVE