オトニッチ

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関ジャニ∞『18祭』を観て感じたモヤモヤについて

7月。自分はSexy Zoneのライブを観た。ものすごく良いライブだった。

 

これまでも過去に2回、セクゾのライブは観ていたが、観る都度にパフォーマンスも演出も進化している。日本屈指のエンターテインメントのステージだとも思う。

 

 

それはSexy Zoneに限らない。ジャニーズ全体の話である。ジャニーズ自体が日本トップクラスのエンタメを作っているのだ。

 

そんなことを日産スタジアムで関ジャニ∞のライブを初めて観て思った。

 

 

自分は関ジャニ∞に詳しくはない。知らない曲もたくさんある。1度は観てみたいと思って申し込んだところ、縁があってチケットが手に入り行くことができたライトファンだ。

 

ライブのコンセプトや内容は、セクゾとは全く違った。関ジャニ∞はひたすらに明るくて、お祭り騒ぎな方向に振り切ったパフォーマンスや演出が多い。だからずっと笑顔で観ていられるようなライブだった。この日も知らない曲が何曲かあったが、そんなことは関係なく、ひたすらに楽しめた。特にバンド演奏は最高で、良い意味で泥臭くて、観た者の感情を揺れ動かす素晴らしい歌と演奏に思った。

 

しかし微妙な気持ちになる場面が、ライブ中に一瞬だけあった。それは衣装チェンジの間に流れた。メンバーが女性の服装をして寸劇を行う映像だ。

 

その映像では女装した丸山隆平に「あんたブスね」と他のメンバーが何度か言うくだりがあった。自分はそれに少しのモヤモヤを感じてしまい、素直に笑えなかった。

 

丸山がしっかりとツッコミを入れて笑いに昇華していたので、コントとして成立はしている。だから自分が気にしすぎなだけだとは思う。それに笑いにはトゲや毒も必要だ。しかし「ブス」というキツい言葉で笑いを取ることに、どうしても違和感を覚えてしまうのである。

 

女装をすること自体も「笑い」に繋げていたようにも思う。捉え方によっては「女装をしている男性がブス」と受け取られてしまうようセリフだったからだ。メンバーもスタッフもそのような意図はないとは思うが、マイノリティの人たちを傷つける内容にはなっていたかもしれない。

 

 

Sexy Zoneもライブてメンバーが女装する演出を取り入れていた。しかし女装すること自体で笑いを取ろうとはしていなかった。ライブのコンセプトを実現するための、必然的な手段としての女装だった。

 

それに「ブス」などのキツい言葉で笑いを取ろうともしていない。メンバーの女装は美しくて、当たり前に男性がこのような格好をしても良いということを、遠回しに伝えているようにも感じた。誰も傷つけないし、誰もを笑顔にさせるもので、誰かを救うパフォーマンスになっていたと思う。

 

それを観たばかりだったこともあり、余計に関ジャニ∞の女装には違和感を覚えてしまった。ジェンダーやポリコレやルッキズムに関する価値観が、平成から令和のものへとアップデートできていなかった思ってしまった。

 

だが、冷静になって考えてみると、それは自分の勘違いだったかもしれない。

 

これは「関西のノリ」かつ「ファンが集まるコンサート会場でのノリ」という背景や文脈があるから、問題なく許されるものなのだ。

 

そんなことを尼神インターの誠子が書いた『B あなたのおかげで今の私があります』というエッセイ集を読んで思った。

 

 

書名の「B」は「ブス」を意味している。子供のころからBと言われ続けてきた誠子が、傷つきつつもBであることを受け入れ、Bという言葉に込められた様々な意味を解釈し、むしろBの方が楽しいと思うようになる過程について書かれた本だ。「ブス」と言われて傷ついた人たちに、勇気と自信を与える内容に思う。

 

その中で誠子は「関西の芸人」と「関東の芸人」の違いについて、このように書いていた。

 

大阪での暮らしはとても楽しかった。毎日のように劇場に通い、出番がなくても楽屋に遊びに行った。誠子が一歩楽屋に足を踏み入れると芸人たちからの猛烈なBイジりが始まる。そのおかげで誠子はBイジりへの返しの練習と強いメンタルを手にすることができた。大阪の劇場は家であり、芸人は家族のような存在だった。

 

(中略)

 

誠子は上京して驚いたことがあった。それは東京の芸人はあまりBいじりをしない、ということだ。ブスと言われるどころか東京の芸人は誠子ら女性芸人をよく褒めてくれる。「誠子。今日の服可愛いね」「誠子、髪切ったんだ。似合ってるね」「誠子可愛くなったね」など、今まで誠子が言われたことのない言葉の数々をかけてくれる。

 

(中略)

 

東京の芸人にとってBと言わないのが優しさで、大阪の芸人にとってBと言うのが優しさなのかもしれない、と。芸人としての彼女を思っていってくれる「ブス」。今まで出会ってきた芸人みんながこの言葉にいろんな意味と優しさを与えてくれた。

 

あえてトゲのある言葉を投げかけ、それに対して言われた側がツッコミを入れてスキンシップを取る。それによって仲を深めていき信頼関係を築いていく。このようなやり取りが文化として根付いている関西だから、言われた側か傷つくことなく成立するやり取りなのだろう。

 

関東の文化に馴染んだ人ならば「ブス」と言われても誹謗中傷としか受け取らないが、関西は少し違うのかもれない。

 

自分は産まれてからずっと、関東圏の文化で育ってきたし、関東のノリで生きてきた。テレビなどで関西のタレントや芸人を観ることはあったが、関西のノリとは馴染みが薄い。だから「ブス」という言葉に過剰反応してしまった。

 

おそらく関ジャニ∞のメンバーは芸人ではないものの、優しさとして「B」という言葉を使ったのだと思う。関西の文化やノリも背負ってアイドルをやっているだろう。

 

それにこれは長年苦楽を共にしたメンバー間での会話だ。そこのには深い信頼関係がある。だから愛あるイジリであり、仲の良い者同士が戯れているだけともいえる。

 

それに基本的にはファンだけが集まるライブ会場で行われたやり取りだ。ほとんどのファンがメンバーの関係性やノリを知った上で参加している。つまりファンも含めて信頼関係が結ばれた人間だけが集まった場なのだ。そんな人達が少しキツい言葉を使いつつもふざけあって楽しんでいるだけである。

 

そういえばテレビに出演した関ジャニ∞のメンバーから、このように他者を誹謗中傷する発言を聞いたことがない。一般人を危うい表現でバカにする演出が少なくはない『月曜から夜更かし』でも、村上は一般人を傷つけないような発言を気を遣いながら行っているように見える。

 

やはりライブ会場という許される場で、信頼関係があるメンバーに対する言葉で、ライブ演出におけるネタだから「ブス」という言葉を使ったのだろう。「ブス」という言葉を気兼ねなく使える場だからこそ、関ジャニ∞とファンとの強い結びつきを再確認することができているともいえる。

 

よくよく考えると関東の文化に触れた人間でも、仲のよい間柄で親しみを込めてキツい言葉を言ってしまうことはある。例えば友人とふざけ合っている時に「お前はバカだなあ」と言ってしまったりと。しかしそこに悪意はない。言われた側も冗談だと承知した上で「うるせえ!」と言い返して笑い合うことができる。

 

関ジャニ∞は日本トップクラスの人気と知名度のアイドルだ。日産スタジアムのような場所でも、良い意味で内輪なノリを作りだせる。だからこそ「ブス」というキツい言葉を言っても、友人同士の会話として笑いをとることができる。

 

おそらくメンバーやファンがルッキズムを重視しているわけでも、ジェンダーに対する意識が低い訳でもない。あくまでも内輪でのじゃれ合いで、閉じた空間でのおふざけだと理解して楽しんでいる。だからライブ以外の場で行わないならば、大きな問題はないかもしれない。

 

しかし自分のように「気になるから1度は行ってみよう」というライトなファンもいる。そのような人は、観ていてモヤモヤを抱えてしまうかもしれない。

 

それに今は様々な価値観をアップデートさせなければならない時代である。これから新しくファンになる若い世代は、内輪のノリだとしても受け付けないかもしれない。今は問題なくても、これからもトップアイドルとして活躍していくには、将来的に変えていかなければならないノリだとも思う。

 

とはいえこの件をポリティカル・コレクトネスやルッキズムの文脈で批判することは違うのではとも思う。ライトなファンが「これはまちがっている」と騒ぐのもお門違いだ。

 

現代の価値観ではアウトな表現かもしれないが、この件はその場にいるほぼ全員が問題なく受け入れている、内輪のふざけ合いだ。

 

むしろ行き過ぎたポリコレやルッキズムによって、逆に不快感や生きづらさを感じる人がいるかもしれない。そのことも問題だ。

 

配慮は必要だし、将来的に改善すべき点はある。ライブだとしても、数年後には通用しない発言だ。例えば2019年のM-1グランプリでは「誰も傷つけない笑い」がトレンドとなった。そんな中で見取り図は「女性のすっぴん」や「なでしこジャパンのルックス」をイジって笑いを取ろうとして、盛大にスペっていた。芸人の世界でも価値観は変わってきているのだ。

 

それでもどのような場での発言かや、誰から誰に対しての発言かによって、そこに込められた意味は変わる。将来的にはどのような場面でも許されない言葉になるだろうが、現時点ではそこまで考慮した上で問題点がある場合に指摘すべきとも思う。

 

自分は関ジャニ∞のライブで「ブス」という言葉を聞いてモヤモヤした。しかし背景や文脈を考え想像したら、全面的に肯定できるやり取りとは思えないとしても、モヤモヤな気持ちは晴れた。少なくともライブで発せられた「ブス」という言葉に悪意はなかったし、むしろ愛を込めていたとすら感じる。

 

それに〈様々な問題より 大好きな君の笑顔が 何よりも何よりも 誰よりも誰よりも 大事なんだ〉と歌う彼らは、少なくともライブでファンを傷つけるつもりはないはずだ