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嵐『a Day in Our Life』とPowfu『death bed (feat. beabadoobee)』の似ている部分について

世界中でバズっているPowfu

 

今の日本で洋楽が話題になることは少ない。

 

Spotifyの日本トップチャートはほとんどが邦楽。ビリー・アイリッシュぐらい世界中で話題になって、ようやくチャートインする状態。

 

それが悪いことだとは思わない。日本にもたくさんの名曲があるし素晴らしいアーティストもいる。日本人に日本の音楽が聴かれるのは当然だし、わざわざ洋楽を聴く必要もないのかもしれない。

 

しかし突如チャートの上位に洋楽がランクインすることがある。それが超有名アーティストなら理解もできるが、日本では知名度が低いアーティストがランクインすると驚いてしまう。

 

だからPowfu『death bed (feat. beabadoobee)』には驚いた。先日Spotifyの日本バイラルチャートの2位にランクインしたのだ。

 

 

Powfuは2017年にデビューしたカナダのシンガーソングライター・ラッパーである。

 

2019年に発表した『death bed (feat. beabadoobee)』が大ヒットし人気が急上昇した。ヒットは2020年になっても続き、現在もSpotifyグローバルトップチャートで上位にランクインしている。それもあり日本でもファンが増えているのだ。

 

この曲はロンドンを拠点に活動するシンガーソングライターbeabadoobeeの『Coffee』という曲をサンプリングしている。この曲のピッチを上げてBPMを早めている。そしてローファイなサウンドに編曲し、Powfuが自身のラップを重ねている。

 

Coffee

Coffee

  • beabadoobee
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

元々beabadoobee『Cofee』はアコースティックで温かみのあるサウンドで人間味あふれた歌声である。

 

しかしPowfuがサンプリングすることで機械的で無機質な歌声になった。サウンドもローファイにしたことで不思議な音色のポップスになっている。

 

流行りの音ではない。定番の音でもない。それが新鮮で刺激的。ヒットの理由はこれではと思う。

 

『death bed (feat. beabadoobee)』にはもう一つ特徴がある。歌のメロディに重なるようにラップをしていることだ。ラップと歌が同時に聴こえる。歌とラップを同時に鳴らすとは革新的で面白い。

 

と思ったが、よくよく考えると歌とラップが同時に鳴っている曲は聴いたことがある。それも何度も聴いたことがあって日本でヒットした音楽で存在していた。

 

18年前の嵐の曲で同じことをしていたのだ。

 

J-POPをサンプリングするという革命

 

 嵐の『a Day in Life』にPowfu『death bed (feat. beabadoobee)』と近い部分を感じるのだ。この曲は2002年にリリースされたこの曲は、J-POPとして新しい形を発明したと思う。

 

a Day in Our Life

a Day in Our Life

  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

KICK THE CAN CREWやRIP SLYME、ケツメイシのヒットにより2000年代前半はヒットチャートにヒップホップが食い込むことが多かった。それまでもラップが取り入れたヒット曲は多かったが、ヒップホップの存在が老若男女多くの人に認知され、ヒップホップがJ-POPとして人気を獲得していた時期に思う。

 

J-POPと親和性が高いヒップホップ楽曲が多かったこともヒップホップが人気を集めた理由だ。

 

ラップを取り入れつつもサビはキャッチーなメロディで歌う。小沢健二&スチャダラパー『今夜はブギー・バッグ』のように2000年代以前もこのような曲はあったが、同時多発的にこのタイプの曲をリリースするアーティストが出てきたのは1990年代後半から2000年代前半にかけてこれが一つのムーブメントになっていた。

 

J-POPの名曲をサンプリングしたが楽曲が多かったことも特徴である。

 

スケボーキングは小田和正の『ラブストーリーは突然に』をサンプリングし『TOKIO LV』をヒットさせ、KICK THE CAN CREWは山下達郎『クリスマスイブ』をサンプリングした『クリスマスイブRAP』ヒットさせた。

 

 

クリスマス・イブRap

クリスマス・イブRap

  • KICK THE CAN CREW
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ヒップホップはファンクやR&Bをサンプリングすることが一般的で、それを崩すアーティストは少なかった。それがJ-POPをサンプリングするアーティストが出てきてヒットを出したことで日本独自の新しいヒップホップが生まれたのである。

 

今ではThe1975やタイラー・ザ・クリエイターなど海外のアーティストも日本の音楽をサンプリングしているが、この部分については日本のアーティストが先駆けて行ったことに思う。

 

嵐も当時のトレンドを嵐もいち早く取り入れた。

 

スケボーキングのSHUNとSHUYAに楽曲提供を依頼し、J-POPをサンプリングしたヒップホップナンバーの『a Day in Life』を製作したのだ。

 

そしてこの曲は他にはない特徴と、今まで誰もやっていなかった試みがされている。

 

 

『a Day in Our Life』の新しさについて

 

この曲は少年隊『ABC』をサンプリングしている。

 

おそらくジャニーズの楽曲をサンプリングした楽曲は『a Day in Life』が初めてだ。アイドルソングをサンプリングして、さらに新しいアイドルソングに昇華させた事例も初めてかもしれない。

 

暗黙のルールやマナー、独自の文化があるヒップホップ界隈ではアイドルソングをサンプリングすることもアイドルに楽曲提供することも「ダサい」と思っているアーティストがいたかもしれない。

 

この曲は「どのような曲をサンプリングしてもカッコいい音楽になる」ということを証明したたと感じる。アイドルソングとしてもJ-POPとしてもヒップホップとしても革新的な楽曲だ。今まで暗黙の了解と偏見で「ダサいからNG」とされていた楽曲をサンプリングしても「かっこいいならいいじゃん?」と多くの人に思わせてしまった。

 

そもそも歌とラップが同時に鳴っていて重なっていることが革新的なのだ。『A・RA・SHI』の後半も歌とラップが重なっている部分があったが、ほぼ全編重なっていることはなかった。最初から最後までラップが続く曲がヒットすることもなかった。

 

しかも90年代のカラオケブームの名残がある中でカラオケで歌いづらい曲をシングルとしてリリースする。歌おうと思っても少なくとも二人以上いなければ歌うことができない。

 

アイドルでありながら実験的な音楽をやっていた。実験しつつもJ-POPとして成立するギルギルのラインを攻めている。ラップと歌が重なっているのに、歌のメロディもラップのリリックもキャッチーで覚えやすい。個人的には日本の音楽シーンにおいて重要な名曲だと思っている。

 

『a Day in Life』はドラマ『木更津キャッツアイ』の主題歌でオリコン1位にもなった。アラサー以上の年齢は嵐ファン以外にも馴染みのある楽曲だと思う。ヒップホップの常識を壊しただけでなく、J-POPの常識も壊した楽曲だ。

 

death bed (feat. beabadoobee)

death bed (feat. beabadoobee)

  • Powfu
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

そして2020年現在、世界中でPowfuの『death bed (feat. beabadoobee)』が大ヒットしている。

 

この曲も歌とラップが重なっていて、メロディもリリックもキャッチーだ。18年前にリリースされた嵐『death bed (feat. beabadoobee)』と近い部分がある。

 

もしかしたら嵐は時代を先取りしていて、すでに世界中に嵐を巻き起こしているのかもしれない。

 

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