オトニッチ

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緑黄色社会という高く評価されるのが当然のバンドについて

すごいボーカリストがいるバンド

 

歌い始めた瞬間に空気を変えてリスナーを夢中にさせてしまう「一流のボーカリスト」が稀にいる。

 

「一流のボーカリスト」には声量や音域の広さなど技術も大切で、声質の個性など生まれ持ったモノも大切だ。しかしそれだけでは足りない。

 

楽曲の世界観を最大限に伝える表現力が最も重要だ。歌唱力の高さをアピールするボーカリストではなく、楽曲の魅力を伝えるボーカリストこそ「一流のボーカリスト」だと思う。

 

そんな一流のボーカリストを1人見つけた。緑黄色社会というバンドのボーカル長屋晴子だ。

 

 

アーティストの一発撮りの演奏を動画に収めているYouTubeチャンネルTHE FIRST TAKEに投稿された『Shout Baby』を聴いてほしい。この曲を歌う長屋晴子の歌声を聴けば凄さを理解できるはずだ。

 

この演奏で注目すべきは前半約2分間をアカペラで歌っている部分である。CD音源とは違うアコースティックアレンジになったことで生まれたアカペラパート。聴いていて表現力の凄さに鳥肌が立つ。

 

2分間もアカペラで歌を聴かせることはプロでも簡単ではないはずだ。

 

この動画は一発撮り。修正ができないので誤魔化すことは不可能だ。ちょっとしたミスでも命取りだ。

 

それなのに長屋晴子はアカペラでリスナーを惹きつけてしまう。息を吸う音さえ音楽にしてしまう。歌のフレーズとフレーズの間の一瞬の沈黙にすら感動してしまう。それは楽曲の世界観を最大限に表現できているからこそできる芸当に思う。

 

つまり長屋晴子は「一流のボーカリスト」ということだ。

 

新作『SINGALONG』がヒットしている

 

長屋晴子が擁する緑黄色社会の人気が上昇している注目のバンドだ。

 

4月に配信リリースされたアルバム『SINGALONG』はオリコンデジタルアルバムランキング3位、ビルボードアルバムチャート3位を記録し好成績だ。リリースから1ヶ月以上経ってもApple MUSICのアルバムチャートではトップ20にランクインしており、ロングセラー作品になっている。

 

これだけ注目されているのは「歌が上手いから」という理由だけではない。音楽やMVが良いからこそ聴いた人の心を掴んだからだ。

 

最新アルバム『SINGALONG』の収録曲のサウンドは徹底的に作り込まれている。メンバー全員が作曲できることもあり、様々な音楽ジャンルを取り入れていているためバリエーション豊か。バンドでありながらもバンドサウンドに打ち込みの音を積極的に組み合わせることでサウンドの幅が広くなり、楽曲の魅力が最大限に引き出されいている。

 

個人的には『スカーレット』がアルバム内で最も好きな曲だ。

 

スカーレット

スカーレット

  • 緑黄色社会
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

疾走感のあるロックサウンドだが必要箇所では打ち込みの音を入れてポップさを加えている。それが個性的だ。メロディもキャッチーで心地よい。サウンドに徹底的にこだわりつつもバンドである理由も伝わる名曲だ。

 

最新アルバムは過去作品で最もヒットしている。その理由は『Mela!』のMVが個性的で話題になったことが影響しているようだ。

 

MV公開1ヶ月で再生回数は540万回を超えた。これをきっかけにバンドを知りファンになった人も多い。

 

『Mela!』はジャジーなピアノとメンバーのコーラスとクラップの音が印象的な楽曲だ。軽快に歌っている長屋晴子のボーカルも素晴らしい。YOASOBIやヨルシカなどネット発のアーティストとも親和性があるキャッチーな歌のメロディ。バンドファンだけでなく、幅広い層に響く楽曲に思う。

 

 

MVはアニメーションで童話のキャラクターが出演するストーリーになっている。

 

主人公は渋谷に似た街を歩くオオカミ。赤ずきんや3匹の子豚など童話のキャラクターと街中で出会うが、オオカミは冷たく対応されてしまう。童話ではオオカミは悪者であることが多い。そのため周りに避けられるということだろうか。

 

しかし本当は心優しい。オオカミはマッチ売りの少女と出会うとマッチを買って助けてあげるのだ。〈こんな僕も君のヒーローになりたいのさ〉という歌詞がリンクし、音楽によってMVの物語が感動的になる。

 

楽曲だけでなくMVにもこだわっているのだ。作品に関わる全てのことに対して、細かい部分も含めてこだわっている。だから楽曲もMVも魅力的な作品になり惹きつけられるのだ。

 

 

バンドの演奏も魅力的

 

長屋晴子の圧倒的な歌唱力が注目されがちだが、バンドの演奏力が高いことも魅力である。

 

公式YouTubeチャンネルにはライブ映像がいくつか公開されているが、観てもらえばバンドの演奏力を感じることができるはずだ。

 

 

特に『sabotage』の演奏が素晴らしい。

 

曲が始まりを告げるドラムのカウントの後のピアノの音。この音で曲の世界観にひきずりこまれる。そして全員の演奏が重なる。その演奏にはロックバンドとしての芯の強さを感じる。「緑黄色社会だけが作れる空気」になっている。それがたまらなく最高だ。

 

音源では打ち込みの音などバンド外の音を使うことも多い。しかしライブでの演奏を聴くと、このメンバーだからこそ鳴らせる音に感じる。バンドとして実力と個性があるから打ち込みを使っても個性や魅力が消えないのだ。むしろバンドの凄みや楽曲の魅力が極立つ。

 

また音楽の技術や才能だけでなく、ファンを大切にする「想い」を持っていることも魅力の1つだ。特に最近の活動からはファンへの想いを感じる。

 

緑黄色社会は5月16日からアルバム『SINGALONG』を提げて全国ツアーを行う予定だったが、新型コロナウイルスの影響で開催を見合わせることになった。それに伴い2019年12月に昭和女子大学 人見記念講堂で行われたワンマンライブの映像を期間限定で公開した。(現在は公開期間終了)

 

また公式Twitterで「#おうちでSINGALONG」という企画を立ち上げて『SINGALONG』収録曲のアコースティックアレンジのリモートライブ映像を複数投稿している。

 

ワンマンライブの映像公開も「#おうちでSINGALONG」の企画もツアーが中止になってショックを受けたファンや、自粛期間に自宅にいるファンに少しでも音楽で元気を与えるために行った企画に思う。

  

 

緑黄色社会は芸能人のファンも多い。

 

日向坂46の齋藤京子もファンの1人だ。公式ブログでファンであることと、MTVの『#AloneTogether Playlist』というプレイリスト作成企画で『想い人』を選曲したことを伝えている。

 

日向坂46メンバーの一人一人のオススメの曲が詰まったオリジナルプレイリストがMTVさんで公開されました!

 

MTVさんのプロジェクトで「一緒にひとりを楽しもう!」という企画です(^^)
 
私は、緑黄色社会さんの『想い人』という楽曲を選曲させていただきました!
 
好きになったきっかけは、ある日お店に入った時、緑黄色社会さんの楽曲がかかっていて、その時ボーカルの長屋晴子さんの歌声に一目惚れし、その後自分で調べていくうちにこの『想い人』に出会いました!
 
この曲が大好きでそれ以降ほぼ毎日聴いています
 
なのでこの企画のお話を聞いた時、すぐにこの曲にしよう!と決めました

 

女優の髙橋ひかるもファンの1人だ。TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK! 髙橋ひかるのGIRLS LOCKS!」に出演し、受験生リスナーに向けて自身が選んだ「受験生応援鍵曲」を紹介した際の1曲目に『始まりの歌』を紹介している。

 

 

髙橋:私はこの曲が元々好きで、この曲を聴いてると、例えば朝ちょっと憂鬱なときとか、やる気が出ない、なんかうまくいかないなーってときに、まだまだやれるというか、元気をもらえるというか、前向きに“キャパシティを越えていこう”って思えるというか。“まだまだこれからやっていこう!”って気持ちになれます。
みんなも、つらくなったり悩んだり、“うまく問題解けない”もう嫌だ! ってなったりもすると思うんだけど、そういうちょっともどかしいときとかに聴いてくれたら、きっと突破口が開けるような曲になってるんじゃないかなと思います。

(引用:髙橋ひかる 受験生応援ソングに乃木坂46、緑黄色社会、Half time Oldを選曲 - TOKYO FM+)

 

緑黄色社会は今年で結成9年目のバンドだ。9年間で積み重ねた音楽の技術とたくさんの名曲とファンへの想いによって、少しづつファンを増やしてきた。そして2020年になりファンの増える速度はさらに加速している。新作『SINGALONG』はヒットが続いているし評価も高い。まだまだ注目されそうな予感がする。

 

もしかしたらこの記事を読んで緑黄色社会を知った人もいるかもしれない。少しでも興味を持ったのならば、まずは新作『SINGALONG』から聴いてみてほしい。

 

聴けば緑黄色社会のことを「なんだか今なら愛されるよりも愛したいとさえ思う」ぐらいに魅力を感じるはずだから。

 

SINGALONG

SINGALONG

  • 緑黄色社会
  • J-Pop
  • ¥2139