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【ライブレポ・セットリスト】サニーデイ・サービス TOUR 2021 at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) 2021.5.14(金)

1年越しの振替公演

 

LINE CUBE SHIBUYAで行われたサニーデイ・サービスのツアーファイナル。

 

〈さあ出ておいで きみのことを待ってたんだ〉という歌いだしの『baby blue』からライブが始まった。

 

baby blue

baby blue

  • サニーデイ・サービス
  • J-Pop
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

ここに集まった全てのファンの想いを、優しく受け入れて寄り添ってくれたと思った。そんな想いを音楽から受け取った。

 

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本来ならば1年前の5月に開催されるはずだったライブだった。

 

それが新型コロナウィルスの影響によって、1年延期された。東京都から許可を得た上で開催されたものの、当日も緊急事態宣言が発令されている最中に開催している。

 

複雑な思いでメンバーはステージに立ち、スタッフは準備をしたと思う。ファンも後ろめたさを感じつつ会場に運んだと思う。行きたくても様々な事情で諦めた人も居たと思う。

 

何が正しいのかわからない。開催や来場を批判されても仕方がない。しかしここに集まった人達にとって音楽は不要不急ではなく今すぐに必要で、とても大切なものだ。

 

そんな気持ちをサニーデイ・サービスは音楽によって優しく包み込んでくれた。バンドも音楽を人前で鳴らす喜びを実感しているようだった。

 

ステージにはメンバー3人だけ。ステージセットはないし、派手な演出もない。ライブタイトルもシンプル。

 

しかし最高の音楽と最高の演奏がある。音楽の大切さとありがたさと素晴らしさを、それだけで実感させてくれる。そんなライブだった。

 

前半

 

2曲目の『恋におちたら』も観客に語りかけるように歌い、優しく包み込むような音色で演奏する。

 

恋におちたら

恋におちたら

  • サニーデイ・サービス
  • J-Pop
  • ¥204
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サビで〈君をむかえにいくよ〉と歌った時、客席も明るく照明で照らされた。それは音楽で観客を迎えに来てくれたように感じる。それを観て温かな気持ちになった。

 

音楽は聴いていて気持ちいいだけでなく、感情を揺れ動かすコミュニケーションでもあるのだ。

 

そして3人のうねるようなグルーヴが心地よい『スロウライダー』を続ける。

 

過去の名曲を連発してジワジワと良い雰囲気を作ったところで最初のMC。話題はベースの田中貴が『マツコの知らない世界』へ出演したことについて。

 

曽我部「テレビに出てラーメンについて喋ってたんですよ。うちの子どもたちが田中さん出てるってビックリしてて」

田中「・・・・・・」

曽我部「うちの母親も田中さんがテレビに出て1時間も喋ってたって驚いていて」

田中「・・・・・・」

曽我部「何も言うことがないんですか?全然喋らないけれど」

田中「・・・・・・」

曽我部「本当に皆さんが来てくださって、ライブがやれて良かったです」

田中「そうですね」

曽我部「あっ!喋った!」

 

曽我部恵一のゆるいトークと田中貴による謎の沈黙を挟み、ここからは最新アルバム『いいね!』の曲が中心に披露されていく。

 

その中でも意外なアレンジになっていたのは『心に雲を持つ少年』だ。

 

心に雲を持つ少年

心に雲を持つ少年

  • サニーデイ・サービス
  • ロック
  • ¥204
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音源では浮遊感ある不思議なイントロから始まる楽曲。個人的に最初のイントロこそ、この曲の要だと思っていた。

 

しかしそれは自分の勘違いだと、ライブで聴いて理解する。イントロを全く違うアレンジで披露したからだ。

 

力強いドラムが目立つイントロになっていた。そこに控えめなベースとギターが重なり、その2つの音がだんだんと盛り上がり、三人のロックサウンドになる。

 

聴いたことないイントロだったので、新曲かと勘違いした。歌が始まってようやく曲名がわかったぐらいだ。それぐらいに大胆な変化をしている。

 

しかしライブアレンジも、音源に負けないほどに素晴らしい。荒々しくもロックバンドとしての衝動がある。そんな演奏に痺れた。

 

かと思えば『OH!ブルーベリー』や『エントロピー・ラブ』では甘い音色を響かせる。『ぼくらが光っていられない夜に』ではポップで多幸感に満ちた空気を作る。

 

ぼくらが光っていられない夜に

ぼくらが光っていられない夜に

  • サニーデイ・サービス
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  • ¥204
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この曲のサビで客席が光で照らされたことが印象的だった。〈光っていられない夜に〉と歌いつつも客席に光を与えてくれるとは、なかなかに粋である。

 

『夜のメロディ』で再び再結成以前の過去の名曲を演奏した。これは20年以上前の楽曲だ。それでも魅力は色褪せない。2020年の新曲と並べても古さを感じない。

 

夜のメロディ

夜のメロディ

  • サニーデイ・サービス
  • J-Pop
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それはバンドが時代にとらわれない普遍性のある楽曲を作り続けてきた証拠であり、時代にとらわれない名曲を作り続けた証明でもある。

 

ステージセットはなかったし、演出は最小限ではあった。しかし照明の工夫で楽曲の世界観を最大限に弾きだすサポートはしていた。

 

例えば『苺畑でつかまえて』ではピンク色の光がステージ全体を照らしていた。

 

苺畑をイメージしたような照明で、楽曲に寄り添うような演出。最小限でありつつも必要な演出。素晴らしいライブはバンドの力だけでは創られない。スタッフのサポートも大切なのだ。

 

 『春の風』からステージの雰囲気が変わる。ゆったりと名曲を名演で楽しむ空気から、ロックバンド特有のヒリヒリした緊張感ある空気になったのだ。

 

春の風

春の風

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おそらくサニーデイ・サービスで最もBPMが速い楽曲。そのためかライブでの演奏はどんどん激しくなっていく。ボーカルも荒々しく叫ぶように歌う。

 

さっきまでの丁寧で心に沁み入る演奏から変化し、今度は心を震わせるような痺れるロックンロールを鳴らす。

 

演奏はさらに熱気を帯びていく。『コンビニのコーヒー』は音源よりも激しい演奏になり、後半はジャムセッションを取り入れるアレンジになっていた。そんな予想外で想像を超える演奏に、またもや痺れてしまう。

 

今回のライブでハイライトに感じたのは『セツナ』だ。

 

セツナ

セツナ

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この曲はライブをやる都度に進化している楽曲だ。原曲からは想像できないほどに、毎回激しいジャムセッションが繰り広げられる。

 

今回も同様のアレンジだったが、いつも以上に激しく長かった。。曽我部恵一がストラトキャスターからグレッチのホワイトファルコンにギターを持ち替え、それを合図にして演奏が始まる。

 

ドラムのあるステージ中央に固まり、激しく演奏をする3人。ギタースタンドを薙ぎ倒しアンプに倒れ込みながらも演奏する曽我部恵一。ベースを弾き倒す田中貴。手数がどんどん増えていく大工原幹雄のドラミング。

 

緊張感があるヒリヒリした空気。しかしメンバー同士の信頼関係があるからこそ生まれるグルーヴ。

 

そんなステージから目が離せない。一音も聴き逃せないと思い、必死に集中して聴く。

 

4分ほどの曲だが、この日は10分ほどの長さになっていた。それほどの長さが必要なぐはいに、衝動的で熱量のある演奏だった。演奏を終えると、大きな拍手が長時間続いた。

 

この日の演奏曲で、最も長くて大きな拍手だった。

 

 

後半

 

かなり体力を消耗したのだろう。『セツナ』の演奏を終えて息を切らしているメンバー。

 

3人が目を合わせて、準備が整ったことを確認してから演奏が再開。

 

サニーデイ・サービスは音楽の力で空気を簡単に変えてしまう。優しい音色で『日傘をさして』と、桜色の照明に包まれながら『桜 super love』を続けて演奏して、落ち着いた空気を作り出す。

 

切ないメロディを跳ねるようなリズムで演奏した『胸いっぱい』も良い。心地よく温かな雰囲気で会場全体が包まれていく。

 

胸いっぱい

胸いっぱい

  • サニーデイ・サービス
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キャリアの長いベテランバンドだからか、隙のないライブをやっている。しかし彼らも人間。ちょっとしたミスも、たまにはしてしまう。

 

『NOW』はエレキギターの演奏だけのイントロから始まるが、その演奏をミスする曽我部恵一。3人とも苦笑いし、客席からは笑い声と謎の拍手が巻き起こる。

 

良い意味で空気が緩む。グッとステージと客席の心の距離が近づいた感じがした。

 

再び最初から仕切り直し。今度はイントロミスすることなく演奏が始まる。再び完璧な演奏をするサニーデイ・サービス。それに聴き入る客席。そして名曲『白い恋人』をしっとりと演奏し、感動する客席。

 

白い恋人

白い恋人

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「ツアーのために新車を買ったのにもう1万キロを超えてしまいました。田中が地方でラーメンを食べるために運転したことが原因です」という、田中のラーメンオタク弄りのトークから本編最後のMCが始まる。

 

新しいドラムも入って、このツアーから新しい三人のサニーデイ・サービスが始まりした。改めてよろしくお願いします。

 

一番新しいアルバムであり、この3人にとっての1stアルバムでもある『いいね!』の最後に入っている曲を演奏します。

 

本当に今日は開催できてよかったです。そして来てくださり本当にありがとうございます。

 

 前任ドラムの丸山晴茂が亡くなり大工原幹雄が丸山の意思をついで加入したことや、最新アルバムやツアーへの想いを語ってから『時間が止まって音楽が始まる』を演奏した。

 

時間が止まって音楽が始まる

時間が止まって音楽が始まる

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薄暗い照明の中で3人が中心に集まって、それぞれの音を確認するかのように、丁寧にしっとりと演奏する。客席は集中して3人の演奏を見守る。

 

時間が止まっているように錯覚した。その中で音楽だけが鳴っているような感覚になった。

 

やはりこのバンドは音楽の力で空気を変えるし、人の心も操ってしまう。

 

最後に演奏されたのは『若者たち』。

 

若者たち

若者たち

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音源ではアコースティックな楽曲だが、ライブではエレキギターをかき鳴らすロックサウンド。その音はベテランが鳴らしているとは思えないほどに、若々しくて初々しい。

 

客席は目を輝かせながら聴いている。メンバーと同世代のファンも多い。会場にいるのは若者たちだけではない。

 

しかしこの曲を聴いている時、客席も照明で照らされた時、ここに居る全員が若者たちになっていた。みんな音楽から力をもらっていた。

 

曽我部「みんなの心の叫びと心の中の爆笑が聞こえてきます」

客席「・・・・・・」

 

アンコールで出てきたものの、MCでスベる曽我部恵一。心の叫びはあったとしても、たぶん、爆笑はしていなかった。

 

そして「話そうか悩んだけれど、長い話だからやっぱり話すの止めようかな?早く演奏した方がいいよね?」とモジモジする曽我部恵一。田中が「話してもいいよ」と優しく言ったので、意気揚々と長い話を始める。

 

曽我部「下北沢でレコード屋をやってるんだけど、クローバーを店の前の階段に置いてたの。それがある日、四葉のクローバーだけ切り取られてたの。それで次の日も見たらまた切られていて、誰かがイタズラで切ってるんじゃないかと思って。悪質だと思って防犯カメラを見たの。犯人が映っているはずだから。それを確認したらネズミが映っていて、ネズミがクローバーを食べてた。犯人は人じゃなくてネズミだったの」

田中「・・・・・・それだけ?」

曽我部「それだけ。だから話すの止めようと思ったの。時間も押してるし」

田中「・・・・・・話をさせたのは俺の判断ミスだった」

曽我部「・・・・・じゃあ、やります」

 

トークはスベっても演奏はスベらない。『旅の手帖』を再び名演で披露する。そして曲名を叫んでから『シルバースター』が始まる。

 

シルバー・スター

シルバー・スター

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ステージの丸い電球が点灯する。それが星のように見える。銀の星がステージに流れる。

 

そんな青いブルースをファンの心に残し、ステージを去るメンバー。しかし最高の演奏をまだまだ聴きたいのだ。粘り強いファンによって再びアンコールの拍手が巻き起こる。

 

すぐにステージに舞い戻るメンバー。曽我部恵一のネズミトークが長くて時間が押していたのだろうか。登場が妙に早かった。

 

そして曲名を叫んでから『青春狂走曲』が始まる。

 

青春狂走曲

青春狂走曲

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ずっと座って楽しんでいた客席が、みんな立ち上がって手拍子を始める。客席の電気も付いた。ステージと客席の一体感。これは有観客のライブだからこそ生まれる空気だ。

 

ラストはは『センチメンタル』。最新アルバムの収録曲である。「1、2、3、4!」と叫んでから演奏が始まる。

 

センチメンタル

センチメンタル

  • サニーデイ・サービス
  • ロック
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再びステージの中心に集まり衝動的に演奏するメンバー。「間奏!」と叫んでから、間奏でギターソロを弾き倒す。それを支えるドラムとベースのグルーヴも最高だ。

 

代表曲や人気曲ではなく、最新作の中でも特に衝動的で力強い演奏の楽曲がラストソングに選ばれた。今のサニーデイ・サービスが最高であることを、音楽で伝えているかのようだ。

 

解散期間があったものの来年には結成30周年を迎えるベテランバンド。しかし若々しい音を鳴らし続けているバンド。

 

悲しい出来事もあったが、新しいメンバーが加入し再出発をし、名曲を作り名演を続けている。最強のスキルを持った新人と言えるかもしれない。まだまだ若者たちのバンドには負けないぐらいに、最新でクールなロックを鳴らしているのだ。

 

演奏を終えて挨拶もせずにステージを去っていくメンバー。ロックな演奏だけでなく、ロックな佇まいにも痺れてしまう。

 

最高のライブだった。終わってしまったことが切なくなるぐらいに。

 

終演後、僕はなんだかセンチメンタルな気分。がらにもなく感傷的になってる。

 

サニーデイ・サービス TOUR 2021 at LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂) 2021.5.14

■セットリスト

1.baby blue

2.恋におちたら

3.スロウライダー

4.心に雲を持つ少年

5.OH!ブルーベリー

6.ぼくらが光っていられない夜に

7.エントロピー・ラブ

8.夜のメロディ

9.苺畑でつかまえて

10.春の風

11.コンビニのコーヒー

12.セツナ

13.日傘をさして

14.桜 super love

15.胸いっぱい

16.NOW

17.白い恋人

18.時間が止まって音楽が始まる

19.若者たち

 

EN1.旅の手帖

EN2.シルバースター

 

WEN1.青春狂走曲

WEN2.センチメンタル

 

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