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日向坂46と緑黄色社会とマカロニえんぴつによる独特すぎた空気の対バンライブについて~ MTV LIVE MATCH ~

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MTVの40周年を記念したライブイベント『MTV LIVE MATCH』。出演アーティストは日向坂46と緑黄色社会とマカロニえんぴつ。

 

今最も注目されている若手バンド2組と、今最も人気が上昇しているアイドル1組による、豪華でありつつも異色な対バンだ。

 

だからか各自の普段のライブとは違う雰囲気になっていた。しかし普段と違うからこそ最高の空間にもなっていた。

 

 

 

花ちゃんズ(Opening Act)

 

オープニングアクトとして登場した花ちゃんズ。

 

日向坂46の富田鈴花と松田好花の、名前に「花」という漢字が入っている2人によるアコースティックデュオだ。

 

花柄のワンピースを着た2人がゆっくりと登場すると、温かな拍手で迎えられる。椅子に座りアコースティックギターを持ち目を合わせる2人。笑顔で頷いて確認し合ったことを合図にライブスタート。

 

1曲目は『We are Never Ever Getting Back Together 』。テイラー・スウィフトのカバーだ。丁寧にイントロを弾いて、松田好花から歌い始めた。

 

英語詞だが綺麗な発音で見事に歌いこなしている。ギターは危うい部分もあるが、それも味となっていて惹き付けられる。

 

緑黄色社会やマカロニえんぴつを目当てに来た人も「想像していたよりも上手い」と思って惹き付けられた人もいたと思う。

 

花ちゃんズは「アイドルがギターを持って歌ってみました」というお遊び企画ではない。音楽が好きな2人による真剣なデュオなのだ。

 

富田「今日が花ちゃんズとしては初めての有観客ライブなんです」

松田「だからみなさんは記念すべき目撃者ですよ!」

富田「初めてがこんなに大きな会場で緊張していたんですけど、温かく迎えてくれたので落ち着いて演奏できました!」

 

泣き虫の2人が初の有観客で泣かなかったのは、観客が温かく迎え入れてくれたからかもしれない。

 

そして「2曲目にしてもう最後の曲です」と話し、花ちゃんズのオリジナル曲である『まさか偶然...』を披露。

 

切ないメロディと歌詞を、優しくて温かな歌と演奏で丁寧に大切に届ける2人。オープニングアクトだからか2曲で終わってしまったが、それを勿体ないと思うほどに素晴らしいライブだった。

 

自分の隣の人が涙目になっていて、ライブが終わった後にタオルで涙を拭っていた。それはきっと、全部若林のせい。

 

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■セットリスト

1.We are Never Ever Getting Back Together  ※テイラー・スウィフトのカバー
2.まさか 偶然…

 

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日向坂46

 

アリーナツアーですらプレミアムチケットになっている日向坂46。やはり彼女たちを目当てに来た人が多いのだろう。会場一面がペンライトの海で彩られている。体感的には観客の8割以上がおひさまのようだ。

 

歓声を挙げることもメンバーの名前を呼ぶこともできない。それでも『Overture』に合わせた最新シングル仕様の映像が流れると、期待に満ちた熱気が客席から伝わってくる。

 

そんな熱気を1曲目の『アザトカワイイ』で包み込み、華やかなでキラキラした空気へと変える。21人によるダンスパフォーマンスは壮大で目が離せない。

 

キャプテンの佐々木久美が「今日は楽しい時間を一緒に過ごしましょう!」と客席を煽り『君しか勝たん』で、さらに空気を明るくしていく。客席は声を出す代わりに、サビでクラップしたりと熱気や推しへの想いを伝える。

 

そして代表曲の1つである『キュン』を披露。

 

ポップでキラキラしていてキュートな世界観は、ロックバンドには表現できない。アイドルにしかできない音楽があることを、言葉ではなくパフォーマンスで伝える。

 

自分の座席はアリーナAブロック中心付近の1ケタ列だった。メンバーが間近で観える場所だ。

 

そんな場所で加藤史帆の「可愛い♡」「好きだよ♡」の台詞パートを観ると、破壊力が凄くてヨダレが垂れそうになる。5軍リスナーには刺激が強すぎた。

 

「アイドルの強みと魅力」をキラキラしたパフォーマンスで伝えた前半。しかし日向坂46は可愛いだけではない。

 

佐々木久美が「初めて見た方もいつも観てくれてる方々も、みんなで一緒に楽しんで行きましょう!」と挨拶してから、Billie Eilishのオマージュを感じる『My fans』を披露。

 

この曲ではダークな照明の中で、クールなパフォーマンスを繰り広げた。アイドルは様々な表現で魅了することができるのだ。

 

加藤史帆が「ここからラストスパート!まだまだ盛り上がれますか!?」とロックバンドのように叫び煽る。

それに対して河田陽菜は「そんなんじゃ足りないぞ!」と少し照れながら煽る。そのアザトカワイイ姿にキュンとする。彼女は楽屋で物を盗むだけでなく、観た者の心まで盗んでしまう。

 

そしてライブ定番曲の『キツネ』で会場の熱気を上げ、けやき坂時代からの鉄板曲である『NO WAR in the future』で盛り上がりを最高潮にする。

 

この曲では両脇のビジョン前の通路にもメンバーが移動したりと、ステージ全体を使ってパフォーマンスしていた。当たり前にアリーナツアーをレベルのグループになったからこその、堂々たる姿だ。

 

ラストは新曲の『ってか』。最新の日向坂46を見せつけるような、クールとキュートを兼ね備えたパフォーマンスでライブを終えた。

 

2組のバンドとの異色の対バンではあるが、アイドルとしてブレることなく、アイドルの凄さや魅力をしっかりと伝えるライブを見事にやってのけた。

 

それでいてMCはほとんどせず、ロックバンドにも負けないストイックなライブでもあった。

 

だからこそ彼女達は、今最も注目されるアイドルグループになれたのだ。それを改めて感じる圧巻のパフォーマンスだった。

 

■セットリスト

1.アザトカワイイ
2.君しか勝たん
3.キュン
4.My fans
5.キツネ
6.NO WAR in the future 2020
7.ってか

 

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緑黄色社会

 

転換中から客席一面が緑のペンライトで光っていた。

 

「バンド名の頭文字が緑だから、ペンライトの色は緑でいいんじゃね?」みたいなノリで、日向坂46のファンが光らせていたのだろう。謎の一体感が緑黄色社会の開始前から生まれていた。

 

この日の客席は8割以上が日向坂46のファンだったと思うが、温かく迎え入れられる準備は整っていた。リョクシャカはアウェイではなかった。むしろホームに思える雰囲気だった。

 

そんな中で鳴らされた1曲目は『これからのこと、それからのこと』。

 

ポップで明るいバンドの演奏と長屋晴子の伸びやかな歌声が会場に響き渡る。ペンライトを振ったり手拍子したりと、観客も楽しんでいるようだ。

 

長谷がハンドマイクになり「初めまして緑黄色社会です!」と挨拶し『たとえたとえ』で、さらに会場を華やかに彩る。J-POPシーンにも食い込むロックバンドとして、日向坂とは違う方法で観客の心を掴む。

 

長谷晴子「みんなが緑の物を振っているから、一面が緑色ですね。こんな空間は初めてで楽しいです。なかなかない組み合わせだから、来れた人はラッキーですよ」

小林壱誓「日向坂さんがいることで特別なライブになってますよねえ」

長谷晴子「曲を演奏して聴いてもらうだけでなく、そこにしかないものを作ることがライブだと思います。だから今日の組み合わせでしか作れないライブもあります。自由に楽しんで一緒にライブを作りましょう」

 

メンバーのMCにペンライトを振って応える観客。普段のリョクシャカのライブとは違う雰囲気ではあるが、この日にしかない特別な空気が作られている。

 

先ほどまで明るいポップスで盛り上げていたが、次に鳴らされたのはバラードの『LITMUS』。

 

胸に沁みる美しい旋律の演奏と、伸びやかで声量のある長谷のボーカルに鳥肌が立つ。バンドの底力と音楽性の幅広さを伝える。

 

家族を想って作った大事な曲があるんですけれど、その曲を以前から好きといってくださっている人がいました。日向坂46の齊藤京子さんです。今日はゲストボーカルとして、齊藤京子さんと一緒に歌おうと思います。

 

次に歌う『想い人』に込めた気持ちを語ってから、齊藤京子を招き入れる。緊張して動きがぎこちなくなり、声も強ばった様子で挨拶する齊藤京子。オードリーの前では決して見せない姿だ。

 

長屋「齊藤京子さんの声が以前からすごく好きだったんですけど、ブログで『想い人』を好きだと言ってくださっているのを読んで、すごく嬉しくなりました」

齊藤「ありがとうございます」

長屋「私たちはドッシリと構えて、京子ちゃんが緊張しないようにします」

齊藤「ありがとうございます」

 

緊張して「ありがとうございます」しか言わない齊藤京子。オードリーの前では決して見せない態度だ。

 

終演後に投稿された齊藤のブログには、緊張と感動で出番前に泣きそうになり、それを我慢していたと書かれていた。そのため上手く受け答えができなかったという。これは全然若林のせい。

 

しかし歌い始めると、緊張しているとは思えないほどの素晴らしい歌声を聴かせていた。

 

長屋の突き抜けるような真っ直ぐな歌声と、低くて胸に響く齊藤の歌声は相性が良い。2人がハモった時に、楽曲に新しい魅力が加わる。

 

長屋晴子はボーカリストとして表現力も抜群で声量も物凄い。彼女と一緒に歌うことにはプレッシャーもあるだろうし、自然と歌唱力を比べられることになる。

 

それでも齊藤はなんとか食らいつくように自身の表現をして、素晴らしいコラボをやってのけた。

 

まだ完成されていない歌声かもしれないが、齊藤京子がボーカリストとしてもっと注目される未来があるかもしれない。そんな期待をしてしまう歌声だった。

 

ここからラストスパート。『始まりの歌』で再び会場を明るく彩り、「まだまだ行けますか?」と挑発的に煽ってから『sabotage』で盛り上げる。

 

緑の物でも手でも良い。なんでも良いから一緒に凄い空間を作りましょう?行けるかい?

 

「ペンライト 」という言葉が出てこなかったのか「緑の物」と言って煽る長屋晴子。客席は緑の物を振って応える。

 

ラストは大ヒット曲の『Mela!』。誰もが1度は耳にしたことがあるであろう名曲。

 

緑の光が美しく揺れる客席。緑の物を持っていない観客は手を振っている。凄い空間が作られている。

 

序盤のMCで「そこにしかないものを作るのがライブ」と長屋は話していた。実際にこの組み合わせの対バンだからこその、「そこにしかないライブ」になっていた。

 

最高のライブはその場にいる全員で作るものだと、緑の光に包まれる会場で、改めて感じた。

 

■セットリスト

1.これからのこと、それからのこと
2.たとえたとえ
3.LITMUS
4.想い人 with 齊藤京子(日向坂46)
5.始まりの歌
6.sabotage
7.Mela!

 

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マカロニえんぴつ

 

会場がペンライトの赤い光で照らされる中で登場したマカロニえんぴつ。日向坂46のファンとしては、マカえんのグループカラーは赤色らしい。

 

挨拶もなしに『愛のレンタル』からライブスタート。

 

元々は私立恵比寿中学に提供した楽曲。ライブではエビ中のバージョンよりも激しく演奏している。そしてセルフカバーの音源よりもエモーショナルに叫ぶように歌う。自身のロックを愚直に表現しているようだ。

 

「マカロニえんぴつです!調子どうですか!?」という挨拶に、赤いペンライトを振って応える客席。そして『レモンパイ』へとなだれ込む。

 

ロックバンド中心のイベントと変わらない盛り上がりだ。日向坂46のファンが多いものの、好意的に迎え入れられている。そんな様子を見て「良い調子だねえ!」と言って笑顔になるはっとり。

 

真っ赤だな。これは出演者ごとにペンライトの色が自動で変わるの?緑黄色社会の時は緑だったもんね。

 

え?自分で色を変えられるの?じゃあ、なぜに赤を選んだ? 喧嘩売られてるみたいな色なんだけど!

 

赤色が気に入らない様子のはっとり。マカロニだから白が良かったのだろうか。

 

トリっぽいライブをやるのは緑黄色社会なんですよ。俺たちはトリっぽくない。

 

でも飛びっきりのマカロックをやるんでよろしく。今日はめちゃくちゃノリが良くて最高だね!

 

この状況について多くは語りません。音楽で伝わることが、コロナ禍にやったライブで実感出来たので。最後までよろしく!

 

多くを語らない代わりに、自虐しつつも自身の信念を曲げないことを誓うマカロニえんぴつ。

 

そしてピアノの音色が印象的な『ブルーベリー・ナイツ』を丁寧に届け、長めのセッションから『八月の陽炎』を続けた。それは彼らにしかできないロックで、ライブハウスでもアリーナでも変わらない。

 

重要なタイミングで演奏するイメージがある『ヤングアダルト』も演奏された。

 

客席には日向坂やリョクシャカのファンもいる。それぞれに「夜を超えるための歌」があると思う。

 

だからこそ〈夜を超えるための歌が死なないように〉と歌う『ヤングアダルト』が、特に心に響いた人が多かったはずだ。

 

相変わらずペンライトは赤いんだね。でもいいよ。情熱の赤だと思っておきましょう。

 

今日初めて観てくれたみなさん、ありがとうございます。マカロニえんぴつと言います。ずっと前から知っていた人もありがとう。マカロニえんぴつを聴いて、心が辛い時や失恋した時に救われてるんだよって人もありがとう。

 

音楽はエンターテインメントだ。鼻歌だって音楽だ。当たり前に存在するものだ。本来はわざわざ守ろうとするものではない。

 

それならばこの景色が当たり前でなければならない。

 

好きな音楽が違っても、音楽を愛し抜いた人が集まった結果がこの景色です。音楽と共に乗り越えて行こうじゃないか。

 

このライブでマカロニえんぴつは、コロナ禍について多くは語らなかった。しかし重要で必要なことは語っていた。

 

「走り抜いていこう!」と言ってから最後に演奏ひた『はしりがき』は、特に印象的だった。〈ただ無駄を愛すのだ〉という歌詞が胸に刺さった。

 

音楽やエンターテインメントは2020年以降「不要不急」と言われ「無駄なもの」として扱われてきた。

 

確かにその通りかもしれないが、そんな無駄を愛している人が沢山いる。

 

この日のぴあアリーナにも、ただ無駄を愛する人が集まっていた。無駄に対して可能性を感じ、エンターテインメントをやっている演者やスタッフも集まっていた。

 

日向坂のファンが多かったので、緑黄色社会とマカロニえんぴつはアウェイで全然盛り上がらないのではと不安だった。しかし実際は全てのライブで平等に盛り上がっていた。最高の空間だった。

 

無駄を愛する人達が集まると、これほど素敵で素晴らしい景色になるのだと実感するような、異色ながらも最高の対バンイベントだった。

 

これからもこの景色が当たり前に存在する時代が続きますように。これからも無駄を愛する人が耐えませんように。

 

■セットリスト

1.愛のレンタル
2.レモンパイ
3.恋人ごっこ
4.ブルーベリー・ナイツ
5.八月の陽炎
6.ヤングアダルト
7.はしりがき

 

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