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レミオロメン『3月9日』はなぜ今でも愛され続けるのか?

レミオロメン『3月9日』は、物凄い楽曲だと思う。

 

自分は2004年にリリースされた当初からこの楽曲に惹かれていた。ついでにMVの堀北真希にも「物凄い可愛さだ」と思って惹かれていた。

 

『野ブタをブロデュース』の放送によってクラスの男たちが堀北真希に惚れて騒いでいた時、自分は昔から彼女の魅力に気づいていたことでマウントを取った。たぶんクラスメイトには引かれていた。

 

 

この楽曲はミドルテンポの心地よいリズムと、美しいメロディが印象的だ。人によっては王道J-POPの名曲に感じるかもしれない。

 

しかし2004年当初、このような楽曲がJ-POPシーンに食い込んでヒットしたことは希少だった。なぜなら『3月9日』の芯にあるのは「ロック」だからだ。

 

よくよく聴くと「ロックバンド」としか形容できない演奏である。小さなライブハウスで演奏しているロックバンドのようなサウンドだ。このようなサウンドのミドルテンポの楽曲が、J-POPシーンでヒットすることは珍しかった。

 

楽曲はエレキギターのアルペジオに合わせた藤巻亮太の繊細な歌声から始まる。そこからベースとドラムの音が重なる。

 

キーボードやストリングスは使われていない。ギター、ベース、ドラムの3つの楽器の音だけだ。かなりシンプルなバンド編成である。

 

当時のJ-POPは多くの音を重ねてサウンドを華やかで豪華にする傾向が今以上に強かった。特にバラードは様々な楽器の音を重ねることが多かった。壮大な印象を与えて感動させることを狙っていたのだろう。

 

 

 

 

その部分でレミオロメン『3月9日』は新しかった。なんせギターとベースとドラムだけなのだから。

 

Aメロ、Bメロ、サビという構成ではあるが派手な展開をするわけではない。楽曲は淡々と進んでいく。

 

大掛かりな仕掛けはない。豪華で華やかなサウンドとは真逆の、泥臭く身近に感じるサウンドではある。

 

ベースはゴリゴリな重低音を響かせているし、ドラムの音は力強い。Bメロから少しずつギターの演奏が荒々しくなり、サビではかき鳴らすようにギターが弾かれている。

 

その演奏は当時のロキノン系や下北沢系ギターロックのサウンドを、そのままJ-POPシーンに適応する形にして持ってきたようなサウンドである。

 

そのため一瞬で聴き手を惹きつけるタイプの楽曲ではない。一部分だけ切り取ったら魅力が伝わりづらい。

 

MVの堀北真希には一目惚れしてしまう魅力があったが、楽曲は一瞬で惹きつけるようなタイプではなかった。

 

しかし最初から最後まで通して聴くと、深い余韻が残る楽曲である。つまりCMでサビが印象的だからとヒットした楽曲とは違い、全体がしっかり聴かれて評価されたからこそのヒットなのだ。

 

それはJ-POPシーンにおいて大きな出来事に思う。サビはCMに合わせて15秒にしたりと工夫されていたシーンだ。そことは違う手法でヒットさせたことは大きい。

 

切り取らずひ作品全体に触れて評価することは、エンタメや芸術において大切なことだ。その大切さを自然とJPOPリスナーに伝えた立役者の1組はレミオロメンかもしれない、

 

アンダーグラウンドで評価されていた音楽ジャンルと、なかなかブレイクしきれなかった堀北真希を、レミオロメンがメジャーシーンに持ってきて拡げた。

 

もしかしたらメジャーデビュー直後のback numberが、同様にシンプルなバンドサウンドでJ-POPシーンに食い込んだことも、レミオロメンのヒットが間接的には影響しているかもしれない。

 

それぐらいの評価をしても良いぐらいに、レミオロメンは『3月9日』で結果を出したと感じる。

 

 

 

 

歌詞も今までのJ-POPシーンでは珍しい表現方法をしていた。

 

『3月9日』は綺麗な日本語を使い繊細な情景描写をしている。それでいて感情描写はほとんど行っていないことも特徴である。

 

情景描写を積み重ねることで、その情景を聴き手に思い浮かべさ、それによって主人公の気持ちを感じさせる特殊な歌詞表現をしている。

 

「です」「ます」と敬語を織り交ぜている歌詞も、『3月9日』を名曲にしている理由の一つだ。

 

しかし「あなた」が出てくる情景描写のフレーズや、「あなた」に向けたフレーズや感情を描写したフレーズでは、敬語を使っていない。

 

流れる季節の真ん中で
ふと日の長さを感じます
せわしく過ぎる日々の中に
私とあなたで夢を描く

 

3月の風に想いをのせて
桜のつぼみは春へとつづきます

 

溢れ出す光の粒が
少しずつ朝を暖めます
大きなあくびをした後に
少し照れてるあなたの横で

(レミオロメン / 3月9日)

 

それによって「あなた」が主人公にとって身近で大切な人物であることを表現しているのだ。さらには敬語を使うことで、聴き手に「自分が語りかけられている」と思わせる仕掛けにもなっている。

 

しかし最後のサビでは情景描写から敬語がなくなっている。曲を聴き進めた時には、聴き手も身近な存在として受け入れていれようとしているのだろうか。

 

だから感情移入をさせようとはしていないのに、気づいたら聴き手が歌の世界観に入り込んで感動してしまう。そんな不思議で魅力的な楽曲なのだ。

 

偶然なのか狙ったのかはわからないが、このように楽曲を魅力的にさせるための仕掛けがいくつもなされている。それが何気ない日常と愛する人への想いを綴った歌詞の内容が組み合わせることで、多くの人を感動させている。

 

あと堀北真希が出ているから、MVを何度も観たくなる。

 

『3月9日』は偶然ヒットしたわけではない。堀北真希も偶然人気者になったわけでらない。

 

全てが必然なのだ。それぐらいにレミオロメンと堀北真希は魅力的で新しかったのだ。

 

だから毎年3月9日になると、多くの人がレミオロメンと堀北真希に、思いを馳せるのだと思う。瞳を閉じればレミオロメンと堀北真希がまぶたの裏にいることで、どれほど強くなれたでしょう。

 

レミオロメンが3人揃って活動を再開する日と、堀北真希が役者として演技する姿を、できればもう一度観てみたい。

 

もしも現実になったとしたら、それは幸せ。