オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【レビュー】Cody・Lee (李)『生活のニュース』をフジファブリックのファンに聴いて欲しい

夢を叶えたバンド

 

「フジファブリックと対バンできちゃいました!夢が叶っちゃいました!」

 

2020年11月22日にぴあアリーナMMで『BYACAMP』という音楽フェスが行われた。そこにオープニングアクトとして出ていたCody・Lee (李)のボーカル高橋響は、自身の演奏中にフジファブリックと共演することへの喜びを叫んでいた。

 

 

彼はフジファブリックに多大な影響を受けている。学生時代にフジファブリック『夜明けのBEAT』を学校行事で全校生徒の前でコピーし演奏したことがきかけでミュージシャンを志したとインタビューでは語っていた。(「Cody・Lee(李)」 インタビュー)

 

「フジファブリックと共演することが夢」ということは中学時代からの夢だとSNSにも投稿している。

 

 

フジファブリックはCody・Lee (李)と同じステージに出演した。朝イチと夜7時と時間帯は離れているし、純粋な対バンではなく何組も出演する音楽フェスではある。

 

それでも駆け出しのインディーズバンドが憧れの先輩バンドと同じステージに立つことは、1つの夢を叶える瞬間ではある。そんな彼らの演奏を生で聴いて、心の底から感動した。

 

感動したのは感情移入したことだけが理由では無い。音楽が良かったからこそ感動したのだ。

 

生活のニュース

 

Cody・Lee(李)が1stアルバム『生活のニュース』をリリースした。

 

これまでにリリースしたシングルやEPの楽曲か中心で、そこに新曲を加えたような作品。バンドのこれまでの歩みを詰め込んだ、現時点のベストアルバムともいえる。

 

このアルバムが素晴らしいのだ。良い曲ばかり収録されている。BAYCAMPではアルバムに収録されている楽曲を演奏してた。

 

作詞作曲をしている高橋響はフジファブリックから強い影響を受けている。その影響を隠すことなく、音楽に取り入れているように感じる。

 

例えば『WKWK』。イントロからメロディから演奏まで、全てに影響とリスペクトを感じる。『我愛你』もそうだ。作曲のクセや歌詞に使われる言葉のセンスには、フジファブリックに近い感性がある。

 

WKWK

WKWK

  • Cody・Lee(李)
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

フジファブリックから影響を受けたアーティストやバンドは多い。パスピエも影響を公言している。シンセサイザーの音が前面に出たロックなのにメロディアスな歌なのは、フジファブリックから影響を受けているからだろう。

 

最近ならばネクライトーキーもフジファブリックへのリスペクトやオマージュを感じる『タイフー』という曲を作っている。キュウソネコカミもアマチュア時代には『虹』などをカバーしていた。

 

タイフー!

タイフー!

  • ネクライトーキー
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかしCody・Lee (李)が影響を受けた部分は、今までのフジファブリックのフォロワーバンドとは少しだけ違う部分に感じる。

 

『TAIFU』や『銀河』など、初聴でもインパクトが強い楽曲から影響を受けたであろうバンドが多いと感じる。

 

TAIFU

TAIFU

  • フジファブリック
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

変態的で個性的な作詞作曲センスや、テクニカルな演奏をしているのにキャッチーに感じる編曲などなど。そこに衝撃を受けたフォロワーバンドが多いのではないだろうか。いわゆるフジファブリックの「陽」の部分に影響を受けているのだ。

 

しかしCody・Lee (李)は「隠」の部分からも強い影響を受けているように感じる。

 

憂いや影のある哀愁感じるメロディや歌詞などなど。それはインパクトは薄くともフジファブリックの魅力の要である部分だが、影響を受けているフォロワーバンドは珍しい。

 

例えば『winter』や『桜町』の持つ切ないメロディや情景や感情が浮かんでくる歌詞には、志村正彦の描く不思議だけど切なくて胸に沁みる歌詞やメロディを彷彿とさせる。そんなことを思ってしまった。

 

桜町

桜町

  • Cody・Lee(李)
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

また現体制のフジファブリックの影響を受けているようにも感じる。

 

『I'm sweet on you(BABY I LOVE YOU)』の素朴言葉の一つひとつを大切に歌うようなメロディからは、そんなことを思ってしまった。

 

I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)

I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)

  • Cody・Lee(李)
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

 

ルーツへのリスペクトを感じる

 

 

Cody・Lee(李)はフジファブリック以外からも影響を受けている。それについても隠さずに音楽に昇華しているのだ。

 

drizzle (2020)

drizzle (2020)

  • Cody・Lee(李)
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

「ねえぺリコドールってしってる?」
「え、知らない」と君は言う
思わず会話の途中で笑う
フェイクワンダーランド、国道スロープ

(Cody・Lee(李) / drizzle)

 

『drizzle』という曲ではきのこ帝国『クロノスタシス』の歌詞に出てくる会話のフレーズをオマージュしている。また「フェイクワンダーランド」「国道スロープ」もきのこ帝国の曲名で、オマージュしていることが伝わるような配慮もある。

 

リズムやポエトリーリーディングのようなメロディは、きのこ帝国のボーカル佐藤千亜妃のセンスに近い部分だ。

 

When I was cityboy (2020)

When I was cityboy (2020)

  • Cody・Lee(李)
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

君に借りたストロベリーショートケイクス
返信のニュース
デッセンクルー
さよならストレンジャー
ORANGE FICTION
全部全部が僕の中に生きていて

(Cody・Lee(李) / When I was cityboy)

 

他にも『When I was cityboy』では歌詞でハマヌーンやくるり、TOMOVSKYのアルバムやEPのタイトルを羅列している。そこから影響を受けたことを歌を通じて公言しているのだ。

 

このようなオマージュをするバンドは沢山いる。珍しいことではない。

 

しかしCody・Lee(李)の場合は、他のバンド以上にファン目線でリスペクトして、ファン目線で音楽を作っているように感じるのだ。自分の創った音楽を聴いて欲しいという気持ちだけでなく、自分の好きな音楽も聴いて欲しいという気持ちを曲から感じてしまう。

 

Cody・Lee(李)の個性

 

フジファブリックを中心に様々な音楽から影響を受けている。それを隠すこともなく自身の音楽にオマージュとして取り入れている。

 

しかしモノマネしているわけでもないし、パクリというわけでもない。Cody・Lee(李)にしかない個性もあるのだ。

 

様々な音楽から影響を受けたこともあり、音楽性の幅は広い。王道ロックな曲もあればパンクの衝動を感じる曲もある。オシャレなシティポップやキャッチーなJ-POPもある。

 

彼が影響を受けた音楽から、特に影響を受けた要素を抽出させてミックスさせたような感じ。それによってルーツもわかるのに他にはない個性も感じるという、不思議で魅力的な音楽。男女ツインボーカルなのも、歌の魅力をさらに引き立てているように思う。

 

思い返すとフジファブリックもデビュー当初は奥田民生のフォロワーという人も多かった。

 

実際に志村正彦は奥田民生から大きな影響を受けているし、音楽的に近い要素も持っている。そこに他に影響を受けた音楽や自身のセンスを組み合わせることで、フジファブリックにしかない唯一無二の音楽を作り上げた。

 

Cody・Lee (李)もそんなバンドになりそうな気がする。今の時点でも個性的だと思うが、さらに唯一無二のバンドになる予感がする。

 

そんなことを思っていたんだ。

 

生活のニュース

生活のニュース

  • アーティスト:Cody・Lee(李)
  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: CD