2020-07-03 スピッツとaikoは似ている曲が多いのか? コラム・エッセイ スピッツ aiko スピッツは似たような曲が多いのか? 先日Twitterのフォロワーさんがこのようなツイートをしていた。 スピッツってスピッツ好きな人にしかハマらない感じがするけど皆さんどうですか? https://t.co/fLNgmAPP2A — ノベル (@otakatohe) 2020年6月27日 それに対してリプライを送ってみた。あくまでノベル氏はスピッツの音楽を否定したいるわけではなく、ファンではない目線から感じたことをツイートしたのようだが、個人的に興味深かった。 「猫ちぐらがスピッツ好きなひとにしかハマらない」と言うなら共感ですが、「スピッツの音楽がスピッツ好きな人にしかハマらない」というならば異論を唱えたい感じです。むしろバンドのことを知らない人や音楽に興味がない人にも魅力が伝わる曲を量産していると思うので。 — むらたかもめ🌏音楽ブログ (@houroukamome121) 2020年6月27日 自分のスピッツの聴き方って多分その辺の人達と対して変わらなくて、未だにロビンソンとチェリーの曲調がスピッツの全てにしか感じられないです。でいつどれを聴いてもスピッツ以上でも以下でもない感じを言い表したつもりです。良い悪いではなく。おっしゃる通りですね。 — ノベル (@otakatohe) 2020年6月27日 自分はスピッツの音楽が好きで全ての曲を聴いているし何度もライブへ行っている。似たような曲が多いとは感じない。しかし『ロビンソン』と『チェリー』の曲調が全てと思っている人や、似ている曲が多いと思っている人がファン以外には多いのかもしれない。 以前も他の人に「スピッツの曲は似ている曲が多い」と言っていた知人がいた。それは1人や2人ではない。 その人たちもスピッツを否定しているわけではなく、ファンではない目線からはそう聴こえるという純粋な感想を言ったまでだ。 ファンの目線では似ている曲はないように感じる。しかしそれは聴き込んでいるから感覚が麻痺しているのかもしれない。 改めて冷静になって聴いてみる。フラットな目線で聴いてみる。 そして気づき納得する。確かに良くも悪くも似た曲調が多い気がする。 似ていないのに似ている気がするスピッツ スピッツは大きく音楽性を変えたことがない。 流行りの音を積極的に取り入れようとすることも、世間の流れに合わせて音楽を作ろうともしていない。常にスピッツのイメージが壊れない範囲で、時代に流されずにスピッツの音楽を作っている。 もちろん演奏技術が向上したり録音技術の進化で音色が変わったりはしている。 しかしデビューシングル曲の『ヒバリのこころ』と最新シングル曲『優しいあの子』を聴き比べても、音楽性はほとんど変わっていない。デビュー曲は約30年前の曲とは思えないほどに古さは感じない代わりに、最新曲は30年前に存在していてもおかしくないぐらいに新しさはない。 ヒバリのこころ スピッツ ロック ¥255 provided courtesy of iTunes 優しいあの子 スピッツ J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 自分たちの音楽性の軸は全くブレさせないが、大きな冒険もしないのだ。初期から「スピッツの音楽」が完成されていたからこそ、深く聴いていない人はどの曲も似ていると感じるのかもしれない。 しかし音色や編曲については楽曲やアルバムごとに細かく変化しているのだ。シングル曲を辿るだけでも変化はある。 人気絶頂期だった頃もバンドとしては新しい挑戦をしている。 大ヒットした『チェリー』の次にリリースした楽曲は『渚』という曲だ。楽器の音が印象的な曲がスピッツは多かったが、この曲は打ち込みの音を前面に出し、過去作とは違うリズムパターンも取り入れている。 渚 スピッツ ロック ¥255 provided courtesy of iTunes メンバーに無断でリリースされた非公式ベストアルバム『RECYCLE Greatest Hits of SPITZ』が大ヒットした後にリリースされたシングル『メモリーズ』や『放浪カモメはどこまでも』では激しく尖ったバンドサウンドを演奏している。まるでヒットしたベスト盤への当て付けのようにヒット曲とは違うサウンドに挑戦しているのだ。 メモリーズ スピッツ ロック ¥255 provided courtesy of iTunes その後もスピッツは様々な音楽を取り入れていた。 『夢追い虫』では世間のイメージするポップなスピッツとメンバーが目指すロックバンドのスピッツとが上手く合わさった編曲になっている。 『群青』では植村花菜とスキマスイッチ大橋卓弥をゲストボーカルに招いて全編三人のユニゾンで歌ったり、『若葉』ではマンドリンを使用したりと新しい挑戦もしている。 群青 スピッツ J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 近年のスピッツはメンバーの演奏の良さを前面に出した楽曲が多い。外部の音はあまりつかわずに楽曲を組み立てている。バンドの良さを伝えるような編曲だ。 最新アルバム『見っけ』のリード曲『ありがとさん』ではそれが顕著に思う。 ありがとさん スピッツ ロック ¥255 provided courtesy of iTunes シングル曲やアルバムリードトラックを取り上げるだけでも、様々な音楽を取り入れて幅広い楽曲を作っているともわかる。バンドとしても似ている曲を作っているつもりはなく、常に新しいスピッツの音楽を作っているつもりだと思う。 しかしファンとしての思い入れや贔屓の目線をシャットアウトして冷静に分析すると、もしかしたら似た曲が多いと思う人が多いことにも納得してしまう。 似ていると思う理由 草野マサムネのあえて感情的には歌わない歌唱方法も「似ている」と思われることに影響していると思う。 同世代バンドのミスチルなどと比べると歌唱の違いは明らかだ。それなのに透き通った声質は一度聞いたら忘れられないインパクトがある。似ていると思われることは覚えられていることの証拠でもある。声に個性があり常に同じクオリティで歌うからこそファン以外も一瞬で声を覚えてしまうのだ。 メンバーの演奏方法が個性的であることも「似ている曲が多い」と言われる理由かもしれない。 ベースの田村明浩はメロディを奏でるように動き回るベースラインを弾く。自然でリラックスした動きで音の強弱をつけることが特徴の「モーラー奏法」をするドラムの﨑山龍男も個性的だ。この奏法で演奏するドラマーは日本では珍しい。アルペジオを使い印象的なリフを作る三輪テツヤのギターもスピッツサウンドには重要である。 メンバーの演奏は全曲で個性が爆発している。外部の音を取り入れようがバラードだろうが激しいロックだろうが、全ての曲で演奏のクセが強い。どんな方向性の曲でも基本的に自分たちのプレイスタイルを変えないのだ。 ファンにとってはタイプの違う楽曲でどのように演奏で個性をだすのかに注目し魅力を感じるが、ファン以外は個性的な演奏ゆえに「似ている」と思ってしまうのかもしれない。 コード進行や歌のメロディも影響しているかと思う。 スピッツの楽曲のコード進行はシンプル。難しいコードは使わない。基本的には楽器初心者が最初に学ぶコードだけで構成されている。それもコード進行はほとんどの曲が似ている。 王道ポップな『チェリー』と打ち込みを取り入れた『渚』のコード進行は似ているし、最新シングル『優しいあの子』も似たようなコード進行だ。 歌わずにギター1本でコードだけを弾いたとしたら、どの曲も区別をつけることが難しいかもしれない。楽曲の軸は全曲似ているのだ。そこにメンバーの歌声や演奏によって魔法がかかるように変化することが魅力的に思う。 メロディの作り方にクセががることも「似ている」と思われる理由だ。 スピッツの楽曲はメロディの起伏が大きい。フレーズごとに1オクターブの上限幅があることが多い。ここまでメロディの上下幅があるアーティストは少ないはずだ。そしてサビではマサムネの透き通った声質が活きるように語尾を伸ばすことが多い。 これはメロディが似ている曲が多いという話ではない。作り方が似ているのだ。 シンプルなコード進行に対してメロディを無限に生み出せているのだ。だから同じようなメロディは存在しないし、新曲の都度にスピッツの個性を感じる新しいメロディを聴くことができる。 それがスピッツの強みであり個性だ。聴けば聴くほど深みにハマってしまう魅力だ。 しかし一聴しただけでは「似ている」と思われてしまう理由でもある。 スピッツが支持される理由 「スピッツというジャンル」を作ったとも言えるバンドだ。 真似しようと思っても真似できない。聴けばファン以外も一瞬で「スピッツの音楽」とわかってしまうほどの個性がある。それを「似ている」と判断してしまう人がいることも仕方がない。 aikoもスピッツと同じタイプに思う。 使っているコードやコード進行は共通していることが多い。セブンスコードを多用したり、ノンダイアトニックコードを効果的に使うことが特徴だ。 メロディにもクセがある。半音が多用し作られるメロディが独特。それらの理由によって「aikoにしか作れない音楽」になっている。 それ故にaikoも「似ている曲が多い」とファン以外に言われてしまうことがある。 以前友人と飲みに行った時に「aikoは曲の区別がつかない」と言っていた。 しかし実際はaikoにも様々なタイプの楽曲がある。代表曲の『花火』と『カブトムシ』を比べても曲調は全く違うし、最新曲『青空』のシティポップ風味の編曲は過去のシングル曲ではなかった。 青空 aiko J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes aikoファンの自分としては異論を唱えたかったが、たしかに深く聴かなければ似ていると感じるのかもしれない。スピッツと同じようにaikoも「aikoというジャンル」を発明したと言えるからだ。 真似しようと思っても真似できない。誰もが聴けば一瞬でaikoの音楽だと気づく個性的な音楽を作っているのだ。それは「どの曲も似ている」とも言えるが「どの曲も他にはない個性がある」とも言える。 音楽シーンで長年第一線で活躍するアーティストは強い個性を持っている。ファン以外には「似た曲が多い」と思われたり、一定のイメージを持たれてしまうことが多い。 「サザンは夏曲のイメージしかない」「椎名林檎はメンヘラ」「中島みゆきは失恋ばかりしている」「平井堅は顔が濃い」のように。 しかしその一定のイメージを持たれたアーティストは強い。多くの人を魅了するし長年第一線で活躍している。代わりなんて存在しない、唯一無二の個性を持っている証拠でもある。 スピッツの曲は似ているとも言えるが「スピッツは常にスピッツとして変わらない音楽をやっている」と言ったほうが正しいかもしれない。 ↓他のスピッツの記事はこちら↓ ↓他のaikoの記事はこちら↓