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UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』ツアーの演奏と田淵の動きのヤバかった部分について ~ライブレポ・セットリスト ~

※ネタバレあり

 

UNISON SQUARE GARDENは2020年に、『Patrick Vegee』というアルバムをリリースした。

 

これが本当に素晴らしい作品なのだ。しかもライブ映えしそえな楽曲ばかりが揃ってる。生で演奏される音を聴くのが楽しみだった。

 

しかしアルバムがリリースされた時期はコロナ禍。現在もコロナは終息していない。それもあってかリリースツアーは先延ばしにされていた。そのためライブで1年以上披露されていない楽曲がいくつもあった。

 

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そんな楽曲がようやくライブで披露される時が来た。リリースから約1年経った2021年、ようやくアルバムのリリースツアーが開催されたのだ。

 

会場内には注意事項が長々と書かれたポスターが貼られ、感染症予防対策が徹底されていた。 だから開催することができたのだろうし、開催を決断できたのかもしれない。

 

そんな待ちわびたツアーの2日目である、栃木県総合文化センターで行われたライブ。客席は全員ルールを守っているので、開演前からしんと静まり返っていた。

 

開演時間になり青い光に照らされながらメンバーが登場すると、盛大な拍手で静寂が破られた。

 

登場するやいなや両腕を上げて存在をアピールするドラムの鈴木貴雄。黙々と準備を進めるギターボーカルの斎藤宏介。シャドーボクシングをしながら登場したベースの田淵智也。いつも通りのバンドの姿だ。それに興奮すると共に安心する。

 

田淵が見えない何かを殴り終えてベースを持ったことを合図に、ライブがが始まった。

 

1曲目は『Simple Simple Anecdote』。

 

斎藤がギターの弾き語りでサビを歌い、そこからバンドの演奏が加わるライブアレンジになっていた。いきなりライブアレンジを取り入れて披露して驚かせる。

 

「ようこそ!」と斎藤が挨拶すると、田淵のベースソロから『Hatch I need』を演奏し熱気が急激に上がる。田淵の動きも急激に激しくなる。さらに曲間なしで『マーメイドスキャンダラス』『Invisible Sensation』を続ける。

 

そのパフォーマンスはストイックかつ、衝動的なロックンロールだ。目でも耳でも圧倒させる。ロックバンドのカッコよさをライブで音源を超えたレベルで伝えてくれる。

 

ユニゾンスクエアガーデンです!Patrick Vegeeをリリースして1年以上越しのツアーです。冷凍保存された楽曲を演奏することを、待ちわびわびわびわびました。

 

照れ笑いしながら「わびわびわびわび」言う斎藤宏介。かわいい。なぜか笑顔の鈴木貴雄と、口を開けて固まる田淵智也。それもかわいい。演奏中には見せない可愛らしさである。

 

新作アルバムのリリースツアーではあるが、当過去の楽曲も含め様々な楽曲が披露された。『フライデイノベルス』『カラクリカルカレ』と過去の楽曲でファンを盛り上げる。田淵も盛り上がって踊っている。

 

「新曲!」と斎藤が言ってから、リリース直後の『Nihil Pip Viper』も披露した。カラフルな照明に照らされ演奏するバンド。カニのようにステップを踏んで横移動する田淵。これがラブリーサイドステップかもしれない。

 

『Dizzy Trickster』で盛り上げ、まだまだアップテンポの曲が続くかと思いきや、ステージが暗転し無音のまま時間がすぎる。ほんの少しだけ緊張した空気が流れる。

 

斎藤が天を仰ぎ深呼吸すると、『摂食ビジランテ』のイントロを弾き始める。

 

暗闇の中で深紅のスポットライトが斎藤を照らす。それが怪しげでクールで色気がある。そしてバンドの演奏が加わると、ロックバンドの凄みを感じて惹き込まれる。『夜が揺れている』でさらに重厚なロックを鳴らしたりと、様々なタイプのロックで魅了させてくれる。

 

ほんのりと夏の匂いが残る気温の今日だからこそより沁みる『夏影テールライト』の演奏を終えると、オーケストラの壮大な演奏のオケが流れる。そして『オーケストラを観にいこう』が始まる。この曲がツアーのハイライトの一つに思う。

 

後ろの黒いカーテンが開き白いスクリーンが現れ、そこにオレンジの照明が映り、夕焼けのような景色が広がる。それを合図にバンドの演奏が始まる。照明と演出が作り出す美しい景色と、あまり動かない田淵と、3人の力強い演奏が組み合わさる。

 

それは鳥肌が立つほどに最高だ。腕を挙げたりと演奏に応える客席の姿も含め、印象的で感動的な景色だった。

 

 

 

しかし感動の余韻にいつまでも浸らせてくれるわけではない。それがこのバンドの一筋縄ではいかない魅力の一つだ。続く『Phantom Joke』はゴリゴリのロックサウンド。今度はハイレベルな演奏で魅了する。田淵も激しく動き出す。

 

ここからはユニゾンの演奏の凄さを、さらに感じるライブ展開が続いた。

 

ドラムの鈴木にスポットライトが当たってから披露された、ドラムソロプレイは特に演奏技術の凄みを感じた。少しずつ手数を増やしていき激しくなるプレイに、ぐいぐい引き込まれる。途中で立ち上がり客席を煽ったりと盛り上げていく。

 

そして斉藤と田淵も加わり三人のジャムセッションへと雪崩れ込む。激しく演奏する途中で、鈴木が「1!」「2!」「4!」と叫び、その数字の数だけオーケストラヒットでキメる。この瞬間だけZAZEN BOYSがユニゾンに乗り移っている気がした。

 

そんなジャムセッションが『世界はファンシー』のイントロへと変化し曲が始まる。

 

ライブでしか体感できない構成にテンションが上がる。田渕もテンションが上がったのか、より激しいダンスを披露する。

 

斎藤が「My fantastic guitar!」と言ってギターソロを弾くと、その周りを前屈みになった状態で、斎藤を中心にしてグルグルと周り始める田淵智也。

 

その表情は満面の笑みである。楽しすぎちゃって愛しすぎちゃってハッピーになっているようだ。そんな田淵を苦笑いしながら見る斎藤宏介。尊い。

 

ライブもクライマックス。演奏も田淵の動きもどんどん激しくなる。ライブ定番曲の『天国と地獄』は、メンバーも客席も熱気が最高潮になっていた。

 

酔拳のような動きをしてからベースを弾く田淵。そこにキレッキレの演奏が組み合わさり、興奮し盛り上がる客席。走り回りアンプの後ろにまで移動する田淵。それを観てさらに湧き上がる客席。

 

さらに代表曲『シュガーソングとビターステップ』を続ける。

 

イントロに合わせてキレッキレのダンスを踊り、三浦大知のようにポージングして止まる田淵。ステップを踏んで移動していたが、あれがビターステップなのだろうか。

 

〈someday 狂騒が息を潜めても〉という歌詞の部分では、GLAYのテルのように両腕を広げて口パクで歌っていた。彼の心の中の狂騒は息を潜めることはない。

 

最高の盛り上がりを見せた後半。『シュガーソングとビターステップ』の演奏を終えると、客席から盛大な拍手が贈られた。

 

ライブの成功を実感して恍惚な表情になる斉藤と鈴木。口を開けて目を見開く田淵。さらに拍手の音は大きくなる。客席から声を出せないとしても、ライブが最高だったことを必死でステージへと伝えようとしている。

 

斉藤が「楽しかったです!ラスト!」と言って『101回目のプロローグ』が始まる。ライブを総括するような多幸感に満ちた演奏と歌声。切なくて胸を締め付けるようなメロディと歌詞。

 

コロナの日毎の陽性者数は減ってきた。それでもライブをはじめとするエンタメ興行には逆風が吹き続けている。今でも音楽業界は偏見の目を向けられることがあるし、今イベントを行うことに懐疑的な人が世間には多い。この日も後ろめたい気持ちで来場した人がいたと思う。

 

そんな気持ちを〈君だけでいい 君だけでいいや こんな日をわかちあえるのは〉という歌詞で、全て受け止めて受け入れているように感じた。このライブで演奏された『101回目のプロローグ』に救われた人が、きっといるはずだ。

 

新曲を1年以上人前で披露しなかったことは初めてでした。だから皆さんの反応を見れて嬉しかったです。ライブを行えることは奇跡だと思います、そんな奇跡のようなライブやるために全国ツアーを周ります。健康に気をつけて、また会いましょう。

 

アンコールでは最後の挨拶をしていた。今回はMCがほとんどないライブだったので、これが最も長いMCだった。おそらく話しで伝えるのではなく、音楽で伝えるつもりなのだろう。

 

バンドの勢いとファンの盛り上がりは、本編もアンコールも変わらない。むしろ本編よりも加速している。

 

『crazy birthday』からアンコールを始めた時点で、急激に熱気は上昇していた。

 

一緒に「せーの、バカ!」と叫べないことが悔しい。これほどまでに声を出せないことを悔やんだことはない。このご時世にこんな選曲をしてムズムズさせるなんて、バカ!

 

さらに『オトノバ中間試験』を続ける。

 

ついにはドラムの後ろ付近に移動するほどに動き回る田淵。心の底から楽しんでいるのだろう。斉藤も前に出てギターソロを弾く。なんか鈴木も楽しそうに見える。この曲がメンバーもファンも、最も盛り上がっていたと感じる。

 

「ラスト!」と告げてから最後に演奏されたのは『春が来て僕ら』。

 

桜色の照明に照らされながら、優しく歌い演奏している。10月に聴くには季節外れかもしれないが、希望を与えて背中を押してくれる楽曲だ。暗い出来事が続く世の中に必要な音楽で、今演奏されるべき理由があると感じる。

 

ひたすらカッコよくて痺れるロックを連発していたのに、最後は感動的な余韻を残してライブを終えた。

 

「バイバイ!」と一言だけ告げてステージを後にした斉藤はやりきった表情だったし、鈴木は満足気にバンザイしていた。田淵は横回転ジャンプをしながらスタッフにベースを渡していた。その様子から想像するに、メンバーもライブの出来に満足していたのだろう。

 

1年越しのアルバムリリースツアーというイレギュラーさだったが、楽曲を寝かせた分だけライブでの深みが増したと感じる。それぐらいに『Patrick Vegee』の楽曲がライブで進化していた。

 

来年、また春が来て新しいページに絵の具を落とすときには、一緒に叫べるライブが戻っていたら嬉しい。

 

やはり『crazy birthday』では一緒に「バカ!」と叫びたかった。観客が声を出せないときにこの曲をやりやがって。

 

バカ!

 

UNISON SQUARE GARDEN TOUR 2021-2022「Patrick Vegee」2021年10月8日 栃木県総合文化総合センター 

■セットリスト

01.Simple Simple Anecdote
02.Hatch I need
03.マーメイドスキャンダラス
04.Invisible Sensation
05.フライデイノベルス
06.カラクリカルカレ
07.Nihil Pip Viper
08.Dizzy Trickster
09.摂食ビジランテ
10.夜が揺れている
11.夏影テールライト
12.オーケストラを観にいこう
13.Phantom Joke
14.世界はファンシー
15.スロウカーヴは打てない (that made me crazy)
16.天国と地獄
17.シュガーソングとビターステップ
18.101回目のプロローグ


En1.crazy birthday
En2.オトノバ中間試験
En3.春が来てぼくら

 

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