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【ライブレポ・セットリスト】スピッツ『SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”』at 日本ガイシホール 2023年12月19日(火)

久々に名古屋までライブを観るために遠征した。どうしてもスピッツの関東公演のチケットが取れなかったからだ。

 

以前からそうだっだ、スピッツのライブは申し込んでもなかなか当選しない。超絶人気バンドかつ良いライブをやるバンドなので、それは仕方がないのだろう。だが、だからこそ、そんなバンドのライブを観たい。

 

そう思いSPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24 ”HIMITSU STUDIOの名古屋ガイシホール公演へと、新幹線で誰よりも早く駆け抜けてやってきたのだ。

 

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アリーナツアーだからか、ステージセットは凝っている。

 

大きなスケートボードがステージ下手にたてかけられていたり、ツアータイトルの『HIMITSU STUDIO』と書かれた電光ボードがあったりと、豪華で遊び心のあるステージだ。

 

とはいえ派手な演出があるライブではない。あくまでも歌と演奏が主役。開演時間を過ぎるとSEを使わずに無音の登場し、ライブハウスやホールと変わらない佇まいで『めぐりめぐって』から演奏を始めた。

 

アルバムやツアーのテーマを表現したようなこの楽曲の演奏中は、スクリーンにメンバーの姿を映していなかった。それはステージのメンバーを観ることに集中させ、楽曲のメッセージを最大限に伝えるためだろう。〈秘密のスタジオでじっくり作ったお楽しみ〉という歌詞が歌われるとツアータイトルの電光ボードが光ったりはしたが、それは楽曲の魅力を最大限に伝わるための最小限の演出ではある。

 

優しい音色で『ときめきpart1』を続けて、じわじわと会場の空気をスピッツの色で染めていく。ここからはメンバーのリアルタイムの姿がスクリーンに映されるようになった。ここからはエンタメ性の高い演出が増えるということだろうか。

 

穏やかな空気に包まれる会場だが、三曲目で会場の空気が変わる。『けもの道』が演奏されたからだ。赤い照明に包まれる中で田村明浩がエフェクトがかかった音色でベースソロを掻き鳴らしてからはじまった。

 

会場全体の熱気か一瞬で上昇する。〈名古屋の日の出すごい綺麗だな〉とご当地バージョンに歌詞を変えていたのも良い。メンバーも同様に熱い気持ちになっているようで、田村は広いステージを縦横無尽に駆け回る。

 

そういえば前回自分がスピッツを観た時、田村のベースはシールドで繋がれていた。それをスタッフが持って遠くへ行き過ぎないように管理をしていた。まるで元気すぎる犬をリードで引っ張る飼い主垢のように。

 

しかし今回はワイヤレスになっている。スタッフは犬のリードのように引っ張って管理することができない。だからか田村は放し飼いされたラブラドールレトリバーかのように走り回って演奏していた。たまに演奏せず踊っていた。

 

そこから続けて『飛べ』が演奏されるのだから、田村のボルテージは一気に最高潮に。田村の動きはさらに激しくなり、演奏はよりエモーショナルになっていく。

 

田村の勢いは留まらない。ミドルテンポの『紫の夜を越えて』でも、感情の赴くままに身体を動かし演奏していた。曲に合わせてか照明は紫色になっている。紫の光に染まりながら動く田村とクールに演奏する他のメンバーの姿が最高だ。

 

「平日かつ年末の忙しい時期に会いにきてくださりありがとうございます」と丁寧な挨拶をする草野マサムネ。おそらくロックバンド史上最も腰が低いボーカリストだ。

 

今回は1万人近く収容できるアリーナ会場。ステージから離れた観客への心遣いも忘れていない。「一番後ろのあなたにも、2024年は良いことがあります。今日はあなたのために歌います!」と予言と想いを伝える。さらには「アリーナの後ろも見づらいよね。あなたのためにも歌います」「一番遠いのはスタンド左右の後ろ?あなたのためにも歌います」と続け、結局会場のほとんどの観客のために歌うことになってしまった。

 

そんな心遣いはまだまだ続く。「どの席に属してるかわからない絶妙な座席の方、大丈夫です。スピッツもそんな感じのどこに属しているのかわからない微妙な立ち位置で活動を続けてきました」と中途半端な座席の観客にも寄り添っていた。

 

「今日は名古屋名物のぴよりんを食べました」と告げてから演奏が再開。披露されたのは『大好物』。ぴよりんと同じ色の黄色い照明の中、クールに演奏するメンバー。音源よりもギターやベースの音が大きくなっており、改めてスピッツがロックバンドだと実感するサウンドである。アウトロでは前方に出てきてギターをかき鳴らしながら客席を煽る草野の姿もロックで最高だ。

 

とはいえJ-POPシーンを長年引っ張ってきたバンドでもある。続く代表曲『チェリー』ではピンク色の照明の中で温かなサウンドで観客を心地よく揺らす。大規模公演なので初めてライブに来たファンもいるだろう。そんなファンには代表曲の披露は嬉しかったはずだ。

 

だがコアなファンが喜ぶ楽曲もしっかりと披露する。『青春生き残りゲーム』がまさにそれだ。メンバーを映すスクリーンは青や赤のエフェクトがかかり妖艶な雰囲気を醸し出す。そんな中で歪んだギタリフから演奏が始まり、ドラムやベースの重厚な音が重なる。今回のツアーでかなり久々に披露された喜びと、ロックバンドスピッツの本領を発揮するかのような演奏に痺れてしまった。

 

MCでは「結成36年を超えると忘れてる曲が多いんです。『青春生き残りゲーム』はスタッフに言われて存在を思い出した曲です。ロックな演奏で楽しい曲だね まあスピッツはロックバンドなわけだけど(笑)」と久々の披露に至った経緯を話す草野。

 

スピッツのMCは長い。メンバーの仲がいいからなのだろうが、ステージ上で普段通りの雑談をしているかのような空気感になる。名古屋での思い出話では「ミックスパイくださいにたまにゲストで出てた」「番組で小森のおばちゃんにも会ったからね。鶴太郎のモノマネじゃなくて本物の」」と20年以上前に中京地区で放送されていたローカル番組の話をして、若者を困惑させていた。

 

草野「アリーナだと”行くぜ名古屋!”みたいなこと他のバンドは言うよね。スピッツはやらないんだけども」

三輪「試しにやってみたら?」

草野「い、行くぜ!名古屋!」

観客「いえええええええ!!!」

草野「盛り上がるんですね/////」

 

照れる草野。実は一時期三輪が地域の名前を言って曲中に煽っていた時期があったらしいが、その頃は全く盛り上がらなかったらしい。この日盛り上がる会場を観て「俺が言っていた頃は盛り上がってなかっただろ!」と不満げに話していた。

 

田村は『大好物』に入る前の草野のMCを「ぴろりんの話をしてから行くのがいいよね。大好物はぴろりんみたいな感じで」と絶賛していた。草野は全く意図していなかった偶然らしい。「今日からぴろりんを大好物にします」と渋々大好物の食べ物に昇格させた。

 

演奏は『手鞠』から再開。最新アルバム『ひみつスタジオ』の中では地味な印象の楽曲かもしれない。しかしライブだと重厚なサウンドとなり、演奏の凄みを感じさせる印象的な楽曲へと進化していた。生演奏だと印象がガラッと変わる楽曲があると知れることが、ライブの魅力のひとつだ。

 

逆にアルバムを引っ張るような印象深い『 i-O(修理のうた) 』ではロボットのイラストが映像に使われたりと、より深い印象が残る演出で届けられた。スピッツはライブバンドだ。やはりライブでこそ彼らの楽曲はより輝くのだ。

 

もちろん最新曲だけでなく過去の名曲の今のスピッツとして最高のサウンドで届けてくれる。美しいピンク色の照明の中で演奏された『正夢』は、アリーナに相応しい壮大で感動的な空気を作り出していた。最後のサビで客席の電気も点灯し会場全体が明るくなる景色にもグッとくる。

 

クジヒロコの美しいピアノの旋律から始まった『楓』もアリーナを感動的に彩る。バンドのゆったりとした演奏から後半のサビで草野のアコースティックギターと歌だけの弾き語りになるアレンジも涙を誘う。そんな余韻をたっぷりと味わわせるような長いアウトロも素晴らしかった。

 

2023年のスピッツは色々と活動しました。2022年まではコロナ禍の影響が強くて、思うように活動できなかったからです。

 

でも今年は名探偵コナンくんのおかげで聴いてもらえて。コナン君のおかげでバンドの寿命が10年延命できた(笑)

 

サブスクのチャートで上位にランクインしてるって知り合いに教えてもらって確認したら、VaundyとかYOASOBIとか若い人たちに混ざっておじさんバンドのスピッツがいました(笑)

 

2023年の活動について振り返り、コナン君に感謝する草野。そして若いミュージシャンに影響を受けていることに言及し、サビのワンフレーズだけではあるが藤井風『きらり』をバンド演奏でカバーした。見事にスピッツの色に染めたカバーで最高だ。

 

さらには「ただカバーするだけじゃ面白くないから」とゆず『栄光の架橋』のメロディに『チェリー』の歌詞を当てはめて歌うという器用な歌唱をする草野。

 

どうやら他人の曲に『チェリー』を当てはめることが気に入ったようだ。今度は「名古屋なので」と言ってから愛知県出身のスキマスイッチの名曲『全力少年』を『チェリー』の歌詞で歌った。やはり器用に歌いこなしている。

 

三輪「全力でチェリーだったね」

草野「深いですね......。全力チェリー......」

田村「チェリー少年」

草野「いかがわしい......。別の意味になってしまう......」

 

スピッツの場合、下ネタすらも魔法の言葉かのように爽やかに聞こえてしまう。

 

「スピッツの曲を聴きたいですか?」という独特な煽りから冬の名曲『サンシャイン』が披露されると、やはりスピッツは下ネタを爽やかに話すおじさんではなく一流のロックバンドだと実感する。収録アルバムのジャケットの色と同じ黄色い照明の中、繊細な演奏で魅せるメンバー。

 

そこからクールなコーラスが印象的な『未来未来』をクールな演奏で披露し、薄暗い青の照明に包まれながら『夜を駆ける』を迫力ある演奏で魅せつける。個人的には今回のハイライトと感じるほどに、『夜を駆ける』の演奏の凄まじさに痺れてしまった。

 

ここまで痺れる演奏で聴かせる楽曲が多かったが、続く『俺のすべて』ではこの日一番に感じるほどの盛り上がりになった。

 

草野はタンバリンを叩いきながらステージを縦横無尽に動き、煽りながら歌う。田村は相変わらず放し飼いのゴールデンレトリバーかのように楽しさうに暴れ回る。観客も盛大なクラップで盛り上がっている。ステージ袖を見ると、スタッフまでも飛び跳ねながら手拍子していた。スピッツはファンだけでなくスタッフまでも音楽で魅了してしまうのだ。

 

最高の盛り上がりの後、盛大で長い拍手が続いていた。そんな客席を眺めながら感慨深そうに草野が話し始めた。

 

中学2年の頃にスケートボードが欲しかったんです。でも同じぐらいにエレキギターも欲しかったんです。

 

お年玉の貯金では両方を買えなかったんで、ギターを買いました。ギターを買って良かったです

 

再び盛大で温かな拍手が鳴り響く会場。

 

今回は大きなスケートボードのセットを作ってもらいました。

 

ロボコンの超合金が欲しかったけど買ってもらえなかったけれど、こうして超合金のロボットのセットを作ってもらえました

 

いちごのセットはなぜかと思うだろうけど、いちごが大好きだからです

 

草野の大好物はイチゴらしい。

 

「膝や腰は大丈夫ですか?」とベテランらしい気遣いある煽りから演奏が再開。

 

披露されたのは『美しい鰭』。2023年に大ヒットした、バンドの新しい代表曲と評しても過言では無い楽曲だ。こちらも心地よい演奏でしっかりと観客の身体を揺らす。

 

ライブも後半。ここから畳がけるように激しい曲が続く。まずはメンバー全員の歌唱パートがある『オバケのロックバンド』。メンバー全員が楽しそうに歌い演奏している姿が印象的だ。それは〈子供のリアリティ 大人のファンタジー〉というサビの歌詞により説得力を感じるような姿である。

 

『甘ったれクリーチャー』では上手や下手に置かれたマイクスタンドに草野が移動し歌うという、今までのアリーナライブでもなかった演出が使われていた。激しいロックナンバーなので、演出も相まって観客の盛り上がりは物凄いことになっている。田村の暴れっぷりはそれを超えるほどに物凄いことになっていた。

 

『8823』ではさらに激しい演奏で会場全体の熱気を上昇させていく。田村は疲れを知らないのだろうか。ライブ終盤なのに暴れ馬のように激しく動き回っている。観客も田村に負けじと、この日一番の盛り上がりで応えていた。会場は最高にロックな空気で包まれている。

 

ロックバンドとして完璧と言える空気を作ってから、最後に演奏されたのは『涙がキラリ☆』。爽やかさとカッコよさが同居する壮大な演奏でアリーナ全体を音楽で包み込む様子が圧巻だ。客席の照明までも明るい白色で照らされる景色も美しくて感動してしまう。ロックバンドの演奏としても、J-POPアーティストのステージングとしても、完璧な締めだ。

 

本編は終わったが、まだライブは続く。アンコールの拍手に応えて再登場したメンバー。「もう少しだけ聴いてください」と草野が簡単に挨拶してからアンコールの1曲目に『えにし』が演奏された。

 

フォーキーかつキャッチーなメロディに力強い演奏が重なる楽曲は、スピッツの真骨頂とも言える。アンコールだからと“おまけ”になることのない名演で本編以上に観客の心をつかむスピッツ。

 

ここで草野が「愉快な仲間たちを紹介します」と言ってメンバー紹介へ。

 

まずはライブ中終始愉快に暴れていた田村。前回ガイシホールでライブをやった時のことを振り返り「一昨年やった時はキャパの半分しかいれらなくて声出しもダメだったんだよね」と感慨深そうに語る。

 

田村「スピッツはサビになったら歌わせるバンドではないから、声出しが禁止でもOKでもあまり変わらないんだよね。俺はお客さんの歌声よりボーカルの声を聞きたいから、お客さんは声を出さないで欲しいけども(笑)

草野「お客さんをディスるロックバンドって多いよね。お前らこんなもんかよって言って(笑)」

田村「声が小さいといいつつ何回か声を出させて、対して変わってないのに3回目ぐらいでOK!最高!とか言って。そんなに声量変わってないんですけど?」

 

「そういうバンドをディスってるわけではないよ?」と言いつつも、話が止まらない田村。

 

田村「今度スピッツもそんな煽りをしてみる?」

草野「そういうの嫌だからスピッツに来てる人いると思うよ」

田村「たしかに。俺もそういうの嫌だからスピッツやってる(笑)」

 

最終的には田村のスピッツへの深い愛を感じる形で話が締められた。

 

クジヒロコは突然「ランチパック」という言葉をコールアンドレスポンスした。動揺しつつも受け入れレスポンスする観客。動揺したままの草野マサムネ。どうやら『えにし』がランチパックのCMソングに使われていたからやってみたらしい。もう10年以上前のCMだ。懐かしすぎてランチパックでエモい気持ちになる自分。

 

ドラムの崎山龍男とは名古屋のテーマパークの話に。名古屋港水族館やモンキーパークなど動物関係のが多く、崎山は車で愛知県まで来て観光をしたらしい。

 

崎山「名古屋には愛・地球博の会場もあるよね」

草野「愛・自分博。それはKREVAのアルバムか」

観客「……」

 

草野による突然のセルフボケ&セルフツッコミに反応できなかった観客。静まるアリーナ会場。草野は見事にスベった。ちなみにKREVA『愛・自分博』は名盤である。

 

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テーマパークの話題は三輪とも続いた。彼はジェットコースターなど遊園地の定番な乗り物が苦手なので、レゴランドがちょうどよく楽しめるらしい。

 

三輪「みんなレゴランドは面白くないって言うけど、ジェットコースターはないし安心感があるから俺は好きだよ。」

草野「ジェットコースターは自分が運転してるつもりになって乗ると怖くないらしいよ」

 

無茶振りをする草野マサムネ。

 

お客さんを楽しませようと思っていたのに、逆に楽しませてもらいました。

 

まだまだスピッツは続けて行きます。コナンくんのおかげで延命できたし(笑)

 

忙しいなら忘れてもいいけど、たまには思い出して聴いてくださいね。

 

草野の最後の挨拶は、いかにもスピッツらしい優しい言葉に思う。この「俺たちに着いてこい」ではなく、適度な距離で寄り添ってくれるロックを鳴らすのがスピッツなのだ。

 

最後に演奏されたのは『不死身のビーナス』。疾走感あるロックな演奏で、観客を最後に最高に盛り上げている。最後のサビで一部草野のアカペラになるアレンジにもグッと来る。田村も相変わらず暴れていた。

 

クールなロックバンドとしても、JPOPシーンを作ってきた国民的バンドとしても、完璧と言えるステージをやり遂げたスピッツ。「忙しいなら忘れてもいい」と言っていたけれど、忙しい時も寄り添ってくれて、むしろそういう時にこそ、ズルしても真面目にも生きていくための手助けをしてくれるバンドだ。

 

スピッツという“オバケのロックバンド”のワンマンを久々に観て、そんなことを思った。

 

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◾️スピッツ『SPITZ JAMBOREE TOUR ’23-’24 “HIMITSU STUDIO”』at 日本ガイシホール  2023年12月19日(火) セットリスト

01. めぐりめぐって
02. ときめきpart1
03. けもの道
04. 跳べ 
05. 紫の夜を越えて
06. 大好物
07. チェリー
08. 青春生き残りゲーム
09. 手鞠
10. i-O(修理のうた) 
11. 正夢
12. 楓 
13. サンシャイン
14. 未来未来
15. 夜を駆ける
16. 俺のすべて
17. 美しい鰭
18. オバケのロックバンド
19. 甘ったれクリーチャー
20. 8823
21. 涙がキラリ☆


En01. えにし
En02. 不死身のビーナス