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【ライブレポ・セットリスト】the pillows『LOSTMAN GO TO CITY 2023-24』at 水戸 LIGHT HOUSE 2023年12月16日(土)

ステージに出てきた山中さわおは、開口一番に「会いに来たよ!」と叫んだ。

 

2023年の12月は、日本のロックシーンに悲しいニュースが流れたばかりだった。だなら今こんな言葉をバンドマンに叫ばれたら、それだけで心を掴まれてしまう。バンドマンの優しい言葉は、他の人が言う以上に心に響くのだ。

 

他の観客も自分と同じように、山中の言葉にグッときたのだろう。演奏される前からいつも以上の熱気と盛り上がりだ。

 

the pillowsのライブツアー『LOSTMAN GO TO CITY 2023-24』の水戸LIGHT HOUSE公演は、そんな最高の空気の中で始まった。

 

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1曲目『Tokyo Bambi』はイントロから歓声が物凄かったが、それはライブが開始の興奮だけが理由ではない。山中がギターを持たずにスタンドマイクで歌ったことへの驚きもあるはずだ。観客とグータッチをしたり、控えめに手や腰を動かして踊ったりと、普段とは違う姿を見せる。

 

『Coooming sooon』でもスタンドマイクだった。ステージ動き回り煽ったりと、いつにも増してロックスターな佇まいだ。〈大胆なバンビ〉という歌詞は観客も一緒に叫ぶように歌う。この歌詞があるから『Tokyo Bambi』の次に演奏されたのだろう。セットリストに遊び心があって良い。

 

ここで山中がギターを持った。演奏されたのは『Mr.Droopy』銃口を向けるようにギターをかざすと、観客が歓声をあげる。ギターの真鍋吉明とサポートベースの有江嘉典が客席前方に出てきて煽ったりと、序盤からパフォーマンスの熱量も序盤から高い。

 

「久しぶりじゃないか!今日はみんなの大好きなthe pillowsを見せつけたい!」と山中が挨拶すると、やはりめちゃくちゃ大きな歓声で応える観客。しかしチューニングが始まると静まり返る。このTPOを弁えすぎて気を使えるところが、バスターズ(the pillowsのファンの総称)の特徴である。これは余計なことを言って怒られた観客が過去に多発したことから、この文化ができたのかもしれない......。

 

「ステージの高さに対して俺たちの身長が低すぎる。だからできる限り台に乗ってみんなの顔を見るよ!」と機嫌良さそうに言う山中。その言葉通りにメンバーは前に出てきたり台に乗って演奏することが多かったように思う。

 

久々に演奏された『プロポーズ』でクールな演奏で観客を痺れさせ、『Flashback Story』で観客を踊らせる。さらに『Come Down』とクールな演奏が際立つ楽曲を続けるのだから、観客は休む暇もなくひたすらに盛り上がっている。

 

山中が有江を指差し、ベースソロから『Sleepy Head』へと雪崩れ込む展開も最高だ。真鍋が台に乗ってギターソロを掻き鳴らす姿もカッコいい。

 

この2曲はシングル曲ではないしマニアックな楽曲かもひれない。それでもピークに感じるほどの盛り上がりになっているのは、コアなファンが集まっているからこそだろう。

 

そんな熱いライブなのだが、山中が申し訳なさそうな顔をして、言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。観客は何かあったのではと息を飲み静かに聞き入る。緊張で張り詰めた空気が流れる。

 

山中「最前列にいる君の、ジーパンのファスナーが、開いてるんだ......。気が散るから閉めて欲しいんだ......。」

観客「wwwwww」

山中「せっかく最前列だったのな......」

 

緊張で張り詰めた空気がいっきにほぐれる。きっと最前列の観客はジーパンのファスナーだけでなく心のファスナーも一緒に開けるほど感情をむき出しにしていたのだろう。

 

山中「いつもSEではSALON MUSICの『KELLY'S DUCK』を使っているんだが、いつも手拍子が合わない。でも今日はみんな手拍子がピッタリとあっていた。とても音楽的で良かったよ!」

観客「あういえええええええ!!!」

山中「青森のやつらはクルクルパーだからか手拍子がバラバラだったのにな(笑)

観客「wwwwww」

 

山中は水戸のノリの良さに喜んでいるようだ。クルクルパーと言っていたが、きっと青森の観客への愛あるイジリだと思いたい。

 

ここからミドルテンポの落ち着いた楽曲を続け、the pillowsがしっかり音楽を聴かせるロックバンドであることを見せつけていく。

 

まずは「久々の曲を」と告げてから『She is perfect』が演奏された。心地よいリズムと美しいメロディを聴き入る観客。そこから続いたのは『Purple Apple』。こちらもミドルテンポの楽曲だが、観客が手拍子したりと楽しい楽曲でもある。だがこの手拍子がなかなかに合わせるのが難しい。それでも水戸の観客は綺麗に手拍子を合わせていた。それを観てご機嫌な様子のメンバー。山中と真鍋が向き合ってギターをユニゾンで弾く姿は、観ていて思わず笑顔になってしまう。

 

この楽曲の途中で演奏が止まった。何かと思いきや、山中が喋り出した。

 

水戸は東京から近いからいつも日帰りなんだ。

 

でも泊まりたい!

 

次は自腹で泊まるからな!

 

山中の水戸への愛があるからこその自腹宣言に歓喜し湧き上がる観客。そこから演奏が再開されるのだから、盛り上がらないはずがない。

 

アパレルショップのインディアン東京で買い物した人のみダウンロードできる新曲『Have You Ever Seen The Chief』をしっとりと聴かせてから、久々の披露となる『Ladybird girl』を疾走感ある演奏で届ける。ベテランバンドでありながらも、まるで若手のような爽やかなサウンドだ。

 

『Ladybird girl』は小学生の頃の自分でもわかるライトなラブソングを書こうと思って作ったんだ。だから50歳を超えて歌うのはどうなんだろうと思って封印していた。でも佐野元春さんのライブを先日観たら、昔の曲も時代も関係なく色々な曲をやっていたんだ。今の年齢に合うかなんて、小さなことを佐野さんは気にもしていなかったんだ。

 

俺は佐野さんに勇気をもらった。だから歌うことにしたんだ。これからも歌いたい曲を歌いたいときに歌うよ!

 

『Ladybird girl』を演奏した理由について語る山中。その言葉に歓声で応える観客。バンドを活動する上で、年齢やキャリアを重ねることによる悩みがあるのかもしれない。そんな悩みのひとつをthe pillowsは乗り越えたのだろう。

 

山中のエレキギターによる弾き語りから『like a lovesong (back to back)』が続く。サビでは大合唱になり〈これはキミのうた〉というフレーズは観客が大きな声で代わりに歌う。この楽曲はthe pillowsからバスターズへのラブソングに感じるような瞬間だった。

 

久々に演奏された『My Girl』にもグッとくる。切ない歌詞とメロディが印象的なミドルテンポの楽曲だが、ギターのサウンドが映えるロックミュージックでもある。そんなロックを鳴らすのもthe pillowsの特徴だ。そこから『Last Holiday』を続ける展開も感動的で良い。演奏を終えた後に長い拍手が続いていたのは、名演だったことの証拠だ。本人としても手応えがあったのか、山中は「どうやらカッコよかったようだな」と言っていた。その後、照れていた。

 

メンバー紹介では「今回のツアーは初めてやる曲が多くて、the pillowsにはまだまだカッコいい曲がたくさんあると気づいた」と語る有江。サポートベースとして共に活動して長くなるが、そんな彼でもまたバンドに惚れなおしてしまうツアーなのだろう。

 

佐藤シンイチロウ「水戸では曲をやらずに喋っていればいいらしいですね」

観客(苦笑)

山中「何があったんだろうね......。心配だよ......」

佐藤「喋ることがないので曲をやろうと思います」

山中「それなら今みたいな余計なことも喋るなよ!デリケートな問題なんだから!」

 

余計なことを喋る佐藤。やはりミュージシャンの視点からすれば、山崎まさよしの件は心配なのだろう。きっと業界に近い人ほど、怒りの感情ではなく心配の感情が勝るのだと思う。

 

真鍋「2023年最後のライブなので、すべて出し切ります」

観客(??????)

山中「今年最後じゃないぞ......」

真鍋「......水戸のライブは今年最後です」

山中「......こんなメンバーとバンドをやってる俺って、大変でしょ?」

観客「wwwwww」

 

天然ボケをかます真鍋。しかし演奏ではボケることなくキレッキレなギターを鳴らしてくれるので、音楽的な部分ではまだボケてはいないようだ。

 

ライブも後半。山中の煽りから『LITTLE BUSTERS』が始まれば、観客は大合唱し飛び跳ねる。水戸ライトハウスの床が揺れるほどの大盛り上がりだ。そこからライブ定番曲かつ盛り上がり確実のキラーチューン『About A Rock'n'Roll Band』を続けるのだから、観客のボルテージは一気に最高潮に。

 

軽快なロックナンバー『Stroll and roll』で観客を踊らせ、最後に『Ready Steady Go!』で観客を叫ばせる。〈Busters!〉というフレーズを観客が叫ぶ景色は圧巻だ。

 

最高に盛り上がった本編だが、アンコールも引けを取らない最高の演奏が繰り広げられた。挨拶すらせずに代表曲『Funny Bunny』でアンコールをスタート。最初のサビで山中がマイクスタンドから離れると、観客の大合唱が響く。そんなフロアを満足げな表情で眺めるメンバー。この多幸感に満ちた空気が最高だ。最後の〈キミならそれができる〉というフレーズを〈僕らはそれができる〉と変えて歌っていたことにもグッとくる。

 

アンコール2曲目は『Primer Beat』。跳ねるようなリズムが印象的なロックンロールだ。観客もそんな演奏に合わせて踊り狂っている。〈とっておきのロックンロール〉という歌詞がぴったりなロックでハッピーな空気の中、演奏を終えてステージを去っていくメンバー。

 

そんな中、山中だけが残って最後の挨拶をしていた。

 

去年の水戸も最高だったけど、今日の水戸も最高だった。

 

去年の水戸はコロナ禍の制限がなくなってからの、初めてのライブだったんだ。つまり水戸は何かが変わった場所なんだ。

 

『Primer Beat』が始まった時『I know you』だと思ったでしょ(笑)イントロが似てるからな。久々に演奏したけど、今回のツアーは『Primer Beat』を演奏したい気分だったんだ。俺はとっておきのロックンロールを届けたい!楽しいことを続けて行きたいんだ。

 

くたばる前に、またみんなに会いに行かなきゃな......。

 

「くたばる前に、またみんなに会いに行かなきゃな」という言葉は、そっと呟くように言葉を発していた。the pillowsと深い交流があり、山中と同年代の偉大なロックミュージシャンが亡くなったばかりなので、この言葉には重みを感じた。このライブで彼について言及することはなかったが、それはロックバンドのライブは楽しい空間であってほしいという想いがあるからかもしれない。

 

観客はまだまだthe pillowsのロックを求めている。BGMの『プロポーズ』に合わせ、盛大なアンコールの拍手を求める観客。バンドはそれに応えて再登場。手にはプレミアムモルツの薫るエールを持っている。このビールのCMソングには『LITTLE BUSTERS』が使われている。そういえば横浜アリーナ公演でも「ペットボトルの中身はアクエリアスです」と『Funny Bunny』がCMソングとして使われていたアクエリアスを宣伝していた。彼らはスポンサーを大切にするロックバンドなのだ。

 

MCは「なかなか捨てることができないもの」について話題が展開した。山中は頑張って買った高級ブランドの袋や仲のいいバンドにもらったCDを捨てられない」と話していた。山中曰く「ミスチルとGLAYは箱の形が大きいからCD棚に入らなくて置き場所に困る」らしい。

 

ストレイテナーのシンペイに会った時に、CDは送り合ってもいいけどライブDVDを送り合うのはやめないかと言ったんだ。そうしたらシンペイが「僕はthe pillowsのライブDVDはよく観ますよ」といいやがって(笑)

 

たしかに俺もストレイテナーは好きだしライブDVDも観たいけど、俺はストレイテナーのライブはよく観にいくんだ。でもシンペイはライブを観に来ないからDVDをよく観るんだよ。状況が違うんだよ。一度観たライブをまたDVDで観直すとか、俺がめちゃくちゃストレイテナーのファンみたいじゃないか。いや好きだけどさあ!

 

文句をいいつつもライブDVDをナカヤマシンペイに観てもらえることは、まんざらでもないように見える。。結局DVDも送り合っているようだ。

 

有江は「壊れたエフェクターや買ってみたもののピンとこなかったエフェクター」とバンドマンらしいことを言っていた。メンバーも共感したようで山中は「3万円したエフェクターを買ったけどノイズしか出なかった」と失敗エピソードを語っていた。

 

山中「真鍋くんは捨てられないものある?女はよく捨ててるみたいだけど」

観客「wwwwww」

真鍋「......自分は女性に捨てられる方ですよ。何度も捨てられてきました」

観客「wwwwww」

真鍋「自分が捨てられないのは削れて使えなくなったピックですかね」

山中「いつも客席に捨ててるじゃん」

真鍋「あれはプレゼントしてるんです!」

 

ひたすらに山中にイジられる真鍋。だがそんなことを気にせず最前列の観客に使い終わったピクを手渡してプレゼントしていた。観客が歓声をあげるのが気に食わないようで、自身のピックを客席ではなく佐藤に向かって投げつける山中。佐藤は迷惑そうな顔をしていた。

 

そんな佐藤が捨てられないものは「ファンからもらった手紙」だという。常にカバンに入れて持ち歩いているそうだ。急激に好感度があがった佐藤。賞賛のような歓声が沸き起こる。だがその理由は「他のメンバーよりも貰える手紙が少ないから」らしい。今回のツアーで4通もらったらしいが、これ以上は貰っても荷物になるからいらないと言っていた。

 

山中「来年はバンド結成35周年だ。それほど大々的にはやらないけど、何かしらやろうと思う」

観客「あういえええええ!!!」

山中「宇都宮ヘブンズロック(キャパ300人)で記念ワンマンとか」

観客「wwwwww」

山中「もう少し大きいところでお祝いしようか(笑)その時は会いに来いよ!」

観客「あういえ!!!!!」

 

観客と未来の希望ある約束をしてから、最後に『Movement』が演奏された。疾走感ある演奏に合わせてベテランバンドが〈綺麗な夢だけ持って まだ見ぬ世界描いて 進むだろう〉と歌うこと自体に希望を感じる。the pillowsはまだまだ止まることなく活動を続けるのだろう。

 

山中が「本当にいい時間だった。ありがとう」と一言だけ告げてからステージを去っていくメンバー。きっとその言葉は本心から出たものだろう。観客である自分も同じように本当にいい時間だと思った。そんな時間を最高のロックバンドと共有できたことが嬉しい。

 

メンバーが去っても観客はトリプルアンコール求める拍手をしていた。それほどに観客はライブに感動したのだろう。

 

この日のライブは終わってしまったが、the pillowsの活動はまだまだ続く。35周年となる2024年は楽しいことが待っているという希望を残してもくれた。だから、どんなに悲しくても生き延びてまた会おう。

 

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the pillows『LOSTMAN GO TO CITY 2023-24』at 水戸 LIGHT HOUSE 2023年12月16日(土) セットリスト

1.Tokyo Bambi

2.Coooming sooon

3.Mr.Droopy

4.プロポーズ

5.Flashback Story

6.Come Down

7.Sleepy Head

8.She is perfect

9.Purple Apple

10.Have You Ever Seen The Chief

11.Ladybird girl

12.like a lovesong

13.My Girl

14.Last Holiday

15.LITTLE BUSTERS

16.About A Rock'n'Roll Band

17.Stroll and roll

18.Ready Steady Go!

 

19.Funny Bunny

20.Primer Beat

 

21.Movement