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【ライブレポ・セットリスト】Cody・Lee(李) presents 「ようこそ!すももハイツへ 3LDK -2024-(202)」対バン:サニーデイ・サービス、ロングコートダディat 東京キネマ倶楽部 2024年3月17日(日)

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東京キネマ倶楽部の2階席は眺めが良好だ。初めて2階席へ上がったが、視界を遮るものは何も無いし演者の足元までが見える。前日も同じ会場でライブを観たが、その時は1階のスタンディングエリアだった。それはそれで楽しい。フロアの熱気をダイレクトに感じられるのだから。でも今回はバンドだけでなく芸人も出演するライブイベントなので、じっくり楽しめる2階席が個人的には好みだ。

 

だから2階席で観ることができたCody・Lee(李) presents 「ようこそ!すももハイツへ 3LDK -2024」の2日目は、初日以上に集中して楽しむことができた。

 

しかも対バン相手はサニーデイ・サービスとロングコートダディ。自分がワンマンライブに行くほど好きなバンドと、以前から好きでネタを見続けている芸人だ。

 

そんな最高の対バンは、予想通りに最高の内容だった。

 

↓初日のレポとセットリストはこちら↓

サニーデイ・サービス

 

SEを使わずに登場したサニーデイ・サービスの3人。主催のCody・Lee (李)とはメンバーもメインのファン層も年齢が離れているので、兼任ファンは少なかったかもしれない。だが会場の誰もが偉大なロックバンドであることは知っているのだろう。登場した時から拍手は温かく、ホームな雰囲気になっていた。

 

1曲目は『Baby Blue』。スローテンポでミニマムな演奏に、曽我部恵一の優しく語りかけるような歌声が重なる。会場は静まり返り、ステージを集中して観ている。音源ではピアノの美しい旋律で奏でているイントロは、曽我部がエレキギターで再現していた。音源よりも”ロックバンド”としての印象が強くなるアレンジだ。

 

「サニーデイ・サービスです」と曽我部が笑顔で挨拶し、優しいタッチのギターでイントロを弾いてから『夜のメロディ』を続ける。メロディは美しく「これぞサニーデイ・サービス」と言いたくなるような美しいメロディだが、演奏は重厚で力強い。「これが今のサニーデイ・サービスだ」と伝えるような演奏である。〈春の夜に僕ら〉という歌詞がある通り、この楽曲の舞台は春だ。3月のライブで歌われるとシチュエーション的にマッチしていて最高だ。

 

メンバー紹介を挟んで演奏されたのは、代表曲のひとつ『恋におちたら』。この楽曲もゆったりとしたリズムと繊細な歌と演奏で、聴く者を心地よくさせる。楽曲の雰囲気も歌詞も、春に聴くにはピッタリだ。

 

「Cody・Lee (李)、呼んでくれてありがとう。一緒にできるのを楽しみにしてたよ。ロングコートダディも楽しみにしてた。どんなネタをやるんだろう」と共演者に言及する曽我部。メンバーも観客も笑顔でとても良い雰囲気だ。

 

コンビニのコーヒーってあるでしょ?安くて美味しいよね。最近は濃さも選べて良いよね。

 

それでコンビニのコーヒーについての歌を作ろうと思いました。それで歌詞の最初のフレーズを書こうとして出てきた言葉が〈コンビニのコーヒーはうまいようでなんとなくさみしい〉でした。

 

そんな曲です。

 

曽我部の話から続けて演奏されたのは、もちろん『コンビニのコーヒー』。序盤はゆったりとした演奏でしっかり聴かせる楽曲ばかりで会場は穏やかな空気が流れていたが、この楽曲で空気は一変する。

 

この楽曲は爆音で激しく演奏していたのだ。ほんな演奏で会場の熱気はどんどん上昇していく。曽我部とベースの田中貴が向き合って演奏すると歓声があがり、サビではCody・Lee (李)のグッズを身につけた観客も腕を上げている。

 

『春の風』が畳み掛けるように続くと、バンドの演奏はさらに激しくなる。アウトロは長尺のセッションになり、観客興奮に満ちた歓声をあげていた。「サニーデイのワンマンよりも観客が盛り上がってないか?」と思うほどの熱気だ。これはCody・Lee (李)のファンをも巻き込み、ロングコートダディのファンにロックの洗礼を与えたと思える空気である。

 

『青春狂走曲』は曽我部がギターをストロークしながら、サビの歌詞をポエトリーリーディングするアレンジになっていた。まるで離れた大切な人に「そっちはどうだい?」と語りかけるかのように。

 

そして曽我部が曲名を叫び、それよりもさらに大きな声で「1、2、3!」とカウントしてバンドの演奏が始まる。やはり音源よりも激しいロックサウンドで、アウトロでは長尺のジャムセッションをしていて、「これが今のサニーデイ・サービス」と伝えるような演奏だ。

 

20年以上前の名曲よりも最近の楽曲の方が盛り上がっているのは、今でもサニーデイ・サービスが第一線のロックバンドであることの証拠だ。最新アルバム収録曲『風船賛歌』での盛り上がりから、そんなことを思う。むしろドラムの大工原幹雄が加入してからは、サウンドは若返りデビューしたばかりの若手ロックバンドかのような衝動的な演奏をするようになった気がする。

 

「最後の曲ですありがとう!」と言ってから演奏されたのは『セツナ』。こちらも衝動的な演奏で届けられた。

 

やはり後半は長尺のジャムセッションになるが、この楽曲は他の楽曲以上に長尺だし演奏は激しい。音だけでなくメンバーの動きも激しくなっていく。曽我部も田中もアンプにギターやベースを押し付けて音を歪ませたり、アンプが倒れそうになるほどに衝動的なパフォーマンスをしていた。そんな姿とサウンドの凄さに観客は圧倒されているようだ。

 

サニーデイ・サービスはスリーマンライブの1組目に出てくるべきではなかった。

 

それはキャリア的に大先輩だからというわけではない。後に出てくる出演者の精神状態に影響するほどの圧倒的なライブをやってしまうからだ。だが後に出てくる出演者までも興奮させ気合を入れなおさせるようなライブだったとも言える。そういった意味では適任かつ最高の1組目だ。

 

サニーデイ・サービスは春の風のように激しい演奏をして、春の風のように颯爽とステージを去っていった。

 

セットリスト

1.Baby Blue

2.夜のメロディ

3.恋におちたら

4.コンビニのコーヒー

5.春の風

6.青春狂走曲

7.風船賛歌

8.セツナ

 

ロングコートダディ

 

サニーデイ・サービスによって熱気に満ちた東京キネマ倶楽部。完全にロックバンドが似合うロックな空気になっている。

 

だが次に登場したのはお笑いコンビのロングコートダディ。彼らにとっては、会場の作りも観客の雰囲気も共演者も、何もかもが普段の劇場とは違う環境だ。本人たちはやりづらい環境だったかもしれない。

 

しかし彼らはM-1グランプリとキングオブコントの、どちらの決勝にも進出した経験がある。今のお笑いシーンを代表する実力派のコンビの1組だ。だからこのような環境でもしっかりと観客を笑わせていた。

 

兎「お笑いの業界用語でウケることを”笑いが跳ねる”と言うんです。だから笑いで跳ねたいという願いを込めて兎という芸名にしたんです」

堂前透「油も跳ねるけど、油じゃだめなんですか?」

兎「俺の見た目で芸名が油じゃ、油ぎってるみたいで意味が変わるでしょ!」

堂前透「油の方が良いと思う人は拍手をしてください」

観客(盛大な拍手)

堂前透「油が跳ねる音みたいな拍手ですね」

観客「wwwwww」

 

自己紹介の時点で大爆笑をとる2人。さらにはCody・Lee (李)『我爱你』のイントロに合わせて兎が変顔をしたりと、この日限りのこの日だからこそ跳ねる笑いを生み出す漫才のネタを始める前から爆笑の嵐になっている。これがロングコートダディの実力だ。

 

そのまま自然な流れで漫才のネタが始まる。披露されたのは『真逆』。2023年のM-1グランプリ敗者復活戦でも披露された、今の彼らの勝負ネタのひとつだ。

 

 

個人的には兎のノーウーマンを生で見れて感動したし、大爆笑をとっていて楽しすぎた。

 

だが兎はライブハウスの環境に浮き足立っていたようだ。台詞が飛びそうになったり明石家さんまのことを「さんま」とうっかり呼び捨てしてしまったりして、堂前に「集中してくださいよ」と注意される場面もあった。だとしてもそれすらも笑いに持っていくのだから流石である。

 

さらに次のネタへも自然な流れでスムーズに移行する。披露されたのは『人間ドック』のネタ。

 

かつて兎が医者役をやる人間ドックのネタは観た記憶があるが、今回は堂前が医者の役。過去のネタとは内容が大きく違う。最近書いた新作だろうか。250円という破格の値段の人間ドックをやる病院が、ぶっ飛んだ設備や方法で検査をするという漫才ネタだ。こちらでも大爆笑をかっさらっていた。

 

ロックバンドの熱気に満ちた空気を、大爆笑によって明るくにぎやかな空気に変えてしまうロングコートダディ。彼らは芸人としてサニーデイ・サービスとは“真逆”な方法で観客を満足させていた。

 

Cody・Lee (李)

 

初日と同様に中村一義『犬と猫』をSEに登場したCody・Lee(李)。 昨日はサングラスをかけてワイルドなルックスで登場したした高橋響だったが、この日は素顔で登場した。ワイルドな方向性は辞めたのだろうか。

 

だが演奏はワイルドである。『犬と猫』をかき消すような爆音をバンドが鳴らし、ライブをスタートさせた。とてもワイルドである。初日と同様にサポートメンバーを交えた7人編成の演奏だ。だから1曲目の『I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)』は音源以上に壮大で圧倒されてしまう。

 

初日も演奏された『異星人と熱帯夜』と『おどる ひかり』も、やはり7人編成だと音源を超える迫力がある。特に今回の『異星人と熱帯夜』は、コーラスワークが絶妙だ。繊細で美しいハーモニーながらも迫力がある。

 

Cody・Lee(李)のセットリストは2日間で半分が入れ替わっていた。個人的にはほとんど変わらないと予想していたので、嬉しい誤算だ。

 

サポートの中尾有伽によるアコースティックギターと歌声から始まった『春』は、初日には演奏されていない。これが聴けたことも予想外で嬉しい。3月のライブにぴったりな心地よい演奏で観客を音楽に浸らせていた。桜色の照明も楽曲のイメージにぴったりだ。

 

サニーデイ・サービスがめちゃくちゃいいライブをやっていたから「どうしようか......」と思ってバッドに入っていました。

 

でもロングコートダディが思いっきり笑わせてくれたからフラットな気持ちに戻れました。

 

これから盛り上がっていくわけだけど、どんな言葉で煽ればいいんだろう。行けますかって言ってもどこにいくんだって話だし、かかってこいっていっても何にかかってくるんだかわからないし。

 

あえて嫌いな煽り方をしてもいいですか?

 

こんなもんじゃ足りないんじゃないのか?まだまだ出しきれません!行けますか?かかってこいキネマ倶楽部!

 

少し照れながら慣れない言葉で煽る高橋。だがか観客は照れずに歓声をあげる。

 

そんな煽りから演奏されたのは『悶々』。ニシマのベースが鳴った瞬間から観客の盛り上がりが凄い。さらに曲間なしで『WKWK』を続ける。Bメロでメンバーが順番に歌っていくパフォーマンスも楽しい。序盤はしっかり聴かせる曲が中心だったが、この2曲は会場が揺れるほどの盛り上がりになっていた。

 

サニーデイ・サービスはセットリストが本当に良かったですね。

 

バンドにはさまざまな形があるけれど、あれがロックバンドだなって思いました。あんなに長いアウトロが良いと思えるぐらいカッコイイんだから。アウトロは長ければ長いほどいいと思っちゃう。

 

今どき女子からは「Cody・Lee(李)はイントロやアウトロが長い」と言われるけど、サニーデイの『セツナ』を聴いたらうちのバンドはアウトロがないようなものに思えるよ(笑)むしろもっとうちのバンドも長くしようか?

 

改めてサニーデイ・サービスの凄さに着いて語る高橋。

 

原「本当に感動すると、人は頭の先から爪先まで、鳥肌が立つのよ。それが、今日のロングコートダディで起こった......」

高橋「そっちなんだ」

 

原はロングコートダディの素晴らしさについて語っていた。

 

先程までの熱気に満ちた空気も、MCでの穏やかな空気も、次の曲が全て塗り替え、緊張で張り詰めた空気に変えてしまった。演奏されたのが『烏托邦』だったからだ。

 

この楽曲はプログレのように展開が複雑で、暗い空気を持っている。だがこれがバンドの真髄であり深い魅力が溢れ出ている楽曲だとも思う。

 

薄暗い紫の照明の中で、怪しげな音色のピアノと歌声から始まり、観客を楽曲の世界観に引き込む。そこから展開は目まぐるしく変わり、後半の衝動的で激しい演奏に鳥肌が立つ。これほどまでに演奏展開で魅せる若手ロックバンドは、他にほとんど居ないはずだ。

 

「昨日も今日も贅沢な日で、僕たちが一番楽しんでたかもしれない。サポートメンバーのおかげで活動ができています。ありがとうございます」とサポートコーラスの中尾有伽と東風あんなに感謝を告げる高橋。なぜかスルーされるサポートキーボードの中野郁哉。

 

「あと何曲かやって帰ります」と高橋が告げてから演奏されたのは『drizzle』。ゆったりとしたリズムで観客を心地よく踊らせてちたが、後半の間奏前に高橋が『劇場版名探偵コナン』のクライマックスの江戸川コナンかのように「いけえええええ!!!」と叫ぶと力毅が全力でギターを掻き鳴らし演奏が激しくなる。一瞬でそこで会場が熱気に包まれる。そんな演奏に痺れてしまった。

 

ライブも後半。高橋がサビを弾き語りで歌ってからバンドの演奏が重なるアレンジになった『イエロー』を、疾走感ある演奏で届け再び盛り上げていく。黄色い照明も楽曲に合っていて美しい。

 

ラストは代表曲『我爱你』。高橋も力毅も台に立ち煽りながら演奏したりと、この日一番に感じる盛り上がりになむている。最後に相応しい熱い演奏で本編は締められた。

 

中野「さっきサポートコーラスの二人にはお礼をしてたけど、俺を忘れてるって思った(笑)」

高橋「ずっと一緒に作ってたからメンバーみたいなものなんだよな」

 

MCで感謝の言葉を貰えなったことを嘆く中野。だが中野は他の正規メンバーと同じぐらいバンドに深く関わっているので、ほぼ正規メンバー扱いなようだ。

 

「サニーデイのあんなに凄いライブを見た後にやっていいのかとも思いましたが、精一杯やらせてもらいます」と高橋が緊張した面持ちで話してから、アンコール1曲目に『桜super love』が演奏された。サニーデイ・サービスのカバーだ。

 

カバーとは思えない程に安定した演奏で、見事にCody・Lee(李)の色を添えたサウンドになっている。桜色の証明演出も粋で良い。今後も定期的に演奏して欲しいほどに素晴らしいカバーだった。

 

「お知らせがある」高橋が言って、メジャーデビュー2周年を記念したライブが行われることが発表された。Billboard Tokyoと江ノ島OPPA-LAで開催するという。場所的に普段とは違う特別な構成のライブになる予感がする。

 

財布や予定と相談して来てください。皆さんの生活が1番なので、無理はしないでください。

 

皆さんが生活ができていればそれでOK。例えライブに誰も来なかったとしても僕らは大丈夫です。事務所は困っちゃうかもしれないけど(笑)

 

新しいライブの情報が発表されれば「必ず来てください」と言うのが一般的なバンドだが、Cody・Lee(李)は無理をするなら来なくていいという。こんなメジャーバンドが他にいるだろうか。でもそれは、本当の意味でファンや音楽を大切にしているからこその言葉だと思う。

 

歩きスマホしたらダメですよ!街のいろんな景色を見てください。

 

階段みたいな形のマンションとか、駐車場が広い家とか、コンクリートに生えてる花とか、いろんな景色があります。

 

そんな生活を、大切にしてください。

 

高橋が丁寧に観客に語りかけてから、最後に『When I was cityboy』が演奏された。昨日のライブでも最後に演奏していたが、その時よりもさらに荒々しく激しい演奏とパフォーマンスだ。

 

力毅がアンプにギターを押し付けながら掻き鳴らしていたのは、きっとサニーデイ・サービスが『セツナ』を演奏している時のオマージュであり、リスペクトの形なのだろう。彼がそのままギターを持って階段上の踊り場にギターを置く姿は、ロックスターのようにクールな佇まいでグッときた。

 

感情をさらけ出すように、最後はむき出しの演奏をしたCody・Lee(李)。ふと「バンドにとっての生活」とは音楽を鳴らすことであって、バンドがライブをやることは「生活を大切にする」ということを体現しているのではと思う。

 

よく「ライブは非日常だ」と言う人が居る。でも実際は非日常ではない。日常だ。夢ではなく現実の出来事であって、音楽を愛する者にとっての大切な生活だ。そんなことをCody・Lee(李)のライブを観て感じた。

 

音楽もライブもCody・Lee(李)も自分の生活の一部なので、無理はしないけれどもまたライブへ行かなければ。そんな感じに、生活を続けなくちゃ。

 

■セットリスト

1.I'm sweet on you (BABY I LOVE YOU)

2.異星人と熱帯夜

3.おどる ひかり

4.春

5.悶々

6.WKWK

7.烏托邦

8.drizzle

9.イエロー

10.我爱你

 

11.桜super love

12.When I was cityboy