オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

乃木坂46の新曲『しあわせの保護色』の作曲者がゴリゴリのエレクトロニカアーティストな件(感想・レビュー・評価)

しあわせの保護色

 

乃木坂46の新曲『しあわせの保護色』が発売された。先日グループ卒業を発表した白石麻衣が最後に参加した曲だ。

 

明るい曲はアイドルと相性がいい。アイドルの持つ明るさやキラキラした空気感で楽曲の魅力を引き出してくれる。曲によってアイドルの魅力を引き立ててくれる面もある。

 

『しあわせの保護色』も明る曲だ。しかしアイドルソングとしては珍しいタイプの楽曲に思う。

 

 

明るいアイドルソングはアップテンポの曲が多い。良い意味でごちゃごちゃサウンドで、それによって明るさや楽しさを表現することが定番だ。

 

しかし『しあわせの保護色』はスローテンポ。

 

音は丁寧に重ねられて上品な編曲。多幸感ある楽曲で聴いていて心が温かくなる。シティポップやフィリーソウルの影響を感じる楽曲だ。アイドルのシングル曲としては珍しいタイプの楽曲に思う。

 

作曲はMASANORI URA。今作が初めての楽曲提供らしい。

 

自身もアーティストとして活動しているようだがまだ無名。コンペで掴み取ったチャンスかもしれないが大抜擢とも言える。しかし彼の普段の音楽性とは全く違う方向性の楽曲を提供したことを意外に感じた。

 

MASANORI URAについて

 

2019年から活動を始めたアーティストのようだが情報が少ない。『月紫光』というエンターテイメントショーの舞台音楽を担当し3曲提供したようだが、それ以上の情報は見つからない。

 

歌もののポップスは作っていなかったようだ。インストゥメンタルを中心に作っているのかもしれない。

 

GIGIGI

GIGIGI

  • Masanori Ura
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 

打ち込みのエレクトロサウンド。ここに歌が乗ることは考えていないであろう楽曲。『雪燕』という曲では楽器の音も聴こえるが、基本的にゴリゴリなエレクトロニカが得意なアーティストかもしれない。メジャーの人気アイドルに楽曲提供をするタイプではないように思う。

 

雪燕

雪燕

  • Masanori Ura
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし楽曲としては作り込まれている。洗練された音色を使っているように思うし、曲の展開も凝っている。丁寧に作曲しているように思う。音楽性は『しあわせの保護色』と全く違うが、作り込まれたサウンドであることは共通している。

 

つまり作曲の丁寧さは乃木坂46への楽曲提供でも活かされているのだ。

 

ではなぜ自身の楽曲と方向性が全く違う楽曲を作ることができたのだろうか。それはミュージシャンとしての引き出しの広さもあるかもしれないが、編曲者のセンスが強く影響しているように思う。

 

編曲は売れっ子の音楽プロデューサー武藤星児だ。

 

 

武藤星児

 

知名度は高くはないが日本の音楽シーンに大きな影響を与えた音楽プロデューサーの武藤星児。作曲よりも編曲で作品に関わることが多い。

 

アイドルソングの編曲がメインだが、木村カエラや坂本真綾などのシンガーの編曲も行なっている。いくつものヒット曲も生み出している。

 

happiness!!!

happiness!!!

  • 木村カエラ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

特にデビュー当初の木村カエラには『happiness!!!』『Level42』など複数の楽曲に関わっており、新人だったカエラを楽曲で支えていた人物の一つでもある。

 

様々なジャンルに対応できる編曲家だが、特に明るいポップスの編曲を主に行なっており、ミドルテンポの楽曲が得意なように思う。

 

 

 武藤星児の最大のヒット曲は『恋するフォーチュンクッキー』だ。この曲でも編曲を担当している。社会現象になるほどの大ヒットになったAKB48の代表曲の1つでもある。

 

スローテンポの明るい楽曲。洗練された音色を使った丁寧な編曲。J-POPの王道とは違うサウンドで新鮮さがある。

 

フィリーソウルの影響を受けた編曲だ。それは『しあわせの保護色』とも近い方向性の編曲に思う。

 

 

フィリーソウル

 

アメリカのフィラデルフィアで70年代に生まれたソウルミュージックの一つに『フィリーソウル』と呼ばれるジャンルがある。現在世界的なブームになっている日本のシティポップにも影響を与えたジャンルでもある。

 

 

元々ソウルミュージックはアフリカ系アメリカ人が生み出したゴスペルやブルースを組み合わせた音楽だ。ホーンやドラムやベースが印象的なクールな楽曲が多い。レイ・チャールズがソウルミュージックの代表的ミュージシャンとして有名だ。

 

フィリーソウルもソウルミュージックの一種だが、一般的なソウルとは少し違う。

 

フィリーソウルはストリングスを使った華やかな曲が多い。柔らかいサウンドと優しいメロディが特徴的。一般的なソウルよりも明るく甘いサウンドで都会的な雰囲気がある。

 

Can't Give You Anything (But My Love)

Can't Give You Anything (But My Love)

  • スタイリスティックス
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 スタイリスティックスの『愛がすべて』はテレビCMで使われたこともあり日本でも有名だ。ソウルの香りもあるが雰囲気が違うことが聴いてみるとわかると思う。

 

編曲の重要性について

 

『恋するフォーチュンクッキー』はフィリーソウルを取り入れている。それをJ-POPのメロディや構成に当てはめて、日本的なポップスに昇華させた。

 

それに加えてディスコミュージックを感じるシンプルで踊れるリズムにしている。メロディや曲構成は王道J-POPに近い。フィリーソウルをベースに日本独自の部分や違うジャンルを組み合わせて名曲を作ったのだ。

 

『しあわせの保護色』もフィリーソウルを取り入れている。しかしよりフィリーソウルに近づけたサウンドに思う。

 

リズムはディスコというよりもソウル。ストリングスが印象的な華やかな演奏。サビで歌われる英語詞はソウルミュージックの香りが強い。メロディも甘くフィリーソウル感がある。

 

しかし曲構成はJ-POPの王道。サウンドは王道のJ-POPから外れているものの聴きやすさがあるのは、曲構成が影響していると思う。

 

1曲を作るだけでも様々な人が関わっている。その中でも作詞家と作曲家は花形で注目されることが多い。しかし編曲家までチェックするリスナーはそれほど多くないと思う。

 

しかし編曲は楽曲の印象を色付けることには重要だ。『しあわせの保護色』は歌詞と曲も良いと思うが、編曲も重要な役割を担ってる。編曲によって多幸感溢れたフィリーソウルになったのだから。

 

好きな音楽を見つけたら編曲は誰が行なっているのかを調べてみるのも良いと思う。

 

好きな曲の作曲家が作った曲を遡って聴くよりも、好きな曲の編曲者が編曲した曲を遡って聴く方が好みの音楽が見つかるかもしれない。

 

編曲家はいつだって近くにあるんだ。保護色のようなもの。気づいてないだけ。

 

↓関連記事↓