オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【レビュー・感想】中島愛『green diary』は声優やアニソンが嫌いは人にこそ聴いて欲しい

声優の音楽

 

声優の発声は独特だ。俳優ともアナウンサーとも違う。

 

「言葉をしっかり伝えること」が声優にとっては重要にも思う。

 

そのため滑舌には気を使っているようだし、文字の1つひとつをハッキリと発音している声優が多いと感じる。

 

それでいて演技をする仕事でもあるので、アナウンサーとは声の出し方も違う。表情や動きも込みで演技をする俳優とも発声方法は違う。

 

アナウンサーの発音や俳優の発声があるように、声優独自の声の使い方があるのだろう。

 

声優が歌手として音楽活動をすることも多い。その場合も正しい発音や滑舌の良さを活かした「声優の発声の特徴」を感じる歌唱になっている。

 

桑田佳祐のような発音で歌う声優はいないし、銀杏BOYZのように叫ぶ声優もいない。

 

人によっては歌としては癖の強い声質や発音に違和感を感じ、声優の歌を好きになれない人もいるだろう。

 

キメのフレーズが多い歌詞やメロディだったり、情報量の多い演奏など、「多くのアニソンや声優ソングが持っている特徴」が苦手な人いるはずだ。

 

でもそのような人にも聴いて欲しい「声優の音楽」がある。中島愛の『green diary』というアルバムだ。

 

アニソンぽくない声優のアルバム

 

中島愛も声優と歌手活動を並行して活動している。彼女も自身の声質を活かしつつ「声優らしい発音の歌唱」をしている。

 

しかし中島愛の新作は所謂「アニソンっぽい曲」が少ない。

 

むしろそれとは違うポップスを目指している。派手さはない代わりに丁寧に作り込まれていて、長く愛されるであろうポップスアルバムになっている。

 

そのため声優の音楽を普段あまり聴かない人にも馴染みやすい作品なのだ。

 

楽曲提供陣は口ロロの三浦康嗣やBBHFの尾崎雄貴や清竜人、吉澤嘉代子、tofubeatなどアニメソングをメインで書いているわけではなく、自身もアーティスト活動をしている提供者が多い。

 

そして彼らは「中島愛の音楽」であることは意識しつつも、「声優の音楽」ということは意識せずに作っている。

 

例えば三浦康嗣が提供した1曲目の『Over & Over』。

 

Over & Over

Over & Over

  • 中島愛
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ラップとポエトリーリーディングの中間に感じる独特な歌唱と、少しづつ変わるリズムなどが複雑で刺激的な楽曲。

 

それはアニソンのようなキャッチーでわかりやすい音楽ではない。マニアックではあるが、繊細で個性的な作り込まれた音色や編曲に唸ってしまう音楽である。

 

アルバムのリードトラックでタイトル曲である『GREEN DIARY』もそうだ。この曲はBBHFの尾崎雄貴が書き下ろした楽曲である。

 

GREEN DIARY

GREEN DIARY

  • 中島愛
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

美しいメロディと繊細な音色。これはBBHFの新作『BBHF1-南下する青年』に近い方向性ど。

 

つまり尾崎雄貴の個性と彼の今の強みが滲み出ている楽曲である。

 

製作者の個性が滲み出ているという部分では、tofubeatが提供した『ドライブ』が最も強いと感じる。

 

ドライブ

ドライブ

  • 中島愛
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

少ない音数ながら繊細に音を積み重ねていく編曲。音色の一つひとつに拘っている。そこに切なく詩的な表現の歌詞が乗せられている。

 

それはtofubeatの音楽の個性に思うし、楽曲提供というよりもtofubeat feat.中島愛という感じだ。

 

収録されている楽曲の幅も広い。

 

『メロンソーダ・フロート』のようなポップで明るいキャッチーな曲もある。『ハイブリッド♡スターチス』のような、懐メロとアイドルソングをミックスさせた楽曲もある。

 

メロンソーダ・フロート

メロンソーダ・フロート

  • 中島愛
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

バラエティ豊かで様々なタイプの楽曲が収録されているアルバムなのだ。

 

しかし不思議と散らかった内容のアルバムにはならず、まとまっていて一つの作品として価値があるものになっている。

 

それは中島愛が歌うということが、大きく影響しているからだ。

 

 

『green diary』が作品として優れている理由

 

『green diary』は「緑」をテーマに制作されている。

 

また楽曲ごとに中島愛が楽曲提供者一人ずつとミーティングをして、アルバムの方向性を話し合ったり、自身の歌手やアーティストとしての立ち位置などを伝えたらしい。

 

それを受けて楽曲提供者は制作しているのだ。

 

「All Greenって”前進する”という意味があるんです。」初めましてのミーティングの中で愛さんから出た言葉ですが、これが全てです。

葉山拓亮(「All Green」作詞・作曲・編曲)

 

中島さんとの打ち合わせ時のメモには「若々しい、豊か...といってイメージがある緑の中に同時に存在している淀の部分も見せたい」とあり、まずそのテーマをいただいたことに驚きました。ヒントを自分なりに解釈して行って仕上がったのがこの曲です。

tofubeat(「ドライブ」作詞・作曲・編曲)

 

(引用:ニューアルバム「green diary」リリースに寄せて)

 

ミーティングも密に行い、想いや方向性も丁寧に中島愛本人から伝えていたらしい。

 

RAM RIDERは「こんな仕事ばかりだったらいいのになという作業行程でした」と語り、soulifeは「生レコーディングの楽しさ、大切さを、改めて噛み締めた素敵な現場でした!」と語っている。

 

特に刺激的で楽しい現場であったことが、楽曲提供者のコメントからも伺えるのだろう。

 

それは『green diary』は作品のコンセプトが全員としっかり共有できていて、彼女の作品にかける想いに共感して制作されたからだ。

 

中島愛は「ただ楽曲提供されたから歌う」わけではなく、アーティストとして作品の舵取りをしている。それもあって楽曲提供者からも信頼されているのだと感じる。

 

だから個性も方向性も全く違う楽曲提供者が揃っても、素晴らしい楽曲が揃い、アルバムに統一感が生まれたのだ。

 

中島愛の歌唱も作品において重要である。

 

冒頭に書いたように声優の発声は、滑舌に気をつかり文字の一つひとつをハッキリと発音する。

 

そのため歌詞の言葉も聴き取りやすく、自然と耳に入ってくる。彼女の想いが反映された歌詞が、しつんかりと耳に入ってくるのだ。

 

これも作品に統一感がある理由の一つあり、作品が素晴らしいものになっている理由である。

 

『green diary』は「キラッ!」とはしていないけれど、しっかりと胸に沁み入る名盤だ。